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『万年筆インク紙』片岡義男著 筆記具を巡る終わりなき考察

2016年12月12日


一口に万年筆と言っても、形状、書き味はそれぞれの万年筆によって違うということは今更説明するまでもない。しかし万年筆をとあるメーカーのとあるモデルに限定したとしても、インクの出方や線の太さには個体差が生じると著者は語る。

インクについても同様だ。ブラック、ブルーなどと名付けられたインクでもメーカーが違えば濃さや深みは異なる。同一ブランドの同じ名前の色だとしても、生産された国や年が違えば全く同じ色味にはならない。

そしてやはり紙にも似たようなことが言える。

本書は作家である著者が、時に小説を書き、時にそのためのメモを取るために用いてきた3つの文房具についての思い出語りであり、膨大な数に上る製品の個性や組み合わせた際の相性を検証してきた記録である。同時にそれらを使って文字を、小説を書くということの本質的な意味を巡る考察ともなっている。

それにしても、と私は思った。

著者は40年以上も小説を書き続けているベテラン作家だ。小説のアイディアを記す時はこの万年筆にこのインク、ノートはこれで、というかっちりとした決まりがあってしかるべきではないだろうか。定番のようなラインナップについて語られてはいるのだけれど、定番も時とともに変わり続けてここまで来ているようだ。まだ使用したことのないもの、より自分にフィットするものを求めて、著者は新しい筆記具を試し続けている。

著者には沢山の作品があるわけだが、失礼ながら私はそれらを作品群とか作風といった言葉を使って大雑把に束ねて理解したつもりでいた。しかし著者は常に現在を生き、現在に小説を生み落とし続けているのであって、いつも新しい自分として小説を書いている。だからこそ40年以上も書き続けているのかも知れない。

筆記具についてのあれこれを読みながら私がこんなことを考えたのは、ここ数年、幾度も著者の新作小説から新しい気分をもらってきたからでもある。

(晶文社 1800円+税)=日野淳


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