2009年07月16日

国民栄誉賞の受賞会見で花束を贈られ、笑顔を見せる森光子=7月1日、東京都千代田区の帝国ホテル
「首相官邸はちょっと暑かった。省エネのためですね」。国民栄誉賞を受賞した女優の森光子が、東京都内で開かれた記者会見で麻生太郎首相の印象を聞かれたときの返答だ。
これは決して「Q」と「A」がずれているわけではない。「カーペット(の質)が良すぎて(足がひっかかりそうになるから)転ばないようにゆっくり(時間をかけて)歩いていったら、麻生さんは私の上がった息がおさまるのを待ってくれたんです」。面会までのアプローチを丹念に説明し、官邸に漂う空気を敏感に感じとっての表現力あふれる回答である。
地球温暖化対策のための省エネはもちろんのこと、解散・総選挙やポスト麻生をめぐってバトルを繰り広げる官邸のヒートアップぶりも伝えているのだ。
国民栄誉賞の理由にもなった舞台「放浪記」の2000回を超える上演で注目を集める森。89歳という年齢から健康や芝居の切れに不安を持つファンもいるが、森の質問の意味のとらえ方や当意即妙な受け答えがいまもまったく衰えていないということは、取材などで身近に接している私たちジャーナリストの共通認識だ。
「何か欲しいものはありますか」と聞かれた森。「歳を『取って』(減らして)ほしい」と切り返した。さらに「この受賞の喜びを誰に伝えたいですか」という問いには「ああ、そういう質問は久しぶりね」と答え、紋切り型の質問を鮮やかに輝かせてみせた。
この人はたくましい。5月公演の千秋楽の上演を終えた後、幕が下りた舞台裏で「いま何がしたいか」と聞かれると、「おなかがペコペコ。なんか食べたい」とにっこり。上演2017回に達し、大記録を自ら更新中の女優の一言に、逆に和まされてしまう一幕だった。
「風邪をひかない」「転ばない」「足腰を鍛える」をモットーに健康には自ら最大限の注意を払っている。今も続けている有名な「ヒンズースクワット」のほかにも、見えない努力を続けているからこその明るさと揺るぎなさである。
偉業を果たした舞台でも「わたしは引退なんかいたしません」と宣言した森。「もっと表現力の豊かな女優になって、皆さんに良い芝居をお見せしたい」という思いがあるからだ。11月には明治座で坂東三津五郎、八千草薫とともにマキノノゾミ脚本・演出の舞台「晩秋」に挑む。来年5、6月には再び「放浪記」で記録をひとつひとつ積み上げていくことも決まった。
せっかくいただいた近くで取材できるご縁。この女優魂と生きざまをとことん見続けたい。(共同通信記者・阪 清和)
さか・きよかず 1959年大阪市生まれ。演劇記者として劇場に通ううち劇場ぐせがつき、映画もやっぱり劇場で。今年は年300本の平均鑑賞ペースのうち劇場100本が目標。









