社説・論説

  • 【北海道新聞】

    疑惑が浮上しては、政府側が否定する。こんなことをいつまでも繰り返すわけにはいかない。ことは行政の公正性に関わる。国会での徹底審議が不可欠だ。学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐる問題で、首相官邸の関与をうかがわせる新たな文書が明らかになった。萩生田光一官房副長官が開学時期に関する安倍晋三首相の意向を文部科学省に伝えたとの内容だ。菅義偉官房長官は、首相がこれについて説明する機会は考えていないという。自民党は、閉会中審査での究明を拒否した。しかし首相は先日、「指摘があれば真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と述べたばかりだ。「国会の開会、閉会にかかわらず」とも言っている。国会は閉会中審査をただちに行うべきだ。文書には、文科省局長に対する萩生田氏の発言として「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」「官邸は絶対やる」などの記述がある。萩生田氏は「首相からいかなる指示も受けたことはない」と内容を全否定した。ならばなぜこうした文書が存在するのか。その背景にはどんなことがあったのか。文書が何らかの事実を反映しているとすれば、官邸の圧力を示す証拠となり得る。水掛け論ではいつまでも疑いだけが残る。首相も萩生田氏も本意ではあるまい。閉会中審査では、萩生田氏の証人喚問も視野に入れるべきだ。そもそも今回の文書はなぜ、これまで公表されなかったのか。松野氏は、前回調査は野党が示した文書が対象だったと釈明したが、説得力を欠く。都合が悪いことは隠し通す「隠蔽(いんぺい)体質」が、政権の随所に感じられるからだ。政権内からは、隠蔽どころか、内部告発の抑制ともとれる発言まで出ている。義家弘介文科副大臣は国会答弁で、この問題を告発した文科省職員の証言が「国家公務員法違反になる可能性がある」と述べた。公益通報者保護法の対象外との認識を示したのだろうが、法律の本旨は内部告発の抑制ではなく、その保護にある。法の要件を外れても、公益性があれば通報者が保護されることは国会の付帯決議で明らかだ。いわば監視される立場にある副大臣がその趣旨を無視し、告発をけん制するとは、あきれる。「1強」の力ですべてを抑え込もうとしても国民は納得しない。

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  • 【河北新報】

    学校法人「森友学園」(大阪市)を巡る一連の問題で、大阪地検が詐欺容疑などで強制捜査に乗りだした。疑惑発覚から約4カ月。いまだに真相はベールに包まれたままになっている。この事件を突破口にして全容を解明すべきだ。容疑は、法人が経営する幼稚園で、教員が専任の場合に支給される人件費や、障害のある園児の受け入れ補助金について虚偽の申請をした。大阪府から計約6200万円を不正に受け取った詐欺の疑いなどが持たれている。園児らに教育勅語(ちょくご)を暗唱させ古い道徳観を押し付ける一方、公金をだまし取っていたのだとしたら極めて悪質だ。渦中の籠池泰典前理事長(64)の刑事責任が問われるのは必至とみられるが、今回の容疑は学園を巡るさまざまな疑惑の一端にすぎない。核心は、大阪府豊中市の旧国有地が昨年6月、当初の鑑定価格から8億円も値引きされ、小学校の建設用地として学園に売却されたことだ。学園と親交があった安倍晋三首相や妻昭恵氏の関与の有無が取り沙汰される中、籠池氏は証人喚問で昭恵氏付きの政府職員から自身に送られたファクスの存在を明かした。中身は土地の借地契約などについて財務省に要望を伝えてもらった回答だったが、その後の土地取引が順調に進み、籠池氏は「神風が吹いた」などと証言した。昭恵氏からの指示はなかったのか。首相夫人としての影響力の大きさが、官僚の判断をゆがめたのではないか。国民の疑念は残されたままだ。旧国有地問題は、近畿財務局が不当に安く売却したとする背任容疑で告発状が提出され、地検は受理している。しかし、財務局は籠池氏との面会記録などの文書を廃棄し「事案終了」を決め込む始末だ。そうであればなおさら、地検は断固とした決意で解明に踏み込むべきだろう。ただ、疑惑発覚後、時間がたっており、証拠隠滅の恐れがないとは言えまい。なぜ、もっと早く捜査に着手しなかったのか、疑問を感じざるを得ない。さらに国会の閉会直後というタイミングは、政治への配慮もありありだ。取材に対して籠池氏は「国策捜査であり、逮捕されると認識している」と覚悟を決めている。一方で旧国有地問題については「立件となれば総理夫妻が捜査対象になる。総理のご下命があり、それを忖度(そんたく)する形で動いたと思っている」と改めて指摘する。小学校開設を目指した籠池氏の計画は、実現寸前で頓挫したものの、経営的に多くの問題を抱えていた小さな法人が、なぜ国の官庁と対等に渡り合えたのか。どうやって首相夫妻と懇意になれたのか。その不透明な経過が明らかにならなければ、政治はまた同じ轍(てつ)を踏むことになる。昭恵氏の説明責任は果たされなければならない。

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  • 【東奥日報】

    東京都の小池百合子知事が築地市場を豊洲市場へ移転させることを正式表明した。昨年8月の就任直後、「立ち止まって考える」として移転を延期してから、決断まで時間がかかったのは否めない。小池知事は、豊洲の地下水の安全性が確認されれば移転を判断するとみられていた。だが、今年1月に環境基準を大幅に上回る汚染が見つかったことなどから、移転を早期に表明するシナリオが狂ったとも分析できる。小池知事が明らかにした方針で、首をかしげざるを得ないのは、築地市場跡地の再開発だ。これまでの売却方針を撤回し、競りなど市場機能を持たせた「食のテーマパーク」として5年後をめどに整備するという。豊洲市場は約6千億円かけて整備され、追加の汚染対策も施す。さらに年間100億円近い赤字が見込まれる。この穴埋め策を探すという知事の問題意識は分かる。だが豊洲と築地の二つの市場が両立するかは慎重な分析が必要だ。現在の築地でも、産地直送が広まり魚の取扱量は減ってきている。外国人観光客が市場を見学することは観光の一つの目玉だろうが、衛生面を考えれば限定的であるべきだ。知事は築地ブランドを強調するが、築地という場所がブランドではない。築地に出荷するため行う漁師らの魚の処理に始まり、輸送、築地での卸売りと仲卸の業者による魚のていねいな取り扱い、そして東京での食事までのトータルがブランドを形成する。築地に施設を造れば観光客が集まるわけではない。小池知事が示した「築地は守る、豊洲を生かす」というのは、23日に告示される都議選に向けたキャッチフレーズのように映る。再開発後の築地に市場機能を持たせるというのは移転反対派に対する政治的な配慮と言えるだろう。小池知事は自ら創設した地域政党「都民ファーストの会」代表として都議選を戦う。名古屋や大阪の例を見ると、首長が地域政党を率いることによって、議会内の対立が激化し、首長が進めたい政策に対する反対が強まる傾向がある。政策の中身より、党利党略が優先されるからだ。都議選後、議会でもこの移転方針が焦点となる。議会は知事をチェックするためにある。骨太の議論によって、実現可能性が高い築地再開発になることを期待したい。

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  • 【デーリー東北】

    財政健全化目標政権の本気度に疑問符(6月22日)安倍晋三首相の政権は、借金まみれの国の財政を健全化していく道筋をきちんと国民に示す努力が足りないのではないだろうか。閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針)を見る限り、政権の本気度に疑問符を付けざるを得ない。政府は「経済・財政再生計画」で、過度の国債発行など借金に頼らずに税収などの歳入によって政策的経費を賄うことを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を20年度に黒字化する目標を掲げている。次世代に対して、今ある財政赤字のつけ払い負担を軽減させていく、当然の政策課題だ。「骨太方針」には「財政健全化目標の重要性に変わりはない」として黒字化目標を明記した。だが同時に、国内総生産(GDP)に対する、国と地方の借金である債務残高の比率の安定的な引き下げを目指すことを新たに明記している。国と地方を合わせて1千兆円を超す債務残高の圧縮は政策課題だ。財政健全化に向けて二つの目標を掲げたこと自体は悪くはないが、目標達成に同時に取り組むことが前提となる。PBの黒字化が達成されていなくても、債務残高の対GDP比率が縮小されていればよしというわけにはいかない。次世代へのつけ回し分が、必ずしも軽減されることにはならないからだ。安倍政権は「骨太方針」で、働き方改革の推進や教育など人的投資を積極的に進める政策を打ち出している。さらに消費の活性化や公共投資への重点化などの政策を進めるとしている。いずれも経済の成長力を高めることにつなげたい政策だ。そこには成長を伸ばすことで債務残高の対GDP比率を下げる効果に狙いがあるとも言える。現状では、税収の伸びも大きくは期待できず、20年にPBを黒字化する目標の達成は楽観できる状況にはない。だからといって、成長力を高め、名目GDPを増やして債務残高の比率を低下させるという手法に頼ることは、財政健全化を目指す王道の手法ではない。歳入と歳出の構造的な改革を進めてPBの均衡実現を目指す手法を優先させるべきだ。安倍政権は19年10月に消費税率を10%へと引き上げる政策課題を背負っている。PB目標に代えて債務残高のGDP比率に目標を切り替えることで成長重視を掲げ、消費税増税先送りの布石とするようなら、財政健全化にとって本末転倒だ。

