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ヤマノボリの勧め 「山への誘い」開設秘話

 心の奥底にずっと引っ掛かっていたことがある。
 命を落とすかもしれない危険な山を、無責任に人に勧めて良いのだろうか。登山はかなりの体力を必要とするスポーツである。運悪く遭難したら、家族や友人に迷惑を掛ける。ヘリコプターが飛んだら、驚くような金額を請求される。果たして賢明な行為なのか。
 これまでの記者人生で、山の遭難の原稿は幾度となく書いたし、デスクとしても何本も手を入れて流してきた。それこそ交通死亡事故と同じような扱いで、人の死をわずかな量の文章に押し込める作業を繰り返してきた。
 その度に、「好きで山に行って遭難しているのだから、わざわざ報道する価値があるのか。あったとしても、そこまでばか騒ぎする必要はないのではないか」という声が、職場の仲間はもとより自分の内部からも聞こえてきた。どうも登山は利口な人間のやる行為ではないことは確かなようである。
 しかし、数少ないヤマノボリの経験からでも、こういうことも言える。
 山に入ると、風や物音、においに徐々に敏感になっていく。雲の流れや太陽の陰り方にも体が反応する。普段は閉じている五感が研ぎ澄まされ、第六感まで働き始める。ものの気配というか精霊(!)というか、目に見えないものまで見えてくる気がする。
 
 堂々巡りをしていて、「山のパンセ」(串田孫一著)を手に取ってみた。長く読み継がれている山に関するエッセイ集で、深田久弥氏の「日本百名山」と並んでご存知の方も多いかと思う。
 字面を丁寧に追っていくと、串田さんは意外にもはっきりと断言していた。趣旨はこうである。
 山登りは元より愚鈍な行為なので人には勧めない。山に行かなくて済むのなら、やめた方がいいと。山に登りながら、入試もパスして出世しようとするのは間違いである。こういう人は必ず山から落ちる。自分は試験に落ちたため、山から落ちずに済んでいる。山に登るなら試験に落ちて慌てず、偉くなろうなどとは思ってはいけない。この心得が最も大切である。そういえば、筆者は一度も山から落ちたことはない。もう、十分に試験に落ちた証しだろうか。
 
 47NEWSの主たるユーザーは四十、五十代以上の方たちだ。中高年ともなれば人生経験も豊富で、落第や冷や飯の経験も一度や二度ではあるまい。ほぼ全員がヤマノボリの有資格者である。
  世間をにぎわせるニュースは利口がやった立派な行いより、利口でない人間がやった愚かな行為の方がはるかに多く面白いのはどうしてだろう。大臣が酔っぱらって記者会見したり、検事や裁判官が痴漢したり・・・いやはや。それに比べれば、ヤマノボリはずっと上等のはずである。
 開設に当たっては、山を抱える各新聞社に声を掛け、お知恵を随分と拝借した。幹部の方々には山男がいらっしゃり、貴重なアドバイスを頂いた。この場を借りて心より厚く御礼申し上げたい。「山への誘い」はこちらhttp://www.47news.jp/localnews/mountain/(47NEWS編集デスク・大村峰晴)

2009/06/15  
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