主婦に魔法をかける歌
ガールズ世代から熟年まで、幅広い年代の女性たちの関心事を取り上げる特集「ウーマン・アイ」のWEB掲載が始まりました。今後は概ね週1回程度、新しい記事をアップしていく予定ですので時々のぞいてみてください。ここでは番外編として、買い物や子育てなど主婦の日常を歌うシンガー秦万里子さんの記事「主婦のホンネに広がる共感」に書けなかった、記者のコーラス隊体験記をお届けします。
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オーディションなし。たった2、3回の練習で秦さんと一緒に舞台で歌えるコーラス隊が各地で結成され、人気という。何でも体験するのがモットーの記者は8月下旬、取材を兼ねて、岡山公演のため結成されたコーラス隊「岡マウンテンズ」に申し込んだ。
「こんなに笑ったのは久しぶり」。それが練習初日の感想だった。本番と練習の会場は岡山城に近い岡山市立市民文化ホール。応募した約30人のメンバーは30代から70代まで、全員女性だ。中には東京や大阪から参加した熱心な「追っ掛け」ファンも。秦さんのコーラス指導は実にユニークで、発声練習はご自身が当日岡山入りして食べたというデザート「お肌~プルプル~メロンパフェ~♪」に音程をつけて。「もっとニイーッて笑って歌うの!歯が出てない!は(歯)っ、は(歯)っ、は(歯)っ!」と漫才のような突っ込みのたび、おなかを抱えて笑ってしまう。これで本番のチケット代や衣装のTシャツ代も含め、参加費1万円ほどは高くないと感じた。
コーラス隊が歌うのは代表曲「バーゲン・バーゲン」とバラード「あなたが」など3曲だ。何度もCDを聴いて歌詞は覚えたはずなのに、手ぶりがつくと頭が真っ白に...。思ったより難しいぞ。そして「あなたがだいすき 言えないけど」と歌う「あなたが」の指導では、秦さんから宿題が出た。
「必ずだれか一人を思い浮かべて。夫でも昔の恋人でもだれでもいいので、大好きだけど言えない人への気持ちを込めて歌ってください」
「うーむ」と記者は考え込む。シングルマザーで浮いた話もない私はだれを思えばいいのだろう。中1の一人娘にはいつも「だいすき」って言っている。毎日帰りの遅い私の子育てをサポートしてくれる実父母には感謝はしているけれど、顔を合わせるとつい憎まれ口になって「すき」なんて何十年も言っていない。自分の人生という鏡の前に、ぽんと立たされた気分だった。
本番前日の2度目の練習後は、秦さんを囲んでメンバーの交流会があった。失業して職探し中の人。大好きだった音楽講師の仕事を育児のために辞め、ずっと音楽から離れていた人。それぞれの自己紹介を聞き、みんな苦労を超えてきたんだなあとしんみり。「主婦って大変。私たち、よく頑張っているよね」と不思議な連帯感に包まれる。
そして本番の日。楽屋は手作りのクッキーやお菓子が飛び交い、女子校のような雰囲気だ。全員で円陣を組み、「おーっ」と気勢を上げていざ舞台へ。ライトを浴びて歌うなんて、高校の合唱祭以来だ。あっという間に出番は過ぎ、アンコールの「あなたが」が始まった。
「あなたがだいすき」と歌い出すと、まず浮かんだのはやっぱり娘の顔だった。それから父や母、亡くなった祖母の顔...。秦さんは「だれか1人」って言ったのに。暗い客席が、涙でぼんやりにじんだ。まわりを見ると、コーラス隊の仲間も皆、大好きな「誰か」を思って泣いている。こんなに笑って、泣いて、自分と向き合ったのはいつぶりだろう。コーラス隊は忙しい主婦のため、本番後即解散がルールだ。さあ、娘にお土産を買って東京に帰ろう。明日からまた、ママ業と仕事を頑張るぞ。そんな前向きな気持ちになれる、魔法にかかったような3日間だった。
(共同通信社ウーマン・アイ編集室記者 山脇絵里子)
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オーディションなし。たった2、3回の練習で秦さんと一緒に舞台で歌えるコーラス隊が各地で結成され、人気という。何でも体験するのがモットーの記者は8月下旬、取材を兼ねて、岡山公演のため結成されたコーラス隊「岡マウンテンズ」に申し込んだ。
「こんなに笑ったのは久しぶり」。それが練習初日の感想だった。本番と練習の会場は岡山城に近い岡山市立市民文化ホール。応募した約30人のメンバーは30代から70代まで、全員女性だ。中には東京や大阪から参加した熱心な「追っ掛け」ファンも。秦さんのコーラス指導は実にユニークで、発声練習はご自身が当日岡山入りして食べたというデザート「お肌~プルプル~メロンパフェ~♪」に音程をつけて。「もっとニイーッて笑って歌うの!歯が出てない!は(歯)っ、は(歯)っ、は(歯)っ!」と漫才のような突っ込みのたび、おなかを抱えて笑ってしまう。これで本番のチケット代や衣装のTシャツ代も含め、参加費1万円ほどは高くないと感じた。
コーラス隊が歌うのは代表曲「バーゲン・バーゲン」とバラード「あなたが」など3曲だ。何度もCDを聴いて歌詞は覚えたはずなのに、手ぶりがつくと頭が真っ白に...。思ったより難しいぞ。そして「あなたがだいすき 言えないけど」と歌う「あなたが」の指導では、秦さんから宿題が出た。
「必ずだれか一人を思い浮かべて。夫でも昔の恋人でもだれでもいいので、大好きだけど言えない人への気持ちを込めて歌ってください」
「うーむ」と記者は考え込む。シングルマザーで浮いた話もない私はだれを思えばいいのだろう。中1の一人娘にはいつも「だいすき」って言っている。毎日帰りの遅い私の子育てをサポートしてくれる実父母には感謝はしているけれど、顔を合わせるとつい憎まれ口になって「すき」なんて何十年も言っていない。自分の人生という鏡の前に、ぽんと立たされた気分だった。
本番前日の2度目の練習後は、秦さんを囲んでメンバーの交流会があった。失業して職探し中の人。大好きだった音楽講師の仕事を育児のために辞め、ずっと音楽から離れていた人。それぞれの自己紹介を聞き、みんな苦労を超えてきたんだなあとしんみり。「主婦って大変。私たち、よく頑張っているよね」と不思議な連帯感に包まれる。
そして本番の日。楽屋は手作りのクッキーやお菓子が飛び交い、女子校のような雰囲気だ。全員で円陣を組み、「おーっ」と気勢を上げていざ舞台へ。ライトを浴びて歌うなんて、高校の合唱祭以来だ。あっという間に出番は過ぎ、アンコールの「あなたが」が始まった。
「あなたがだいすき」と歌い出すと、まず浮かんだのはやっぱり娘の顔だった。それから父や母、亡くなった祖母の顔...。秦さんは「だれか1人」って言ったのに。暗い客席が、涙でぼんやりにじんだ。まわりを見ると、コーラス隊の仲間も皆、大好きな「誰か」を思って泣いている。こんなに笑って、泣いて、自分と向き合ったのはいつぶりだろう。コーラス隊は忙しい主婦のため、本番後即解散がルールだ。さあ、娘にお土産を買って東京に帰ろう。明日からまた、ママ業と仕事を頑張るぞ。そんな前向きな気持ちになれる、魔法にかかったような3日間だった。
(共同通信社ウーマン・アイ編集室記者 山脇絵里子)
2009/12/08
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