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面白い映画に言葉は関係ない? ベルリン国際映画祭

2017年03月02日

2月9日、第67回ベルリン国際映画祭のオープニングセレモニーが開かれたメイン会場前(共同)
2月9日、第67回ベルリン国際映画祭のオープニングセレモニーが開かれたメイン会場前(共同)

世界三大映画祭の一つ、第67回ベルリン国際映画祭が2月9日から19日まで開催されました。メイン会場周辺は映画祭一色。世界各地から記者やバイヤーらが詰め掛け、チケット売り場には地元の人たちが話題作を見ようと長蛇の列を作るなど、映画が中心の幸せな時間が流れていました。

最高賞の金熊賞を受賞したのは、ハンガリー映画「オン・ボディー・アンド・ソウル」。人付き合いが苦手で周囲から変わった人と見られている女性が職場の年上の男性と恋をする物語です。親しくなるきっかけは眠っているときに見る「夢」。昨年日本で大ヒットしたアニメ映画も夢が大きな役割を果たしましたが、本作では入れ替わりはしません。ただ、毎日同じ夢を見るのです。

美しい森の中に現れる雌雄の鹿。仲むつまじそうに2頭の鹿は寄り添っています。現実では、女性は恋愛感情そのものがよく分からず、男性との距離のはかり方に戸惑います。夢と現実世界の対比、動物と人間の対比など、イマジネーションは広がります。潔癖性だったり、恋心を知ろうとCDを何十枚も試聴したりと、女性の描き方は極端ですが、生の実感が得られにくい現代人の象徴のように映ります。

2席の審査員大賞だった「フェリシテ」は、コンゴの首都キンシャサの小さな店で歌う女性がさまざまな困難に直面しながらも全てを受け入れ、マイペースに生きていく物語。作品を包むおおらかさがステキです。監督賞を受賞したのはフィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督。「アザー・サイド・オブ・ホープ」で、ヘルシンキにたどり着いたシリア難民の男性がたくましく生きる姿をユーモアたっぷりに描きました。脚本賞の「ファンタスティック・ウーマン」は、トランスジェンダーの女性が強風のように吹き付ける社会の偏見に立ち向かい、性的少数者(LGBT)への理解促進などを目指すテディ賞にも輝きました。

金熊賞受賞作を含め、上記4作はいずれもそれぞれの社会が抱える問題や、生きづらさを浮かび上がらせながら、悲観的にならず、前を向いて進もうとする力があります。個人的にはどの作品が金熊を取ってもおかしくないと思っていましたが、独創性においては受賞作が一歩リードしていたかもしれません。

「社会派」として知られるベルリン映画祭ですが、純粋に楽しめるような娯楽色の強い作品も多くありました。「ワイルド・マウス」は新聞社を首になったベテラン音楽記者が解雇を言い渡した上司に復讐しようとする中で起こるさまざまな人間模様を巧みに描いた一作。台湾のスター、チャン・チェンさんが孤高の殺し屋を切なくもコミカルに演じた、SABU監督の「Mr. Long ミスター・ロン」も地元紙などから高い評価を集めていました。

プレス上映の会場を大いに沸かせ、私もすっかり魅了されてしまったのはサリー・ポッター監督の英国映画「パーティー」です。主な登場人物は7人で、出てくる場面も家のリビングとキッチン、トイレ、庭だけ。パトリシア・クラークソンさんやブルーノ・ガンツさんら名優ぞろいという要因も大きいでしょうが、大人の恋愛事情に政治の話をうまく織り込んだモノクロの会話劇で、見る者をぐいぐい引き込みます。上映時間は1時間11分。テンポよく、最後まで一気に進み、見終わった後には何とも言えない満足感が押し寄せてきました。各国の作品が集まる映画祭なので、上映中はドイツ語と英語の字幕が出て、私は英語字幕を追って辛うじて作品を理解していたのですが、英語の映画の場合は英語字幕が出ません。さらに本作は会話劇だったので、正直に言いますと、半分も理解できていなかったのではないかと思うのですが…、それでも面白かった!

プレス上映の後のポッター監督の会見も素晴らしかったです。「モノクロにしたのは登場人物の感情の色が出やすいと思ったから」。はい、確かによく出ていました。「映画の主流が予算も人も使って、もっともっとと盛っていく傾向がある中、私はできる限りそぎ落として人間の感情の深いところを描きたかった」。はい、深いところを描かれたからこそ、言葉の障壁はあっても心に響きました。会見を通して、監督の一つ一つの言葉に信念をはっきりと感じることができました。

気付けば、ダラダラと書いていました。これではポッター監督に申し訳ない。この辺で筆を置き、ビールでも飲むことにします。そういえば、ベルリンにはカリーブルストという、輪切りにした太いソーセージの上にケチャップソースとカレー粉がかかったビールにぴったりの一品が、街のあちこちで売られていました。たこ焼き感覚で食べられ、店によってちょっとずつ味が違いました。ああ、ここにカリーブルストがあれば…。(不破浩一郎共同通信記者)


ふわ・こういちろう 2007年から文化部。音楽担当などをへて、映画担当に。好みじゃない映画を見ると、早くビールが飲みたくなり、好みの映画だともっと早く飲みたくなる。






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