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五輪と無縁の脱北者  援助の朝鮮族は北京で観戦

「五輪なんて関係ない。生活するのに精いっぱいで…」。数秒間の沈黙の後、パク・ミジャ(37)はうつむきながら答えた。中国吉林省延辺朝鮮族自治州の竜井市にあるアパートの一室。

1996年12月、北朝鮮からの脱出(脱北)は2度目という友人の誘いで、咸鏡北道・会寧から凍り付いた豆満江(中国名、図們江)を歩いて渡った。友人の親族が住む村を訪ね、そこで先妻を亡くした朝鮮族の男性(45)を紹介され結婚。友人はミジャを置いて数日後に北朝鮮に戻った。

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吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉市内には、ハングルと漢字の看板が混在する。朝鮮半島の影響が非常に感じられた=1月22日(共同)

それから11年間、公安局に捕まらないよう外出も控え暮らしてきた。夫が工場の作業員などをして稼ぐ1日約30元(450円)が唯一の収入。小学1年になる娘は夫の両親に預けている。

竜井市郊外の農村に住む朝鮮族の崔明淑(チェ・ミョンスク)(55)は、脱北者の困窮を見かね、ミジャら女性数人に衣服などを援助してきた。「(ミジャは)北朝鮮の友人と親族にだまされたにちがいない」。中国に潜む脱北者の多くは女性で、「人身売買のようにして」朝鮮族の花嫁になった人も多いという。

脱北者の多くは、身の安全や豊かな生活を求め韓国へ渡る。ブローカーに払う手数料は1万―数万元。「韓国に行けるわけはないし、考えたこともない」。夫が不安げに見守る中、ミジャはあきらめたように話した。

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ほぼ9割以上の園児が朝鮮族という幼稚園を訪問。笑顔で披露してくれたお遊戯には五輪マークも登場。ところでみんな「北京五輪」って知ってるのかな=1月22日、吉林省延辺朝鮮族自治州の竜井市(共同)

韓国行きを望むのは脱北者ばかりではない。韓国法務省の2007年の統計では、出稼ぎなどのため韓国に長期滞在する朝鮮族は30万人以上。

明淑の二男も幼稚園に通う娘を妻の実家に預け、夫婦2人で韓国で働く。昨年末まで勤めた会社では、月給は夫婦で計約330万ウォン(約37万円)。明淑夫婦のコメづくりの年収の7倍だ。

「今が一番いい暮らしをさせてもらっている」。オンドル(床下暖房)の上には1万元もする健康ベッド。北京で貿易会社を営む長男に漢民族の弁護士に嫁いだ長女、そして二男からの1年の仕送りは計数万元に上る。

五輪が開催される夏に、長男夫婦から北京に招待された。「中国で初めての五輪だから、チケットが買えなくても北京でテレビを見て雰囲気を味わいたい」と明淑。同じ民族より、生まれ育った中国を応援するという。

サッカーファンの夫、金哲秀(キム・チョルス)(59)はそんな妻を少し苦々しげに見ながら「やはり祖先の故郷の北朝鮮を応援する」と話す。自治州の朝鮮族の割合は成立時の62%から36・75%に減少したとはいえ、自治州内では朝鮮語だけで不自由なく暮らせる。明淑夫婦も中国語はほとんど話せない。「だからこそ、逆に延辺の朝鮮族は民族をあまり意識していない」。哲秀はそう言うと、お気に入りの韓国ドラマに見入った。(文中仮名)(共同)