2010年03月11日
新作DVDの制作発表で怪談を披露する稲川淳二=東京都大田区の寺
「銀座で寿司」は「ザギンでシースー」、何でもひっくり返す業界用語ネタが得意のお笑い芸人・夙川アトムの業界用語紙芝居「ずきあかのちゃんねー」、彼が監修したショートアニメ「ちゃいちーのろーたーくん」をついさっきまで鑑賞し、見たことあるのにまたハマり、私から感染したメタボな後輩は自分のCTスキャンのデータが出たら飲み会しましょうよを「TCのキャンスーのターデーが出たら、かいのみしましょうよ」と、うれしそうにベシャリまくり、2人で職場で笑い過ぎ、今、瀕死状態。
話は変わり、映画館でホラー作品の予告編が流れた場合、私は「非常に怖いが、顔をそむけて周りに気付かれるのは男としてどうなのか」という正しい虚栄心から、決まって寄り目にして地蔵のように固まってやり過ごす。だが、“怪談マスター”稲川淳二がDVD『稲川淳二のねむれない怪談オールスターズ1&2』の制作発表を開くと聞けば、行かねばならぬ、仕事だもの。会場はお寺の本堂という、大迷惑な記者会見が東京都内で開かれたのは、このコラムの〆切2日前のこと(全世界に7人ぐらいいるであろう瀕死ファンの皆さま、私の打順は毎月第2木曜ですからよろしく)。
「稲川淳二も芸能希人(まれびと)の1人だよな。芸能界のいじめられキャラの先駆けで、片岡鶴太郎は絵描きになることで文化人へと路線を変え、稲川は怪談で希人になったとオレはとらえてるんだけど」。私が会見に行く前、先輩がポソッと言った。なるほど、じゃあ本人に聞いてくるとしよう。
ラーテーの本堂は3月なのにバリ寒で、雰囲気ワイコー、ゲーヒーサモサモの稲川ちゃんがケンカイでもワイコーなダンカイを始めてクリビツ。寄り目にしても意味がない。とにかく聞こう。「熱湯風呂に落とされてた稲川さんも好きだったんですが、怪談に軸足を移したきっかけは?」。すると「32、3年前かな、ラジオのオールナイトニッポン2部で、プロデューサーに言われて怪談やったらすごく反響があって…(中略)…20年ぐらい前にレコード会社から言われてテープ出したら32万本売れたのかな。当時オリコンで赤丸急上昇、キョンキョンとか荻野目洋子ちゃんに私が追いついていっちゃった、怪談で」と早口で詳細に経緯を話してくれる。いい人だなぁ。そりゃ幽霊も寄ってきましょう。
「もう熱湯風呂には入ってくれないんですか?」。続けて私はヘンな質問をしてしまい、ちょっと恥ずかしい。ボクの青いしっぽをカワイイあの子にリンクして、大空へ飛び去ってしまいたい。ターアバ、ターアバ。しかし怪談マスターは語ってくれた。「もう年だから体がついていかないかなぁ(笑)。昔ね、マイナス180度の部屋に入るってのがあったんですよ。スタッフが『無理だからぬるめようか』って言ったけど、やめてくれって言ったんです。もしも私がマイナス160度に入って成功しても、その後で誰かにマイナス180度やられたら意味ないじゃない。1回きりだからいいんですよ。当時からね、好きなこと、やりたいことを死ぬ気でやればいいと思ってた。でも飽きたらやめようと。人間ってね、明日やめてもいいと思うとできちゃうんですよ。楽しかった。体使ってるほうが良かった、頭使うより。最近怪談少し頭使うんでね、参りますよこれは(笑)」
いじめられキャラの先駆者はこうして、「一芸タレント」「一芸アイドル」が流行するはるか前から、自分の道を素直に全力で走り、希人となったのか。ああ、思いがけず言葉が胸にじんわりしみこんだ。「ギロッポンでグーフーしちゃいます?」とか死語的業界用語で弾んでいるメタボな後輩と笑ってる場合じゃないぞ私は。いやいや違う、やりたいことはやり切れとマスターは教えてくれたのだ。よし、ブーデーの後輩よ、ムーコラ書き終わったら、モンホルとルービーでボンビーなシーメーとしゃれこむぞ、店の予約、なるはやでしくよろ。 ああもう飽きた。(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)