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  • 【秋田魁新報】

    本県はがんや脳血管疾患など生活習慣病による死亡率が長年、全国平均を大きく上回っている。そうした状況を改善しようと佐竹敬久知事は開会中の6月県議会で、健康づくりの県民運動を7月から展開する方針を示した。県民一人一人の健康増進への意識を高め、生活習慣を見直すことで、死亡率の改善などを図るのが狙いだ。塩分の取り過ぎ防止など、これまでも生活習慣改善の取り組みは行われてきたが、成果はなかなか上がっていない。県民運動の実施に当たっては、従来の取り組みを点検して問題点をあぶり出し、効果的な対策につなげてもらいたい。厚生労働省が今月発表した2016年の人口動態統計によると、本県のがん死亡率(人口10万人当たり421・2)は20年連続で全国ワーストだった。脳血管疾患の死亡率(同161・4)は2年連続のワーストで、過去10年間はワースト3の内で推移している。中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会秋田支部の健診結果の分析では、メタボリック症候群や糖尿病、高血圧といった生活習慣病の発症リスクを示す県民の数値は全国平均に比べていずれも高い。こうした傾向をどう改善するかが大きな課題になっている。がん発症の割合は高齢になるにつれて高まるため、本県など高齢化が進んでいる地域ほど罹患(りかん)率、死亡率は上昇する傾向にある。だが、年齢構成の偏りによる影響を除いた「年齢調整死亡率」(15年)でも本県のがん死亡率は男性2位、女性3位となっており、高齢化だけが高い死亡率の原因とは言えない。生活習慣病には塩分摂取量や飲酒量、運動量、喫煙などさまざまな要因が関係している。厚労省の調査では、本県は食塩摂取量や喫煙率が全国で上位にある一方、運動量の目安となる1日平均の歩数は下位だ。まずは病気予防の面から生活習慣を見直していくことが重要になる。県は健康づくり運動を推進する事業費を、6月県議会に提出した補正予算案に計上。市町村や関係団体と一体となった県民運動組織を来月設立するなどして▽食生活改善を啓発する人材の育成▽中高年の運動実施率の向上▽冬場の運動不足解消のためショッピングモールを活用したウオーキングの開催—といった対策を進めていくという。県は健康指標の改善を目指して04年に「健康づくり推進条例」を制定したほか、11年度には「がん対策室」を設けて総合的な対策を進めてきた。しかし現状を見る限り、十分な効果は表れていない。県民運動の展開により、生活習慣改善に向けた県民の意識改革と主体的な行動を加速させることができるのか。機運を盛り上げながら施策の実効性を高めるためにも、高齢化の進行状況など地域の実情に即したきめ細かな対応が求められる。

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  • 【岩手日報】

    公立図書館が進化している。本に親しんでもらうために、本を仕事や社会事業に役立ててもらうために、意欲的な活動を展開している。もちろん、本などの資料を収集、整理・保存し、貸し出すという基本に変わりはないが、活用を促す創意工夫が高まっている。そのような変化は、盛岡市で開かれた北日本図書館大会岩手大会でもうかがえた。事例発表した奥州市立前沢図書館、雫石町立図書館などが多彩な事業を紹介した。注目を集めた中に福島県小野町の「図書・新聞に親しむ条例」がある。議員発議によって2年前に制定。表現力を高め、創造力を豊かにすることなどが狙いだ。図書館を備えた「小野町ふるさと文化の館」の職員によると、町の各課や住民に理解が広がり、読書事業の実現がスムーズになり、予算も付きやすくなったという。子育て支援課と連携した事業もその一つ。町の育児教室に合わせ、ゼロ歳児と親に絵本の大切さや楽しさを伝えている。条例による後押しは、他自治体の参考になろう。存在感を強める図書館。業界事情に詳しいジャーナリストの猪谷千香さんは「自治体が、まちづくりの核に据えるようになった」と解説する。背景には市街地活性化、福祉、教育、貧困など地域のさまざまな課題がある。「コミュニティーの力で課題を解決できないかというとき、図書館の役割が期待された」というわけだ。「最も使われている公共施設」でもある。ただ、頻繁に利用する人がいる一方で、なじみの薄い人がいる。有用性を多くの人に知ってもらうことが図書館の役割を広げる。そのため、駅舎への併設など立ち寄りやすい場所への設置も増えている。また、館内の設備や運営に住民の声を反映させて関心を高めてもらうため、建築前から参画を促す試みがみられる。愛され、活発に利用される図書館に規模の大小は関係ない。取り組みの自由度は、むしろ小さな館にこそあるかもしれない。一層の役割が期待されるが課題もある。自治体の財政難を反映し、資料購入費は抑制、減少傾向にある。職員は非正規が増えノウハウ継承に懸念が出ている。指定管理者制度を巡る問題も指摘される。作家や出版社からは新刊本の扱いについて「貸し出しまでの猶予期間を設けるべき」との意見もある。特に、ベストセラー本を多く購入するケースが問題視される。一方で図書館は本好きを増やす場所でもある。共存共栄のため、それぞれの立場で本に関わる人が知恵を出し合ってほしい。(2017.6.22)

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  • 【福島民報】

    【消防団担い手確保】郡山市の取り組み注目(6月22日)郡山市は今月、消防団員の確保と地域の防災力向上を目指し、「市消防団あり方検討会」を設置した。団員の処遇や環境の整備、特定の活動だけに従事する機能別消防団導入など幅広く検討し、11月をめどに市に提言する。地域防災を支える消防団が活動しやすくなるよう、有効な対策を打ち出してほしい。消防団の担い手不足は、郡山市に限らず多くの自治体が長年抱える課題だ。県の消防防災年報によれば、昨年4月1日現在、条例で定めた定数を満たしていた団は本宮、磐梯、檜枝岐の3市町村しかない。郡山市は定数2700人に対して2512人で、充足率は93%となっている。就業構造の変化が団員の減少につながっている。以前は自営業者や農家の団員が多かったが、会社員や公務員ら被雇用者の団員に占める比率は平成に入って6割を超え、昨年の全国平均は72.9%になった。郡山市はそれより高い75.8%だ。団員は仕事中でも、火災や災害があれば現場に駆け付ける。仕事との両立が難しいと考えて入団をためらう人も多いという。国は2006(平成18)年に消防団活動に協力する事業所を顕彰する「消防団協力事業所表示制度」を構築し、市町村とともに認定を進めている。さらに2013年12月には「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」を制定した。消防団を地域防災に欠くことのできない代替性のない存在と規定し、入団促進に向け、自治体や事業者に協力を求めている。防災力の向上に法律や国の制度をもっと生かしたい。郡山市内の消防団協力事業所は10社だが、いわき市には42社ある。全国には、協力事業所への報奨金給付や行政広報誌の広告料無料化、消火器の提供などの支援を用意する自治体もある。郡山市も事業所の理解を広めるための優遇制度を打ち出してはどうか。機能別消防団制度も導入したい。予防活動に特化した学生消防団や、就業時間内に事業所が立地する地域の災害に対応する企業消防団など、活動の範囲や時間帯が限定されれば入団しやすくなる。団員の裾野を広げることで地域の防災意識高揚にもつながる。一般の人に消防団の重要性を認識してもらうことも大切だ。消防署と消防団の違いが分からない人も多いのではないか。市民生活を守るためにどのような活動をしているのかもっと広報したい。団の変革と周辺の理解という環境整備を進めて、より一層、団員も市民も誇れる消防団を築いてほしい。(鈴木俊哉)

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  • 【福島民友新聞】

    どうすれば県産品を手に取り、買ってもらえるか。戦略を練り直し、実効性を高めるべきだ。県が、県内と首都、阪神、中京の各圏、北海道、沖縄県の消費者計1500人を対象に、東京電力福島第1原発事故に伴う県産品のイメージを調査した。結果から見えるのは、県外での県産品に対する不安の根強さと、出荷前に行っている放射性物質検査を知らない人の増加、そして県産品が店頭に並べられていない現状だ。県は現実を直視して、確実に手を打たなければならない。県産品を安心して食べられるかとの問いに「そう思う」「ややそう思う」人は、県内が8割強に対して、県外は6割強にとどまる。これは放射性物質検査を実施していることについて「知らない」人が県内では1割未満だったのに対して、県外が4割強にも上る状況の反映とも言える。県外で検査実施を知らない人は調査を重ねるたびに増える傾向にある。県産品を安心して食べてもらうためには情報発信の維持強化が欠かせない。一方、県産品を「買いたい」「買ってもよい」人は野菜・果物で7割弱、コメで6割強いるが、「実際に購入している」人は野菜・果物が3割に満たず、コメに至っては1割強しかいなかった。調査では、県産品を店頭で「見かける」人が野菜・果物で4割強、コメで3割強にとどまっていることも分かった。この状況を改善しなければ、消費者は県産品を選ぶ機会さえ持てないことになる。農林水産省は県産品の流通実態を調査中だが、原発事故後に変化したと指摘される流通構造の奥深くまでメスを入れなければ、有効な対策を講じることはできない。JA福島中央会が首都圏で行ったアンケートでは「県産品に不安はないが買わない」という「隠れ風評層」の存在も明らかになった。風評が固定化しつつある現状を打破するためには微妙な消費者心理にも配慮した方策が必要だ。正確な情報発信が一層求められるのは国内に限らない。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は19日、「脱原発」を宣言した演説の中で福島第1原発事故に触れ、「漏えいした放射性物質による死者やがん患者の数は把握も不可能な状況だ」と述べた。本県の状況を全く理解していないと言わざるを得ない。韓国はいまも県産品の輸入規制を続けており風評もやまない。トップの発言は重く影響は計り知れない。県や政府は、こうした発言に即座に反応し、認識を正すよう努めなければ、風評対策は一歩も前進しないことを銘記すべきだ。

