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問題点の浮き上がった一戦 タシケントの苦戦、進歩の糧に

サッカーW杯3次予選。ウズベキスタン戦で好セーブを連発したGK川島=6日、タシケント(共同)
サッカーW杯3次予選。ウズベキスタン戦で好セーブを連発したGK川島=6日、タシケント(共同)

「ありがとう、川島永嗣」といったところだろうか。

タシケントで行われたワールドカップ(W杯)アジア3次予選。先日の北朝鮮戦と同じくスコア的には接戦だったが、内容は大きく違った。負けていてもおかしくない内容。それを考えれば、1-1のスコアは妥当な結果だろう。

▽タイトルは良いGKとともに

サッカーには「タイトルは良いGKとともにある」という格言があるが、この試合の川島は、まさに良いGKだった。特に後半17分にカパーゼ、23分にジェパロフがそれぞれ抜け出した1対1の場面で、冷静にシュートコースを限定してストップ。

あの場面は、ダイビングに比べれば派手さはないが、スーパーセーブといっていい美技だった。もしこのプレーがなければ、日本代表は重い足取りで帰国の途につかなければならなかったろう。

▽アジアの数カ国は紙一重

W杯のベスト16。アジア・チャンピオン。その肩書きは、もはやそれほどの大きなアドバンテージではないのだと気付かされた。

この日、同点ゴールの岡崎慎司は試合後に「納得はしない。もっと圧倒して勝ちたい」と語っていたが、少なくともアジアの数カ国は日本と紙一重の実力差にいると思えた。そのひとつが1月のアジア・カップで4強に入った、今回のウズベキスタンだろう。

▽浮き彫りになった問題点

アジアの戦いでは、日本を相手にする場合、多くのチームが守備的な戦術を敷いてくる。だが、ウズベキスタンは違った。ホームということもあるのだろうが、ガンガン攻めてきた。

中立的な立場で見れば、両チームともに決定機があり、飽きのこない面白いサッカーだ。そして、このウズベキスタンの積極性のおかげで、これまであまり露呈していなかった日本の弱点というのも浮き彫りにされた。守備面に大きな問題があったといえる。

▽本大会なら大量失点も

あまりにも簡単にサイドからのクロスを入れさせてしまう。これがウズベキスタンだったからまだよかったのだが、一流のストライカーがいるW杯の本大会で、このような守り方をしていたら大量失点を喫するだろう。

特に内田篤人の右サイドはあまりにも無防備だった。守備というものを考えた場合、南アフリカ大会で岡田武史監督が、駒野友一を右サイドにファーストチョイスした理由が理解できた。

▽ワンランク上の贅沢を

確かにサイドバックというのは、現代サッカーでは最も多くの要素を求められるポジションだ。攻守に渡り、全力での激しい上下動を繰り返す体力、守備の安定感、さらに攻撃時のクロスの質。そのすべてを備える選手は、世界を見回してもそう多くはない。

しかし、すべてを求めてしまうのが、贅沢なファン心理。内田自身の最大の持ち味は、この日の同点ゴールを生みだした攻撃力。これに守備力がつけば、さらにワンランク上の選手になると思っている人も多いだろう。

▽監督の手腕の見せ所

課題という意味では、右ヒザの手術でチームを離れた本田圭佑の穴をどう埋めるかという問題も浮き上がった。

北朝鮮戦も含めて相手ゴール近くでの「間」をかせぐ存在が見当たらない。相手の激しい当たりにも動じず、確実にボールをキープできる本田のようなプレーヤーがいるかどうかで、攻撃の厚みはかなり違ってくる。

それに代わる存在を個で補うのか、それとも戦術で解決していくのか。いずれにしてもザッケローニ監督の手腕の見せ所だろう。

▽苦しんだ分、価値ある一戦

勝つに越したことはない。だが、まだW杯予選は始まったばかり。長い道のりを考えれば、課題の見つかった試合は逆に次の進歩につながるのではないだろうか。その意味でアウエーのウズベキスタン戦は、価値のある一戦となった。

▽悪いピッチも含め「W杯予選」

この20年、選手は確実にうまくなり、チームも強くなった。さらに日本の進歩は、これ以外にもある。

日本国内のスタジアムのピッチの良さだ。タシケントのパフタコール・スタジアム。さらに、なでしこジャパンが戦っている中国・済南のスタジアムも、さかんに「ピッチが悪い」と繰り返される。

しかし、思い起こせば、1990年のW杯イタリア大会の予選が行われた東京・西が丘サッカー場のピッチには、芝生がほとんどなかった。対戦するインドネシアからは大きなクレームが出た、ということもあった。

それを考えれば、試合が常にベストのピッチで行われるとは限らない。特にアウェーは。日ごろ、恵まれた環境が当たり前と思っている日本の選手たちには、「ピッチも含めてW杯予選」という心構えを持ってほしい。サッカーの内容に多少の影響はあるだろうが、相手も同じ条件で戦っているのだから。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。



