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新刊レビュー
『ブランケット・ブルームの星型乗車券』 吉田篤弘著 私たちの知らない遠い国から届いたコラム


本書は新聞に連載されたコラムを1冊にまとめたものである。

とはいえ今現在、日本で発行されている新聞の、ではない。「ブランケット・シティ」という街で発行されている「デイリー・ブランケット」という名の新聞で、コラム執筆者は専属ライター「ブランケット・ブルーム」君、27歳。

ブルーム君は、「毛布をかぶった寒がりの」小さな街を独り静かに歩きながら、コツコツとコラムのネタを拾っている。

路上に浮かんだ虹、世界一仕事の少ない消防夫たちのコーラス隊、睡眠を積極的に放棄した若者、走っていない列車の乗車券を売る発券所、ロビーしか存在しないホテル、キッチンテーブルを冒険する作家……。

ブルーム君が目を向け、軽妙な筆致で描くのは、こちら側、つまり私たちの世界から見れば奇妙で謎めいた人物、事象ばかりである。だからといってこれらを作家の想像力が生み出したパラレルワールドで起こっている由無し事と片付けてしまってはあまりにもったいない、と私は思う。いや、正しくないと言ってもいいかもしれない。

コラムのいくつかはこちらで起こっている様々なことの暗喩や皮肉と理解できるし、それによってこちらの方こそ奇妙だったのだと発見もする。しかしもっと根本的で重要なのは「ブランケット・シティ」という知らない街が確かに在るということ。「デイリー・ブランケット」も確かに発行されていて、ブルーム君は小さなコラムを連載しているのである。私たちが今まで知らなかっただけで。

そんなロマンティックな気分にさせられる本です、と本稿を締めくくるともっともらしい形で納まりそうだが、それではやはりこの本を陳腐な場所に閉じ込めることになってしまう。

想像力によって生み出された世界は、私たちが現実と称する世界と同等の美しさや重さ、そして意味や価値を持ち得る。主張することなんて何もないという風に淡々と綴られるブルーム君のコラムが、結果として主張しているのはそういうことなのではないか。

(幻冬舎 1600円+税)=日野淳



『成功者K』羽田圭介著 芥川賞作家はなにに成功したのか?


一昨年に芥川賞を受賞して以来、数多くのテレビ番組に出演してきた著者。小説家がテレビに出るのは珍しくもなんともないとしても、その数の多さは異様だったし、番組のみならず、役割や発言をも選ばないという姿勢に驚いた人は少なくないだろう。明らかに著者は従来の一般的な小説家像から大きく逸脱する存在となった。

そして本書はほとんど著者と同一人物かという小説家の主人公が、芥川賞受賞を契機に「成功者K」を自称し、請われるままテレビに出て、出演料を荒稼ぎし、美しい女性たちと性交しまくる日々をドキュメント調に描いた小説である。

これが著者のリアルライフなのかどうかはもちろん分からない。そのように思われても構わないというか、積極的にそう思わせようと確信犯的に書かれていることは事実だ。多くの読者はそのまま信じたりしないだろうし、仮に信じられたとしても構わないという態度が透けて見えるところが、あざとい、と言ってしまえばそうなのだが、そのあざとさももちろん計算のうち。著者がそもそもテレビに出まくった理由は、需要があるうちにやれることはやっておこうということなわけで、同じようにネタにできるうちに書いておこうという意図だと考えられる。合理的だし、誰かに非難されるような行為でもない。

興味深かったのは、作中の「成功者K」なる者が本当に「成功者」なのかどうかという問題があえて避けられるようにして話が進んでいくことだ。有名でお金があって女性にモテる男が成功者なのだと著者が本気で考えているはずがない。かといって文学者を気取ってみたところで、売れない小説家の生活は成功という言葉の輝かしさとは縁遠い、地味でつつましいものだ。

すべての成功は幻でしかないというところに、この小説を小説たらしめている核のようなものがあるのだと思うが、それを書くために自らをとことんネタにするという手段の選ばなさにはやっぱり脱帽する。

(河出書房新社 1400円+税)=日野淳



『星に願いを、そして手を。』青羽悠著 16歳の新人作家が描く夢と希望の形


中学3年の夏休みがもうすぐ終わる。しかし宿題はまだ終わっていない……。

冒頭のシーンはこんな情景描写から始まる。

正直に言うとこう思った。またきたかっ!

なぜ中高生を主人公にした青春小説を書こうとすると、夏休みから始まるのか。そしてなぜ登場人物は宿題を終わらせていないのか。いや、本当はなぜ?なんて問うほどのことではなくて、物語が生まれやすい設定だからなのだとは分かる。しかし著者は16歳の高校2年生で、本作は小説賞に初めて投稿した小説なのである。史上最年少の小説すばる新人賞受賞作とも知っていたから、もっと新しいというか、こちらが初めて見るような鮮烈なシーンから始まるのではないかと勝手に期待していたのだ。

結論から言うと、その勝手な期待は最後まで期待のままだった。でも私はこの小説を読んでよかったと思うし、興味のある方にはおすすめしたい。それには二つの理由がある。

一つは小説が上手いということ。冒頭で中学生だった登場人物たち4人は今や20代になり公務員、自営業の跡取り、大学院などそれぞれの道を歩いている。かつて放課後にプラネタリムが併設された科学館へ集まっていた頃は、宇宙への夢を語り合っていた。宇宙が無限であるかのように、人生の可能性もどこまでも広がっていると感じていた。しかし時の経過とともに、4人の内面と関係は変化、夢との距離感もそれぞれで違ってしまった。自分は、自分たちは、どこかでなにかを間違ってしまったのか? そしてこれから一体どうなっていくのか? と説明してしまうと、よくある話のように捉えられかねないけれど、まあよくできた話なのだ。

登場人物のキャラクターにしっかりと陰影を付け、繊細かつ軽妙な会話でやり取りさせ、それ相応の謎もちゃんと用意している。著者は読ませることにかなり自覚的だ。小説作法への深い理解が感じられるだけでなく、そこにはオリジナルのセンスのようなものも光っている。書き手としてかなりのポテンシャルをもった新人が登場したということは間違いない。

そしてもう一つは高校2年生である著者が小説を通して描く、将来とか夢というものが、20年以上前に高校生だった自分が抱いていたそれらへのイメージとほとんど変わりがなかったということが好ましかった。これもまたこちらの勝手な思い込みかもしれないが、近頃の高校生はもっと冷やかで現実的で耳年増みたいになっていて、予め諦めているのかと考えていた。本作の登場人物たちは違う。

違うからこそ、悩み苦しみ、他者と分かり合いたいと切に願っている。小説を書く16歳というのはかなりマイナーな若者なのかもしれないけれど、こういう感覚で生きている若者がまだ多いのだとしたら、そこには小説というものが果たすべき役割が残されていると嬉しく思ったのだ。

(集英社 1600+税)=日野淳



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