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  • 【茨城新聞】

    東京都の小池百合子知事が、「日本の台所」とも称される築地市場を、豊洲市場へ移転させる方針を発表した。昨年8月の就任直後、「立ち止まって考える」として移転をストップしてから、移転の決断まで時間がかかったことは否めない。小池知事は、豊洲の地下水の安全性が確認されれば移転を判断するとみられていた。だが、今年1月に環境基準を大幅に上回る汚染が見つかったことなどから、移転を早期に表明するシナリオが狂ったとも分析できる。もともと土壌汚染があった東京ガス工場跡地に、市場を移転すること自体にリスクがあった。このため都側が無害化を約束し、移転同意を取り付けた経緯がある。対策をしたが無害化はできなかったとして、小池知事が謝罪したのは、都行政のトップとして当然の責任だと言える。ただ、汚染によって「豊洲が危ない」とする風評が広がったのは、環境相を経験した知事としてはいただけない。地下水を市場で使うわけではなく、汚染が残っていることと、豊洲市場の安全性には、あまり関係がないことは分かっていたはずだ。消費者の安心を得るため、科学者や行政も含めた幅広い対話を進めて市場の安全性を確認するなど風評被害を抑える努力をもっとすべきだった。小池知事が明らかにした方針で、首をかしげざるを得ないのは、築地市場跡地の再開発だ。これまでの売却方針を撤回し、競りなど市場機能を持たせた「食のテーマパーク」として5年後をめどに整備するという。豊洲市場は約6千億円かけて整備され、追加の汚染対策も施す。さらに年間100億円近い赤字が見込まれる。この穴埋め策を探すという知事の問題意識は分かる。だが豊洲と築地の二つの市場が両立するかは、慎重な分析が必要だ。現在の築地でも、産地直送が広まり魚の取扱量は減ってきている。外国人観光客が市場を見学することは観光の一つの目玉だろうが、衛生面を考えれば限定的であるべきだ。知事は築地ブランドを強調するが、築地という場所がブランドではない。築地に出荷するため行う漁師らの魚の処理に始まり輸送、築地での卸売りと仲卸の業者による魚のていねいな取り扱い、そして東京での食事までのトータルがブランドを形成する。築地に施設を造れば観光客が集まるわけではない。行政主導の再開発がうまくいった例は乏しいということも、肝に銘じるべきだ。小池知事が示した「築地は守る、豊洲を生かす」というのは、23日に告示される都議選に向けたキャッチフレーズのように映る。再開発後の築地に市場機能を持たせるというのは、移転反対派に対する政治的な配慮と言えるだろう。小池知事は自らが創設した地域政党「都民ファーストの会」代表として都議選を戦う。名古屋や大阪の例を見ると、首長が地域政党を率いることによって、議会内の対立が激化し、首長が進めたい政策に対する反対が強まる傾向がある。政策の中身より、党利党略が優先されるからだ。都議選後、議会でもこの移転方針が焦点となる。議会は知事をチェックするためにある。東京の未来を描くような骨太の議論によって、実現可能性が高い築地再開発になることを期待したい。

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  • 【信濃毎日新聞】

    組織の不正や過ちを正そうとする内部告発者を幅広く守れるのか—。加計学園の獣医学部新設を巡る記録文書問題は、公益通報者保護法の不備を改めて浮き彫りにした。「総理のご意向」などと書かれた文書の存在を証言した文部科学省職員について、義家弘介文科副大臣が国会でこんな発言をした。「一般論として、告発の内容が法令違反に当たらない場合、行政運営上のプロセスを流出させることは国家公務員法違反になる可能性がある」守秘義務違反での処分もあり得ることを示唆している。「内容が法令違反に当たらない場合」としたのは、公益通報者保護法の“弱点”を突いている。この法律は、企業の社員や官庁の職員らが組織内の不正を告発しても解雇や降格、減給などの不利益を被らないよう定めている。リコール隠しや食品偽装などの不祥事が内部告発で発覚したのを機に、告発者保護の重要性が認識され、2006年に施行された。ただ、告発者が保護される通報内容は限られる。刑法など刑事罰がある法律に違反する「犯罪行為」を告発した場合だけだ。加計学園問題では、存在する文書を文科省が「確認できない」と言い通してきた。それ自体は犯罪行為と言えず、公益通報の保護対象にならない可能性が高いとされる。消費者庁の有識者検討会は昨年末、制度の見直しについて報告書をまとめた。保護の対象を広げることについて「対象事実に公益性や明確性があるかを踏まえた上で、今後さらに検討する」と結論を先送りしている。記録文書問題での国民への誤った説明に対し「本当のこと」を告発するのは、十分公益性がある。今回の問題をきっかけに保護制度を再び議論し、法改正につなげる必要がある。保護法の対象でないとしても、文書の存在を明かすことが守秘義務違反なのかという問題もある。国家公務員法は「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」と規定し、罰則を設けている。だが、内部文書が全て秘密というわけではない。最高裁判例は「実質的に保護するに値するもの」と限定している。行政の文書は役所のものではない。「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」(公文書管理法)である。むやみに秘密扱いにし、真相を証言した職員を処分するようでは、民主主義を危うくする。(6月22日)

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  • 【新潟日報】

    大火から半年本格復興へ力合わせよう焦げ跡が残る住宅の基礎が広がる被災地は今、重機の音も聞こえない。更地になった街からは離れた通りを歩く人の姿が見通せる。糸魚川市の中心部で昨年12月に147棟、約4万平方メートルを焼いた大火から22日で半年となった。8月末に復興まちづくり計画が策定されれば、本格的な復興が動きだす。つち音が響き、人影が戻ってくるだろう。計画は市の検討委員会が協議中で、大火を防ぐまちづくり、糸魚川らしいまちなみ再生など六つのプロジェクトを掲げている。市は検討委の提言を受けて計画をまとめ、市民の意見も反映させて策定する。再生につながる計画作りに全力を挙げたい。計画にはまちの復興を統一した景観で進めるなど、各団体からも提言が続いている。県内外の金融機関や地元経済団体は連携して復興事業に取り組むための特別部隊を発足させ、資金調達や経営再建を支援する。被災地は市の中心部で、古くから暮らす人が多い。その分、高齢化率が高くなっている。資金力がある人、子や孫と同居している人ばかりではない。既に再建をあきらめた人もいる。公営住宅の整備を急ぐ必要もある。復興では区画再編時の道路幅を6メートル以上にする方針も示されている。延焼を防ぐための措置だ。広くなる道の一部を歩行者専用レーンにすることや、雁木(がんぎ)を再生する案も出されている。現地は焼け跡と、変わらずに生活している家々が細い道を挟んで接している。その様子は東日本大震災の津波の被災地に似ているという指摘がある。まちづくりの学習会では全国の復興支援に携わる弁護士から「被災していない地域も巻き込んだまちづくりをしなければ、『なんで被災地ばかり』という温度差が生まれる」という声が上がった。各地の教訓を生かしていきたい。火災に強いまちづくりも課題である。市は設置が任意とされている小規模店も含め、市内の全飲食店に消火器の設置を義務づける。総務省消防庁は住宅用の火災警報器を、隣接する複数の建物でも連動させる仕組みを検討中だ。糸魚川には大火に強いまちを実現し、全国に手本として示していく責務がある。この半年間の被災者の心境を思う。疲れから、体調を崩す人がいた。先を見通せないままの人もいる。そうした人々が少しでも安心できる復興を進めたい。市は復興まちづくりに向けたスローガンを「カタイ絆でよみがえる笑顔の街道糸魚川」と決めた。目指すのは地元で採れるヒスイのように固い絆だ。復興が現実に動き始めれば、さまざまな課題に直面することもあるだろう。想定外の課題も出てくるかもしれない。困難を越えて前進するために市民が一丸となって力を合わせることが大切になる。より良い地域をつくる機会とも位置づけたい。被災地に笑顔が広がる日に向けて、復興を見守り、支える力も必要だ。全県から後押ししたい。

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  • 【中日新聞】

    沖縄県の大田昌秀元知事が亡くなりました。鉄血勤皇隊として激烈な沖縄戦を体験し、戦後は一貫して平和を希求した生涯でした。沖縄はあす慰霊の日。人懐っこい笑顔の中に、不屈の闘志を感じさせる生涯でした。今月十二日、九十二歳の誕生日当日に亡くなった大田さん。琉球大学教授を経て一九九〇年から沖縄県知事を八年間、二〇〇一年から参院議員を六年間務めました。ジャーナリズム研究の学者として沖縄戦の実相究明に取り組み、知事時代には「絶対に二度と同じ悲劇を繰り返させてはならない」との決意から、平和行政を県政運営の柱に位置付けます。「平和の使徒」として敵味方や国籍を問わず戦没者の名前を刻んだ「平和の礎(いしじ)」を建立し、沖縄県に集中する在日米軍基地の撤去も訴えました。「全ての人々に、戦争の愚かさや平和の尊さを認識させるために生涯を送った『平和の使徒』だった」。長年親交のあった比嘉幹郎元県副知事は告別式の弔辞で、大田さんの生涯を振り返りました。大田さんはなぜ、学者として、そして政治家として一貫して平和の大切さを訴えたのでしょうか。その原点は、大田さんが「鉄血勤皇隊」として、凄惨(せいさん)な沖縄戦を体験したことにあります。太平洋戦争末期、沖縄県は日本国内で唯一、住民を巻き込んだ大規模な地上戦の舞台と化します。当時、四十万県民の三分の一が亡くなったとされる激烈な戦闘でした。鉄血勤皇隊は、兵力不足を補うために沖縄県内の師範学校や中学校から駆り出された男子学徒らで編成された学徒隊です。旧日本軍部隊に学校ごとに配属され、通信、情報伝達などの業務のほか、戦闘も命じられました。女子学徒も看護要員として動員され、学校別に「ひめゆり学徒隊」などと呼ばれます。醜さの極致の戦場で沖縄県の資料によると、生徒と教師の男女合わせて千九百八十七人が動員され、千十八人が亡くなりました。動員された半数以上が犠牲を強いられたのです。沖縄師範学校二年に在学していた大田さんも鉄血勤皇隊の一員として動員され、沖縄守備軍の情報宣伝部隊に配属されました。大本営発表や戦況を地下壕(ごう)に潜む兵士や住民に知らせる役割です。当初は首里が拠点でしたが、後に「鉄の暴風」と呼ばれる米軍の激しい空襲や艦砲射撃による戦況の悪化とともに本島南部へと追い詰められます。そこで見たのは凄惨な戦場の光景でした。最後の編著となった「鉄血勤皇隊」(高文研)にこう記します。「いくつもの地獄を同時に一個所に集めたかのような、悲惨極まる沖縄戦」で「無数の学友たちが人生の蕾(つぼみ)のままあたら尊い命を無残に戦野で奪い去られてしまう姿を目撃した」と。多くの住民が戦場をさまよい、追い詰められ、命を落とす。味方であるべき日本兵が、住民を壕から追い出し、食料を奪う。「沖縄戦は、戦争の醜さの極致だ」。大田さんが自著の中で繰り返し引用する、米紙ニューヨーク・タイムズの従軍記者ハンソン・ボールドウィンの言葉です。その沖縄戦は七十二年前のあす二十三日、日本軍による組織的な戦闘の終結で終わります。大田さんも米軍の捕虜となりました。戦後、大学教授から県知事となった大田さんが強く訴えたのが沖縄からの米軍基地撤去です。背景には「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦からの教訓に加え、なぜ沖縄だけが過重な基地負担を強いられているのか、という問い掛けがあります。沖縄県には今もなお、在日米軍専用施設の約70%が集中しています。事故や騒音、米兵による事件や事故は後を絶ちません。基地周辺の住民にとっては、平穏な暮らしを脅かす存在です。七二年の本土復帰後を見ても、本土の米軍施設は60%縮小されましたが、沖縄では35%。日米安全保障条約体制による恩恵を受けながら、その負担は沖縄県民により多く押し付ける構図です。進まぬ米軍基地縮小九五年の少女暴行事件を契機に合意された米軍普天間飛行場の返還でも、県外移設を求める県民の声は安倍政権によって封殺され、県内移設が強行されています。そこにあるのは、沖縄県民の苦悩をくみとろうとしない政権と、それを選挙で支える私たち有権者の姿です。大田さんはそれを「醜い日本人」と断じました。耳の痛い話ですが、沖縄からの異議申し立てに、私たちは誠実に答えているでしょうか。慰霊の日に当たり、大田さんを偲(しの)ぶとともに、その問い掛けへの答えを、私たち全員で探さねばならないと思うのです。

