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『月の満ち欠け』佐藤正午著 「生まれ変わり」を描いた20年振りの書き下ろし小説

2017年05月05日


出た、出た! ついに出た!

『鳩の撃退法』以来2年半振りとなる佐藤正午さんの小説。しかも書き下ろしということでは20年振り。

新刊が出るたびに本欄で取り上げてきた通り、筆者は佐藤正午さんを今生きている作家の中で最も敬愛している。エッセイでも小説でもなんでも、佐藤正午さんの筆によるものであればぜんぶ好きなのだ。

暑苦しいくらい前のめりの私を、本作『月の満ち欠け』はしっかりと受けとめてくれた。結論から言うと、またしても傑作なのである。

八戸から新幹線に乗って東京駅にやってきた男。構内をさんざん迷い、ようやく待ち合わせ場所のカフェに辿り着いた彼を待っていたのは、女優である女とその娘。7歳の娘は大人びた口調で言う。

「あなたが混乱しているのは、それは、あたしだってわかってるんだよ。でも、今日東京まで出て来てくれたのは、あたしに会うためでしょう?」

初対面であるはずの小学生の女の子は、男のことをよく知っていた。かつてコーヒーをブラックで飲んでいたこと、どら焼きが嫌いではないこと。なぜなら彼女は、男が15年前に失くした一人娘の「生まれ変わり」なのだから……。

ということで、本作のテーマは「生まれ変わり」。そんなこと本当にあるのか? と男は、そしてもちろん読者である私も戸惑う。しかし小学生の女の子は、そんな戸惑いを他所に、確固たる意志を持って生まれ変わったのだと言う。ある人に再び会うために。叶わなかった恋のために。

<あなたにもう一度会えるなら何度でも生まれ変わる>的な台詞は数多のラブソングの中で繰り返し用いられているし、すぐには思い出せないが、そういう小説だっていくつもあるだろう。本作も「生まれ変わり」が実際に起こったら? という物語ではある。確かにそういう話なのだけれど、そう言い切ってしまうと随分と陳腐になってしまいそうで、もどかしい。本作の読み味よりかなりドラマティックになってしまうのも気になる。

身も蓋もないことを言ってしまうと、書き方なのである。佐藤正午さんが書くとすごくいいものになってしまう。

隙も無駄もない描写、すれ違いながら進んでいく会話、スマートでユーモラスな比喩、もどかしくも心地よく蛇行するストーリーライン、登場人物たちの得体の知れない雰囲気……。全部の要素が整然と同じ方を向いていて、佐藤正午的世界を形作っている。「生まれ変わり」というテーマに対する答えとか解釈なんてものは必要なくて、この小説世界の美しさと完成度がすべてなのだ。

(岩波書店・1600円+税)=日野淳


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