芽生えつつある勝者のメンタリティ ブラジルへの道が始まった

サッカーW杯3次予選の日本―北朝鮮。試合終了間際に決勝ゴールを決め、ガッツポーズで駆けだす吉田(左から2人目)と喜ぶ今野(左端)ら日本イレブン=2日、埼玉スタジアム
サッカーW杯3次予選の日本―北朝鮮。試合終了間際に決勝ゴールを決め、ガッツポーズで駆けだす吉田(左から2人目)と喜ぶ今野(左端)ら日本イレブン=2日、埼玉スタジアム

圧倒的にボールを支配して、押し込みながらも0―0で迎えたハーフタイム。記者席では「後半から、宮間と大野を投入しなきゃ」の冗談の声が飛んだ。

しかし、ザック・ジャパンには、なでしこジャパンのような切り札はいなかった。前日に行われた五輪予選のタイ戦で、出場した途端に試合内容を激変させた、宮間あや、大野忍のような存在だ。

▽ハラハラが続く試合の出だし

まあ無理もないのかもしれない。なんといっても、なでしこジャパンは世界チャンピオン。一方のザック・ジャパンが相手にしたのは、昨年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会にも出場した北朝鮮。FIFAランキングこそ日本の15位に対して114位だが、なでしこジャパンとタイの間にある実力差に比べれば、その差ははるかに小さかったのかもしれない。

それにしても、ここのところのW杯予選の出だしに関しては、いつもハラハラさせられる。特に埼玉スタジアムで行われる試合だ。

確かに負けるという不安感はそれほどない。9月2日の北朝鮮戦でも、相手のシュートは日本の20本に対してわずかに5本。失点の可能性の脅威となるのは、元川崎フロンターレの鄭大世(ボーフム=ドイツ)と、ベガルタ仙台のキャプテンを務める梁勇基の一発ぐらいで、彼らを抑えれば敗戦は避けられるだろうと思った。

▽重要なのは「勝ち点3」

ただ、ホームで行われる最初の試合での引き分けは、感覚的には敗戦に等しい。1998年W杯フランス大会予選のときに、東京・国立競技場で韓国に逆転負けを喫してから、途端にチームの歯車が噛み合わなくなった。それを思い起こせば、今回は内容はともかくとして勝ち点3を得ることは非常に重要なことだった。

ところが「魔」の埼玉スタジアムである。2006年W杯ドイツ大会を目指したジーコ・ジャパン以来、このスタジアムは鬼門となっている。04年2月18日に行われたアジア地区第一次予選のオマーン戦も後半ロスタイムまで0―0の展開。最終的に久保竜彦のゴールで勝利を収めたが、まさに薄氷を踏む勝利だった。

この試合を教訓にしなければいけないのに、翌年のアジア最終予選、2月9日の北朝鮮戦でも終盤まで1―1の展開。ロスタイムに大黒将志が決勝ゴールを挙げたが、こちらも心臓に悪い試合だった。

▽芽生えつつある「勝者のメンタリティ」

そして、今回はもうないだろうと思ったら、またである。フラストレーションがたまる時間帯が長かった分、余計に吉田麻也の決勝ゴールが劇的に映ったが、快勝を期待していた人たちからすれば「もう、いい加減にしてよ!」という感じだったのではないだろうか。

試合内容では圧倒しながらも接戦に持ち込まれる。それは決していいことではないが、考えようによっては逆の見方もある。勝たなければいけない試合に、最終的には勝ってしまう。それは日本に「勝者のメンタリティ」が生まれているという事実だ。

▽あの「ゲルマン魂」の正体

1998年のフランス大会でW杯初出場を果たした当時のチームに、このような勝ち方ができただろうか。韓国戦の敗戦から、中央アジアで急激に雰囲気を悪化させたあのチームには、今回の試合で勝ち点3を得るのは難しかったのではないだろうか。

よく、とんでもない逆転勝ちを収めるかつてのドイツ代表に対して「ゲルマン魂」の勝利といっていたが、それはゲルマン魂ではなく、あくまでも勝者のメンタリティが備わっているかの問題。その勝者のメンタリティは、苦しい試合に勝つことを積み重ねることのみによって備わってくるのだと思う。

▽結果としては「効果的な薬」

結果的に1―0の勝利を収めた今回の北朝鮮戦をポジティブにとらえよう。香川真司を筆頭にニュースターが続々と登場する日本だが、アジア予選を戦った経験を持つ選手は、北朝鮮戦で登録された23人のうち半分以下。W杯の本大会の経験があっても、まったく違う。

遠藤保仁、長谷部誠、駒野友一、今野泰幸、内田篤人、中村憲剛、阿部勇樹、岡崎慎司の8名以外の選手は、「アジア予選は簡単にはいかない」という思いを強めたろう。その意味でも経験の少ない若手にとっては、とても効果的な薬になったのではないだろうか。

▽ザッケローニ監督のイタリア人気質?

