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2017年05月01日

キングコングとベトナム戦争~後編・スヌーピー~

 〝ナム戦〟はクレイジーだ。本当にどうかしている。
 私は当時、まだ小学生だったが、あの戦争の影響はなんとなくだが覚えている。テレビのニュースや頭上を飛ぶ在日米軍基地のヘリや輸送機などを見ていたからだ。


 露天商には米軍の「横流し品」だと思しき、舶来のキャンディーなどが売っていてよくおねだりした。そんな甘いお菓子を食べながら「セサミストリート」を見たり、「スヌーピー」のペーパーバック漫画を読んだりしながら、アメリカの子どもを気取っていた。


 突然「ラブピース」とか「スマイル」と呼ばれるニコちゃんマークがはやりだし、意味もわからずバッジをつけていた。
 米保険会社のキャラクターグッズのデザインで、ベトナム戦争の影響から流行したと知ったのは大人になってから。


 いろんなものが突然はやった1970年代。
 「グルービーケース」という厚紙で出来た文房具箱のようなケースが大流行。
 これもアメリカの学生が持つようなオシャレ小学生の必須アイテムになった。デザインはなぜかジーンズやアメフトチームのマークが目立ったが、私は白くて角に赤いプラスチックのプロテクトがついているスヌーピーのケースを買い、またしてもひとりアメリカンな気分に浸っていた。
 

 当時はスヌーピーが大流行。
 本当はセサミストリートのカエルの「カーミット」にぞっこん惚れ込んでいたが、グッズなど売っていない。
 そこで、日本がライセンス契約したスヌーピーグッズが販売されるようになり、子どもたちの間で大人気になった。


 テレビでは「谷啓版」スヌーピーが放映され、私は今でも谷啓のチャーリー・ブラウンとうつみ宮土理のルーシーじゃないと日本語吹き替えは見ない。


 さて、コングに話を戻そう。
 コングに登場するスリフコ君が持っているあのポータブル・レコードプレーヤー。
 あの蓋の裏にはなにやら漫画の切り抜きが貼ってあるように見えた。
 しかも、それは漫画『ピーナッツ』版のスヌーピー。
 

 いや、私の思い違いかもしれないが、あれはスヌーピーだ。そう思いたい。
 なぜなら、ベトナム戦では、スヌーピーのキャラクターをよく見かけるからだ。
 米兵たちに大人気だったスヌーピー。
 ジッポーのオイルライターや軍服のワッペン、戦車や戦闘機の首に描かれるノースアートにも、スヌーピーが描かれていたことが当時の写真からも分かる。


 思えば、米軍の戦闘機には漫画のキャラクターがしばしば描かれる。
 海軍航空隊(VF―31)のマークは、爆弾を持つ黒猫のカートゥーンキャラクター「フィリックス・ザ・キャット」だった。


 順にいうと、第二次大戦はピンナップガールやポパイやディスニー。朝鮮戦争はベティ・ブープやマイティーマウス。ベトナム戦はスヌーピーという具合ではないだろうかと勝手に推測してみる。
 しかし、なぜ〝ナム戦〟はスヌーピーなのだろうか。
 

 漫画の初回からスヌーピーがだんだん知的になってくると、いろんな扮装をするようになった。
 サングラスの遊び人風大学生、宇宙飛行士、小説家、第一次大戦の撃墜王などいろいろ。


 ゴーグルに飛行帽を被り、赤いマフラーで愛機ソッピースキャメル(スヌーピーの犬小屋だが、実は複葉戦闘機)を颯爽と操縦する。
 第一次大戦で勇名を馳せたたフォッカー三葉機に乗るレッド・バロンと空中戦を繰り広げるスヌーピーだ。(このエピソードは〝ナム戦〟当時、なぜか作者によって封印されたそうだ)。
 第一次対戦の撃墜王という名の紛争で登場するスヌーピーは、米兵の人気者になった。


 そして、スヌーピーの漫画にはベトナム戦ネタもある。
 有名なのは、ヘリコプターになったスヌーピーをウッドストックという黄色い鳥が操縦するという巻。
 耳をくるくる旋回させて動くスヌーピー号を操縦するウッドストック。
 操縦するといっても犬の足の間にヘルメットを被った小鳥がちょこんと乗っている風にしか見えないのだが。


 「優秀なパイロットだね。どこで操縦習ったの?」とライナスがウッドストックに尋ねると、「Nam!(ベトナムだって!)」というオチがつく。子どもの頃は意味がわからなかった。


 この「ウッドストック」という黄色い鳥の名前も謎だった。
 当時ウッドストックといえば、ヒッピーのお兄ちゃんお姉ちゃんが花を手に野外で好き勝手に音楽を楽しむ祭典しか連想できなかった。
 今になって思えば、ベトナム反戦の意味をこめて付けられた名前なのかもしれないという深読みもできる。


 ベトナム戦争は徴兵制で多くの兵士を戦場へ送り込んだ。
 第二次大戦を経て黄金の50年代を迎えたアメリカ。
 大学へ通う若者も増えたことだろう。


 その中にはアイビーリーグなどを卒業したインテリも多かったはずだ。  あるいは、スヌーピーが扮装したサングラスで波乗りやガールハントに夢中な大学生ジョー・クールのような。


 スヌーピーが登場する「ピーナッツ」という漫画は哲学的で深い。
 60年代後半、ピーナッツはアメリカの歴史の中で最も広く読まれた漫画だった。
 そのキャラクター・スヌーピーが兵士たちの人気キャラになるのは当然のことだったのかもしれない。
 

 今回のコングでレコードプレーヤー担当のスリフコも大学卒業したてくらいの若者だった。彼が髑髏島まで大事に持ち歩いたその内蓋に描かれていた漫画もスヌーピーに違いない。


 その謎を確かめるためにも、もう一度私は映画館の暗闇に潜み、髑髏島に行かねばなるまい。


 謎は人の好奇心を刺激し、冒険へと誘う。
 こうして再び私はあの髑髏島へ誘われるのであった。

キングコングとベトナム戦争~後編・スヌーピー~ ベトナム戦争時の「スヌーピー」をあしらった米軍の古着 コングにお似合いな南海の夕陽

洞口依子

洞口依子(どうぐちよりこ)

女優。1980年、「週刊朝日」11月7日号の表紙を飾り、雑誌「GORO」で篠山紀信の「激写モデル」として芸能界デビュー。85年、映画「ドレミファ娘の血は騒ぐ」(黒沢清監督)の主役に抜擢された。この時共演した伊丹十三監督の「タンポポ」「マルサの女2」に出演。テレビドラマでは92年の「愛という名のもとに」(フジテレビ)、97年の「ふぞろいの林檎たち」(TBS)などで個性的な演技を披露し、女優としての地位を確立した。2004年に子宮頸がんを発病したが克服し、06年に復帰。07年には闘病生活を綴った「子宮会議」を発刊。女優業の傍ら、ウクレレバンド「パイティティ」でライブ活動もしている。週刊文春「シネマチャート」連載中。

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