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『なくなりそうな世界のことば』吉岡乾著 トナカイが角を磨くことをコリャーク語ではなんと言うか

2017年09月22日


<デゥバッ>とはインドネシアのフローレス島などで話されているラマホロット語の言葉で、<手で触ってみるなど触覚を利用して何かを探す>という意味。島では未だ電気が通ってないところが多く、夜になってから物を探すには触覚に頼るところが大きいのだという。<デゥバッ>とはどんな発音をするのだろう。彼らは暗がりの中で<デゥバッ>と言って何を探すのだろう。

続いて<ウィヌクジュガージュトゥグル>。ロシアのカムチャッカ半島北部で2000人を下回る話者によってのみ用いられているコリャーク語の言葉。意味は<7月末から8月初めに種雄トナカイが角を磨くときの暑さ>。寒さ厳しい地域もこの短い時期だけは気温がぐっと上がり、その酷暑をトナカイの生態と結びつけてこう表現するらしい。トナカイが大きな角をゴシゴシと木に擦りつける様を目に浮かべる。樹皮を削られるその木にも私の知らない名前が付いているのだ。

本書では世界で話されている約7000の言葉の中から、話者が少なく将来的には誰にも話されなくなる可能性があるもの50余りを選び、それぞれの言葉の特徴やそれが話されている土地の風土、風俗を端的に表している単語を一つずつ紹介している。

著者はまえがきで「考えたこともないような遠いどこかで、聞いたこともないような名前のことばが話されていることに、どうか思いを馳せてみてください」と語っている。

試しにその通りにしてみた時、胸の内に少しだけ甘い感傷が生じてきて戸惑う。私が話者数第九位の日本語を使う人間であるからだろうか。いかなる意味合いにおいても言葉に優劣などないと分かっているはずなのに。

しかし紹介されている単語の響きを楽しみ、それが表す物や風景を眼裏に映そうと試みるのはシンプルに愉快なばかりか、遠い地に住む人々と交信するかのような喜びをもたらしてくれた。そして話す人がどんなに少ない言葉であろうと、そこにはきっと新しい言葉が生まれ続けているのだろうと思う。

(創元社 1600円+税)=日野淳


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