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  • 【北國新聞】

    北陸が梅雨入りゲリラ豪雨に万全の備えを北陸地方が平年より9日遅く梅雨入りした。空梅雨気味だっただけに、水不足を心配していた農業関係者からは、安どの声も聞こえてくる。恵みの雨に感謝する一方で、ゲリラ豪雨への警戒を忘れず、万全の備えをしてほしい。北陸と同様、空梅雨だった西日本では21日、和歌山県の一部地域で1時間雨量が80ミリを超える集中豪雨が観測された。バケツをひっくり返したような豪雨は、どこにでも起こりうることを肝に銘じておきたい。豪雨で怖いのは、河川の氾濫である。逃げ遅れないために、自治体が作成した洪水ハザードマップを確認し、自宅周辺で想定される浸水被害を知っておくと心強い。近所で浸水しやすい場所を把握し、万一の時にどこに避難するか、今のうちに家族で話し合っておく必要がある。ただ、洪水ハザードマップはあくまで目安であり、洪水がこの程度で収まるとは限らない。最近は温暖化の影響なのか、自然災害の被害が激化する傾向にある。北陸でも想定を上回る豪雨や洪水が多発しており、ハザードマップを過信しないことが肝要だ。石川県や富山県、国土交通省北陸地方整備局は水防法の改正を受け、洪水ハザードマップを改定中である。この改定により、従来想定していた100年に1回の確率で起きる豪雨から、千年に1回レベルの豪雨を想定した新たな浸水被害想定区が示されることになる。国土交通省北陸地方整備局が4月に改定した手取川と梯(かけはし)川の場合、浸水エリアは従来の想定よりも手取川で2・5倍、梯川では1・8倍に広がった。100年に1度のハザードマップでは「安全」だった地域が、「危険」地域と見なされるケースが今後、あちこちで出てくることになろう。石川県の場合は洪水被害が予想される28河川の区域図を改定する予定で、富山県は41河川が改定の対象となっている。全河川の改定作業が完了するのはまだ先だが、100年に1度と千年に1度の豪雨で、自宅周辺がどの程度危険にさらされるか、避難先に変更がないかを確認しておきたい。

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  • 【福井新聞】

    【論説】市場移転問題で小池百合子都知事が、「日本の台所」とも称される築地市場を豊洲市場へ移転させる方針を示した。加えて築地市場跡地を再開発し市場機能を持たせることも明らかにした。都議選を目前に控え「決められない知事」との批判をかわす狙いもあったのだろう。だが、移転時期や計画案、財源は明らかにされず、「豊洲・築地共存」という玉虫色の方針に戸惑う市場関係者も少なくない。早く具体案を示すべきだ。知事が示した基本方針では、豊洲移転後、2020年東京五輪前に環状2号線を開通させ、跡地は当面五輪用の輸送拠点として活用。移転5年後をめどに再開発し、食のテーマパーク機能を有する新たな市場にする。関係者によると、豊洲へは安全対策を実施した上で、来年5月ごろにも移転するという。知事は会見で「地下空間工事、モニタリングなどをしっかりとすることが必要」とした。専門家からは汚染地下水を市場で使うわけではないと指摘されていた中で、「豊洲が危ない」とする風評が広がってしまった。安全対策の一方で、こうした風評を払しょくするよう努めてもらいたい。ただ、築地の再開発については首をかしげたくなる。「築地のブランド力と地域の魅力を一体化させた食のワンダーランドをつくりたい」などとしたが、どんなものを整備するのかが見えてこない。市場関係者が「築地ブランドは場所ではなく、ここでやりとりしている魚や人」と反論するのもうなずける。方針は、都議選に向けて市場内の移転推進派、反対派双方、さらには都議会内の推進、反対両勢力に配慮した苦肉の策との見方もある。自民都議から「八方美人みたいな、どこでもいい顔をするプランだ」と揶揄(やゆ)する声も出ている。豊洲は約6千億円掛けて整備され、追加の安全対策費も必要になる。移転後には毎年100億円近い赤字が見込まれる。そのため再開発した築地の稼ぎで穴埋めしようとの考えだが、再開発の費用がどの程度なのかが示されないのでは、都民は納得しないだろう。知事は、移転反対の声が強かった仲卸業者が豊洲から築地へ戻ることも認めた。「業者の経営判断」と知事は業者任せにするが、取扱金額、仲卸の業者数はこの25年で半減している中、豊洲、築地で卸、仲卸業者が分断する形になるのでは、市場の一体性への悪影響や、赤字の増大につながりかねない。二つの市場が両立するのか、慎重な見極めが必要だ。都議選では各党が移転問題を争点とする構えの中、多くの疑問を残したままでは、知事が代表を務める「都民ファーストの会」の候補者たちはどう説明するのか。「築地は守る、豊洲は生かす」には、まだまだ肉付けが必要だ。 

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  • 【京都新聞】

    東京都の築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)への移転問題について、小池百合子知事が基本計画を示した。市場を豊洲に移転したあと、築地は売却せずに5年後をめどに観光拠点として市場機能を持たせて再開発する内容だ。豊洲新市場には汚染対策費を含めて整備費6千億円がすでに投じられている。しかも、毎年92億円の赤字が見込まれる。築地市場を売却して資金を得る計画は白紙に戻して、「食のテーマパーク」として新しい施設で再生するという。築地市場は開場から82年になって、手狭で老朽化したことを理由に2キロ余り離れた豊洲市場が新設された。しかし、施設の地下部分に設計通りに盛り土がなく、ベンゼンなどの汚染物質が相次いで検出され、東京都は昨年8月に移転延期を決めていた。いくら東京都とはいえ、二つの中央市場は必要なのか。取り扱いの仕分けもなく、構想は場当たり的にすぎないか。新市場の資金調達の方法も示さずに、豊洲移転の具体的な時期についても、会見で明言を避けた。旧知の一部顧問とは話を重ねたものの、都庁幹部との協議不足は明らかだ。政策の詰めが甘く、実現性は見通せない。小池知事は、「築地は守る、豊洲は生かす」を基本方針にしたという。移転延期後、市場関係者は豊洲への移転を希望する人と築地残留派に分かれていた。23日告示の東京都議選を直前に控え、小池知事が緊急会見で方針を示した。移転を巡って「何も決められない知事」として小池知事への批判を強める自民党に対して違いを演出したのだろうが、関係者には玉虫色の決着にしか映らない。いったん豊洲に移った業者が再び築地に戻る際の費用負担も大きい。冷凍や冷蔵施設が必要なことを考えれば、わずか5年ほどに2度の引っ越しは酷だろう。年々、取扱量が減少しているのも気掛かりだ。それでも築地は国内最大規模の市場で、各地から魚介類や青果が集まる。その将来像は首都圏だけでなく、全国の産地に影響する。築地は銀座にも近く、日本の魚食文化を代表する市場として外国人観光客が多く訪れる。最も大事なのは安全性の確保だろう。豊洲の安全をどう確かめるのか。地下水は食品には直接は触れないとはいうものの、「風評被害」をぬぐい去るには時間と工夫が必要だ。豊洲の「安全宣言」が優先すべき課題だ。

