「卵と壁」 村上春樹スピーチで考えたこと
このコーナー「編集部から」では47NEWSの編集スタッフがサイト制作の裏話や新たに盛り込まれたコンテンツを紹介したり、日ごろの業務で感じていることなど、編集者の生の声をお伝えします。投稿欄も併設しましたので、ご意見などをお寄せください。
私事になりますが、豪雪の(といっても今年は暖冬だったので実はそれほどでもなかったのですが)青森から編集部に移ったのはこの2月でした。ネットは利用するだけという生活が一変し、見よう見まねでやってきましたが、この4カ月で一番印象的だったのが、作家・村上春樹氏のスピーチの翻訳でした。翻訳はこちら
イスラエル最高の文学賞「エルサレム賞」授賞式でのスピーチです。「壁と卵」というキーワードで有名になったもので、さすがに当代一流の作家らしくユーモアを交えながら、極めて格調高い文章となっています。
村上氏が授賞式に出席することについては、国内で賛否両論が沸き起こりました。彼もスピーチで言っています。
「真実をお話しします。日本で、かなりの数の人たちから(中略)出席しないように、と言われました」と。
彼は「イスラエルへ来て、文学賞を受けることが果たして正しい行為なのか、授賞式に出席することが戦闘している一方だけを支持しているという印象を与えないか、圧倒的な軍事力の行使を行った国家の政策を是認することにならないか」と「何度も自問自答した」と言います。
スピーチの内容はこのサイト内でご覧になっていただければ分かるのですが、「圧倒的な軍事力」を持つイスラエル側に結構きつい内容となっています。受賞、あるいは授賞式出席を拒否し、抗議の意を表明するというのも選択肢だったでしょうが、あえて現地に赴き、イスラエル批判色の強いスピーチを行ったということは、勇気ある行為と評価していいと思っています。
というのはかつて3年と少しエルサレムで暮らした経験を思い出したからです。この街は政治と宗教でがんじがらめになり、ユダヤ人とパレスチナ住民との衝突やテロも多く、「深呼吸できない街」と評する人がいるほど緊張感いっぱいです。
いつ止むともしれない2000年来のパレスチナ紛争。それもイスラエル軍がパレスチナ住民の住む地中海沿岸のガザ地区に連日攻撃を加え、双方の憎悪が渦巻く中、まさにそういうタイミングで授賞式は開かれたのです。
「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」という有名なフレーズに、ある文芸評論家が「壁側に立つなんて言う人がいるだろうか」と批判しましたが、紛争の象徴とも言えるエルサレムの地でよくここまで言ったなあ、というのが私の正直な印象でした。
「小説家として、つまり嘘を紡ぐプロという立場でエルサレムに来ました(中略)小説家だけが嘘をつくわけではありません。よく知られているように政治家も嘘をつきます」
小説家の「嘘」はさまざまな世界へ私たちを誘う魔法です。村上氏も「(小説家は)その嘘が大きければ大きいほど、うまい嘘であればいっそう、一般市民や批評家からの称賛が大きくなります」とスピーチで述べました。
ジャーナリストの端くれとしては、小説家の「嘘」とは違う、見破らなければならなかった「嘘」にどれだけ気付くことができたか、「卵」側に立ち続けているのか、そう自問しながらの翻訳作業でした。
私事になりますが、豪雪の(といっても今年は暖冬だったので実はそれほどでもなかったのですが)青森から編集部に移ったのはこの2月でした。ネットは利用するだけという生活が一変し、見よう見まねでやってきましたが、この4カ月で一番印象的だったのが、作家・村上春樹氏のスピーチの翻訳でした。翻訳はこちら
イスラエル最高の文学賞「エルサレム賞」授賞式でのスピーチです。「壁と卵」というキーワードで有名になったもので、さすがに当代一流の作家らしくユーモアを交えながら、極めて格調高い文章となっています。
村上氏が授賞式に出席することについては、国内で賛否両論が沸き起こりました。彼もスピーチで言っています。
「真実をお話しします。日本で、かなりの数の人たちから(中略)出席しないように、と言われました」と。
彼は「イスラエルへ来て、文学賞を受けることが果たして正しい行為なのか、授賞式に出席することが戦闘している一方だけを支持しているという印象を与えないか、圧倒的な軍事力の行使を行った国家の政策を是認することにならないか」と「何度も自問自答した」と言います。
スピーチの内容はこのサイト内でご覧になっていただければ分かるのですが、「圧倒的な軍事力」を持つイスラエル側に結構きつい内容となっています。受賞、あるいは授賞式出席を拒否し、抗議の意を表明するというのも選択肢だったでしょうが、あえて現地に赴き、イスラエル批判色の強いスピーチを行ったということは、勇気ある行為と評価していいと思っています。
というのはかつて3年と少しエルサレムで暮らした経験を思い出したからです。この街は政治と宗教でがんじがらめになり、ユダヤ人とパレスチナ住民との衝突やテロも多く、「深呼吸できない街」と評する人がいるほど緊張感いっぱいです。
いつ止むともしれない2000年来のパレスチナ紛争。それもイスラエル軍がパレスチナ住民の住む地中海沿岸のガザ地区に連日攻撃を加え、双方の憎悪が渦巻く中、まさにそういうタイミングで授賞式は開かれたのです。
「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」という有名なフレーズに、ある文芸評論家が「壁側に立つなんて言う人がいるだろうか」と批判しましたが、紛争の象徴とも言えるエルサレムの地でよくここまで言ったなあ、というのが私の正直な印象でした。
「小説家として、つまり嘘を紡ぐプロという立場でエルサレムに来ました(中略)小説家だけが嘘をつくわけではありません。よく知られているように政治家も嘘をつきます」
小説家の「嘘」はさまざまな世界へ私たちを誘う魔法です。村上氏も「(小説家は)その嘘が大きければ大きいほど、うまい嘘であればいっそう、一般市民や批評家からの称賛が大きくなります」とスピーチで述べました。
ジャーナリストの端くれとしては、小説家の「嘘」とは違う、見破らなければならなかった「嘘」にどれだけ気付くことができたか、「卵」側に立ち続けているのか、そう自問しながらの翻訳作業でした。
(47NEWS編集長 細川洋嗣)
2009/06/08
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