花まるシネマ
『ライト/オフ』 暗闇の恐怖を徹底的に突く

(C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED
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動画サイトで1億5000万回も再生された短編映像に基づく。その監督に、『ソウ』『死霊館』シリーズのジェイムズ・ワンが長編映画化を依頼して出来上がったホラー映画だ。幼い弟から「電気を消すと、何かが来る」と打ち明けられたヒロインが、おびえる彼のためにたくさんの灯りを用意して実家に乗り込むが…。

そもそも人間は、暗闇に対して本能的な恐怖心を持っている。そこを徹底的に突いてくるから、灯りが消えただけでハラハラするし、灯りの点滅ひとつで感情を完全にコントロールされてしまう。しかも、その恐怖という感情を、説明的になることなくあくまでも視覚化して描いている(灯りが消えると現れる何者かは、恐怖のメタファーとも取れる)点が、何よりも秀逸である。

主な舞台となるのは、ヒロインの実家。いわゆる“お化け屋敷ホラー”だけに、ドア(扉)という極めて映画的なアイテムが本領を発揮する。この監督は、ホラーにおいてドアが、恐怖を掻き立てたり、守ってくれたり、実際に中から現れたり、あるいは正邪を分かつ境界線だったり…と万能の働きをすることに自覚的で、その機能を存分に活用してヒロインたちを追い詰め、我々を恐怖に陥れる。

ネタバレになるので詳しくは書けないが、恐怖の正体にもちゃんと説得力がある。まずは、オリジナルの短編をサイト(https://vimeo.com/82920243)でチェックして、その恐怖に81分間耐えられそうなら、ぜひ劇場へ。★★★★☆(外山真也)

監督:デヴィッド・F・サンドバーグ

出演:テリーサ・パーマー、ガブリエル・ベイトマン

8月27日(土)から全国公開



『神様の思し召し』 エリート外科医とムショ帰り神父の人生が交錯して

(C)Wildside 2015
(C)Wildside 2015

傲慢なエリート外科医とムショ帰りのカリスマ神父。真逆の立場で人を救ってきた二人の人生が、外科医の跡取り息子が「神父になりたい」と言い出したことにより交錯し…というイタリア映画だ。配給のギャガとしては、大ヒットした『最強のふたり』の二匹目のドジョウを狙っているらしい。確かに、対照的な二人の男の友情もので、東京国際映画祭で受賞したという共通点はあるけれども、本作の場合はコメディー。笑いはあくまでもスパイスに過ぎなかった『最強のふたり』とは、印象が明らかに異なる。

上映時間は88分。ヒチコックのサスペンスのように手際よく、無駄な説明を排して軽快に進んでいく物語展開がうまい。でも脱線や遊び心はちゃんとあり、それが緩急となって性急さを感じさせないのだ。しかも、笑いが軸の作品ではあるものの、科学と宗教の対比から人生の真理へと迫るテーマ性は深く、ここでも説明し過ぎない配慮が物語に奥行きをもたらしている。

つまり『最強のふたり』の売り文句が「笑いと涙」だったとすれば、こちらは「笑いと心に染み入る情感」と言うことになるだろう。その上、セリフではなく視覚に訴え掛ける笑いの演出も『最強のふたり』と比べればはるかに映画的。だから、むしろ『最強のふたり』を評価していない=楽しめなかった人にこそ見てほしい映画なのだ。★★★★☆(外山真也)

監督:エドアルド・ファルコーネ

出演:マルコ・ジャリーニ、アレッサンドロ・ガスマン

8月27日(土)から全国順次公開



『イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~』 特異な母子関係に引き込まれる

(C)Mantaray Film AB.All rights reserved.Photo:The Harry Ransom Center,Austin
(C)Mantaray Film AB.All rights reserved.Photo:The Harry Ransom Center,Austin

ハリウッド黄金期を代表するスウェーデン出身の女優バーグマン。昨年生誕100年を迎えた彼女の生涯とその素顔に迫ったドキュメンタリー映画だ。

まずは、幼い頃からのプライベートな写真ばかりか映像までも豊富に残っていることに驚かされる。理由は、父親が写真家で、一人娘の彼女にカメラを向け続けたから。つまりバーグマンは生まれながらに“女優”だったわけだ。そして、大人になった彼女も当然のようにカメラを持ち歩いた。彼女が不倫関係になった相手が、戦場カメラマンのロバート・キャパや映画監督のロベルト・ロッセリーニだったことも、13歳で亡くした父親の存在と無縁ではないだろう。

個人的にはバーグマンといえば、『カサブランカ』や『ガス燈』の女優というよりロッセリーニに『ストロンボリ/神の土地』『イタリア旅行』を撮らせた人ということになるのだが、この名高いスキャンダル以外には彼女のプライベートに興味はなく、4人も子供がいたことも知らなかった。それもあり、何よりも特異な母子関係に引き込まれた。

子供たちにとって彼女は、母親であって母親ではない。最も近い肉親のはずなのに、めったに会えない雲の上の存在でもあるなんて!

恐らくその思慕を理解できるのは当人たちだけだろう。故に、彼らがカメラの前でチャーミングな人だったと口にする映像からは、貴重な記録という資料的な価値を超越した芸術性すら感じられるのだ。★★★☆☆(外山真也)

監督:スティーグ・ビョークマン

音楽:マイケル・ナイマン

ナレーション:アリシア・ヴィキャンデル

8月27日(土)から全国順次公開