
米津玄師『diorama』
動画サイトのボカロP「ハチ」として絶大な人気の男性が、本名名義のシンガー・ソングライターとしてCDデビューを果たしたが、これは椎名林檎の出現時を彷彿させる衝撃作だと思う。
まず、ロック調を核としつつも、時に牧歌的だったり、チャールストン風だったり、沖縄音階だったり、メロディーが変幻自在という点に異才を感じた。さらに、概念的な歌詞も大きな特長。なんとなく不自由な状態を歌っているようだが、歌詞や彼の手による緻密なイラストを何度も見ていると、自分なりの理解を深めることができ、それゆえますますツボにハマっていく。また、L⇔Rや岡村靖幸のように、独自のオーラを放っている歌声も実は大きな魅力だろう。
ネット発のアーティストだが、その系統を毛嫌いする人にこそお薦めしたい逸品。本作を体験すれば、いつもなら理解できない映画や音楽、さらには周囲の人々に、触れようと前向きになれるはず。
(BALLOOM・DVD付き2500円)=つのはず誠

上間綾乃『唄者』
1985年、沖縄県生まれで、インディーズ活動を経て、本作でメジャー・デビュー。民謡出身の実力派だが、J-POPから国内外のクラシックまで幅広い演奏家が起用され、多くの人に届けたいという意図が読み取れる。
全12曲中、特に8曲目以降が聞きどころだろう。『声なき命』では自然への祈りが、『イツクシミ』や『夢の国』では逢えない人との絆が歌われている。南国出身者らしく、糸をピンと張ったような美声だが、決して力強くはなく、むしろ人に寄り添うような優しさが持ち味か。その意味では、力まない時の石川さゆりに近い。
また7曲目までも、バンド形式の『遠音(とおね)』では、明るさの奥に過去への愛しさが見えるし、方言でカバーした『悲しくてやりきれない』と『アメイジング・グレイス』は、沖縄を舞台としているようにも聞こえるし、全体として思慮深い作品に感じた。
本作を聞けば、人生と音楽の繋がりをより実感できるはず。
(日本コロムビア・2940円)=つのはず誠

PUSHIM『The Great Songs』
10年以上前から、日本のレゲエ界を牽引してきた女性歌手の初カバー集。「きっと全曲レゲエ調だろう」と予想していたら、まさにその通り(笑)。だが、その奥行きは遥かに予想を超える。
まず、選曲の妙に驚かされる。『瑠璃色の地球』は、ピースフルな主題だからこそ実は陽気なアレンジが絶妙だし、『リンゴ追分』はアップテンポだと、少女の不安がより増幅する。本作のこぶし入り歌唱や、本格的な津軽弁のセリフなどのファン・サービスは、関西出身者ならでは。
さらに驚いたのは、彼女が自由なメロディーに乗せハスキーな力強い声で歌い出すと、アニメソングも洋邦のナツメロも作品中に自然に溶け込む点だ。黒人級の歌声と評されてきた在日韓国人だからこそ、音楽に対するリベラルな考えが強いのかも、と想像した。
ほかにも、生楽器とのセッションが多く、随所でシビれさせる。本作を聞いていれば、些細な日常から平和を取り戻そうと思えるはず。
(キューンレコード・2980円)=つのはず誠
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