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コラム

問われるチームの規律 NFLの人種差別問題に思う

2014/03/08 【松元竜太郎】

NFL初の女性トレーナー、スティーラーズの磯有理子さん=2011年、アーリントン 
NFL初の女性トレーナー、スティーラーズの磯有理子さん=2011年、アーリントン 

NFL初の女性トレーナー、スティーラーズの磯有理子さん=2011年、アーリントン 

 「お前たちは羊と戯れていろ」―。学生時代に留学したオーストラリアで、とても優しい下宿先の老夫婦がニュージーランド人を差別的な言葉で口汚くののしった。その後はどんなに親切にされても、彼らを心から信頼することはできなかった。それまで日本で暮らしていて気付かなかったが、人種差別とはこんなにも醜いものなのかと思い知らされた。


 米プロフットボールNFLのマイアミ・ドルフィンズが揺れている。ジャパンタイムズの生沢浩さんが小欄のコラムで取り上げているが、選手同士の「いじめ問題」は人種差別問題へと発展した。NFLが実施した調査報告書から、同チームの選手による日本出身アシスタントトレーナーへの人種差別的な言動があったという事実が浮かび上がったからだ。


 差別と闘いながら米国で黒人初のプロ野球選手となったジャッキー・ロビンソンの生涯が昨年映画化されたが、それは半世紀以上前の話。現在は差別がなくなったとは決して思わないが、成長著しい米プロフットボールの世界でこのようなことが起きていたのはかなり意外だった。
 様々な人種のアスリートやスタッフが活動する米スポーツ界の実情はどうなのだろうか。米国のスポーツチームでスタッフとして働いた経験がある2人の日本人に話を聞いた。


 全米各地の大学でバレーボール、サッカー、陸上などのチームトレーナーとして約7年間活動してきた高谷温子さんはこう語る。「程度の差はあれ、どのチームでも差別的な言動、行動は存在した。実際に、フラストレーションがたまった選手から差別的な発言を受けた経験はあるが、多くの場合は、本人が差別をしているという意識や感覚がなく使っていることがほとんど」
 さらに高谷さんは、米国人アスリートの意外な一面も指摘した。「けがで苦しんだり、周囲の期待に応えられずに思い悩む選手が少なくなかった。うつ病などになってしまう選手もいた」。米国ではカレッジスポーツはビジネスになっており、学生アスリートの奨学金制度やサポート環境が充実している。その分、実力主義で学業成績を含めた結果が求められるため、選手には相当なプレッシャーがかかるようだ。思い悩んだ末に自殺してしまったフットボール選手もいたという。


 1996年シーズンにピッツバーグ・スティーラーズの広報、マーケティング部門のスタッフとして勤務した徳升宏臣さんはこう言った。「チーム内で差別のような言動、行動は一切なかった」。当時のオーナーは毎日現場を訪れて、選手、スタッフ全員に声をかけるのが日課だったという。
 さらにコーチ陣はもちろん、リーダー格の選手の影響力が強く、チームを常に正しい方向へと導いていたそうだ。「チーム全体がまるで一つの家族のようだった。スティーラーズファミリーという言葉がぴったりだった」。2002年から磯有理子さんが女性初のNFL球団専属トレーナーとしてスティーラーズで活躍してきた事実を見ても、その背景にはスティーラーズというチームの文化、伝統が関係しているようだ。


 一方、ドルフィンズの件についてジャパンタイムズの永塚和志記者と話をしていると、興味深い事実を教えてくれた。以前にドルフィンズの球団副社長だったビル・パーセルズがダラス・カウボーイズのヘッドコーチ時代に、「ダラスでは奇襲的な作戦をジャッププレーと呼んでいる」と日本人記者がいる中で発言して問題になったというのだ。
 パーセルズはもうドルフィンズを去っているとはいえ、NFLの調査報告を見る限り、差別的な言動、行動を許容してしまう土壌が、少なからずチーム内にあったと言えるだろう。


 これらの話から今回の差別問題をどう読み解くか。まず人間は弱い生き物だということだ。自分が順風満帆の時は人に優しくできるが、うまくいかなくなるといらいらして周囲にあたりちらす。これは人種差別に限らず、日本でも身の周りで目にする光景だ。当然、攻撃の対象となるのは自分より弱い者たち。多様な人種が存在する米国では、それがマイノリティーを意味するのだろう。


 私は性悪説を信じているわけではないが、そんな本来弱い人間の方向性を大きく左右するのがチーム、組織の存在だと思う。チームにいる以上これだけは守る、こういう行動は許されない。
 いい意味での規律は自分たちのアイデンティティとなって、日々の生活に影響を与える。水野彌一さんが、京大の監督時代に学生が不祥事を起こしたことについて、「やめられたら困るので、選手に迎合し甘くなってしまった」とコラムで当時をふり返っていたのが印象的だ。


 以前に鹿島(現リクシル)の選手がこんなことを言っていた。「(ヘッドコーチの)森さんの下でプレーしている以上、こういう汚いプレーは絶対にできない」。フットボールのコーチは技術を教えるだけではなく、人間として大きな影響を与える。長い時間を共有する学生にとってはなおさらだ。
 日本ではボランティアで指導しているコーチがほとんどで大変だとは思うが、ぜひ人間的にも素晴らしいフットボール選手をたくさん育ててほしい。


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