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佐野元春の好番組を毎週投与 『ザ・ソングライターズ』

2009年08月13日

NHK教育テレビ『佐野元春のザ・ソングライターズ』の一場面。ホストを務める佐野(右)とゲストのさだまさし
NHK教育テレビ『佐野元春のザ・ソングライターズ』の一場面。ホストを務める佐野(右)とゲストのさだまさし

瀕死の私は最近、毎週土曜夜11時25分から息を吹き返す。『佐野元春のザ・ソングライターズ』(教育テレビ)がエネルギー源だ。7月に始まった番組のテーマは「歌詞」。ポップソングにおける「言葉」に焦点を絞り、佐野がゲストに聞く。ゲストは小田和正(1、2週目)、さだまさし(3、4週目)、松本隆(5、6週目)と続いてきた。今回のコラムはこの番組を、タテにヨコに眺めた魅力と、番組ホスト像の話を。

番組の構成は、米国の有名な演劇学校アクターズ・スタジオのジェームズ・リプトンが、ハリウッドスターをゲストに招く番組を模したようだ。NHKのBSで時々『○○自らを語る』のタイトルで放送されるあの番組だ。『ザ・ソングライターズ』も収録場所は佐野の母校・立教大の「教室」で、音楽や文学の道を目指す学生たちが聴講し、黒バックだけの壇上で佐野とゲストが語り合う。ゲストが学生の質問や佐野からの「定型質問」に答える時間があるのも、あの番組と同じだ。

回ごとにタテに見ると、さだまさしが歌づくりのワークショップを展開した4週目は出色で、スリルと刺激にあふれていた。

「歌を歌いたくなるのはどんな時?」との問い掛けから始めたさだは、最近祖父を亡くしたという男子学生に矢継ぎ早に質問し、祖父の思い出のかけらを引き出す。ほかの学生からも要素を集め、織り上げた歌詞の始まりは「グレープフルーツの色をした雲と おじいちゃんの背中 足元に大根の花」。それで一体どうなるのか、と会場全体がさだに吸い寄せられるように集中する。「夏」を感じさせる短い旋律をギターで奏でながらさだは、冒頭の「グレープフルーツの」を男子学生と一緒に朗読的に繰り返し、その6度目、言葉にメロディーをほのかに帯びさせた。

いま歌が生まれる! ハッとした学生たちの心の震えに私も共振し、鳥肌が立った。続けてさだは、結びの歌詞とメロディーを加えて鮮やかに歌を成立させてしまい、佐野をして2度「素晴らしい」と感嘆させた。

過程で、さだは学生たちに「(この歌詞を作るには)雲の種類が何種類あるか知らなきゃいけない。勉強することいっぱいあるね」と笑いかけ、歌の成立直後には「ま、なんぼでもできるさ」と再びニコリとした。誇り交じりの笑みは少しも嫌みでなく、学生を稲妻のごとく打ち抜き、奮い立たせる笑みだった。

番組をヨコに見たならば、例えば「歌詞が先か、メロディーが先か」という話題がある。小田は「メロディーの中に言葉が埋まっている」「メロディーを犠牲にしたくない」と言った。さだは「グレープフルーツの」という歌い出しの言葉が決まった瞬間「リズムがあるね、もう(既に)」と語りかけ、言葉が内包するリズムとメロディーを搾り出してみせた。松本は「(60年代)当時はメロディー先行ってほとんどなかった」「(メロディー先行は)早めに直した方がいい」と“はじめに歌詞ありき”を主張した。

ほかにも「作家性と商業性」など横断的に楽しめる話題はいくつもある。同じソングライターとして数十年、流行の激しい波の中でも舟をこぎ続けてきた佐野が相手だからこそゲストが吐露する一言を、堪能しない手はない。

現在、いわゆる「テレビ的」とされる番組ホスト・司会者像とは、1秒のすき間も無駄なく埋めて使うタイプだろう。佐野は、無理に笑わない、過剰に敬語を使わない、無駄な抑揚はつけない、はしゃがない、押し付けない、こびない。テレビ的分かりやすさとは正反対かもしれない。しかしどうだろう、この番組からは、ゲストだけでなく聴講生たちのかすかなざわめき、うろたえ、我慢さえも伝わってくる。佐野が仮に無意識であったにせよ、彼もまたテレビを生かす在り方を提示しているのだと私は思う。

佐野の振る舞いは、眼鏡を右手で左斜め下へスパッとはずす仕草一つからしてちょっとキザに映り、初回は見ているこちらがヒヤヒヤしたものだが、彼は昔からそのままなのだと合点し、見れば見るほどクセになるポイントの一つになった。

約20年前、作家村上龍がホストを務める『Ryu’s Bar 気ままにいい夜』というトーク番組があった。村上とゲストのトークにはしばしば、つんのめりそうになるほど長い沈黙が訪れ、それがカットされずに放送されていたことが、今も私の脳にこびりついている。栓を閉めた蛇口の先で静かに膨らんで落ちる滴。その一滴が立てる音は流れ出る水音よりも得てして耳に残る。それに、あの沈黙のあいだは、かえって関係が映し出されていた。果てしなく生っぽい収録番組だったことは間違いない。

歌作りも、番組作りも、受け取る人の想像力を大いに使えばいい。小田は、佐野を相手に名曲『言葉にできない』の創作過程を振り返り、「歌詞を書くのが面倒でね(笑)」「歌詞がない方が強いんじゃないか」と感じながら、「la la la…」を中心にすえた歌にしたのだと語った。いちいち面白いじゃないか。

今後、松本隆は後編で、数々のヒット曲を生み出した松田聖子のプロジェクトについて語る。その次には、初めて佐野より年下のゲストとなるスガシカオが控えている。番組は9月まで続く、おかげで秋まで私は生き延びられそうだ。(敬称略)

(宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)






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