花まるシネマ
『いつまた、君と ~何日君再来~』 向井理の祖母の半生つづる感動作

(C)2017「いつまた、君と ~何日君再来~」製作委員会
(C)2017「いつまた、君と ~何日君再来~」製作委員会

原作は、俳優・向井理の祖母が半生をつづった手記で、卒寿(90歳)の祝いに家族・親戚で自費出版して贈ったもの。本作を企画した向井も自身の祖父役で出演している。戦中戦後の困難な時代を、中国大陸や日本各地を転々としながら懸命に生きた夫婦、そして家族の実話だ。

監督は、『半分の月がのぼる空』『くじけないで』など作家性と職人技を兼ね備えた深川栄洋。回想録を映画化するに当たり、恐らく彼はこう考えたのではないか。回想シーンやフラッシュバックは、往々にして映画をぶち壊す。でも、そこに挑戦しないと逃げることになる。あえて“回想”の持つ通俗性に立ち向かおう!と。

だからこそ、安易に思えるほどフラッシュバックが多用され、クローズアップが編集の軸になっている。その代わり、感情の高まりに合わせてカメラが被写体に近づくことは決してないし、セリフに頼らず人物の背中に語らせるなど、その演出はセンチメンタリズムとハードボイルドのあわいを常に模索しているかのよう。

同時に、中国大陸の風景を捉えた映像はまるで西部劇で、四季を折り込んだ絵画のように端正な構図の数々は、たとえどんなに過酷で辛い経験だったとしてもヒロインの記憶には美しい心象風景となって残っているという、監督のメッセージとも取れる。これ見よがしではない、品のいい感動作だ。★★★★★

監督:深川栄洋

原作:芦村朋子

出演:尾野真千子、向井理

6月24日(土)から全国公開



『ラスト・プリンセス-大韓帝国最後の皇女-』 “恋愛映画の名手” ホ・ジノ監督の面目躍如

(C) 2016 DCG PLUS & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
(C) 2016 DCG PLUS & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

韓国きっての恋愛映画の名手とされる『八月のクリスマス』『春の日は過ぎゆく』『四月の雪』のホ・ジノ。その新作は、日本統治時代に日韓併合の政略に巻き込まれた大韓帝国初代皇帝の娘・徳恵(トッケ)翁主の波乱の生涯を描く歴史ドラマだ。

1925年、13歳で無理矢理日本に留学させられた彼女が、悲願だった帰国をかなえるのは1962年。37年後のことだった。ニュース映像を基に再現されたそのシーンは、涙なくしては見られない。本作は、内容も演出もベタといえば相当にベタなのだが、それが鼻につかないのは、ホ・ジノのセンスの良さ故だろう。

例えば、オープニングの歩く後ろ姿だけで見せる新聞社のワンシーン=ワンカット。あるいは、初恋のみずみずしさが漂う少女時代のピアノのシーン。さらには、冒頭の記者が徳恵と30年ぶりに再会を果たす精神病院の見せ方。まさに、この二人の決して結ばれることのない切ない関係性が、本作に通奏低音のようにメロドラマ性を響かせる。

30代のアイドルに回想シーンで平気で中高生を演じさせる日本映画が少なくない中、一人の人物を年齢に合わせて複数の俳優に振り分ける選択眼も、ホ・ジノの繊細さを証明している。歴史ドラマの中に見え隠れする豊かな叙情性は、まさに“恋愛映画の名手”の面目躍如と言っていい。★★★★☆

監督・脚本:ホ・ジノ

出演:ソン・イェジン、パク・ヘイル

6月24日(土)から全国順次公開



『ありがとう、トニ・エルドマン』 笑いと感動が同時に襲ってくる

(C) Komplizen Film
(C) Komplizen Film

悪ふざけが大好きな父と、外国で働くキャリア志向の娘。まるで性格が正反対の父娘の関係を描いたドイツ映画だ。監督は、『恋愛社会学のススメ』の女性監督マーレン・アデ。“トニ・エルドマン”とは、父が娘のためにあみ出した別人格のこと。かつらと入れ歯で他人のふりをする。娘は神出鬼没な彼に戸惑い、イライラを募らせるが…。

小津安二郎の映画を思い出した。父と娘の話だからではない。ゆっくりなのに早い、その語り口にだ。見せるところは時間を惜しまずに丁寧に見せ、それ以外はスパッと省略する。ただし小津と違うのは、時間経過の“空(カラ)ショット”を挟まないところ。唐突に次のシーンに切り替わる。その唐突さが、感情の流れを気のままに提示することを可能にし、同時に独特の緩急も生んでいる。

また、本作はコメディーであり感動作でもあるが、目の肥えた観客ほど泣かせようとする作為に厳しいもの。故に優れた作り手は、事前に笑いを使って感情の筋肉をほぐすわけだが、父親の荒療治が逆に娘への思いを際立たせる本作の場合は、笑いと感動が同時に襲ってくる。一石二鳥だから、我々は不意打ちの感情にあらがえない。“唐突”で“不意打ち”で、展開は予測不可能。にもかかわらず、世代やジェンダーのギャップを扱った今日性と、親子関係の普遍性が見事に息づいている。今年一番の衝撃作だ。★★★★★

監督・脚本:マーレン・アデ

出演:ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー

6月24日(土)から全国順次公開



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