新刊レビュー
『ラジオブロス』川野将一著 ヘビーリスナーの渾身エッセー

ラジオ好きにはたまらない一冊だ。「テレビの放送作家でラジオのヘビーリスナー」という長い肩書きを持つ著者が、古今のラジオ番組から52タイトルを厳選し、その魅力を精魂込めてつづった。

メルマガの連載エッセーを書籍化するに際し、改行を多用するメール書式をそのまま残して全848ページのボリュームに。中身がまた輪をかけて濃い。パーソナリティーのコメントや会話を採録し(録音していたのか?)、ノリのいい文章にヘビーリスナーならではのマニアックな情報を注ぎこみ、番組のエッセンスをあざやかに描き出した。

今や伝説化した「パック・イン・ミュージック」「中島みゆきのオールナイトニッポン」「スネークマンショー」。個人的には「欽ちゃんのドンといってみよう!」「浅田真央のにっぽんスマイル」のエントリーに拍手。番組タイトルにボブ・ディラン、能年玲奈、岡田有希子の名前を見つけて胸が沸きたつ。

大竹しのぶ、松任谷由実、神田沙也加、宇多田ヒカル、星野源、矢口真里……。あなたはテレビや活字メディアではわからなかったパーソナリティーのもう一つの顔を知ることになるだろう。

全体が1970年代以降のサブカルチャー色に彩られるなか、唯一異色なのが「玉音放送」だ。著者にとってはれっきとしたラジオ番組であり、制作からオンエアまで昭和天皇による敗戦告知の過程を追っている。

「今、日本一の珠玉のラジオエッセー」。帯にある水道橋博士の賛辞に一票!

(イースト・プレス 2900円+税)=片岡義博

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『世界史MAPS』DK社編 地図で表す歴史のダイナミクス

本屋さんで「わー、これいい!」とママさんたちがはしゃいでいたので、つられて手に取ったら「おお、これはいい!」と自分も心の中で叫んでいた。世界を動かした「大事件」を1テーマごとに見開き2ページの地図上にカラフルなイラストで表し、まさに一目瞭然。こんな世界史の副読本がほしかった。

ご存知だろうか。十字軍はどういうルートで遠征し、どこでイスラム教徒と戦ったのか。黒人奴隷はアフリカ大陸のどこで捕えられ、どこに運ばれたのか。米国の南北戦争はだれがどこで戦ったのか。毛沢東率いる中国共産党の長征はどういう道筋をたどったのか。

「人類の発祥」から「大航海時代」「米国の西部開拓史」「インターネットの発達」まで72のトピックを取り上げる。時の経過に伴う展開を大判(31センチ×26センチ)の地図上に描き出し、空間的に歴史を把握できるように工夫している。ご覧の表紙は、繁栄を誇った「ローマ帝国」が支配するヨーロッパの領土と主要都市を表したイラスト(の半分)だ。

「車輪はもともと土器をつくるためのろくろとして発明された」とか「1600年代のヨーロッパでは、カカオの値段は最高級ワインより高かった」といったトリビア情報も楽しい。

原書は図鑑類に定評があるイギリスのドーリング・キンダースリー社の発行。それだけに欧米のトピックが多いのが残念だが、各国でベストセラーだという。どこか今度は『日本史MAPS』を作ってくれないかな。

(主婦と生活社 2800円+税)=片岡義博

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『文章読本X』小谷野敦著 大作家たちをこき下ろす芸

タイトルにそそられて買ったが、系統だった文章の指南書というよりも、近現代の作家たちの文章をめぐる評論家のエッセー集と言ったほうがいい。

文章読本を読む最大の快楽は、賛辞とともに紹介される名文、美文の数々を味わうところにあると思っていたが、本書の真骨頂はその真反対、酷評と悪口と憎まれ口にある。著者一流のあけすけな物言いで文豪や流行作家たちをこき下ろしている。

まず文章の手本として称揚されてきた志賀直哉の文体を「時に異常だと思うが、いいとは別に思わない」。山岡荘八については「歴史作家の中で、飛びぬけて文章がひどい」と具体例を挙げて批判し、有吉佐和子に至っては、その小説の一段落を添削までして見せている。

司馬遼太郎、宮尾登美子、中村うさぎらの文章を「うまい」と褒めはしても、具体的な理由を挙げていない。だから一見、主観と好みで書き連ねているだけのようにも見えるが、古今東西の作家や文学にまつわる蘊蓄に圧倒されて、思わず傾聴してしまう。たとえば谷崎潤一郎や三島由紀夫の『文章読本』が対象とした読者は雑誌に投稿する少女だった、という指摘にはへーっと驚いた。

著者の文章に対する姿勢はきわめて明快だ。世にはびこる「名文・美文信仰」を有害、危険と断じ、内容があいまいな名文よりも論理的で正確な悪文を書け、図で示したほうが分かりやすいなら図で示せ、とまで言っている。しばしば痛快、時に不快、ところどころ不可解である。

(中央公論新社 1500円+税)=片岡義博

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