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  • 【神戸新聞】

    「築地は守る、豊洲を生かす」。東京都の中央卸売市場を巡る問題で、小池百合子知事が基本方針を示した。現在の築地と新たに整備した豊洲、どちらも共存させる道を選択した。知事によると、中央卸売市場としての機能は豊洲に移し、築地は5年後をめどに再開発する。将来的には、豊洲は情報技術(IT)を使い、冷凍冷蔵や加工機能を強化した総合物流センターとして整備し、築地は立地のよさを生かして「食のテーマパーク」にしたいという。アイデアとしては可能性を秘めているかもしれないが、財源を含め具体的な手だては示されなかった。移転延期の決定から10カ月、今になって実現性が見通せない方針を出されても、困惑する都民は多いだろう。23日には東京都議選の告示が控えている。市場移転を巡る結論を先延ばしし、「決められない」と批判された知事が、優位に選挙戦を進めようとしている。そんな見方もある。この問題では、知事自らが「食の安全・安心」を掲げてきた。豊洲市場の開場条件とした地下水汚染の「無害化」は達成できず、陳謝したばかりだ。知事が明言したのは、取りあえず市場を豊洲に移転させることだが、豊洲は安全対策が必要な状況にある。その見通しとスケジュールをはっきり示し、市場関係者や都民の不安を取り除くことを最優先すべきだ。追加工事で有害物質が市場に入らないようにした上で、環境影響評価を実施し、知事が先頭に立って「安全宣言」を出すことが求められる。生産者と小売業者の直接取引や直売所の広がりなどで、各地の卸売市場の流通量は右肩下がりだ。築地も例外ではない。高齢者を中心に加工された総菜の需要が増え、生鮮食品の利用自体も減っている。その中で、場外にも飲食店が広がる築地のブランドを、観光資源として生かそうという発想は理解できる。ただ、それも豊洲へのスムーズな移転があってのことだろう。危機感を募らせる関係者が求めるのは、人々が安心して利用できる市場の未来像である。そのための具体的な計画の取りまとめを急ぐべきだ。

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  • 【奈良新聞】

    今ごろになって何をじたばたしているのだろう。誰の目にも、そう映っているに違いない。告示まで1カ月に迫った奈良市長選(7月2日告示、9日投開票)への自民党県連(会長・奥野信亮衆院議員)の対応は何ともぶざまだ。これが政党なるものの実態を象徴していると言っては同党中央や他党などに失礼かもしれないが、推して知るべしの感なきにしもあらず、では。4年前の前回選挙で惜敗(実質的には候補者調整の失敗による惨敗)した自民党県連としては、既に市議会での論戦などを踏まえて「現職に勝てる候補」を選び出していなければならなかったはず。時間は十分あっただろうに、この間、市議団を核とした市支部、衆院選をにらんだ第1選挙区支部、そして県連までの一貫した選挙戦略のようなものを全く感じられなかった。関係者の話などによると、遅くとも昨年夏ごろまでには第1選挙区支部で奈良市長・市議選の取り組みを本格化させていたらしい。そして具体的な立候補予定者名も挙がり始め、10月以降には有力候補も取りざたされたという。これまでに名前の挙がったのは7人程度とされるが、それがどういう経緯で消えていったのか。政策協定をめぐって意見交換するほどまでに煮詰まったケースがあったのかどうかも気にかかる。本紙によると、同党県連はあす3日に選挙対策会議を開くという。事実なら、第1選挙区支部段階での協議終了である。党推薦・支持候補を決められなかったということであり、あとは県連にお任せということになる。ただ、小林茂樹支部長が「(出馬を)交渉中の人がいる」と話しているといい、奥野・県連会長がなお候補探しの意思を示し、自主投票・不戦敗の回避に取り組んでいるとも伝わる。同支部段階での協議は不発に終わったとしても、さらに努力を続けるというなら、ひとまず耳を傾けるしかあるまい。結論は別として政権与党らしい、内容のある表明を聞きたいものだ。県都の市長・市議選が終わり、今国会で衆院の小選挙区割りを見直す公選法改正案が成立すれば、次期総選挙に向けた各政党県支部組織の見直し作業が本格化することになる。自民党県連は7月下旬で奥野会長の3期目任期満了を迎える。加えて、奥野氏は衆院選比例代表の党の内規による年齢制限(73歳)にもひっかかる。奥野氏が県連内に広がる不協和音を封じられるかどうか。会長職の進退論議に及ぶのが、奈良市長選への対応だ。

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  • 【紀伊民報】

    田辺市が「熊野古道の森を守り育む未来基金」を設立する。世界遺産・熊野古道周辺の森林を保全し、次世代につなぐのが目的で、原資にはふるさと納税寄付金の一部を充てる。古道周辺の森林はバッファゾーン(緩衝地帯)に指定され、条例で開発は抑制できる。しかし、高齢化や後継者不足で、適切な管理ができていない森林が多い。そうした森林の大半は、スギやヒノキの植林地で、根が浅く、維持管理が十分でない林も少なくない。ゲリラ豪雨や台風などで土砂崩れや倒木が起きやすく、古道そのものが損壊する危険性もある。世界遺産に登録された熊野古道は、田辺市内に限っても旧田辺市から中辺路町、大塔、本宮町にかけての延長65・5キロ。その周辺100メートルがバッファゾーンだから、面積は655ヘクタールにも及ぶ。世界遺産に登録される前から旧本宮町が36ヘクタール、旧中辺路町が16ヘクタールを公有化。田辺市も森林管理に力を入れてきた。それでも、保全できているのはほんの一部である。基金は森林の公有化や間伐支援に充てる。そのためには森林全体の状況調査が必要だ。適切に管理されていない森林、その所有者の情報を整理し、その上で、適切な管理を求めるという。その際、将来的に適切な管理が難しいと判断した場合は、買い取りも検討する。森林経営者や有識者らでつくる委員会で、優先順位や価格を審議。委員会の決定に基づき、森林所有者と交渉する。公有化すれば、市主体で管理ができる。ただし、すべて購入するには6億円以上かかる。継続的に間伐と枝打ちをする場合、国の補助金を活用しても年間1千万円ほどの経費が必要という。市は6月の市議会に提案した補正予算案に基金への積み立て分として1千万円を計上。今後も「ふるさと納税」の寄付金を原資に積み立てを続けることにしている。これまでも、ふるさと納税の使途には「熊野古道」の項目があった。最近3年間は毎年2千万円を超える寄付があり、昨年度は継桜王子跡の保存整備や闘鶏神社周辺の景観保全に活用した。一方で「世界遺産追加登録記念ポロシャツの作成」「元女子プロテニス選手との古道ウオーク」「俳人の講演会」など、景観保全とは直接関係のないイベントにも使っている。保全への思いを込めて寄付した人からすれば肩すかしをくった使い方といえよう。それに対して、今後は一部とはいえ寄付を基金に積み立てる。保全の目的が明確になることで、共感を得やすくなると期待したい。熊野古道は道だけでなく、周囲を取り巻く山や川、人々の暮らしなどが一体となった「文化的景観」が主役である。それを地域の宝として後世に伝えるには、自然を良好な状態で維持し、地域の暮らしや文化を継承することは私たちの義務である。責任は重い。森林整備はその第一歩である。基金の設立を世界遺産を守り、育むきっかけとしたい。(K)

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  • 【山陽新聞】

    「豊洲か、築地か」をめぐって混迷する東京都の市場移転問題に、一定の方向性が示された。小池百合子都知事が緊急記者会見を開いて打ち出した基本方針は「築地は守る、豊洲を生かす」という共存案だった。それによると、土壌汚染問題などを抱える豊洲市場に追加の安全対策を行った上で築地市場を移転させる。豊洲市場は中央卸売市場の機能に加え、将来的にはITを活用した総合物流拠点を目指す。築地市場の敷地は売却せず、立地条件やブランド力などを生かし、観光拠点として5年後をめどに再開発するという。跡地は当面、2020年東京五輪・パラリンピックの輸送拠点として活用する。大会後に、食のテーマパーク機能を持つ新たな市場にしていく考えだ。希望する業者は築地に戻れる。小池知事がこの時期に基本方針を発表した背景には、23日に告示が迫った都議選の存在がうかがえる。判断を先送りしてきた小池知事に対し、自民党は「決められない知事」と批判を強める。知事が自ら率いる地域政党「都民ファーストの会」の立候補予定者も知事の立場を尊重して、移転の是非には触れられなかったという事情もある。さらには、移転賛成派と反対派の業者間対立が深まる中で“二者択一”となれば、結論がどちらになっても批判を受けかねない。双方の顔を立てる共存案は、選挙戦での集票をにらんだ腐心の玉虫色決着とも言える。そもそも豊洲地区のガス工場跡地に整備された豊洲市場は、昨年11月に開場予定だった。だが、8月に就任した小池知事が「安全性への懸念」などを理由に移転の延期を表明した。その後、豊洲市場では建物地下に土壌汚染対策の盛り土がないことが判明し、地下水からは環境基準を超える有害物質が検出された。安全・安心は大きく揺らいでおり、追加の安全対策が講じられることになった点からも、知事の判断には一定の成果があったと言えよう。だが一方で、示された基本方針には課題や疑問点が数多くある。豊洲と築地のすみ分けをして相乗効果を得たいという意向がうかがえるものの、そこに向けた具体策や財源などは示されず、実現性となると定かには見通せない。築地市場の跡地を売却せずに、豊洲市場の整備で抱えた3千億円超に上る負債を返済できるのか。会見で小池知事は「市場会計が痛まないよう方策を検討させている」と述べるにとどめた。豊洲から築地への復帰を望む業者にとっては、かさむ費用負担への不安も募ることだろう。全国最大規模の市場の行方は、東京だけでなく国内の各産地にも大きな影響を及ぼすことになる。小池都政には、早く具体的な市場の将来像を示すとともに、情報提供や説明に努めるよう求めたい。

