高校野球 甲子園

夏 甲子園の軌跡 コラム by 万代隆


2007年08月01日

甲子園に魔物はいない

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  いつごろからの言い伝えなのか確かでない。優位に立っていた局面が一転して劣勢になると「甲子園には魔物がすむ」と表現されてきた。目に見えないものの力が勝負に加わってきて、それが魔物のせいだという解釈がされている。

 そんな妖怪じみたものが甲子園にいるわけがない。猫はいる。昔は満員の阪神―巨人戦でひょいとグラウンドに飛び出し、フェンス沿いを疾走して観客の喝采を浴びていた。今春の選抜大会では一塁ベース近くにイタチらしきものが現れ、大騒ぎされてすぐに退散したのを記憶している。

 ▽敵は我にあり 
 では魔物の正体は何なのか? それは第89回大会の出場を決め、開幕を心待ちにする球児の心の中に潜んでいる。無心、無欲、平常心などと、普段通りプレーするための心得に多くの言葉が用意されてきた。それらを理解しながらも、どこかにすきが生じるのは、勝負事に関わる人間の宿命だろう。まして高校生なのだから心の揺れは小さくない。

 勝ちを急ぎすぎての失敗。ほぼ握りかけた勝利を逃すのはこのケースが最も多い。リードを守ろうとすれば硬さが出る。必死に追いすがってくる相手の気迫に押されてしまう。それに油断やおごりなど、敵を軽視した安心感も取り返しのつかない事態につながる。

 だから、耐えるところは耐えて勝負の決着を急がない。勝つことは大いなる苦しみを伴うことを知れば、「魔物」の出番はないだろう。野球は「ツーアウトから」で、これは球児の将来にもつながるフレーズになる。(完)

 写真=満員のスタンドの熱気は、味方それとも“魔物”に…(2006年決勝再試合の甲子園)

mandai.jpg 万代隆(まんだい・たかし)1941年大阪市生まれ。プロ担当を含め野球記者歴43年。春夏の甲子園大会もネット裏から熱い視線を送り続け、共同通信のコラムなどに思いをつづっている。

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