2009年07月09日
映画『アマルフィ 女神の報酬』のポスター
▼「悪気はなかったんだ」と友だちに言うのは易しいが、相手が織田裕二なら話は別だ。
2005年8月、「世界陸上ヘルシンキ大会」開幕を目前に開かれた、TBS系中継番組のキャスター、織田裕二、中井美穂らの記者会見。会場はなぜか東京湾を巡るクルーズ船内で、青島刑事が封鎖できなかったレインボーブリッジを横目にどんぶらこ。
▼織田と中井は1997年の「世陸」からコンビを組み、海外からの競技生中継に、スタジオで興奮し続ける彼のハイテンションは既に周知だったが、2005年当時はまだ、織田本人の前でそれを口にするのはタブーな雰囲気だった。もちろん、山本高広が「キターッ!」をはじめとする織田のモノマネでブレークするのは、もっと後のことだ。
▼「どうしよっかなぁ…」。
会見が始まって約10分、織田までわずか2メートルほどの最前列で、私は迷っていた。何も自らケガする必要はない、しかし、恐らく全員が全員食べたいと思ってる特別メニューをあえて見ぬふりをして、お決まりの定食だけ食べて帰るような流れは気持ちが悪い。別にプライベートを聞くわけでもない、番組そのものに関する質問だ。
「織田さんも含めて、みんなで楽になっちゃえばいい」。気が小さいのに、こんな時の衝動には抗しがたく、心の中のデビルが巨大化して叫ぶ。「私の口、封鎖できません!」
▼手を挙げ、指名され、マイクを手にした私。
「ちょっと言いにくいんですが、世陸の時の織田さんは、視聴者も引いてしまうぐらい熱いですよね」
言った瞬間、船が揺れるほどの爆笑が起きた。私は勇気づけられ、直後、ひるんだ。それから、なぜか織田から目をそらさずに、質問を続けた。
「でも、回を重ねるうちに私は、その熱さがクセになってきたんですが、ご自身ではどう感じてますか?」
▼織田は額に手を当て「参ったなぁ…」と苦笑。笑い飛ばしてくれると踏んだ私がバカだった。笑みの中に少々のダメージが混じっているのを感じ、私は瀕死。「ま、まずい…」
▼中井が慌て気味に「いや、それはねぇ織田さん、やっぱり…」とフォローし始めた。その反射神経の良さが彼女の良さだと分かってはいるのだけど、今この場合、私の状況把握は「だめだってばフォロー入れたら、余計にシャレにならなくなる」である。
室井さん聞こえるか…、ど、どうして現場に変な汗が流れるんだ。
▼織田が続けた。「そう言われてるのは僕も知ってます。でもね、自然に出てしまうんですよね」。想像以上にまっすぐな人だった。
▼会見終了後は、船の屋上部分でフォトセッション。私はおびえていた。きっと誰か関係者が近寄ってきて、陰に連れていかれ、「あの質問は何ですか」とか怒られるんだ私は。東京湾に浮かぶ船に逃げ場などない…。船が着岸するや、息を殺すようにして下船した。
▼その週末、『アッコにおまかせ!』(TBS系)が、私の質問時のやり取りをイラストで紹介して盛り上がり、“世陸の熱すぎる織田裕二”を自局で解禁したのを目撃。私は救われた気がしたのだった。
▼織田について、ほかにも紹介したい話があるが、行数に限りあり、先日試写を見た織田主演映画『アマルフィ 女神の報酬』(7月18日公開。タイトルが今ひとつな気がする)について少し。
▼この映画は「組織・集団の論理VS織田裕二」という必勝パターンを守りつつも、織田が演じる外交官・黒田の役柄は、『踊る大捜査線』の熱血刑事・青島とはタイプがまったく異なる。冷静でスキがなく、観察眼、危険察知、語学、推理、格闘にも秀でたジェイソン・ボーン的男。ちょっとだけ寅さん要素もあるかも。織田自身が言っているように、続編へのアイデアがいくらでもわきそうなキャラクターだ。
▼では、織田や織田の役の、感情ほとばしる瞬間をうまくマネしてきた山本高広は、この冷静な黒田からも何かを切り取ってみせることができるのだろうか。そこにも注目したい。
織田は、どっしり構えていてくれればいい。押しも押されもせぬスターなのだから。(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)
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