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新刊レビュー
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ライター紹介




『ニュータウンクロニクル』中澤日菜子著 廃れたくらいで滅びはしない


1970年代、だだっ広い野山に林立しまくった団地群。希望に溢れた家族連れが続々と入居し、小学校はマンモス校と化し、やがてバブル期が訪れて、その機運が去っていくと同時に人気(ひとけ)もなくなり、ここで育ったはずの子どもたちは大人になっても戻っては来ず、やがて高齢者だけが残され、目に見えて街は廃れてゆく。本書は、そんな街を生きるそれぞれの世代の「今」を、10年ごとに区切って描く連作短編集だ。

私も、そんな「ニュータウン」と呼ばれる地域の近くで育った。「ここで育ったけれど大人になっても戻らなかった組」である。実家はそれこそ70年代に建てられた郊外型高層マンションで、公園へ行けば第二次ベビーブーマーのちびっ子たちがあふれかえっていたし、「こども会」主催による夏祭りやクリスマス会に大騒ぎした。

今は、あの頃の面々の、誰がどこで何をしているのか、私はまるで知らない。

まず登場するのは70年代、生まれたての街を住みやすくせんと画策する初期住民の皆さんである。若い彼らは血気盛んに希望を語り、役場の若手担当者は住民の若妻に恋をする。80年代になると、まさに第二次ベビーブーマーたちがはちきれんばかりの小学校で、とある転校生が子どもたちに小さな波紋を呼ぶ。90年代には右を見ても左を見ても儲け話ばかりで、ニュータウンでプールバーを営む夫婦に亀裂が走る。残された息子は自室に引きこもり、街の活気も失われてゆき、やがて街の「再利用」を画策する新世代が投入される。かつての子どもたちはそれぞれの悩みを抱えながら四十路に突入し、老いてもなおこの街にとどまりたいと願う母親の真意に、中年娘は気付かされる。

他人事では、まるでない。あの登場人物たちはかつての私だし、この中年娘は何年か後の私だ。実家に帰ると毎度毎度、高齢のご近所さんとしか顔を合わさないマンションの中で、すっかり「よそ者」になってしまった自分の身の置きどころに困る。回覧板は互いの安全確認術として、ドアノブにはかけず、必ずドアホンを押して、互いの顔を見て手渡すように取り決められたのだそうだ。父も母も老いた。今は二人とも元気だけれど、いずれその日はやってくる。「その日」。つまり、何らかの終焉が。

けれど本書では最後の最後、廃れた街に息吹を与えるのは、むしろ年老いた母親だったりする。すっかりおじいさんになった、かつての若手担当者は、ここから先の「ニュータウン」のあり方を、意気揚々と語る。

そう。ここから先もまた、ここは「新しい街」でありつづけるのだ。

街は、人は、そう簡単には終わらない。ちょっと待てば、すぐ、新しい日が訪れる。つながる。引き継ぐ。更新する。生活というもののあたたかさとしたたかさが、じんわりと沁みた良作であった。

(光文社 1600円+税)=小川志津子



『あたらしい無職』丹野未雪著 仕事と自分の距離感というやつ


本書は非正規雇用・アルバイト・正社員・そして無職と、立場を転々としてきた著者の、39歳から41歳までの日々をつづったエッセイである。――他人事ではまるでない。私は何らかの「会社」の「正規雇用労働者」になったことがない。なったことがないまま、自分にできることを、できる範囲内でやりくりしながら生きている。

不思議なものである。小さい頃は、黙っていれば「大人」になれるものだと思っていた。職業というものは、進級やクラス替えや卒業のように、いずれ時が来たら等しく与えられるものだと思っていた。人の流れに逆らわずにいれば。

「流れ」というものは、自分から乗らないと乗れないものなのだということに気づいたのはいつごろだったか。「就職超氷河期」にドハマりして職にあぶれ、誰も与えてくれないから「ライター」という肩書を自分から名乗り、仕事が来ないかぎり自分は「無職」なのだという心もとなさを見ないようにしながら、筆者と同世代、同時代を生きている。

というか、彼女は一歩も二歩も先を行っている。自分は無職になったと告げると、いろんな場所や機会へ誘ってくれる仲間がわんさかいる。自分からハローワークに出向き、採用試験に挑み、そのスキルから編集職を得て、とある会社に正社員として雇用される。そして身をもって、「会社で働く」ことの理不尽をいっぱい味わう。仕事ができてしまう人間ばかりが割を食うこと。そうでない人間はわりとへっちゃらであること。そして、かつて上司から受けたパワハラめいた仕打ちを思い返す。自分は被害者だと思っていたけれど、今自分が抱いている苛立ちは、あの頃の上司と同じものだったのではないかと。

無職に舞い戻った筆者の光熱費が上昇し、食費が減少する。自炊が増えたからである。花見の誘いにはすべからく顔を出す。どんなに肩肘張ったところで、自力だけでは生きていけないことを、彼女は知っているからだ。

やがて単発で仕事が舞い込むようになるけれど、その仕事の先は、何の保証もない。郵便局の年末バイトに挑戦したりもする。「働く」と「喜び」が直結する仕事と、しない仕事。前者は期待が高い分、裏切られるとダメージが大きい。後者は後者で勤務している最中のダメージが大きい。身に覚えがある。ありまくりである。

仕事と、自分。その距離感の取り方に、法則もマニュアルもないのだろう。それぞれが、それぞれの方法を見つけるしかない。彼女は、人に支えられて明日を迎える。その余韻をふんわりと味わいながら、本を閉じた。

(タバブックス 1400円+税)=小川志津子



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