2010年03月18日

第60回ベルリン国際映画祭の会場でレッドカーペットを歩いた寺島しのぶさん
映画担当になって2カ月、初の映画祭取材となった2月のベルリン国際映画祭で、寺島しのぶさんが日本人として35年ぶりに最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。授賞式で「シノブ・テラジマ」の名が呼ばれると、私も鳥肌が立ち、胸がいっぱいになった。心を動かされたのは、これまで寺島さんが胸にため込んできた悔しさを知っていたせいでもあった。
授賞式の2日前、ベルリン入りした寺島さんをホテルに訪ねると、重たい空気に包まれていた。映画祭で何を感じたか尋ねると「レッドカーペットで寺島しのぶには誰も気付かず、ジュリアン・ムーアにはみんな気付くんだという屈辱感。こんにゃろ、と思いました」と憤まんやる方ない様子。
寺島さんは、舞台公演のため主演映画『キャタピラー』の公式上映に出席できず、別の日にレッドカーペットを歩いた。当日は、米有名女優ジュリアン・ムーアの新作が上映され、カメラマンは彼女に殺到。大量のフラッシュを独占し、寺島さんに飛んできた質問は「フー・アー・ユー?」だった(本人談)。
寺島さんの登場は、映画祭事務局から事前の案内もなく、大半の報道陣には想定外。そんな事情を説明し「仕方ないですよ」と話し掛けても、彼女の怒りは収まらない。
「オー・マイ・ゴッド! こういうことかと。私の心に火を付けたなと思いましたね」。海外では無名の存在と思い知らされ、女優の闘志はメラメラと燃えた。
演技派として知られる彼女も、30代に入って手応えのある作品に巡り合えなかったという。日本では、映画に起用される俳優は人気のある20代ばかり。不満が募る中で勝負を懸けたのが、若松孝二監督の『キャタピラー』だった。戦争で手足を失って帰還した軍人の夫を介護する妻の役。世間で「軍神」とたたえられ、家庭では食欲と性欲の塊となった夫に尽くす。
きわどい性描写が多いが、女優としてのイメージ低下を恐れず、果敢に挑んだ。全身全霊を込めた演技で、世界にその名を知らしめた瞬間が授賞式だった。
その授賞式も、寺島さんはあいにく不在。私は感動のあまり、代理で登壇した若松監督へ式の後に駆け寄ると、銀熊の像を「持ってみる?」と渡され、思わず手を出すとズシリ。5キロ以上ありそうだ…って、寺島さんより先に持っちゃったよ! ごめんなさい! この重たい賞にふさわしい、ますますのご活躍を祈念申し上げます。(佐竹慎一・共同通信文化部記者)
さたけ・しんいち 1972年・宮崎県生まれ。育った田舎に映画館はなく、テレビの民放も2局しか映らない。映画は高島忠夫司会の番組『ゴールデン洋画劇場』で見るばかり。東京の学生生活で大学より映画館に通って過ごし、おかげさまで2009年12月から映画担当です。









