ユーモアとセンチメンタル、職人技のバランス 『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳
2009年08月10日

『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 5つの歌をまとめた1枚のアルバムのように味わってほしい、と著者
意外なことに、著者初の短編集だという。
ベネチア、ロンドン、ハリウッドなど舞台はさまざま。すれ違う男女の姿が、それぞれの過去で思い入れのある音楽とともに描かれている。
表題作である『夜想曲』。才能ある醜男のサックス奏者は、妻の心を取り戻すために整形手術をする。高級ホテルに入院中、隣に居合わせた芸能人とホテルを探検することになるのだが…というドタバタ喜劇。
最も印象的だったのが、ラストの『チェリスト』。駆け出しのチェリストの青年が、自称チェロの大家と名乗るアメリカ人女性の個人指導を受けた、ある夏の日々の回想。最後に女の素性が明らかになるのだが、衝撃的と言わないまでも、予想外の感慨深い結末にうならされた。
全体を通して浮かび上がってくるのは、音楽に挫折する者の姿だ。ミュージシャン志望だった著者の経験が元になっているのだろう。ユーモアとセンチメンタルのバランスが絶妙。まさに職人技。文句なしの上質な1冊でした。
(早川書房 1600円+税)=尾崎英子・筆
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