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新刊レビュー
『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子、村上春樹著 世界的作家の無防備ぶり


あらかじめヒットが約束されている本は紹介したくないが、例外にした。村上春樹に創作の裏表を聞いたこのインタビュー本は、それほど圧倒的に面白かった。

聞き手の川上未映子は何度も驚く。「それはマジですか?」「え、そうなんですか?」「ほ、本当かなあ」。気鋭の芥川賞作家は世界的作家の無防備ぶりに驚いている。

質問に答える村上が最も多く口にした言葉は、おそらく「わからない」「考えたこともない」「覚えていない」の3つ。自分が書いた物語の意味やテーマはわからない。川上を含む愛読者が試みる深読みについては考えたこともない。そして過去の作品の詳細や自分の発言の多くを覚えていない。

作品のタイトルも登場人物の名前も一流の比喩もすべて、ふと頭に浮かぶ。ストーリーはあらかじめ決めず、流れに任せる。大事なのはただ、「その時を待つ」こと。そんなふうに深層意識の力を借りて小説を書く自らを、村上は原始時代に洞窟で仲間に物語を語って聞かせた語り部になぞらえている。

徹底した無作為と対照をなすのが、1日原稿用紙10枚の執筆、長期戦に備えた節制と運動、10稿以上に及ぶ推敲といった計画性だ。無意識と意識、無作為と作為、自由と規律の懸隔にこそ、この作家の創作の秘密があるようだ。

新作長編『騎士団長殺し』をめぐるやりとりが多くを占めるが、未読でも大丈夫。小説の創作を超えた洞察があちこちに散りばめられているからだ。未読の私は3回続けて読んだ。

(新潮社 1500円+税)=片岡義博



『遠縁の女』青山文平著 清冽に描く武家世界


大団円も修羅場もなく、控えめなドラマと謎をはらんで物語は進む。こちらが高揚したさなかに、すっと幕を閉じる。残る余韻。武家を舞台に、そんな時代小説の中編三話が収められている。表紙の装画が伝えるように、各編それぞれ強くて賢い女性が独特の存在感をもって迫る。

最近は会話だけからなるシナリオのような時代小説が目立つ。スイスイ読めるが、歯ごたえに欠ける。時代小説の醍醐味の一つは、現代とは隔たった当時の社会制度や生活様式に関する蘊蓄を味わうことにあると思う。

その点、著者は手を抜かない。『機織る武家』では織機の扱いの実際、『沼尻新田』では小藩による新田開発の内情、『遠縁の女』では泰平の世の武者修行の実態を丁寧に書き込んでいる。それぞれ長編を書けるだけの素材を気前よく投じ、清冽な文体と空回りしない論理に乗せた。例えばこんなくだり。

「武家が武家以外の身分と異なる処は、ただ一点しかない。死を呑んでいるということである。死を当然と見なし、むしろ、死に焦がれる。武家以外の者に、生きる力が備わっているように、武家には死ぬ力が備わっている。そして、死ぬ力を解き放つ場を、常に求めている。その手がかりこそが、強さなのである」

表題作が面白い。父の急死で5年の武者修行から国元に戻った主人公が直面した思いもよらない現実。その背後には幼なじみだった美しい女の存在があった――。謎めいた展開と意表を突く結末。最後までゆるみがない。

(文芸春秋 1500円+税)=片岡義博



『虚構新聞 全国版』虚構新聞社UK著 脱帽もののフェイクニュース


今ふうに表現すれば、フェイクニュース集ということになる。2004年開設のサイト「虚構新聞」に掲載したジョーク記事から253本を厳選して収録している。これは単なるおふざけ本ではすまされない、ただならぬ達成だと評するのは間違いだろうか。

まず見出しから文体、レイアウトに至るまで新聞記事のフォーマットを忠実に再現している。その完成度に驚く。ページの紙質も新聞紙ふうだ。この徹底したリアリティーこそがパロディーの命である。そして、ありそうであり得ない記事が示す風刺のセンスに脱帽する。

「メキシコ 米国との国境に壁を建設へ」

トランプ大統領当選で国外脱出を図る米国民の流入をメキシコ政府が防ぐという記事だ。

「尖閣デモで乱闘騒ぎ 中国製日の丸焼却めぐり」

反中デモの参加者が、手にした日本国旗が中国製であることに気づいて火を付けたというニュース。

見出しだけで笑えるのは、

「全自動除夜の鐘 設定ミスで鳴りやまず」

「組み体操 中国雑技団への委託進む」

広告もある。「聞き流すだけで漢字が書ける パワフルラーニング」

「体罰被害申告サイト公開」などの記事はその後、現実化したため「誤報」となった。「おわびと訂正」とともに誤報に至る検証記事を大まじめで掲載している。「和式便器の生産終了」「人工知能 内定勝ち取る」も今後、誤報になるかもしれない。

冗談のようなニュースが飛び交っている昨今。虚構新聞よ、そんな現実に負けず、間違いのないウソを報じてくれ。

(株式会社ジーウォーク 556円+税)=片岡義博



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