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新刊レビュー
『アナログ』ビートたけし著 わざわざ自分で書かなくてはならなかった理由


とあるインタビューによると「初めて自分で書いた本」なのだそうだ。

つまりわざわざ自分で書いたからには、どうしてもそうしなくてはならない理由があったということ。それが一体なんなのか気になって、本書を手に取った。

「アナログ」と題された物語の主人公は、当然ながら「アナログ」指向な青年だ。建築デザイン事務所に務めているけれど、パソコンよりも手作業でデザインすることを好む。携帯電話は持っているが、SNSの類いにはまったく興味がなく、必要最低限の連絡をとることにしか使わない。独りでいることが嫌いではない、学生時代の友達を大事にしている、唯一の肉親である母親を特別養護施設に預けていることに後ろめたさを感じている、そんなところもどことなく「アナログ」なキャラクター設定だ。

そしてなによりも三十代で独身のこの青年が遭遇する恋が「アナログ」である。相手は喫茶店で偶然隣り合った女性で、二人はお互いの連絡先を聞かず、次の木曜日もこの喫茶店で会えたら会いましょうという約束とも言えない約束を交わす。会えない時間に青年は思いを膨らませるものの、やっぱりそこにはいくつものすれ違いが用意されていて、会えるのか会えないのかというところでやきもきとするのだから、この時代に相当なものである。

二人の恋の行方についてここでは多くを語るべきではないが、結局のところ恋、誰かを好きになるということはすべて「アナログ」でしか有り得ないのだという物語なのだと私は受け取った。そっちの方がいいとか悪いとかではなくて。

分かりやすい、楽、便利、有益……そんなことを全て度外視して考えなくてはいけないところに、人の営みの根本がある。

言ってしまえばすごく当たり前のことで、その当たり前をどうしても自分で書きたいががためにこの小説が生まれたということか。

いろんな意味で純粋だと感嘆。

(新潮社 1200円+税)=日野淳



『裏切りのホワイトカード 池袋ウエストゲートパーク XIII』石田衣良著 20年経っても、正義は勝つ


シリーズとして13作目で、誕生から20周年なのだという。

ここで取り上げるのは一体、何回目になるだろう。新刊が出る度に、と言っていいはずだ。もちろん誰かから頼まれているわけではないし、13冊も出ているくらいなのだから、今更説明したり解説したりすべきことはほとんど残されていない。それなのに毎度、声高に面白いよと言ってしまうのだから、余程のファンなのだと思う。それと、これは本当に余計なお世話だと思いつつも、正統に評価されてないんじゃないかという気持ちもあったりして……。

このシリーズを読んで毎度のように考える。どこにこんなに惹かれるのだろうかと。20周年ということで今回も改めて考えてみたのだが、浪花節的な正義感なのだと思うに至る。

池袋西口商店街の果物屋の跡取りにして店番であるマコトは、いつも厄介事に巻き込まれ、それを解決するという役を与えられる。今回も児童虐待に心霊商法、覚せい剤に偽造クレジットカードなどなど、ウエストゲートパーク界隈ではヘビーなトラブルが次々と勃発。特別に強くも賢くもないマコトがそれらに何をもってして立ち向かうかというと、親友タカシ率いるGボーイズの助けもあるけれど、やっぱり彼の愚直なまでの正義感なのである。

小説における、正義感と現代の掛け合わせというのはそれほど多くないとはいえ、ものすごく珍しいというほどでもないはず。それでもこのシリーズが私にとって特別なのは、この今という時代においても正義感はまだまだ通用するということをはっきりと確認させてくれるところにあるように思う。

強者よりも弱者、勝者よりも敗者の側に立ち続けるマコトの正義感は、どんなことがあっても貫かれる。フィクションであろうが、こういう話が20年も成立し続けているということは、私およびこの国にとっての希望なのだ。すごく大袈裟に言うと、だけれども。

(文藝春秋 1500円+税)=日野淳



『似合わない服』山口ミルコ著 「ツブ」の声を聴け!


読後、身体中から悲鳴が聞こえてくるような気がした。

それはたぶんこれまでもずっと発せられていたものなのだけれど、私が耳を傾けるのを忘れていた、いやあえて避けてきたのだ。本書を読んでしまったからにはもう元には戻れない。悲鳴を聞くのは苦しい。けれども苦しさの先にこそ私という人間にとっての新しい秩序があると信じさせてくれる本である。

著者は長く勤めていた出版社を退社したのとほぼ同時に乳がんを発症。闘病に関してはデビュー作『毛のない生活』(2012年)に詳しい。がんと正面から対峙し、生き延びることができた著者であるが、本当の闘いはそこから始まった、というのがこの本の出発点である。

病院に通わなくなってからも、なぜがんになったのか? という“犯人探し”を続けてきた著者。何が、誰が悪かったのだろうか。記憶のひとつひとつを辿るようにして検証していく。その過程で気が付いたのは、がんというのは一般的に身体のある部位にできるしこりのように考えられているけれど、本当はそうではないのでは、ということ。しこりはひとつの結果に過ぎず、その結果を生み出した「無数のツブ」の声にこそ耳を傾けるべきだったのだ。「ツブ」とはもっともシンプルに言えば細胞ということになり、同時に私たち個人も国や社会を構成する「ツブ」。「ツブ」にとって何が自然なのか、何が好ましいのか。著者の思考は小さな「ツブ」を介して、もっともっと大きなものと繋がっていく。

つまり本書は闘病記の続編でありながら、生命の神秘とか文明社会の本質のようなものにタッチしている哲学書なのだ。

「ツブ」の声を聴け。本書の主張を乱暴に一言でまとめるとそうなる。

私の場合その声が悲鳴だったことにおののいたのであるが、悲鳴はもともとは美しい音楽だったのだろうとも感じた。

(ミシマ社 1500円+税)=日野淳



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