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『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子著 孤独な暗闇を電波が照らす

2016年10月31日


コンビニで働く若者を主人公にした群像劇である。……という点においては、あっちにもこっちにも見かけるたぐいの物語ではある。ただ、本作が特徴的なのは、友情を深めていく若者たちをつないでいるのが、実在したラジオ番組であるということだ。「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」。2013年、深夜3時から始まる、知名度は今一歩のパーソナリティーが顔を揃える「第二部」枠で産声をあげ、深夜1時から始まるスター揃いの「第一部」枠へと昇格。そして「第二部」へ異例の逆戻りを果たすという、不思議な道筋をたどった伝説の番組である。

主人公の富山は、1年間の約束で大学を休学し、都内の自宅を出て郊外のアパートで暮らしている。主にコンビニの深夜勤に明け暮れる。人に触れられることに強い恐怖を覚える「接触恐怖症」で、いつも人と距離を縮めることに戸惑って二の足を踏んでいる。そんな彼の心を照らす唯一の宝物。それがラジオだ。

富山はかつてその「アルピーのANN」において、「常連ハガキ職人」と呼ばれる者たちの一人だった。しかしある出来事を機に、そこから遠ざかっている。そんな彼が働くコンビニに、突然、超常連ハガキ職人の女子高生が現れる。それに10代の頃から行き来のある友人と、コンビニバイトの先輩、男子3人女子1人のアンバランスな顔合わせが、互いの人生を少しずつ動かし合う。コンビニ先輩は歌うこと、女子高生は芝居を作ること、旧友はハガキ職人道。それなりにできることをそれなりにやっていた彼らが、さらなる深淵へ一歩踏み出す、そのグラデーションが描かれる。そして、主人公にも何らかのグラデーションが訪れる。やりたいことなど、目指すものなど何もないと思っていた自分に、能動的な願いが、希望が、すでに宿っていたことが知れる。

パイロットになりたいとかケーキ屋さんになりたいとか、何の根拠も障害もないまま思い描いていた季節を過ぎて、少年少女は気づき始める。何らかの夢を叶えるのには資格みたいなものがあって、選ばれた者のみがその華々しい赤絨毯を歩くことができるのだと。平凡な自分には平凡な道がちょうどいいのだと、自分に言い聞かせながら大人たちは歩く。けれど、誰に許されようが許されまいが、あの道を行きたいと切実に思ってしまう日が、いつか誰にも訪れる。どこにいても、何歳になっても。「少年少女」と「大人」の境い目を描く物語が人を惹きつける理由は、そんなあたりなのかもしれない。

(新潮社 1400円+税)=小川志津子


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