姿を消した複雑な構成や、屈折した文体 『水死』 大江健三郎著
2010年01月11日

『水死』 きっと続きがあるのだろう、と思わせる意外なクライマックスが待っている。
現在活躍する唯一の日本人ノーベル賞作家。50年以上、評価に恥じない作品を書き継いでいることが、もはや奇跡的といえる。新作が発表されるというだけでわくわくしてしまう。希代の小説の天才は、どのような作品をいま描くのか。
本作は日記のような作品だ。ある一時期に起こった老作家の物語をたんたんと、そして読みやすい言葉でつづっている。得意の複雑な構成や、屈折した文体も姿を現さない。無駄がなく、明快ですらあると感じた。
著者を思わせる作家・長江古義人は終戦直前の父親の水死を小説化しようと、故郷に赴く。期待通りの資料は集まらないが、そこで劇団「穴居人」の若い人たちと出会い、関係を深める。途中、息子との不和を招きつつ、「父、水死」の謎は深まっていく。
劇的な展開は少ないが、老作家の右往左往をときにユーモラスに記述し、ずっと読んでいたい、という気持ちにさせる。何度も立ちどまり、つい考え込んでしまう味わい深い作品だ。
(講談社 2000円+税)=一色こうき
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