記者コラム
城崎にて。土地の力を感じる 舞台「なむはむだはむ」の滞在型制作

城崎国際アートセンターでリラックスモードだった3人。左から前野健太さん、岩井秀人さん、森山未来さん
城崎国際アートセンターでリラックスモードだった3人。左から前野健太さん、岩井秀人さん、森山未来さん

そこは兵庫県北部の豊岡市、歴史ある温泉の街、城崎。志賀直哉は電車にはねられて負った大けが(…で済んだのが不思議!)を、この地で療養した経験を基に、短編「城の崎にて」を執筆している。1月下旬、舞台「なむはむだはむ」(2月18日~3月12日、東京芸術劇場で上演)の取材で、城崎温泉を訪れた。

野田秀樹さんのアイデアを基に、子供たちとワークショップを重ね、子供が書いた台本を大人が演劇化するという斬新な舞台。同作を創作、出演する岩井秀人さん(劇団ハイバイ主宰、演出家、劇作家、俳優)、森山未来さん(俳優、ダンサー)、前野健太さん(シンガー・ソングライター)が、約2週間にわたって城崎で合宿を行っていたからだ。

少し前から、この名湯の地が文化の発信拠点として、改めて注目されているという話題を聞いていた。個人的な話だが、かつて4年近く兵庫県内で取材し、生活していた“元神戸支局員”の一人としては、城崎温泉のいまを見てみたい気持ちも大きかった。

城崎温泉駅に着いて、まず感じたのは、街の活気。若い観光客が多く、“サブカル女子”的な女性の集団も目立つ。彼女たちが次々と入館していく「城崎文芸館」に立ち寄ると、企画展「万城目学と城崎温泉」が開かれていた。同館は昨秋からブックディレクターの幅允孝さんが監修しているという。観光で時間のない人なら駆け足で、じっくり見たい人ならゆったりと楽しめるような、適度な情報量の展示が心地よい。地元で立ち上げられたレーベル「本と温泉」による、万城目さん、湊かなえさんの書き下ろし本も販売されており、それぞれがすてきなデザインでお土産にぴったりだ。

そして、ひときわ存在感を放っていたのが、表現者たちが演劇や芸術の創作活動に集中できる宿泊施設を備え、最大1000人収容可のホールがある「城崎国際アートセンター」。2014年にオープンし、平田オリザさんが芸術監督を務めているという。これまで岡田利規さん、小野寺修二さん、束芋さんら第一線で活躍する劇作家や俳優、ダンサー、芸術家たちが国内外から招かれ、滞在制作の拠点として利用してきた。

一つの地域に滞在する表現者の創作をサポートする「アーティスト・イン・レジデンス」の取り組みは全国各地でも実施されているが、ここまで充実した施設を用意している自治体も珍しいのではないか。この施設を発案したのは、豊岡市の中貝宗治市長で、もともと県の大型研修施設だった建物を大胆にリノベーションしたのだという。「いつの間にか施設名に『国際』まで付いて、大ごとになっていた」と笑う中貝市長。市長をはじめ、施設スタッフ、地元の商店や住民たちが、城崎で生活するアーティストたちを、とても自然に、まるで昔からの友人のように、温かく迎えて入れている様子が、とても印象深かった。

演劇の創作の場は、大都市、特に東京に一極集中している。それは利便性や劇場数から言っても仕方のないことだろう。ただ、東京で日々見ている舞台と客席の間には、何だか説明しがたい、見えない厚い壁の存在を感じることも多い。

1月21日に同施設で行われた「なむはむだはむ」のワークインプログレス(公演前の創作成果発表会)では、そんな厚い壁がどこにもなかった。出演者も観客も劇場も、フラットに、地続きになっていて、何だか一つの生き物のように思えた。途中経過の発表だから、という理由は大きい。しかし、それ以上に、やはり東京とは異なる、強い土地の力を感じた気がするのだ。力の持ち主は、その土地の観客、なのか、その土地で生まれた作品、なのか、その劇場に漂う空気、なのか。定かではない。だが、その力が作品を豊かにすることは間違いない。

