花まるシネマ
『愚行録』 人間関係の複雑さ浮かび上がる群像劇

(C)2017「愚行録」製作委員会
(C)2017「愚行録」製作委員会

昨年のベネチア映画祭でオリゾンティ部門に出品された日本映画だ。ポーランドの国立映画大学で学んだ石川慶監督のデビュー作で、貫井徳郎の“イヤミス”小説が原作。迷宮入りした一家惨殺事件の真相が、事件を追う週刊誌記者の視点で描かれる。

とはいえ、謎解きを楽しむタイプの映画ではない。犯人捜しよりも動機に、否、一見幸福で善良そうな家族がなぜ殺されなければならなかったのか? 同じ人物でも見る人次第で別人に見える人間関係の複雑さ、難しさが、関係者たちの証言から浮かび上がる群像劇で、本作の怖さはわれわれが住む社会自体の怖さなのだ。

そんなサスペンスと人間ドラマの二面性を、この新鋭監督は撮影手法そのものに象徴させる。本作のカメラはサスペンスをあおるように狭い室内でもよく動くのだが、サスペンス映画のセオリーにのっとるならディープフォーカスが選択されただろう。ワイドレンズによる画面のゆがみが作品世界のゆがみとなって見る者の不安を増幅させるから。ところが、本作では深度の浅いレンズを用いてこまめにピントが調整されている。これは画面を安定させるためで、むしろ人間ドラマの手法だ。

ほかにも、身体、特にパーツである手足や指へのこだわりなど、人間の内面や社会の闇といった目に見えないものを視覚化しようという意図が随所で感じ取れる。これは世界で戦うための必須条件。楽しみな監督がまた一人登場した。★★★★★(外山真也)

監督:石川慶

出演:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、中村倫也

2月18日(土)から全国公開



『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』 妻を亡くした男の心の旅

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.

『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャンマルク・ヴァレ監督の新作は、“再生”の物語だ。考えてみれば、『ダラス~』も前作『私に会うまでの1600キロ』も主人公の心の再生を扱っていた。だが、今回のこのテーマは脚本のブライアン・サイプによるもの。代表作と似た題材のオファーが続くのは、映画監督にとって宿命なのだろう。

物語は、出世コースに乗った銀行マンが妻を交通事故で亡くすところから始まる。だが、何不自由ない生活を過ごすうちに感覚がまひし、少しも悲しめない。そのことに気付いた彼は、次第に奇行を繰り返すように…。

つまり本作の場合、劇的な出来事が再生のきっかけではない。もちろん妻の死は主人公にとっては大事件だろうが、きっかけはむしろその時に“泣けなかった”こと。本来なら、エンターテインメントどころかドラマにもならないような彼の内省的な心の旅を、こんなにも独創的な脚本に仕上げたサイプの手腕をこそたたえるべき映画なのだ。

何より、ありふれたテーマを既定路線に沿って展開させているのに、全く先が読めない。主人公の衝動的な行動も、彼の人生に突然入り込んでくるシングルマザー母子との関わりもテーマと密接に結びついているから違和感なく受け入れられる。もちろんヴァレの演出も、例えば後半に生きてくる交通事故の見せ方、海に向かって突然走りだす瞬間やラストの爽快感など、秀逸な脚本を見事に支えている。★★★★☆(外山真也)

監督:ジャンマルク・ヴァレ

出演:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ

2月18日(土)から全国順次公開



『天使のいる図書館』 奈良を舞台にした新人司書の成長物語

(C)2017「天使のいる図書館」製作委員会
(C)2017「天使のいる図書館」製作委員会

奈良県の葛城地域観光協議会協力の下、現地でオールロケした“ご当地映画”だ。だが観光映画に陥ることなく、風景や土地の空気感をしっかりと映画の魅力として取り込んでいる。神主の娘ながらリケジョで物事を合理的にしか判断できない新人司書が、レファレンスサービスという人と関わる仕事に戸惑いながら、ある老婦人との交流を通じて成長していく話だ。

主人公に関して言えば、いくらカリカチュアしているとはいえ、今の時代であればもはや性格というより発達障害と診断されそうなキャラクターなのに、「ズレてる」という表現で注意して対人関係の非常識を諭す上司や職場には強い違和感を覚える。けれども、そんなヒロインの成長ものというテーマの背後に、図書館=優れた物語の宝庫が舞台であることを生かした“フィクション論”という裏テーマを忍ばせている点は高く評価したい。

監督は『リュウグウノツカイ』の新鋭ウエダアツシ。まだまだ粗削りながら、例えば突然降り出す雨や桜の花びらの色などからは、映画らしさへのこだわりが感じ取れるし、何より自分らしい映画を撮るんだという野心に好感を覚える。それが顕著に現れたのが、音楽に乗せて主人公の努力がコラージュされていく紋切り型の演出を逆手に取ったシーンだろう。主人公の未来に思いをはせつつ、監督の成長も見守りたくなった。★★★☆☆(外山真也)

監督:ウエダアツシ

出演:小芝風花、横浜流星、香川京子

奈良県先行公開中、2月18日(土)から全国順次公開



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