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フィリピン映画が絶好調の理由 24歳監督、衝撃の『バードショット』

2016年11月10日

映画『バードショット』の一場面=(C)PelikulaRed,TBA Productions
映画『バードショット』の一場面=(C)PelikulaRed,TBA Productions

▼フィリピンのインディペンデント映画が上映される機会があれば、ぜひ見てほしい。フィリピン映画は約10年前から第3黄金期にあり、世界の三大映画祭を席巻している。先日の第29回東京国際映画祭でも、その充実ぶりを思い知らされた。なぜこんなに元気なのか、東京のコンペティション部門で最優秀男優賞と観客賞を受賞した『ダイ・ビューティフル』の3人に聞いてみた。

▽ジュン・ロブレス・ラナ監督「デジタル技術によって低予算で作れるようになり、新しい才能が出てきやすくなりました。主流の映画や大手のスタジオシステムの外側にいる人々が、自分の思いに従って作れるようになり、定型ではない、多彩なスタイル、多彩な物語の映画が生まれている。ブリランテ・メンドーサ監督やラブ・ディアス監督ら巨匠から、私に至るまで、それぞれが主流とは違うスタイルの映画を作れています」

▽パオロ・バレステロス(トランスジェンダーの女性を演じ、最優秀男優賞受賞)「俳優として、また観客として私が思うのは、フィリピンの俳優も観客も、定型とは違うスタイルの映画、違うストーリーに対してとてもオープンになってきたということです」

▽ペルシ・インタラン(エグゼクティブプロデューサー)「もう一つの要因だと思うのは、巨匠が若い世代に教えて、若い世代もワークショップなどで教え合うことができていることです」

▼『ダイ・ビューティフル』にも増して、筆者が衝撃を受けたのは、新鋭監督の作品を集める「アジアの未来」部門で作品賞に輝いた『バードショット』(ミカイル・レッド監督)。クライムサスペンスで、練られた脚本、無駄のない演技、途切れぬ緊張感、映像美、鮮やかなラストまでお見事。娯楽作としても、アート映画としても成立している。

レッド監督はまだ24歳。父親も映画監督というサラブレッドだが、それよりも「いろんなワークショップに参加しました。私のメンター(指導者)の1人はマリルー・ディアスアバヤ監督です」と、80年代からアート映画を撮ってきた女性監督の名を挙げた。

上映後の質疑応答では、客席にラブ・ディアス監督、ジュン・ロブレス・ラナ監督らが見に来てくれていることをレッド監督がアナウンスし、「彼らのおかげで僕たち若い作り手たちが、今ここにいることができています」と感謝した。ディアス監督は父親のように優しく誇らしげな笑みを浮かべて拍手で返した。

▼「アジアの未来」部門の作品選定者である石坂健治プログラミングディレクターによると、フィリピンは国立大学に映画専攻があるものの、さまざまなワークショップで映画を学ぶことが一般的だそうだ。「メンドーサ監督に至っては落語の家元みたいなもんですよ。彼はレストランを持っていて、若い世代が住み込みで働きながら、師匠に映画の稽古をつけてもらう。師匠が作品を撮るという段になると、弟子たちは師匠が何をしたいか分かるから、少人数でテキパキ動いて撮れちゃうんです」

▼フィルムからデジタルになり、低予算で製作可能になったのは、世界中が同じ状況だ。だが、日本の映画業界の人々と話していて、耳にすることといえば…。

「製作本数は激増したが、内容が伴っているものは少ない」

「半径3mを描くのはいいが、本当にそれだけで広がりを感じない映画が多い」

「監督を目指す学生が、『何を撮っていいか分からない』と言っている」

「作品が内向きで、鎖国状態」

「大手とその他の二極化が進んで作家映画はますます低予算。中間がなくなっている」

「海外と組んで(助成や出資を受けて)作る人がもっと出てこないといけない」

三大映画祭のコンペにも、昨年秋のベネチアから、今年のベルリン、カンヌ、ベネチアと、日本映画は選出されていない。1995年以降は毎年、三大映画祭のどれかには必ず選出されていたのだが。

▼「『何を語るのか』ということだと思う」と石坂氏。今回、東京で見たフィリピン映画はどれも、自分たちの社会が抱える問題や歴史をしっかり捉えた上で、のびのびと物語を編んでいた。「映画はこうあるべき」と決めつける野暮ではないが、今の日本映画の弱さはここにあるだろう。

▼最後に、日本のインディペンデント映画を応援する「日本映画スプラッシュ」部門で、作品賞を受賞した『プールサイドマン』に触れたい。渡辺紘文監督は「スタッフ3人、製作費は食費と光熱費ぐらい」という超低予算態勢で、これが3作目。だが、小さくても大きな刺激が詰まっている。

「今の世界における日本人の存在とはどういうものなんだろうと、追求したくて作り始めました」。渡辺監督のこの言葉が重要だ。「田舎の栃木県大田原市で暮らしている中、世界が目まぐるしく変わっていく感覚というのは地方都市にもあるんです。それを映画として表現しようと思いました」

超低予算の制約があるからこそ生まれたスタイルとおかしみがある。ただ、受賞をきっかけに、国内でも国外でもいい、どこかと組んで、もっと予算のある映画を作るのだという思いはあるのか尋ねると、「今のスタイルを完全に捨てきることは考えていないですが、きちんとした形の映画も作っていかなければいけないというのは、自分の課題だと思っています」と語った。

▼『プールサイドマン』公開決定の報を楽しみにしたい。『ダイ・ビューティフル』は日本配給が決定したが、『バードショット』は未決(※11月10日時点)。フィリピン映画の日本での上映機会はまだ少ないが、今年の「東京フィルメックス」でも1本、『普通の家族』が11月24日に上映される。また、大阪や福岡のアジア作品を集める映画祭などでも機会を探してはいかがだろうか。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第92回=共同通信記者)






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