外湯が楽しい、海産物がおいしい、コウノトリも飛ぶ温泉地。そして、地元の人も遠くから来た人も、日本人も外国人も、子供も大人も、いろいろな人の文化や考えが出会う場として、今後も城崎温泉に注目したい。この地で志賀直哉が創作の羽を広げたという事実にも、妙に納得してしまった。(小川恵・共同通信文化部記者)

▼岩井秀人さん×森山未来さん×前野健太さんへのインタビュー

(1月21日のワークインプログレス直後の取材を一部抜粋して掲載、敬称略)

-3人は「なむはむだはむ」で初顔合わせ。合宿の効果はありましたか?

森山 滞在型ということで、稽古よりも、食事の時とか、なにげない会話をしているときに、いろいろ気付くことが多かったです。岩井さんの人の見つめ方や距離感が変で、なんか異次元みたいだな、とか。

岩井 でも、一緒に生活していたら、確実に僕が一番まともな人間であることは分かりました。滞在型ならではの感覚ですね。一番普通なのが僕で、次が前野くんで…。

森山 そうですね。ダメだと思います、僕は。ただのダメな奴です(笑)

岩井 未来くんは「あれ、どこ行った?」みたいな瞬間がよくあって。本当にその場からいなくもなるし、そこにいても「どこ行った?」みたいな雰囲気になることも。子供みたいです。こっちが話し掛けているのに「おーい、どこ行ったの?」みたいな。その分、いつの間にか全体の流れみたいなものを考えていて、僕の感覚とは全然違う。自分なりの数式でも持っているのかな。異常な早さで何かを考えているから、すごい人です。まあ、結果、言ってくる言葉も謎なんだけど(笑)。「今のままだと、(舞台美術で使う)ヒモが成仏しない」とか…。まあ、僕らも子供の言葉には慣れてきたので…。

前野 僕の仕事としては、歌の世界はワンフレーズで完成するので、今回は子供たちの台本を見て、「やることねえなあ」と思ったところもあります。人の言葉って、それだけですごい曲になる。たとえば僕が髪を切りに行くと、その床屋さんが既に歌を持っていて、ポロッと出す言葉が面白いんですよ。表現や創作の仕事をしていなくても、人はすごい言葉を言うんです。街のあらゆるところにそういう人はいて、だから街にいることが好きなんですよね。

森山 あれ。今日はカニ使った?

前野 使った、使った。きょうは舞台で、カニの爪でギター弾いたんですよ。

岩井 セコガニ(城崎名物)の爪でね。

前野 でも、誰も見てなかったの(笑)。みんなガイコツ(子供の書いた台本「ガイコツ」に合わせた森山のダンス)に気をとられていて。昨日の夜、テーブルにカニが置いてあって、急に思いついた。カニでギター弾いたら面白いんじゃないかなって。

岩井 昨日の夜、「ワークインプログレスと言いつつも、お客さん来ちゃうからどうしようかな」と1人で考えていたら、夜11時くらいにスタッフに「未来さんと前野さん、劇場に行きましたよ」って言われて。「こんな時間に? みんな思うところがあるんだなあ」なんて思いながら劇場の扉を開けたら、ギーーーーみたいな、変な音が(笑)。この人がカニの爪でギター弾いてて。で、未来くんのほう見たら、なぜか一升瓶を持ってて。この2人の行動は読めなすぎて、面白いです。

前野 せっかく城崎にいるし、ガイコツという題材もあったから。

森山 甲殻類っぽい音がガイコツの骨みたいで、カラカラ鳴って、いいよねって。

岩井 ここで見つけたものは何でもやったよね。だから、この作品が東京に戻ってからどうなるのかは全然分からないです。この2週間、この方々(森山、前野)は、少しどこか行っただけで、色々なネタを持って帰ってくるから大変でした。床屋でも、スナックでも。僕は同じ店に行っても、何も持ち帰らない。でも、この2人は「床屋さんが実は…」って、すぐに人の人生を持って帰ってくる。ちょっとおかしいんです。僕は仕事として、人に取材を重ねることが多くて、ちょっと今はもう誰の人生も知りたくないって感じがある。「みんな今、その面倒な話のはけ口に俺を使わないでよ」とか、そういう気持ちってあるじゃない。でも、この2人は「あなたの人生から、いくらでもください!」っていう構えがあって感動的。誰かの人生を受け止める容量が大きい。器じゃなくて、容量が大きいんです。

森山 そこ、器とは言ってくれないんだ(笑)

-野田秀樹さんの「子供の台本を大人が演劇にする」というアイデアに、手を挙げて取り組んだのはなぜ?

