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『山崎正和全戯曲』山崎正和著 豊かなせりふの響きと陰影

2017年01月06日


『柔らかい個人主義の誕生』『鴎外 闘う家長』など透徹した文明評論、文芸評論で知られる山崎正和。その肩書の筆頭に必ず据えられる「劇作家」としての仕事は意外と知られていない。代表作「世阿彌」をはじめ「実朝出帆」「野望と夏草」など全戯曲23編を収録した定本が3巻セットで刊行された。

そのいくつかを舞台で見たことがあるが、どこか観念的に過ぎてなじめなかった記憶がある。ところが今回戯曲を読んで、その印象が一変した。

せりふ一つひとつが端正に彫琢され、日本語の美しい響きと豊かな陰影をたたえている。それぞれが明瞭な意味を備え、その意味に駆動されてドラマが前に前にと進む。

たとえば「世阿彌」は「見られること」によってのみ存在する役者の実存を主題とし、背後には山崎の演劇論を宿している。テーマは重く深遠だが、それでいて「マクベス」の魔女を思わせる巫女や大道芸人、亡霊が登場する結構は演劇的たくらみに満ちている。「オイディプス昇天」では、かつて王だった盲人が人々の前で娘と交合しようとした瞬間、落雷に打たれるという劇的幕切れを用意する。

戯曲は第一義的には上演を前提に書かれたテキストだが、それのみで成立する文学の一形式であることをあらためて知った。その意味で山崎戯曲はギリシャ悲劇やシェークスピア作品に連なる文学作品である。熟練の役者がそろった舞台を楽しみに、しばらくは戯曲を通した“脳内演劇”を楽しむことにしよう。

(河出書房新社 18000円+税)=片岡義博


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