林芙美子の従軍から戦中文学の一断面を切り取る 『ナニカアル』 桐野夏生著
2010年03月08日

恋愛小説としても、戦争小説としても読める。
戦争の知られざる真実。日本が経験した2度の大戦でも、いまだ埋もれたエピソードが無数に存在するはずだ。作家・林芙美子の従軍という史実を明るみに出すのは、女の情念をリアルに描く筆に定評がある桐野夏生。
物語は、林の恋が戦争に翻弄されるさまを縦軸に、ジャワなどでの従軍の様子を横軸に展開されていく。とくに文学者が戦争の美化に一役担った、あるいは担わされたという薄暗い現実を知ったとき、衝撃が走った。
記念館設立のために資料を選別する折に、林の未発表の回想録が発見される。そこには戦中に起きた、彼女と記者・斎藤謙太郎との不自由な恋愛や、息子の出生の秘密が記されていた…。
大戦末期の、疑心に覆われた日本。それでも、自身の好奇心と愛に忠実な作家。このありさまは鮮烈で、戦争の醜さと共に、生の力強さを知ることになる。さらに、十分な取材で戦中の文学の一断面を切り取り、濃密な小説を書き上げた著者の技量に感嘆。
(新潮社 1700円+税)=一色こうき
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