記者コラム
クラシックとの幸せな出合いがうらやましい 0歳児から入場できるコンサート

「0歳からのオーケストラ」を楽しむ子どもたち=4月29日、川崎市のミューザ川崎シンフォニーホール
「0歳からのオーケストラ」を楽しむ子どもたち=4月29日、川崎市のミューザ川崎シンフォニーホール

静まりかえった会場では咳をするのもためらわれ、幼い子ども連れなんてもってのほか―。クラシックコンサートというと、そんなイメージが先行しがち。だが、最近は0歳児から入場できるコンサートも増えている。しかも、なかなか盛況だという。

4月末、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)で開かれた「0歳からのオーケストラ~ズーラシアンブラスmeets東京交響楽団」に足を運ぶと、客席は小さな子どもたちや、赤ちゃんを抱いた親御さんたちでいっぱいだった。祖父母と一緒に各世代が並んで座っている光景もなんだかほほえましい。東京交響楽団が2007年から毎年、開催しているこのコンサートは今回が10回目。会場入り口にはベビーカー預かり所、ロビーにはおむつ交換室や授乳室も特設され、楽団によると医師も待機しているという(これまで出番は一度もなし)。

演目は、グリンカの歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲や、ファリャのバレエ音楽『三角帽子』の序奏・終曲など、華やかで短いクラシック作品が中心だ。このコンサートの売りの一つは演奏家たちが扮した“動物たち”の金管アンサンブルだが、彼らが登場しない演目でも、音が飛び出してくるようなオーケストラの演奏に、子どもたちは身を乗り出して見入ったり、小さな体を揺らしたりと、楽しそう。もちろん、泣きだす子や、ぐずる子もいるが、演奏中でも会場への出入りは自由なので、子どもを連れて一時的に席を離れ、落ち着いたら戻ってくることもできる。終演近くになると、子どもを抱いた親たちが出入り口付近にとどまって、背中をトントンとたたいてあやしながら、演奏を最後まで楽しんでいた。

生後10カ月の女児と来場した夫婦は「親がピリピリすると子どもに伝わってしまうので、ちょっとくらい子どもが泣いても、お互いさまといった雰囲気がうれしい。ゆったりした気持ちで楽しめたので、子どももムダ泣きしませんでした」と満喫した様子。保護者の中にはホールでクラシックコンサートを聴くのは初めてという人もいて「(オケの迫力に)はまりそう」と声を弾ませていた。

普段の演奏会とはまったく違うお客さんとのふれ合いを、演奏家たちも楽しんでいる。「大きい音が出るとわーっとなるし、小さくなると静かになる。素直な反応が面白い。ちょっと難しいかなと思う曲でも食いついてくることもあるので、有名曲ばかりじゃなく、いろいろな曲を聴かせてあげたい」と語るのは指揮者の海老原光さん。大野順二楽団長は「始めたころは、小学生と生まれたばかりの兄弟が一緒に来られるコンサートはほとんどなかった。(子どもたちに)初めてのオーケストラ体験を提供できるなんてすごいこと」と、取り組みへの手応えと熱意を語る。

次世代のクラシック音楽ファンを育てようという同様の試みは、東京交響楽団のほかにも都市部を中心に各楽団が開催しているほか、ソニー音楽財団は1999年から実力派の演奏家たちが出演する「0才からのクラシック」シリーズを年に10~20公演ほど全国各地で開いている。

クラシック界の現状は確かに聴衆の高齢化が進んでいるが、担い手側の意欲や情熱に触れると、未来は結構明るいんじゃないかと思えてくる。何より、クラシック音楽とこんなふうに出合える子どもたちがうらやましい。(須賀綾子・共同通信記者)


すが・あやこ 1997年入社。文化部でクラシック音楽やバレエなどを担当。初めてのクラシックコンサートは小学校の課外授業、場所は千葉県の習志野文化ホールでした。