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2017年04月17日

キングコングとベトナム戦争~前編~

  久しぶりに、理屈抜きに面白いと思える映画に出会った。
 現在公開中の『キングコング:髑髏島の巨神』。
 監督は32歳のジョーダン・ボート=ロバーツ。今作が、まだ長編2作目というから驚きだ。


 私にとってキングコングといえば、なんといっても初代白黒版(1933年)。絶叫女優フェイ・レイを連れ去り、エンパイアステートビルに駆け上がるあれだ。


 あるいは、東宝特撮映画の『キングコングの逆襲』(1967年)。
 天本英世扮するドクター・フーが作ったメカニコングと南海の孤島で闘う〝正義の怪獣〟キングコング。


 子どもの頃にテレビでよく見たアニメ版キングコングも捨てがたい。
 先月、週刊文春のシネマチャートで2017年版キングコングの原稿を書いているとき、脳内にループしていたのは、やはりあのテーマソングだった。


 ♪ウッホ ウホウホ ウッホッホ~ 大きな山をひとまたぎ キングコングがやってくる こわくなんかないんだよ キングコングはトモダチさ♪


 そうか、キングコングはトモダチなのか……。
 そいつは……そいつは、すごいや!
 というわけで、2017年版キングコング(以下コングと呼ばせていただく)は、画面いっぱいに大暴れする大怪獣バトルが理屈抜きで面白い。
 しかも冒険好きやベトナム戦争映画に興味のある人にはたまらないコングだったのだ。


 ニクソン大統領がベトナム戦争終結を宣言した1973年1月29日。
 前年に打ち上げられた観測衛星ランドサットによって、伝説の髑髏島が発見される。そこへ探検調査に向かう米特殊研究機関モナークの研究員(ジョン・グッドマン)たち。


 護衛の任務にあたるのは、パッカード米陸軍中佐(サミュエル・L・ジャクソン)率いる特殊ヘリコプター部隊「スカイデビルズ」。英国陸軍特殊空挺部隊のコンラッド(トム・ヒドルストン)も先導役として雇われる。
 そこにちゃっかり「反戦カメラマン」を気取る若い女(ブリー・ラーソン)が合流。
 武器弾薬と一行を乗せた護衛艦アテナ号は、いざ髑髏島へ向かうのだが……。


 ベトナム戦争終結の1973年という時代設定にそそられる。
 南海の孤島の謎に挑むという冒険譚。
 興味があるベトナム戦争映画へのオマージュや仕掛けが満載。
 これぞ、〝ナム戦(ベトナム戦)マニア垂涎モノ〟。


 燃える夕陽を背に佇む髑髏島の巨神コングと飛来する数機のヘリコプター!
 まさに『地獄の黙示録』(1979年 フランシス・F・コッポラ監督)を想起させる名場面だ。


 そして〝ナム戦〟といえばヘリコプター。
 愛称・ヒューイで親しまれたUH—1。ドア全開のヒューイが髑髏島でコングと闘う場面のヒューイの動きの超絶カッコいいこと! なんと『007スペクター』の、あのヘリコシーンを操縦した人物によるものだそう。


 しかも、髑髏島にはなぜか第二次世界大戦で戦った米軍パイロット・マーロウ(ジョン・C・ライリー)がいる。30年間、この島で生き残っていたマーロウの物語にもなっているのだった。


 いつの時代も冒険譚は楽しい。
 また1973年という時代設定がそれを盛り上げる。
 その頃、ムー大陸やバミューダ・トライアングル、UFOなど失われた文明や未確認飛行物体のような奇譚的なものが流行っていたからだ。
 

 トム・ヒルドストン演じるコンラッドは、あの『闇の奥』を書いた英国の作家ジョゼフ・コンラッドから名前を取っているのだろう。
 マーロウの名も『闇の奥』の主人公マーロウからだ。


 『闇の奥』は、世界地図に未知なる場所が残る1899年に書かれた。
コンラッドが、実際にアフリカのコンゴ河で体験した西洋植民地主義の闇を描いた物語だ。のちに、映画『地獄の黙示録』の原案にもなったと言われている。


 『地獄の黙示録』といえば、ベトナムだ。
 ワーグナーの「ワルキューレ」が鳴り響く爆撃シーンが鮮烈だ。
今回のコングでは60年代後半~70年代当時のロックがガンガン流れる。


 ブラック・サバスの『パラノイド』やジェファーソン・エアプレインの『ホワイトラビット』などお約束のナンバーが流れ、ベトナム映画の世界へ誘ってくれる。
 当時最新のロックとして流れるのは、デビッド・ボウイの『Ziggy Stardust』。小型艇で河をゆく時にポータブルレコードプレーヤーからから聞こえてくるのはCCRといった按配だ。


 あのポータブルレコードプレーヤーに私はグッときてしまった。
 おそらくベトナム戦争映画史上、最も耐久性に優れたポータブルレコードプレーヤーではなかろうかと。


 当時、音楽を聞くといえば、ラジオかレコードでしかなかった。
 まだ小型テープレコーダーなどが普及する以前。
 レコードを外で聞くためにポータブルレコードプレーヤーもあった。


 ポータブルレコードプレーヤー担当は、スカイデビルズの若い兵士スリフコ(トーマス・マン)。りゅうちぇる風の赤いヘアバンドがトレードマークの、車と音楽の街・デトロイト出身だ。
 

 髑髏島で、いかにも重そうなポータブルレコードプレーヤーをなぜか装備している姿が興味深い。
 プレーヤーを水平に保ち溝に針を落とす。
 するとスクラッチノイズとともに流れるロック。
 スウィングしか知らぬマーロウが「なんだ、これは? ベニー・グッドマンはないのか?」と不思議がる。いまどきの歌を聞く若いスリフコと1940年代の音楽しか知らないタイムトラベラーのようなマーロウのやりとりが、印象的な場面だ。
 

 それにしても、死臭漂う髑髏島でロックのレコードを聞く兵士を描くなんて本当に最高だ。あの重そうなポータブルレコードプレーヤーと何枚のレコードを持参しているのだろう? とまで想像してしまうほど。


 戦地で闘う兵士にとって、音楽がどれだけ貴重な存在だったか。
 『グッドモーニング、ベトナム』(1987年)では、ロビン・ウィリアムズ扮する米軍ラジオ放送のDJが、サイゴン(現ホーチミン)の放送局から最高の音楽と機関銃の連打の如くクレイジーなおしゃべりを届けていた。それをトランジスタラジオで聞いている兵士たちの姿も思い出す。
 あれは当時ベトナム戦で実在したDJの話だったそうだ。


 つづく

キングコングとベトナム戦争~前編~ 今回の「コング」は史上最大、まさに巨神。大きいことはいいことだ!

洞口依子

洞口依子(どうぐちよりこ)

女優。1980年、「週刊朝日」11月7日号の表紙を飾り、雑誌「GORO」で篠山紀信の「激写モデル」として芸能界デビュー。85年、映画「ドレミファ娘の血は騒ぐ」(黒沢清監督)の主役に抜擢された。この時共演した伊丹十三監督の「タンポポ」「マルサの女2」に出演。テレビドラマでは92年の「愛という名のもとに」(フジテレビ)、97年の「ふぞろいの林檎たち」(TBS)などで個性的な演技を披露し、女優としての地位を確立した。2004年に子宮頸がんを発病したが克服し、06年に復帰。07年には闘病生活を綴った「子宮会議」を発刊。女優業の傍ら、ウクレレバンド「パイティティ」でライブ活動もしている。週刊文春「シネマチャート」連載中。

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