世代をつなぐ存在に呼びかける 『「あなた」の哲学』 村瀬学著
2010年02月22日

上野千鶴子批判、『坊っちゃん』論など、考察の入り口は広く、奥は深い。
「あなた」という言葉をあなたはどういうときに使いますか?(あ、使っちゃった)思想の世界で「わたし」や「他者」は論じられても、「あなた」が扱われることはなかった。一方、歌謡曲にはあふれんばかり。「♪あなた、変わりはないですか」「♪あなたと私が夢の国」。古いか…。ということで、本書は本邦初の“あなた論”である。
「他者」とは死や異文化といった理解不能なもの。「わたし」を連呼する社会は人々を個に分断してそれぞれを格付けする。著者は、「あなた」という二人称が持つ「相手を敬う響き」を大切にして、その可能性の深みに分け入っていく。
たとえば身ごもった女性が「わたし」に宿った命に呼びかけるときの「あなた」。森崎和江や耕治人、高村光太郎らの作品を引きながら、著者は、前世代と次世代をつなぐ存在、ともに生きる存在、至高性を含む存在としての「あなた」に到達する。
神なき時代、シングルばやりの世の中で、そんな「あなた」は影が薄い。あなた。やさしい響きで呼びかけているときのあなたは、きっと幸せに違いない。
(講談社現代新書 740円+税)=片岡義博
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