新刊レビュー
『鶴見俊輔』村瀬学著 貴種と格闘した生涯

巨大な思想を生み出すには、それに見合う巨大な苦悩を抱え持たなければならないのかと切なくなった。昨年死去した思想家、鶴見俊輔の業績はさまざまに語られてきたが、その苦悩の深部にこれほど分け入った論考はあっただろうか。

政治家の名家に生まれた鶴見は、母親による厳しい折檻と「悪人」として生きた幼少期を死ぬまで語り続けた。家柄ゆえの息子の慢心を粉砕しようとした母の行為を著者は「貴種を折る戦い」と呼び、鶴見の生涯を貴種との格闘として描き出した。

鶴見は出自に逆行するがごとく「日常の思想」や大衆文化研究に向かう。米国のプラグマティズムに惹かれたのも「相互のやりとり」に立脚する思想が問答無用の貴種性と対極をなすからだ。

意表を突かれるのは、鶴見が母の折檻を語り出すのは45歳からという指摘だ。それは自分の「貴種を折る」体験を風化させないためだと著者はいう。どういうことか。他をおとしめ貴種を目指す指向性は、個人ばかりか国家も民族も内に宿している。ならば思想の課題は貴種を単に「折る」のではなく、内部に折り込んで生かすことだ。

ここから論は目くるめく展開を見せる。貴種たる天皇の戦争責任はなぜ問われなかったか。差別意識の極限たる米国の原爆投下はなぜ不問に付されたか。「日常の思想」と原子力開発は共存しうるか――。

鶴見思想の可能性を最も遠くに投げようとした評伝。鶴見が読めば、ぐいと目をむいた後、愉快げに大笑するような気がする。

(言視舎 2800円+税)=片岡義博

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『言葉が鍛えられる場所』平川克美著 背後に隠された何か

世の中には言葉ではなかなか表現できないことがあり、表現してもうまく相手に伝わらないことがある。それでもどうにか自分の思いを届けたいとき、人は言葉について考え、表現を工夫する。だから「言葉が鍛えられる場所」とは「言葉が無力にならざるを得ない場所」だと著者はいう。

このエッセー集には言葉が力をなさない時間や場面がいくつも登場する。

かつて通い詰めた民宿に20年ぶりに立ち寄ってみると、多くのことが様変わりし、あるものは失われていた。学生の頃、待ち合わせ場所に現れない彼女を5時間待ち続けた。介護をしていた母が逝き、父が逝った。

私的な経験だけではない。シベリア抑留者は帰還後、一様に口を閉ざした。大地震と原発事故が起きた時、天皇は退避せずに御所でひたすら祈祷した。

対置されるのは、社会にあふれる粗雑な言葉だ。異種を排斥するためのヘイトスピーチ、ツイッターの売り言葉と買い言葉、政治家によるその場限りの虚言。

それぞれに著者が心動かされた詩が添えられる。石原吉郎、鮎川信夫、吉本隆明、谷川俊太郎、吉野弘、小池昌代…。彼ら詩人の言葉の背後に何が隠し込まれているかを著者は探り当てようとする。「鍛えられた言葉」は何かを明示した情報伝達の道具であることを超えて、必ず何かを背後に隠し持っているからだ。

表立っては見えないもの、存在しないものを見いだすためには、ゆっくりと読まなければならない。何度も読まなければならない。

(大和書房 1500円+税)=片岡義博

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『採用学』服部泰宏著 人材選抜を科学的に捉える

あなたが会社員ならば、就職活動に際して何がしかの喜怒哀楽を味わったのではないか。就活をめぐる悲喜劇が毎度繰り広げられるのは、一つに採用基準があいまいで不透明だからだろう。主観や慣習や勘に頼ってきた企業の採用を科学的観点から捉え直す。それが著者の提唱する「採用学」だ。

例えば日米の実証研究では、自社を粉飾してなるべく多くの求職者を集め、その上澄みを採用するという人事戦略は失敗する。欠点を含む自社の実情を開示したほうが、結果的にその企業に適合する人材を得られるという。

意外なのは、採用基準として必ず重視される「コミュニケーション能力」は努力次第で比較的簡単に身につくという研究結果だ。とすれば、採用時にはさほど重視しなくていいことになる。

採用の定義とか歴史といった学問上の話はまだるっこしい。断然面白いのは新たな採用スタイルの事例だ。一芸採用や履歴書廃止などは序の口で、求職者の方が面接会場を設けて採用担当者が赴く「出前面接」。求職者が会社幹部に一定期間「弟子入り」し、「師匠」が人物評価を下す「師弟採用」。なかには「カラオケを通じた採用」とか「ゲーム『人狼』による人材評価」など、よく分からないものもある。

応募者が殺到するグーグルではコンピューターが最初の選抜をしているそうだ。将来、人工知能が面接する時代が来るのではないか。採用学は受験や婚活にも応用できるかも。やっぱり人間の選抜には悲喜劇が伴う。

(新潮選書 1300円+税)=片岡義博

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