記者コラム
ペアレンタルラベルも知らずに夢中だった 音楽はたやすく国境を越えるけど言葉は…

『ストレイト・アウタ・コンプトン』のタイトルデザインはペアレンタルラベルそっくり
『ストレイト・アウタ・コンプトン』のタイトルデザインはペアレンタルラベルそっくり

CD屋をウロチョロしている子供でした。中学生だったと思います。当時アメリカでは、R&Bのボーイズグループ、ガールズグループが隆盛で、私はそれに夢中でした。TLC、SWVにアン・ヴォーグ、ボーイズだとBLACKSTREET。さらに、クーリオや2パックなんてヒップホップにまで手を伸ばしていきました。ネットがない時代です。親が見ている深夜番組にビルボードのチャートが出たりすると、英語が読めないくせに必死にそのアーティストの名前を覚えるんです。そして、うろ覚えのままタワーレコードに行くと、意外とCDが見つかる。だけど金がなくて買えないので、何度も通っては試聴コーナーでそれを繰り返し聴いていました。何カ月か経ったら、ようやく貯まったお小遣いで、そのアルバムを買っていたけど、さぞかし迷惑な客だったろうと思います。

あと思い出すのは飛行機。親が奮発して連れて行ってもらった海外旅行。その時乗った飛行機は、ラジオ番組が繰り返し流れる形式で、自分で選曲できませんでした。R&Bとヒップホップの番組を聴いていると、ものすごくかっこいい曲が流れて、でも終わるとすぐに聴けないんです。また番組が一周して、その曲が流れるまで数時間待たなきゃいけない。それでも辛抱して、合間に寝たり食事したり、本を読んだりして、その曲がかかるまでひたすら待っていました。これまた、なんて暇で時間を持て余した子供だったのでしょう。でも今はない、あの情熱を思い出すと少し懐かしくもある。

『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、80年代にギャングスタラップを流行らせたヒップホップグループN.W.A.の伝記映画です。彼らの作品は、そのまま90年代に私が聴いていた音楽と系譜が少なからず繋がっています。たとえば、2パックのプロデューサーは、N.W.A.のメンバーだったドクター・ドレーです。それを考えると、カリフォルニアの不良少年たちが礎を築いた音楽を、なんで極東の国の子供が夢中で聴いていたんだろうと、なんだか不思議な気持ちになります。

驚いたのは、この映画のポスターを見ると、「PARENTAL ADVISORY」(ペアレンタル・アドバイザリー)のラベルデザインをそのまま使ったタイトルになっていたこと。これを見たとき、集めていたアルバムにこのラベルが貼ってあったのを、すぐに思い出したのですが、恥ずかしながら意味を知りませんでした。調べてみると、「親への勧告 露骨な内容」という意味。つまり暴力や犯罪、セックスに関する歌詞が含まれている作品に対して貼られる勧告のステッカーだったんですね。ゴア元副大統領の妻だったティッパー・ゴアが中心となって義務化となったそうです。

N.W.A.は、わざと卑語を使った過激な歌詞で一世を風靡しました。映画のタイトルロゴは、このペアレンタルラベルを使うことで彼らの音楽を表している、うまいデザインです。しかし、私はそれまで何にも知らなかった。未成年時にこのラベルがついたCDを何度聴いたことか。タワーレコードさんも、よく売ってくれたもんだ。確かに少し英語をかじった今聴いてみると、露骨な歌詞に、たまに引いてしまいます。だけど、そのメロディーは今も変わらずクールです。

ゴアさんたちがつくった未成年者への勧告は日本ではスルーされ、ある10代の少女はその音楽に夢中でした。それが時を経て、大人になってから真意を知って歌詞に今さら赤面する。音楽はたやすく国境を越えるけど、言葉はそうはいかないものなんですね。

(品川マキ・ライター)


しながわ・まき フリーランスライター。東京都出身。アメリカで約1年フラフラした後、フリーに。一日一肉食。学生時代のあだ名は「肉娘」。映画好き、アメリカ映画大好き。ハリウッド&日本の芸能ゴシップチェック、ツイッター徘徊を日課としています。