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窯洞に生きる  五輪は遠い世界

所々雪化粧した黄土色の斜面に、いくつもの穴が見える。窯洞(ヤオトン)と呼ばれる横穴式住居だ。五輪開催を前に沸き立つ北京から、南西へ約700キロ離れた陝西省延安市郊外にある小さな農村、李家溝村。テレビで「大イベント」の気配を感じながらも、人々はいつもと変わらぬ日々を淡々と送っている。

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窯洞のアーチ型の玄関から中に入ると王昌祥(60)がソファに座ってテレビを見ていた。北京五輪は「100年に一度の何か大きなイベントが、離れたところで開かれるという感じ」。どこで開かれるかを聞くと「鳥の巣(国家体育場)! テレビで見た」と笑った。

10年前、リモコン付きのカラーテレビを買った。チャンネル数は20を超える。人口五560人の村の出来事と家族や親せきのこと以外は「すべてテレビで知る」

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李家溝村を案内する王昌祥さん。村人は積み上げられた石材や、斜面に掘った穴で作られた窯洞(ヤオトン)で暮らす=1月18日、陝西省延安市郊外(共同)

壁には市中心部に出稼ぎする長男(36)家族4人の大きな写真。孫2人は体育学校に通う。「孫は夏休みに北京へ五輪を見に行くんだと。長男も体育が得意だったし、孫は将来期待できるぞ」。王は自慢げだが、妻の党正蓮(56)は「年も年だし、スポーツなんて分からない」と恥ずかしそうに言って、ジャガイモの皮をむきはじめた。

王は1999年から生産性の悪い土地を森林に戻す「退耕還林」政策で大半の農地を手放した。わずかな土地にアワやジャガイモを植えるが、自分たちが食べる分にしかならない。退耕還林で得られる補助金など年間計約2000元(約3万円)が夫婦の収入だ。北京市の都市住民1人当たり平均年収の10分の1にも満たない。足りない分は出稼ぎの長男と二男に頼る。

数年前、近くの油田から天然ガスが無料で供給されるようになった。部屋の中は暖かい。台所には水道もある。午後7時、アワのかゆ、白菜の漬物、蒸しパンとジャガイモ料理が食卓に並んだ。北京や上海に代表される沿海部の都市とは比べものにならない生活だが、それでも暮らし向きは確実に良くなっている。

食事をしながら夫婦はソファに並んで座り、テレビでニュースや天気予報を見る。食器を片付け、またテレビでドラマを見る。「もう寝ようか」。夜10時ごろ、王はお湯でぬらしたタオルで体をふくと、床に洗面器を置いた。夜は暗くて外にある公衆便所に行けない。トイレの代わりだ。パンツ一枚で布団に入ると、たばこを1本吸ってから電気を消した。

翌朝、庭で飼うニワトリの鳴き声とともに王は目覚めた。たばこに火を付け、昨日と同じ服を着た。農閑期の冬は村の老人たちと世間話をして過ごす。いつもと変わらぬ日常。妻の党は「ここでずっと暮らしていければ私はそれでいい」と言った。(敬称略)(共同)