2010年01月14日
綾小路きみまろの特集記事に付けたデータ紹介のイラスト。ロボット仕立て。
芸能人の取材で「見る」「聞く」「話す」はもちろん普通。先輩記者には「けっこう嗅ぐよ」というちょっと危うい人もいたが、ともかく、芸能人を「触る」ことはほとんどない。欧米の芸能人はあいさつの時点で向こうから習慣的に握手をしてくるが、日本の芸能人の場合、こちらから求めない限り握手することも少ない。相手がアイドルなら、なおさら。
「チャームポイントってどこですか?」。年が明けるより前、都内にある事務所の応接室で取材中、私は尋ねた。「そんなの聞かれたことないもんなぁ。う~ん…」「しいて挙げるとすれば?」「う~ん………。あ、ふくらはぎ」
答えたのは漫談家・綾小路きみまろ。今年還暦を迎える中高年のアイドルだ。全国の地方新聞の元日紙面を飾ってもらおうと、私が企画した1ページ分の特集は「新春漫談」「インタビュー」「きみまろのデータを採取」などから成る。
初めて会ったのはその数日前。長野県伊那市の公演先の楽屋で短くあいさつし、終演後、客席に下りてもらい、1500人の観客と一緒に写真撮影をさせてもらっただけで、まともに話すのは今日が初めてだ。ふくらはぎがたくましく、カッチカチであることをDVDで知っていた私は、取材の最後に恐る恐る頼んで測らせてもらおうと巻き尺を隠し持っていた。それが、早々とご本人から「ふくらはぎ」の5文字が出るとはありがたい。
「あ、じゃ、じゃあ、太さを測らせてもらってもいいですか?」「いいよ」
友人にホチキスを貸すときみたいな気軽な返事に拍子抜けしつつ、私は素早く巻き尺を取り出し、立ち上がった。いすに腰掛けた彼が、左脚の上に乗せた右足のズボンのすそをまくり上げると、現れたのは子持ちシシャモを思い起こさせる極端に盛り上がった立派なふくらはぎ。
「うわっ!太っ、すごいですね。ちょっと触ってもいいですか?」「いいよ」「わわわっ、硬い」「ちょっと力入れた方がいいかな」「あっ、かなり硬い」
事情を知らぬ人が部屋の外で聞いていたら、中でいったい何をしているのかといぶかるに違いない。
「じゃ、測りますね」。スルスルスルっと伸ばしたメジャーをカッチカチのシシャモに巻き付ける。「よんじゅう…さん、ですね」「あ、そう、そんなある? 昔柔道やってたからね、6年間。強かったよ」「何段ですか?」「初段。(相手に)投げられないけど(相手を)投げられない」
この足が、年間150回もステージに立ち続ける足か…。あまり毛深くないシシャモを視界に入れたまま、私は思いをはせた。長野で写真撮影のために上がらせてもらったステージから1500人の笑顔を眺めると、エネルギーのシャワーを浴びるようだった。「これは一度味わったら病みつきになるなぁ」と思ったが、もしも1500人が退屈顔ならたちまち恐怖の空間。しゃべり1本で笑わせ続ける男は、開演直前の舞台袖では、スケートリンクに飛び出す前のフィギュア選手のように、内向的で静かな瞳をしていた。
結局、特集記事はとても多くの新聞に掲載され、あらためて、きみまろパワーに感服。
昨晩、家で自分のふくらはぎを測ってみたら、35センチだった。この足はどんな足だ。この足に埋まっている記憶は、どれほどのものだ。(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)