そして、ザッケローニ監督だ。なかなか点が取れなかったことについて問われると、「ゴールに入る確信はなかったが、少なくともそこまで(シュートまで)いく確信はあった」と語った。

ウディネーゼやACミランで攻撃的なサッカーで名を高めたザッケローニ。考えてみると、彼はイタリア人。伝統的に、イタリア代表のサッカーは1点差をつければ、無理して追加点を奪いにいくことはない。

そんなカルチョ(サッカー)文化で育った指揮官は、圧倒的な点差で勝ってもらいたい日本人と違って、点が入る時間帯こそ遅かったが、「勝ったからいいじゃない」と案外思っているのかもしれない。そこは「あくまでも攻撃」のジーコのブラジル人気質とは異なるだろう。

▽ブラジルへの道が始まった

とにもかくにも、初めて一国の代表チームを率いての、ザッケローニのW杯予選での初勝利。おめでとうと言いたい。そして、ここから2016年ブラジルへの道は始まった。

台風12号の影響を受けた強風の中で行われた一戦。劇的な結末だったがゆえに、よくも悪くも人々に「ワールドカップ予選が始まった」と認識されたのではないだろうか。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。



「頑張れ、オッサン!」 マンUの生ける伝説ギグス

シャルケ戦の後半、先制ゴールを決めたマンチェスター・ユナイテッドのギグス=ゲルゼンキルヘン(AP=共同)
シャルケ戦の後半、先制ゴールを決めたマンチェスター・ユナイテッドのギグス=ゲルゼンキルヘン(AP=共同)

W杯という、サッカー選手ならば誰でもが憧れるひのき舞台。それにまったく縁のなかった選手のなかにも、サッカー史に名を残す名選手は数多くいる。過去を見れば、北アイルランドのジョージ・ベスト、リベリアのジョージ・ウェア…。そして、この人もまた、近い将来同じように語られるのだろう。

▽シャルケ戦でも圧倒的な存在感

UEFAチャンピオンズリーグ(欧州チャンピオンズリーグ)準決勝第1戦。4月26日、アウェーで内田篤人の所属するシャルケを、マンチェスター・ユナイテッド(マンU=イングランド)は、2-0のスコア以上の内容で撃破した。マンUのファーガソン監督が「最高のパフォーマンスだった」と評価した試合。なかでも試合のMVPに選ばれたルーニーとともに、圧倒的な存在感を示したのがウェールズ出身のライアン・ギグスだった。

▽苛立ち、払拭するゴール

シャルケGKノイアーは昨年のW杯以降、飛躍的な成長を遂げている。そんなドイツ代表守護神の美技連発の前に、マンUは攻め込むもののゴールが得られていなかった。そのマンUの苛立ちをいとも簡単に払拭したのが、“レッドデビルズ”の生ける伝説、ギグスだった。67分にルーニーのスルーパスに合わせて、絶妙のタイミングでゴール前に飛び出すと、GKノイヤーの股間を抜くシュートで先制ゴールを奪った。

▽サッカー界の世界遺産

現在37歳と5カ月。ギグスはこのゴールでチャンピオンズリーグの大会最年長記録を更新することとなった。1990~91年シーズンに17歳でプロデビューして以来、今シーズンで20年目。ただでさえ消耗の激しいサッカーという競技で20年のプロ歴は驚異的。それも世界最高のマンU一筋、さらにW杯以上といわれるチャンピオンズリーグで、名だたるスターたちを差し置いて、常に主役というのは、もはやサッカー界にとっての世界遺産としかいいようがない。

▽鮮烈な記憶残した19歳

現在はプレーメーカーとしての役割を強めてきたが、若いころは典型的なウイングだった。恐ろしく技巧的なボール扱いと、スピードを併せ持つ左サイドのスペシャリスト。彼の存在を認識したのは93年だった。94年W杯米国大会出場を目指す日本代表が、カタールでのアジア最終予選を控え、9月にスペインのカディスで合宿を行ったときのことだ。サマータイムが切り替わった10月の最初の週に経由地のロンドンからマンチェスターに足を伸ばした。まだイングランドの古き良き雰囲気を残すスタジアム、改修前のオールド・トラフォードがそこにあった。

当初の目的は“キング”と呼ばれたエリク・カントナだった。しかし、あとになって思い返すと、そこにカントナがいたのかさえも覚えていない。記憶に残っているのは、マンUのお土産袋を持っていたためにスウィンドンのサポーターに絡まれたのと、赤いユニホームを着て左サイドにいた19歳の青年のプレーだけだった。

▽代表チームに恵まれなくても

イングランド1部リーグが、現在のプレミアシップになった92~93年シーズンから唯一すべてのシーズンで得点を記録しているギグス。彼は同じウェールズの先輩、リバプールのイアン・ラッシュやマンUのマーク・ヒューズと同じく、代表チームには恵まれなくても、所属クラブだけでサッカー史に名前を刻んでいくのだろう。そして今年もまた、ギグスは輝かしいキャリアのなかに、さらにタイトルを加えそうだ。そんなギグスを見ていると「頑張れ、オッサン!」。そう応援せずにはいられない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。