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「リリー、勉強の時間ですよ」
日曜日の昼下がり。馮和/ブン/(ひょう・わぶん)宅で、妻の劉輝(りゅう・き)(35)が小一の長女、馮世容(ひょう・せよう)(6)を英語名で呼び掛ける声が響いた。英語の個人レッスンに行く時間だ。
両親が見守る中、自宅のリビングでピアノを弾く馮世容ちゃん=1月27日、北京市内(共同)
最高学府の1つ清華大の付属高校で英語を教える劉。高校の部屋を間借りして、週に1回1時間半、同付属小に通う世容の同級生の母親3人とともに英国人教師を雇っている。
「What is your name?(お名前は)」「I am Lily(私はリリーです)」。大き過ぎる高校生用のいすにちょこんと座って、笑顔で答える世容。始めてからわずか5カ月だが、すらすらと英語が出てくる。
中国での“英語熱”は、最近さらに高まる一方だ。「北京五輪が目前になってきて、世界に対して目が開かれてきた」。劉はそう分析する。学校での担当は高3。6月に全国統一入試を控えていることもあり、多くの生徒が「受験終了後に、五輪で英語を使ってボランティアをしたい」と勉強に意欲的だ。
英国人の教師から英語を習う馮世容ちゃん(右から2番目)ら。始めてからわずかだが、先生の質問には英語ですらすらと答える=1月27日、北京市内(共同)
だが授業は厳しい。通常の授業が始まる一時間前の早朝7時から毎日補習が行われる。教室正面に広げられたスクリーンに次々と映し出される難題。「早く、早く」と英語で解答をせかす劉。私語をする生徒は一人もいない。みな黙々とノートに写し取り、緊張感が教室全体にみなぎる。
馮夫妻の教育にかける思いも強い。「もし中国経済が失速しても、教育があれば成功できる」と馮。世容は毎週末、土曜にピアノ教室、日曜には英語に加え、ダンスのレッスンも受けている。
馮が教室への送り迎えのため愛車のフォルクスワーゲン(VW)を走らせる路上には、寒空の下で肉体労働する農村からの出稼ぎ労働者があふれる。「彼らは教育を受ける機会がなかったから、苦しい生活になってしまうんだ」。北京市当局は治安上の理由で五輪直前には労働者らを農村に追い返す。彼らの子供向けの学校も強制的に閉鎖し、“教育格差”はますます広がる。
日本に語学留学と仕事で五年以上滞在した馮。英国に修士課程で一年留学した劉。ともに「娘に必ず海外生活を経験させる」と決めている。自宅にはソニーのミニコンポや三菱電機のエアコン、オランダのフィリップスのテレビなど高価な外国製電化製品があふれる。
2006年9月に世容がピアノ教室に通い始めた翌日には、ピアノも購入した。北京市民の平均月収の5カ月分の1万元(約15万円)したが「全然高くない」と馮。レースの付いた白いカバーがかかったピアノで、世容がメンデルスゾーンの「春の歌」を奏でる。先生になって、大勢の生徒を育てることが将来の夢だ。(敬称略)(共同)