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新刊レビュー
『新しい分かり方』佐藤雅彦著 こういう理解の仕方があったのか


本を開くと、「水と卵が入ったビーカー」と「食卓塩のビン」がワンセットで並んだ写真が左右のページに1枚ずつ。右側の写真ではビンに塩が詰まっていたのに、左側では減っている。右側でビーカーの底に沈んでいた卵が左側では浮いている。私たちはそれだけで卵が浮いた理由が分かってしまう。

鉛筆や五円玉といった日常品を使って、「へー、こういう分かり方もあるのか」と思わせる写真やイラスト、図、文章が60例。パズル解きやクイズの要素を取り込みながら、ユニークな発想と仕掛けで読者を新たな認識の世界に導く。

と書いても、なかなか伝わらないかもしれない。著者はNHK・Eテレの幼児向け番組「ピタゴラスイッチ」の監修者と言えば、あ、なるほどと腑に落ちる人もいるのではないか。

「この頁にあなたの右手を左の写真のように置いてみてください」と読者の参加を誘う作品もある。あるいは、私たちは横書きの文章の右端と次の行の左端とを無意識につなげて読んでいるが、「文字の紐」という作品では、行の途中でこんなふ         うに空間が空いても、読者は離れた「ふ」と「う」の間を見えないひもがつなげているかのように文章を読めることを示す。私たちの読み書き能力は多少規則から外れた文章にも対応できるのだ。

各作品には、いわば種明かしのミニ解説が付き、後半4分の1は解説的エッセーを収録している。読後は遊んでもらったような、遊ばれたような、でも少し賢くなった気がした。

(中央公論新社 1900円+税)=片岡義博



『歌の心を究むべし』濱田芳通著 音楽を音楽たらしめるもの


古楽器奏者による音楽エッセー集。「面白い」と軽々しく薦めることは控えよう。

初期の楽譜はイトミミズがはったような形の記号が並んでいるだけで、正確な音程を示せなかった。でも歌は覚えて歌うものだったので、それで十分だった。やがて音の高さや長さを正確に表す音符(オタマジャクシ)が発明され、楽譜から線的な要素が失われて点が並ぶことになった。それは演奏者に音の出だしや音程が変わるタイミングを過剰に意識させることになり、点と点の間に表現される歌心をなくす最大の原因となった――。

さて、こうした話をもしあなたが「面白い」と思うのなら、本書はめったに出会えない掘り出し物となるだろう。

著者が演奏するのはバロック音楽以前の作品。専門用語や楽譜が出てくるし、なじみのない作曲家や演奏家も登場する。ジャズや民族音楽にも言及される。だが、そこで一貫して展開されているのは、音楽を音楽たらしめるもの、すなわち歌心とは何かについての原理的考察だ。

「歌心のためのリズムはオフビートだ」「リズムは一つひとつの音をつなぐエネルギーの動き」「音の位置エネルギーは旋律表現の花形」等々。

こう書くと、抽象的で小難しい専門書のようだが、ノリはいたって軽妙でポップ(八代亜紀やシャロン・ストーンも登場する!)。言葉にしづらい音の世界を、比喩やオノマトペを駆使して巧みに表現している。

狭くて深い穴をくぐり抜け、見知らぬ音楽の沃野に連れ出される。

(アルテスパブリッシング 2200円+税)=片岡義博



『怪しい噂ぜんぶ体張って調べた』鉄人社編集部編 突撃取材で暴く世の実相


タイトルも表紙もB級感があふれている。内容もしっかりB級だ。しかし「面白さ」という一点において、私は本書にA級の評価を与えたいと思う。

中身はタイトル通り。例えば有名な手相占い師(おばあちゃん)のインチキぶりを暴くリポートでは、素顔で占ってもらった女性が後日、特殊メイクで別人になって再び占ってもらう。占いの結果はまったく同じはずだが……。

占い師が全然違う占い結果を語ったところでネタばらし。同一人物なのになぜ結果が違うのか迫ると、占い師は「時間が経てば手相は変わる」などと苦しい言い訳をした挙句、「占いに左右される人間はちっぽけだ」と開き直る。遠山の金さん的な展開が見ものだ。

「昏睡ぼったくりバーの恐るべき手口」「反捕鯨オーストラリア人にクジラ肉を『旨い』と言わせる」「ガソリンスタンドの『オイル汚れてますね』がどうにも嘘くさい」など全部で23の写真付きリポート。ある時は突撃ルポ、ある時は潜入取材、ある時はどっきりカメラで、ちまたにはびこるインチキや疑惑を検証している。

といっても、半分は「日本一のバカ高校ではどんな会話がなされているか」といった悪ノリ企画。「全米が泣いた」という洋画の宣伝文句の真偽を確かめるべく、アメリカまで出かけている。B級のB級たるゆえんだ。

何度か声を出して笑った。世の中の実相をあぶり出す貴重な試みだと擁護したい。月刊「裏モノJAPAN」の人気連載を収録。文庫だから安い。

(鉄人文庫 650円+税)=片岡義博



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