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「野球コラム」大学0勝の薮田がMVP候補 広島連覇の原動力はドラマチック

2017年09月15日

中日戦に先発した広島・薮田=マツダ
中日戦に先発した広島・薮田=マツダ

作家の重松清の「赤ヘル1975」(講談社文庫)は、1975年(昭和50年)に地方の弱小球団だった広島のリーグ初優勝を題材にした小説である。

その書き出しは「赤は女子の色だと思っていた」で始まる。この年から広島は水色基調のチームカラーを赤色にした。ヘルメットもしかり。ルーツ新監督が「闘う色」に変えたのである。

▽被爆から30年

冒頭の言葉は主人公の多感な男子中学生のもの。カラフルが当たり前の今では、広島の赤を嫌うファンはいないだろうから、そこに40年ほど前の時代を感じる。

それはともかく、この小説は単なる野球小説ではなく、原爆投下から30年が経っても癒えない被爆と向き合い続ける「広島市民」の生活を描いている。その中心に「おらがカープ」があった。

広島県生まれの私はそれより10年前の大学生時代、広島市民球場からすぐの太田川沿いの知り合いのバラック小屋に寝泊まりし、ある銀行前の階段にうっすら残る「白い人影」など被爆の痕跡を探し求めたりした。

あの75年は野記記者として優勝に突き進む広島市内を取材しただけに「赤ヘル1975」はごく身近なものとして読めた。

▽独走優勝

25年ぶりの優勝を成し遂げた昨年はエース前田健太がメジャーへ行き、抜けた穴を黒田博樹氏や新井貴浩のベテランがカバーしたが、1979、80年以来の2連覇となる今季は野手陣の底上げによる戦力アップが勝因だろう。

4番の鈴木誠也が8月に今季出場が絶望となった足の骨折による戦列離脱を、何事もなかったようにカバーし戦ったのはその典型といえる。

9月15日現在、優勝まであと1勝で8度目の優勝は目の前だが、独走による優勝は大方の予想を覆すもので「強い広島」を強烈に印象づけるものだ。

その原動力となった投手がいる。しかも、なんともドラマチックな“成功物語”なのだ。

▽無名投手をドラフト2位指名

薮田和樹。入団3年目の右腕である。過去2年間は1勝、3勝だったが、今季は14勝と大ブレークしている。

チームの試合数が投手の規定投球回数で、薮田はそれに足りず新聞などの投手成績欄に登場して来ないが、防御率は3位クラスで、巨人の菅野智之と最多勝争いを演じていて、MVP候補の一人に浮上している。

身長188センチと体格に恵まれていて、150キロを超す速球と大きく落ちるツーシームが武器。テークバックが小さく、打者からはボールの出所が分かりづらい特長もある。

薮田は岡山理大付高から亜大に入学したが、大学では3年時に2試合登板しただけで0勝のままドラフト2位でプロ入りした珍しい投手である。

▽「とにかく無理せずに」

大学野球は秋のリーグ戦が始まっている。亜大は東都大学リーグで戦後初の6連覇を達成した強豪。選手層の厚さに定評があり、これまで多くのプロ選手を送り出している。亜大の生田勉監督と話す機会があった。

「薮田は入学時から高校の監督さんに『とにかく無理をさせないでくれ』と頼まれた投手だった。高校時代から投げると必ずどこかを痛めるからなんです。でも本人は投げたい。そんな繰り返しの中で右肘を手術した」という。

▽DeNA山崎と同期

3年生の全日本大学選手権の日体大戦に3番手で1イニング投げ“全国デビュー”したが、ほとんど知られていない。

当時の亜大は同期のエースの山崎康晃(現DeNA)に注目が集まっていて、広島がドラフト指名したときはびっくりしたが、名前だけは知っていた。生田監督の「すごい球を投げる投手」という言葉が記憶に残っていたからだ。

▽母親が直訴

この薮田を追い続けていたのが広島だった。広島市出身ということもあるが、そのきっかけが面白い。

女手ひとつで兄弟を育てていた母親がタクシー運転手をしていた時期に偶然、広島の松田元(はじめ)オーナーを乗せた。母親は「うちの息子はいい球を投げます。一度見てやってください」と直訴したのだ。

地元ではよく知られた話であるが、生田監督は「オーナーはすぐにスカウトをうちの大学に見に来させた。潜在力の高さにびっくりしたと思いますが、その報告を聞いたオーナーが継続調査を命じたのでしょう。(右肘の状態など)全てを知った上での指名だったようですね」と話していた。

▽広島の賭け

広島は高校、大学とほとんど実戦登板がない投手に賭けた。そして見事に果実を得たのである。スカウト冥利に尽きるとは、こんなことをいうのだろう。

広島は他球団とは一線を画す独自のスカウティングで有名だ。資金力が乏しい中での苦肉の策ともいえるが、無名の選手をこれまでも入団させ一人前に育ててきた実績がある。

薮田の亜大の1年先輩で、広島にドラフト2位入団の九里亜蓮投手も他球団の評価は高くなかったが、今季は9勝を挙げて先発陣の一角に食い込んでいる。

▽東浜も亜大出身

パのソフトバンクも2年ぶり優勝まで広島と同じあと1勝。59年ぶりの同日優勝も話題となっているが、前半戦に主力投手が故障で離脱するピンチを救ったのが5年目の東浜巨で3、2、1、9勝から今季は一挙に15勝している。

東浜は亜大で薮田の2年先輩に当たる。ただ、アマ時代の実績が薮田とはあまりにも違いすぎるのである。

▽薮田と東浜が投げ合うか

東浜は沖縄尚学高3年春の選抜優勝投手。鳴り物入りで亜大に進むと、1年春のリーグ戦でいきなり3試合連続完封勝ち。4年間で35勝を挙げ、最多の22完封、そして通算奪三振は最多の420個と記録を打ち立てた「東都の奪三振王」である。

教職免許を取得するなど、生真面目な性格もプロに慣れるまで時間がかかった理由かもしれない。

薮田と東浜。何もかもが対照的な二人の投げ合いが日本シリーズで実現するだろうか。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆






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