岩井 野田さんがやっていたら、どうなるんだろうね。野田さんが「やる?」って感じで聞いてくれたから、「いいの?」って思った。最初は何も考えていなかったです。野田さんの「子供が書いた台本を、大人がよってたかって演劇にする」という言葉が、絶対的に面白そうで、そのサイズのキャッチコピーに魅了されたんですよ。で、「実際、何やんの?」と早いうちに超ピンチになって、未来くんと話した。未来くんは、いわゆるストレートな「俳優さん」じゃない認識があって、いつか何か一緒にやりたいけど、自分の書いた台本でやるのとは違う感じがしていた。でも、前に「子供」というキーワードで話したことがあったから声を掛けたんです。

森山 僕が(ダンス留学で)イスラエルにいたとき、ダンスカンパニーが必ずレパートリーとして一つは持っている「チルドレンショー」というものがありました。簡単に言えば、子供の観客に開かれた舞台です。イスラエルの場合は、観劇する行為が日本よりもだいぶフランクという理由もあるけど。チケット料金の変動も半端なくて、高いチケットでもギリギリですごく安くしちゃうとか。席を埋めるため、日々金額を動かす。とにかく「人が劇場に見に来ること」を重視する環境があるんです。

岩井 へー、面白いね、それ。

森山 日本では舞台を見に来る環境が整っていないことが、ずっと気になっていた。僕はチルドレンショーというものが、子供の頃から自然に劇場に足を運ぶことへの習慣付けになるんじゃないかと思ったんです。今回、岩井さんから「子供」というキーワードを聞いたとき、面白いって思った。チルドレンショーの内容って、決して子供向けという訳ではなくて、本格的でシリアスな作品でも尺を短くしたり、参加型にしたり、無音にはしないとか。ある程度は調整しつつも大人が見てもセンスがあるもので、子供にはこびていない。だから、日本でも未就学児をお断りしない回を作るとか、その重要性って大きいと思うんです。

-舞台「なむはむだはむ」では、年齢制限のない回を設けていますね。

森山 この舞台が「子ども向け」という感覚はないです。でも、乳幼児も大人も見られる回も設定したり、作品自体は1時間前後に収めたりする。この時点で、子供に対して開いている、という僕たちの意思表示にはなりますよね。シーンと静かに見る必要は全然なくて、舞台を見ている子供たちの笑い声とか、率直に突っ込んでくれる反応も嬉しいです。

岩井 全然アリだね。

森山 むしろ声を聞きたいよね。

岩井 きょう、ワークインプログレスが終わったあとに観客や子供たちと階段を歩いていたら、なんだか自分が見に来た気分になった。こんなの初めてで。「楽しかったですよね~」みたいな。子供たちは舞台に「死ぬんかい!」とか、めいっぱい突っ込んで、反応してくれた。きょうは子供が考えついちゃったことを、一緒に喜んでいる感覚があって、おかしくてしょうがなかったです。僕、そもそも子供と大人をあまり区別していないのかもしれないですね。子供って「ちょっと乗せやすいおじさんみたい」と思ってます(笑)

前野 子供たちの言葉って破綻していて、色気があっていいですよね。舞台も、もっと破綻させてもいいのかも。俺たちだって、訳の分からないものを日々抱えて生きている訳ですから。


おがわ・けい 関西、九州の支社局を満喫し、文化部へ。テレビ・ラジオ担当を経て、現在は演劇と歌舞伎、落語、能楽などの古典芸能の取材を担当しています。