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  • 【中国新聞】

    日米原子力協定「再処理」見直しが先だ2017/6/22米国から濃縮ウランや原子力技術を提供してもらう代わりに、核拡散防止の観点から関連機器や核物質の扱いで規制を受ける日米原子力協定が、来年7月で30年の期限を迎える。この協定により、日本は非核兵器保有国には本来許されない原発の使用済み核燃料の再処理を特権的に認められてきた。プルトニウムを取り出して再利用する構想を描いたが、今なお実現していない。日本政府は協定の今後を考える前に、再処理や核燃料サイクルを含めた原子力政策全体を見直すべきだろう。特に高速増殖炉は、運転しながら燃料のプルトニウムを増やせるため「夢の原子炉」と呼ばれたものの、原型炉もんじゅはほとんど稼働しないまま廃炉になる。実用化していれば、輸入依存のエネルギー資源を「国産化」できる見立てだった。ただ、どの国もうまくいっていない。再処理政策は破綻したと言わざるを得ないのではないか。もんじゅの失敗で、兵器に転用できるプルトニウムをため込む事態に陥った。使い道がないのに大量に保有しているため、いつでも核武装できる潜在能力を日本は維持しているとの疑念を国際社会から向けられている。テロリストに狙われないよう十分な警戒も欠かせない。この協定が発効した1988年以降、東西冷戦体制が崩壊するなどで核を巡る国際情勢は大きく変化した。インドとパキスタン、北朝鮮が核実験を強行するなど懸念されていた核拡散が現実のものとなった。旧ソ連のチェルノブイリ原発や日本の東京電力福島第1原発で史上最悪クラスの事故が発生した。そうした被害の甚大さを重く見て、脱原発にかじを切る国も増えている。日本政府は、この30年に国内外で起きた激変を踏まえて、あらためて協定の必要性や、原子力の在り方を考え直すことが筋だろう。ところが、日本政府にそんな覚悟はうかがえない。期限を示さずに協定を更新する「自動延長」を軸に米国と交渉する方針という。選択肢は他にもある。例えば終了なら、日米のどちらかが文書で通告したら半年後には実現できる状態になる。長期延長や大幅改定であれば、両国政府間の交渉や両国議会での承認などハードルは高くなる。現在の協定を結ぶ際、プルトニウム輸送の危険性や核拡散への懸念などから米国議会では反対論が上がり、承認手続きが難航した。米国では今も、核拡散防止の観点から再処理自体に反対する声は根強い。むしろ余剰プルトニウムが約48トンと核兵器6千発分に達した日本の現状を考えると、さらに視線は厳しくなっているかもしれない。トランプ米政権では、国務省やエネルギー省をはじめ関連部署の態勢が十分整っていない。本格的に交渉するのが難しい面もあるだろう。ただ、それをいいことに、国際的に批判の多いプルトニウム問題の議論を避けようと、日本政府がもくろんでいるとすれば、許されまい。国内でも米国との交渉でも透明性のある議論が求められる。まずは再処理や高速増殖炉について、技術的に可能なのか、経済的に見合うのか、そもそも何のために必要なのか。さらに核のごみをどうするか。そうした基本的な課題から議論することが不可欠である。

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  • 【山陰中央新報】

    東京都の小池百合子知事が築地市場を、豊洲市場へ移転させる方針を発表した。昨年8月の就任後、「立ち止まって考える」と移転をストップしてから移転の決断まで時間がかかったことは否めない。小池知事は、豊洲の地下水の安全性が確認されれば移転を判断するとみられていた。だが、今年1月に環境基準を大幅に上回る汚染が見つかったことなどで、移転を早期に表明するシナリオが狂ったとも分析できる。もともと土壌汚染があった東京ガス工場跡地に、市場を移転すること自体にリスクがあった。このため都側が無害化を約束し、移転同意を取り付けた経緯がある。対策をしたが無害化はできなかったとして、小池知事が謝罪したのは、都行政のトップとして当然の責任だと言える。ただ、汚染によって「豊洲が危ない」とする風評が広がったのは、環境相を経験した知事としてはいただけない。地下水を市場で使うわけではなく、汚染が残っていることと豊洲市場の安全性には、あまり関係がないことは分かっていたはずだ。消費者の安心を得るため、科学者や行政も含め幅広い対話を進めて市場の安全性を確認するなど風評被害を抑える努力をもっとすべきだった。小池知事が明らかにした方針で、首をかしげざるを得ないのは、築地市場跡地の再開発だ。これまでの売却方針を撤回し、競りなど市場機能を持たせた「食のテーマパーク」として5年後をめどに整備するという。豊洲市場は約6千億円かけて整備され、追加の汚染対策も施す。さらに年間100億円近い赤字が見込まれる。この穴埋め策を探すという知事の問題意識は分かる。だが豊洲と築地の二つの市場が両立するかは、慎重な分析が必要だ。現在の築地でも、産地直送が広まり魚の取扱量は減ってきている。外国人観光客が市場を見学することは観光の一つの目玉だろうが、衛生面を考えれば限定的であるべきだ。知事は築地ブランドを強調するが、築地という場所がブランドではない。築地に出荷するため行う漁師らの魚の処理に始まり輸送、築地での卸売りと仲卸の業者による魚の丁寧な取り扱い、そして東京での食事までのトータルがブランドを形成する。築地に施設を造れば観光客が集まるわけではない。行政主導の再開発がうまくいった例は乏しいということも、肝に銘じるべきだ。小池知事が示した「築地は守る、豊洲を生かす」というのは、23日に告示される都議選に向けたキャッチフレーズのように映る。再開発後の築地に市場機能を持たせるのは、移転反対派に対する政治的な配慮と言えるだろう。小池知事は自らが創設した地域政党「都民ファーストの会」代表として都議選を戦う。名古屋や大阪の例を見ると、首長が地域政党を率いることによって議会内の対立が激化し、首長が進めたい政策に対する反対が強まる傾向がある。政策の中身より、党利党略が優先されるからだ。都議選後、議会でもこの移転方針が焦点となる。東京の未来を描くような骨太の議論によって、実現可能性が高い築地再開発になることを期待したい。

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  • 【愛媛新聞】

    国民の財産である国有地が、大阪市の学校法人「森友学園」に近隣地の約1割の価格で売却されていた疑惑が発覚して約4カ月。ようやく大阪地検特捜部による強制捜査が始まった。直接の容疑は、学園の籠池泰典前理事長が国と大阪府の補助金を不正に受け取った詐欺と補助金適正化法違反ではあるが、問題の核心は国有地が格安に売却された経緯と、不可解な学校設立認可だ。特捜部はそこまで踏み込み、疑惑の全容を解明しなければならない。学園が開設を目指していた小学校の名誉校長を安倍昭恵首相夫人が一時務めるなど、政治の深い関与が疑われている。特捜部が家宅捜索に入ったのも、通常国会が閉会した直後と、政権への配慮がうかがえる。追及が籠池氏だけに終われば、政権に都合のいい「国策捜査」との批判は免れまい。国民が厳しい目で捜査の行方を見守っていることを自覚しておくべきだ。籠池氏には、運営する幼稚園で教員数と障害のある園児数に応じて支払われる大阪府の補助金をだまし取った疑いがある。小学校の建設に絡んでも、金額の異なる3通の工事請負契約書を作成し、国などから補助金を不正受給した疑いがある。籠池氏は「故意ではない」と釈明しながらも「逮捕されるだろうと認識している」と話している。立件は比較的スムーズに進むと推測されるが、捜査がそこで終わっては意味がない。国有地が大幅に値引きされた経緯について、財務省は学園との交渉過程に関する行政文書を「すべて廃棄した」として、国会での答弁を事実上拒否した。3月の国会証人喚問で、籠池氏は国との交渉の節目ごとに昭恵夫人に報告したと証言した。夫人から100万円の寄付を受け取ったとも主張したが、与党は夫人らの喚問を拒み、疑惑の核心には迫れなかった。だからこそ、司法への期待は大きい。特捜部は値引きを決めた財務省職員に対する背任容疑の告発を受理している。背任罪での立件は「国に損害を与える目的が確定的にあった」ことの立証が必要で、ハードルは高いとされる。だがこの疑惑を解明できなければ、特捜部の威信は大きく低下しよう。財務省が交渉記録を本当に廃棄したのかも含めて、先に検査に着手している会計検査院ともども、真相解明に尽くしてほしい。森友学園は幼稚園児に「教育勅語」を暗唱させるなどの教育方針が疑問視された。系列の保育園でも保育士の数が規定を満たしていないなど、ずさんな運営も明らかになった。こうした学園が小学校を開設する一歩手前だったことに改めて驚く。財務省などからの働きかけがあった可能性が高いとはいえ、学校の設立を認可しようとした大阪府の責任も大きい。特捜部の捜査に協力し、問題の経緯を明らかにするとともに、政治の不当な介入を許さない仕組みを構築しなければならない。

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  • 【徳島新聞】

    徳島県議会6月定例会は、きのうで代表・一般質問を終えた。論戦の焦点は、東京の音楽プロダクションとその代表取締役が脱税容疑で告発されたのをきっかけに浮上した「とくしま国民文化祭記念管弦楽団(とくしま記念オーケストラ)」事業を巡る数々の問題だった。多くの県民が事業に不信感を抱いているだけに、厳しい追及を期待したが、肩すかしを食ったとの感が強い。飯泉嘉門知事は当初、「(事業の委託業者と協力会社である音楽プロダクションの)民間同士の話」として事業費の調査に消極的だった。しかし、15日の開会日の所信表明で姿勢を一転させ、不透明だと指摘される事業費の使途や金額を調べる意向を表明した。今議会は、疑問点や問題点を直接、知事にただす絶好の機会である。とりわけ、自民系3会派が合流して発足した県議会自由民主党にとっては初の代表・一般質問だ。全議員の7割以上を占める大会派が、知事に対して、どう向き合うかに注目した。代表質問で、会長の嘉見博之氏は記念オケの廃止を含めた見直しを求め、事業費の流れの不透明さを是正するよう促した。当然の指摘である。嘉見氏は4期目の任期を折り返した知事の多選の弊害への懸念を示しながら、記念オケの問題について「政治や行政が最も大事にすべき公平、公正、透明性の視点がいつの間にかおろそかにされ、職員の感覚も鈍ってしまっている感がする」と苦言を呈した。知事は、来年2月に開くベートーベン第九交響曲アジア初演100周年のコンサートを区切りに、記念オケ事業の廃止を含めて抜本的に見直す考えを示唆した。その上で、「文化立県とくしま推進基金」から拠出される事業費の使途の透明化を図り、音楽プロダクションと代表取締役に渡った金額も算出を進めることを明言した。一般質問では上村恭子氏(共産)が、記念オケ事業に深く関わってきた音楽プロダクション代表取締役の川岸美奈子氏について取り上げた。川岸氏を県の政策参与に任命するなど重用した背景を問われたのに対し、知事は「任命責任は私にある。大変申し訳なく思っている」と繰り返した。だが、旧知である知事の力が働いたのではないかとの質問に、知事は正面からの答弁を避けた。県民が疑問に思っている点であり、知事の姿勢はかえって不信を増幅させかねない。残念なのは嘉見、上村両氏以外に、今、県民の関心を集める問題で知事に迫る場面が見られなかったことだ。それで議会は県民の負託に応えていると言えるのか。記念オケ問題の解明が不十分である。行政のチェック機関としての役割を果たすべきだ。知事とのなれ合いを排した緊張感のある論議を求める。

