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『晴れ着のゆくえ』中川なをみ著 持つ人の心が宝物を輝かす

2017年03月24日


読み終えて、ふう、とため息が出た。戦後すぐ、おじいちゃんが孫娘のために、染料を栽培するところから丹念に作り上げた「むらさきの着物」が、その後60年間に渡って世界各国を回り回って、様々な人の手で大切にされたのち、年老いた「孫娘」の手の中へ帰るまでの物語。

例えば、お気に入りの着物が他人の手に渡ることを、拒むことも抗うこともできない少女がいる。苦難へ飛び込んでいく友を励ますために、大切な品を喜んで差し出す女性がいる。朝の光を受ける染め物の美しさに触れて、失意のどん底から這い上がろうとする男性がいる。古びたその布を使ってリメイクされた小物類に、旅先のフランスで偶然出会うのは日本人。「孫娘」のさらに孫娘だ。

特筆すべきは、染め物の美しさの描写である。語り手は章ごとに変わり、彼らが育ってきた国も環境もまるで違うのに、誰もが、その美しさに魅せられる。そして清らかな心を取り戻す。

そう、美しさが、持つ人を癒やす。その背中を押す。だから「むらさきの着物」が誰かの手の中に落ちるとき、あるいは次の誰かの手へ渡るとき、そこには体温がある。想像力がある。自分の前にこの品物を愛していた誰かは、きっとこんな気持ちだったに違いないと、彼らは根拠なく思う。互いの顔を見ることは決してないけれど、でも彼らは深く深くつながっている。

描かれるのは「むらさきの着物」の美しさだけではない。登場人物それぞれに、それぞれのドラマがはっきりと描かれる。ドラマというか、人生というか、その人自身というか。時代に応じて、その頃の世相が顔をのぞかせるのも興味深い。これが世界だなあと思う。同じ時代を生きているのに、人と人はお互いの顔を知らない。たぶん大半が互いを知らないまま、それぞれの人生は終わっていく。けれどある時、奇跡的に、それぞれの道は交差する。人と人は出会い、思いを共にする。そんな営みに、「むらさきの着物」は静かに寄り添っている。そこに感動がある。

「紫根染め」の晴れ着と、「茜染め」の肌襦袢。文中に何度も登場するそれらを、ぜひこの目で見たいと願いながら本を閉じる。すると表紙カバーに「紫根染め」が、カバーを取るとそこには「茜染め」があしらわれていてキュンとなる。その装丁も含めて、私の本棚の中でも、とりわけ大切な1冊になりそうだ。

(文化出版局 1600円+税)=小川志津子


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