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『i(アイ)』西加奈子著 生きることに理由など要らない

2016年12月26日


悲しむことを許されない少女。物語は、そんな主人公を軸に進む。アメリカ人と日本人の夫婦のもとに、シリアから「養子」として引き取られたアイは、幼い頃から、自分の故郷がどれだけ過酷な状況にあったかをみっちりと教育され続けてきた。なぜか、自分だけが恵まれている。自分だけが、生き残っている。なぜ? どうして? そんな後ろめたさに、幼い主人公はがんじがらめになっている。

「恵まれている」ことは「恥ずかしい」こと。そんなふうに思いながら思春期を迎えた彼女は、世界中の人災や天災で亡くなった人間の数をノートにつけている。初めてできた親友に「アイは幸せだね」と言われ、「幸せ」の言葉が自分をどれだけ傷つけるかを理解しない親友に少し失望する。

そう。アイは、世界に失望しながら日々を重ねている。

興味深いのは、青春や色恋がひしめき合う大学に進む頃、彼女が周囲と相反して肥え太っていく点である。ストイックに自分を責め苛む主人公であるにも関わらず、彼女は70キロの大台を超える。ただでさえ、生きることが後ろめたいヒロインである。こんな自分は壊れてしまえばいいとばかりに、甘いものを食らい続ける。

そんな彼女を、東日本大震災が襲う。東京で大きな横揺れに見舞われた彼女は、やっと災厄の「当事者」になった。ニューヨークで暮らす両親に請われても渡米はせず、ロサンゼルスに住む親友とスカイプで対話する。そこで初めて、彼女は知るのだ。自分が生きることに、許しも贖罪も必要ない。ただ、自分として生きる。必要なのはそれだけなのだと。

自らを責めることをやめた彼女には恋愛が訪れる。善悪とか道義とかは関係なく、ただ彼女そのものを愛してくれる男が現れる。幸せに身を浸しかけていた彼女を、またしても冷たい闇が飲み込む。孤独の淵へ落ち、親友を信じられなくなり、再び失望を数え始める。

それらの出来事のひとつひとつに、世相がぴたりと寄り添っている。何年の何月にどこで何人が死んだ、という事実が物語と並列で語られる。自分の人生は世界中の悲劇と密接につながっており、切り離すことはできないのだと主人公は思いつめる。それは私たち読み手も同じことだと、ページをめくる手が震える。

けれど彼女は、最後に、ある喜びにたどりつく。それもまた、私たち読み手と不可分の喜びである。「愛されている(あるいは許されている)ゆえに我あり」ではなく、世界のすべてはただ、「我あり」から出発している。その気づきこそが、すべての人の、2度目の誕生日なのである。

(ポプラ社 1500円+税)=小川志津子


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