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  • 【高知新聞】

    大阪地検特捜部が学校法人「森友学園」への強制捜査に踏み切った。一連の疑惑は全容が見えないまま、刑事事件へ発展した。大阪府や元PTA会長らが告訴、告発していた。特捜部は、国有地を学園に不当に安く売却したとして財務省職員への背任容疑の告訴も受理している。政府も絡む疑惑に検察がどこまで迫れるのか。通常国会の閉幕後の強制捜査入りにさまざまな臆測が飛ぶ中、捜査の行方が注目される。府によると、学園は大阪市内で運営する幼稚園の人件費と、障害などで特別な支援が必要な「要支援児」受け入れの両補助金で、計約6200万円を不正受給していた。人件費の補助は教員が専任の場合に限られるが、学園の幼稚園では、系列保育園の職員名簿にも名前が記載されている教員がいた。要支援児の受け入れ補助金も保護者の同意を得ずに申請するなどしていた。学園は大阪府豊中市に開設を目指していた小学校の建設でも、国の補助金約5600万円を不当に受け取った疑いがある。検察は籠池(かごいけ)泰典前理事長が主導したとみている。事実であれば、教育に携わる組織の責任者としてあるまじき行為だ。子どもたちや保護者に与えた影響も大きい。検察は真相を明らかにしてほしい。捜査はこれら不正受給の解明を中心に進むとみられるが、森友問題の最大の疑惑は、小学校建設のために払い下げられた旧国有地の取引にある。この本筋の解明なくして一連の問題に決着はない。旧国有地は、地中のごみを撤去する費用を考慮したとして、評価額より8億円以上安い1億3400万円で売却された。財務省は国会で「適正な価格で売った」などと繰り返し答弁したが、国民の理解を得られない値引きである。払い下げに至る経緯では、安倍昭恵首相夫人の関与も取り沙汰されてきた。夫人付の政府職員が国有地を巡って財務省に問い合わせをしていたことが判明している。昭恵氏は一時、開設予定の小学校の名誉校長にも就任していた。学園に有利な取引になるよう官僚の忖度(そんたく)が働いた可能性はないのか。家宅捜索を受けて報道陣の取材に応じた籠池氏は「総理のご下命があり、それを忖度する形で全て動いたと今も思っている」と述べている。当事者がここまで語り、検察の本格捜査も始まった。安倍首相も昭恵夫人も説明を尽くす必要がある。報道各社の世論調査で安倍政権の支持率は軒並み急落している。背景には「共謀罪」法の採決強行や加計(かけ)学園の問題があるが、政府与党の不誠実な国会対応は森友問題も同じである。安倍首相は記者会見で、国会での対応が国民の不信を招いたことを認めた。国民の疑問に誠意を持ってこたえる気があるのなら、加計問題はもちろん、森友問題でも果たすべき責任があるはずだ。

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  • 【西日本新聞】

    人の命を守る立場の医師が、過労で精神的に追い込まれて自ら命を絶つ。何とも痛ましい話だ。新潟市民病院(新潟市)の女性研修医=当時(37)=が昨年1月に自殺したのは長時間労働が原因として、新潟労働基準監督署が労災認定していたことが分かった。遺族代理人によると、女性は2015年4月から研修医として勤務し、同年秋ごろから眠れないなどの不調を訴えていた。女性研修医の電子カルテ閲覧履歴などを基に遺族らが調べたところ、亡くなるまでの月平均の時間外労働時間は187時間だった。過労死ラインとされる80時間を大幅に超過し、最長だった15年8月では251時間に上っていた。医療現場では、勤務医の長時間労働が常態化している。厚生労働省研究班の調査では、20代医師の1週間の勤務時間は男女とも平均50時間を超える。救急搬送など緊急の呼び出しに備えた待機時間も12時間以上に及ぶ。厚労省によると、15年の精神疾患による労災申請件数は病院など医療機関を含む「医療業」で96件を数え、業種別では「社会保険・社会福祉・介護事業」に次いで2番目に多い。年々増加傾向にあり、医師らの深刻なストレスが浮き彫りになってきた。軽症でも時間外に来院する「コンビニ受診」なども重荷になっているという。政府の働き方改革の実行計画では、残業の原則は「月45時間、年360時間」とする一方、医師への適用は5年間猶予となった。医師には「応召義務」(医師法第19条)があり、正当な理由がなければ診察や治療を拒否できない。とはいっても、長時間労働で精神的な負担が増せば、診断に支障を来したり、手術ミスにつながったりする恐れもある。医療の質の低下は避けねばならない。厚労省は「若手を中心に医師の過酷な長時間労働の実態が示された」として、看護師ら他の職種に仕事を分担させるなど医師の労働環境改善に向けた検討を進めるという。開業医との連携強化も含めて早急に具体策を講じるべきだ。=2017/06/22付西日本新聞朝刊=

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  • 【宮崎日日新聞】

    ◆地域の取り組み世界に発信◆国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、本県と大分県にまたがる「祖母(そぼ)・傾・(かたむき)大崩(おおくえ)」地域約24万ヘクタールを生物圏保存地域「ユネスコエコパーク」に登録した。2012年の「綾」に続く登録で、15年の世界農業遺産「高千穂郷・椎葉山地域」の認定も含め本県は“世界ブランド″を三つ持つことになる。審査では、九州最高峰級の山々と美しい渓谷があり、希少な動植物が生息すること、神楽などが各地で継承され、自然への畏敬の念が文化として根付いていること、森林資源を持続的に活用して発展してきたこと-が高く評価された。先人が守ってきた自然や文化、暮らしが世界的評価を受けたことは県民にとって誇りで、登録を素直に喜びたい。2県と6市町で連携ユネスコエコパークは1976(昭和51)年にユネスコが開始。世界自然遺産は手つかずの自然を守ることが原則だが、エコパークは生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会との共生)に重点を置くのが特徴だ。世界120カ国669地域(16年3月)の登録地は世界ネットワークを形成。地域の取り組みを国際的に発信でき、ネットワークを通じた情報共有も図ることができる。地域の資源が宝として再認識されることや自然との共生を国内外でアピールできることで、地域資源の次世代への確実な継承、住民の誇りの醸成、交流人口の増加、観光・地域の振興が期待される。「祖母・傾・大崩」は、両県と延岡市、高千穂、日之影町、大分県の佐伯、竹田、豊後大野市の6市町で登録を進めてきた。2県6市町の連携は以前からあったが、登録準備を通じてより連帯の機運が高まったのは確かだ。今後は世界ブランドをベースに協働できるなど、広域連携や地方創生の視点からも大きい財産を得たことになる。核心地域拡大が課題今後は、新たな両県推進協議会が9月にでき、本格的に事業に取り組む。関係機関それぞれ役割はあるが、住民主体が大前提となる。祖母、傾、大崩山の麓は高齢化、過疎化に悩む地区が多い。一方、6市町には、トレッキングツアーなどを企画し、新たな生業を創出しようとする住民団体が活発に活動する。若者の地元定着や移住促進のためにも、住民の挑戦を財政を含め支援する仕組みづくりも欠かせない。エコパークは登録から10年ごとにユネスコによる定期的検討がある。「祖母・傾・大崩」は今年5月、ユネスコ諮問委員会に自然を厳格に保護する「核心地域」が総面積に対して小さいことなどの指摘を受けた。推進協は核心地域と緩衝地域の拡大に向け検討する方針で、今後の大きな課題の一つだ。「自然との共生」についても、生態系が守られた上で経済活動などが行われていることを示す学術的な裏付けも求められよう。研究者らとの交流は、地域が抱える課題解決の糸口にもなるはずだ。

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  • 【佐賀新聞】

    豊洲移転築地跡地の再開発慎重に2017年06月22日05時00分東京都の小池百合子知事が、「日本の台所」とも称される築地市場を、豊洲市場へ移転させる方針を発表した。昨年8月の就任直後、「立ち止まって考える」として移転をストップしてから、移転の決断まで時間がかかったことは否めない。小池知事は、豊洲の地下水の安全性が確認されれば移転を判断するとみられていた。だが、今年1月に環境基準を大幅に上回る汚染が見つかったことなどから、移転を早期に表明するシナリオが狂ったとも分析できる。もともと土壌汚染があった東京ガス工場跡地に、市場を移転すること自体にリスクがあった。このため都側が無害化を約束し、移転同意を取り付けた経緯がある。対策をしたが無害化はできなかったとして、小池知事が謝罪したのは、都行政のトップとして当然の責任だと言える。ただ、汚染によって「豊洲が危ない」とする風評が広がったのは、環境相を経験した知事としてはいただけない。地下水を市場で使うわけではなく、汚染が残っていることと、豊洲市場の安全性には、あまり関係がないことは分かっていたはずだ。消費者の安心を得るため、科学者や行政も含めた幅広い対話を進めて市場の安全性を確認するなど風評被害を抑える努力をもっとすべきだった。小池知事が明らかにした方針で、首をかしげざるを得ないのは、築地市場跡地の再開発だ。これまでの売却方針を撤回し、競りなど市場機能を持たせた「食のテーマパーク」として5年後をめどに整備するという。豊洲市場は約6千億円かけて整備され、追加の汚染対策も施す。さらに年間100億円近い赤字が見込まれる。この穴埋め策を探すという知事の問題意識は分かる。だが豊洲と築地の二つの市場が両立するかは、慎重な分析が必要だ。現在の築地でも、産地直送が広まり魚の取扱量は減ってきている。外国人観光客が市場を見学することは観光の一つの目玉だろうが、衛生面を考えれば限定的であるべきだ。知事は築地ブランドを強調するが、築地という場所がブランドではない。築地に出荷するため行う漁師らの魚の処理に始まり輸送、築地での卸売りと仲卸の業者による魚のていねいな取り扱い、そして東京での食事までのトータルがブランドを形成する。築地に施設を造れば観光客が集まるわけではない。行政主導の再開発がうまくいった例は乏しいということも、肝に銘じるべきだ。小池知事が示した「築地は守る、豊洲を生かす」というのは、23日に告示される都議選に向けたキャッチフレーズのように映る。再開発後の築地に市場機能を持たせるというのは、移転反対派に対する政治的な配慮と言えるだろう。小池知事は自らが創設した地域政党「都民ファーストの会」代表として都議選を戦う。名古屋や大阪の例を見ると、首長が地域政党を率いることによって、議会内の対立が激化し、首長が進めたい政策に対する反対が強まる傾向がある。政策の中身より、党利党略が優先されるからだ。都議選後、議会でもこの移転方針が焦点となる。議会は知事をチェックするためにある。東京の未来を描くような骨太の議論によって、実現可能性が高い築地再開発になることを期待したい。(諏訪雄三)

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  • 【南日本新聞】

    東京都の小池百合子知事が、築地市場を豊洲市場へ移転させることを正式に表明した。築地跡地は売却せず、競りなどの市場機能を持たせ、観光拠点として5年後をめどに再開発する。豊洲には追加の安全対策を実施した上で、来年5月ごろの移転を目指す。小池知事が昨年8月に移転延期を決定して以降、混迷していた市場移転問題でようやく打ち出した都の基本方針である。だが、移転や再開発の具体像は示されなかった。築地か豊洲かの二者択一を避け、玉虫色の共存案で課題を先送りした印象が強い。市場関係者らから戸惑いや反発の声が上がるのは当然だろう。豊洲では昨年以降、土壌汚染対策の盛り土がないことが判明し、地下水から環境基準を超えるベンゼンなどが検出された。小池氏が移転をストップし、延期したことで明らかになり、全国の注目を集めた。食を扱う市場の在り方に関心を喚起した意義は大きい。今後、都は地下空間の床をコンクリートで覆い、有害物質が市場に入り込むのを防ぐ追加工事を行う。環境面での安全性を確保する万全の策が求められる。とはいえ、食の安全への疑念を払拭(ふっしょく)するのは難しいだろう。汚染物質のモニターを常時公開するなど、市民の安心につながる努力を積み重ねるしかあるまい。また、築地にも市場機能を持たせるというが、豊洲との役割分担はどうするのか、観光拠点としてどんな活用方法を見込んでいるのか。そもそも築地跡地を売却せずに、豊洲整備で抱えた3000億円超の負債をどう返済するのか。小池氏は「築地は守る、豊洲を生かす」と基本方針を強調する一方で、具体的計画には踏み込んでいない。丁寧に説明する姿勢が見えないのは残念だ。都職員は発表直前まで計画内容を知らされていなかったという。実際に具体的な計画を策定し、事業を進めるのは都職員である。移転延期から10カ月が経過したにもかかわらず、実現性や財源が十分に練られた計画とは言えない。それでもこのタイミングで発表したのは、23日の東京都議選告示をにらんでのことだろう。豊洲移転推進派を納得させ、築地残留派にも期待を抱かせる内容で、小池氏が率いる地域政党「都民ファーストの会」への追い風を計算したとみられる。鹿児島を含む全国の食材が集まる、日本を代表する市場の信頼に直結する問題である。政争の具にして関係者を振り回すようなことがあれば、将来に禍根を残す。

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  • 【琉球新報】

    日本政府が、東村高江や名護市辺野古の新基地建設で行ってきた警備活動は国連のガイドライン(指針)に反していることが明らかになった。政府は国連人権理事会の理事国として、あるいは国際社会の一員としてガイドラインに従わなければならない。国連人権理事会へ国連特別報告者が提出した報告書に、市民の抗議活動を各国が制限する際のガイドラインが示されている。国連ビルで開かれたシンポジウムでは、国連特別報告者が日本政府に熟読するよう求めた。昨年2月に提言されたガイドラインは(1)長期的な座り込みや場所の占拠も「集会」に位置付ける(2)座り込みなどによる交通の阻害は、救急車の通行といった基本的サービスや経済が深刻に阻害される場合以外は許容されなければならない(3)集会参加者に対する撮影・録画行為は萎縮効果をもたらす(4)力の行使は例外的に(5)集会による渋滞や商業活動への損害も許容されなくてはならない−という内容だ。米軍北部訓練場のヘリパッド建設や、辺野古新基地建設に反対する抗議行動に対する警備は、国連ガイドラインを逸脱していることになる。国際基準と言わずとも、ビラやチラシ、集会やデモ行進、座り込みなどは憲法21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」として保障されている。ヘリパッド建設に対する抗議行動中に逮捕され、5カ月間勾留された山城博治沖縄平和運動センター議長について、国連特別報告者は「不均衡な重い罪を課している」としてガイドラインに反するとの認識を示した。米法学者も国際人権規約第9条違反と指摘し「山城さんのケースは明らかに微罪。米国の警察なら、仮に逮捕してもこの程度の微罪ならその日のうちに保釈している。これで長期勾留するなど民主国家としてあり得ない」と語っている。ガイドラインには「法執行者の構成は、そのコミュニティー(地域)を代表するものでなければならない」という規定もある。法執行機関と地域の「信頼」を重視したものだ。しかし、北部訓練場のヘリパッド建設で政府は、全国から500人以上の機動隊員を派遣し抗議する市民を排除し続けた。その過程で大阪府警の機動隊員が市民に「土人」と発言し、県民を深く傷つけ信頼が著しく損なわれた。日本は昨年、国連人権理事会の理事国選挙に、特別報告者との対話を重視すると共に「人権理事会の活動に積極的に貢献していく」と公約し当選したはずだ。山城さんに対する特別報告者の指摘に真摯(しんし)に向き合わなければならない。ところが「法に基づく適正なもので国際法違反はない」と開き直っている。理事国選挙の公約に反し、特別報告者を軽視する態度は許されない。

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  • 【沖縄タイムス】

    糸満市摩文仁の「平和の礎」に、今年度、新たに54人の戦没者が追加刻銘された。刻銘者総数は24万1468人。追加刻銘された54人の中には朝鮮半島出身者(韓国籍)15人が含まれている。今回の追加分を含め、「平和の礎」に刻まれた朝鮮半島出身戦没者の数は462人となった。日本の植民地だった朝鮮半島から、戦争中、多くの人たちが沖縄に連行された。男性は「軍夫」として、壕掘りや資材調達、飛行場建設などに従事させられ、女性は日本軍の「慰安婦」として、県内各地に設置された慰安所に配置された。今回の15人という追加刻銘数は、遺族の申し出を受けて、NPO法人沖縄恨之碑の会など日韓両国の支援団体が乏しい資料や証言を発掘し、県や県議会に働きかけ、ようやくたどり着くことのできた犠牲者の数である。「462人」という朝鮮半島出身者の刻銘数が沖縄戦における犠牲の実際を反映していないのはあきらかである。塗炭の苦しみを味わいながら異郷の地で犠牲になった人々は、「帝国臣民」として軍務に従事した。それなのになぜ、犠牲者の実数が把握できないのだろうか。刻銘された15人のうち2人は、特設水上勤務隊第104中隊に所属していたが、2人が沖縄戦で死亡したことを証明する公的記録はなかったという。軍属なのになぜ公的記録がなかったのだろうか。沖縄戦が「現在進行形」であるように、「平和の礎」も未完である。不断の働きかけが重要だ。■■1952年、サンフランシスコ講和条約が発効し、日本は独立を回復した。その際、かつて日本の植民地であった台湾や朝鮮半島など旧植民地出身者は国籍を選択する権利が与えられなかった。講和後に真っ先に日本政府が取り組んだのは、遺族等援護法の制定だった。戦闘に参加した戦没者の遺族に対しては、同法に基づいて毎年、遺族年金が支給されることになった。だが、旧植民地出身者は、国籍条項が壁になって対象から除外された。帝国臣民として軍務に従事していたにもかかわらず、日本国籍をもつ軍人・軍属と旧植民地出身者の間には理不尽な処遇の隔たりがあった。不平等や不合理が是正されたのは、2001年に「平和条約国籍離脱者のための弔慰金等支給法」が施行されてからである。しかし、それでもなお、日本人遺族と比べると、その差はあまりにも大きい。■■米軍に占領され、直接統治された沖縄では戦争直後、日本政府による復興事業は行われず、戦災調査も実施されなかった。日本が講和条約によって植民地朝鮮を放棄したことによって、かつて「帝国臣民」だった朝鮮の人々とも完全に関係が断ち切られ、日本人の中に加害者としての意識が育つことがなかった。台湾・朝鮮・沖縄は、冷戦時代、米ソ、米中対立の最前線に位置した。「平和の礎」はそのような過去をも引きずっている。

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