コラム

  • 【北海道新聞】

    ピアノ協奏曲の演奏は長いもので50分を超える。オーケストラと競い合うように弾くのだから、ピアニストは肩や腕、指に相当の力を込めなければならないと思うが、そうではないらしい▼かつてショパン国際コンクールで4位入賞した小山実稚恵(みちえ)さんは、脱力が一番大事だという。力任せにたたいたところで、ものすごく大きな音が出るわけではない。鍵盤にはゴルフのクラブやテニスのラケットと同様に、スイートスポット(最適打点)がある▼その点に無駄な力を加えずに触れられるかどうかで音色が変わる。難しいのはスイートスポットばかりたたいていたら曲の味わいが単調になることだ。わざと外す必要もあるとか。演奏の世界は奥深い。共著「点と魂と」に記していた▼いつも全力ではなく、肩の力を抜くすべも身に付ける。「五月病」に悩む新社会人にもおすすめだ。新たな環境に適応しようとして、この時期にストレスや疲労がたまる▼専門家に聞くと、腹式呼吸をすると効果があるとか。鼻からゆっくりと息を吸っておなかを膨らませる。肩の力を抜いて口をすぼめ、時間を掛けて息を吐き出す。試してみたが、ゆったりとした気分になる▼このところ「永田町」では力業が目立つ。法案の審議が熟さなくても最後は「数の力」で押し切る。そんな手法では国民が望むスイートスポットに当たらず、良い音も出ないと思うのだが。2017・5・25

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  • 【河北新報】

    精神科医の蟻塚亮二さん(70)は、相馬市にある「メンタルクリニックなごみ」院長。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故で心に傷を負った被災者を4年前から診療する。「トラウマ(心的外傷)は雪だるまのように膨らむのです」と語る▼トラウマとは衝撃的な出来事から受けた心の傷で、記憶のぶり返し、不眠、うつなどの心身症状を訴える人が多い。小さい時に家族の失跡を経験し、震災での避難を引き金に自傷に陥った人もいるそうだ▼「言葉で自らを表現しにくい子どもは心の傷を気付かれないまま、新たな傷を重ねやすい」。自分の存在や望みを失わせるような打撃が加われば、膨らんだ心の傷は破れてしまうと蟻塚さん▼仙台市折立中2年生が先月、いじめの被害を訴え自殺した問題。報道から浮かぶのは生徒の苦しみの歳月だ。「臭い」「きたない」などと校内で悪口を言われ、教師から頭をたたかれたり、口に粘着テープを貼られたりしたという。小学生の時にも教師から工作を壊され、暴言を吐かれたと遺族が明かした▼いじめの実態を調べる第三者委員会を同市教委が設ける意向だ。この3年で3人目となる市立中学生の悲劇。もはや曖昧な調査で信頼回復は難しい。生徒の心の傷の一つ一つに厳しく向き合わなくては。(2017.5.25)

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  • 【東奥日報】

    元禄(げんろく)6(1693)年、江戸へむかったはずの弘前藩津軽家の鷹匠(たかじょう)がひき返してきた。捕まえた鷹を将軍に献上するため、弘前を出発していた。はたせぬまま、鷹ともども帰国したという。幕府が鷹献上停止を命じたためである。『弘前藩庁日記』の記述を『人と動物の日本史』(吉川弘文館)が紹介している。命じた将軍は徳川綱吉であり「生類(しょうるい)憐(あわれ)みの令」にかかわるものであった。「犬公方(いぬくぼう)」と揶揄(やゆ)された綱吉は、四谷・大久保・中野に大規模な犬小屋を設置した。2万坪の広さの四谷で元禄8年のきょう、野犬の収容がはじまったという。ペットフード協会が、ペットを飼いはじめてからの効用を聞いた。子どもが「心豊かに育っている」71.1%、お年よりの「情緒が安定した」47.7%、夫婦の「会話が多くなった」58.6%。生類憐みの令は悪法として世に知られる。とりしまりときびしい処罰が、民衆の反感をまねいた。人のいのち以上に、生類、とくに犬の愛護を重くみたからである。犬が悪いわけではない。こちらは人のいのち以上に、何に配慮しているのか。受動喫煙対策をめぐる議論である。「(がん患者は)働かなくていい」という趣旨のやじをとばしたのは、失態がつづく自民「魔の2回生」の1人と聞く。想像力も思いやりもない言葉は、「たばこのない五輪」があたりまえの世界から失笑をかうだろう。

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  • 【デーリー東北】

    天鐘(5月25日)学生時代を思い出せば、心当たりがある人もいるだろう。定期試験などに臨むに当たっての「一夜漬け」の事である。面倒くさがり屋には、土壇場での一発勝負と言える。ただ中には、出題を見事予測し、高い点数を取る学生もいる。勘の差だろうか▼本来は、授業のノートをしっかり取って—と、くどくど言うまでもないだろう。明治の俳人正岡子規は、ノートも取らなかった。あまり学校にも行かずに、ノートを借りて写す事もしなかった人物だったらしい▼試験前になると、友人に「来てくれ」と頼み、ノートの内容の概略を聞いていた。友人にすれば「ろくに分かっていないくせに、よしよし分かったなどと言っていた」とか。子規の試験対策は一夜漬けの即製より、さらに手抜きの対応だったようである▼理解したかどうかは別としても、授業について友人から聞くだけまだましかも。酒の弱い子規だが、試験前に誘われ飲みすぎてしまう。対策を何もしないままで試験へ。結果はひどく、百点満点のわずか14点—▼4カ国の高校生を対象にした国立青少年教育振興機構による勉強・生活調査では、日本の高校生はきちんとノートを取るが、授業が受け身の姿勢で、試験前にまとめて勉強する一夜漬け—という特徴が明らかに▼一夜漬けでは、やはり実力がつくまい。勉学の積み重ねがものをいうのは自明の理。子規も後悔しているだろう。

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  • 【秋田魁新報】

    秋田プロバスケットボールクラブ社の水野勇気社長(34)が丸刈りになった姿を見て、驚いた人もいたのではないか。秋田ノーザンハピネッツのファン感謝祭を報じるさきおとといの小紙に写真が載っていた▼ハピネッツを運営する会社のトップとして、Bリーグ2部陥落の「けじめ」と「1年で1部に復帰する」という強い決意を、丸刈りという形で示したのだ。家庭用のバリカンを購入し、感謝祭の前日に奥さんに刈ってもらったという▼女性アイドルグループのメンバーが週刊誌で男性スキャンダルを報じられたことに責任を感じ、丸刈りになって謝罪する姿をインターネット上で公開したことがあった。頭を丸めることは今も昔も「罰」として有効のようだ▼江戸時代には獄門=ごくもん=(さらし首)、鋸挽(のこぎりびき)、斬首(ざんしゅ)、磔(はりつけ)と字面を見ただけでぞっとする刑罰があった。これらは殺人や放火など重罪に適用された。一方で軽微な罪に対しては箒尻(ほうきじり)と呼ばれる棒で肩や尻を打つ「敲(たたき)」や「剃髪(ていはつ)」があった▼剃髪刑は例えば離縁状がないまま他家に嫁いだ女に与えられた。時代をさかのぼると、鎌倉時代の武家法典「御成敗式目(ごせいばいしきもく)」は武士が路上で女性を拉致した場合は片側の髪を剃(そ)る、と罰を定めている。だが髪はいずれ生える。剃髪は期限付きで不名誉を与える刑とも言えるだろう▼水野社長もハピネッツもバスケ界にデビューしてまだ7年と若い。刈れば刈るほど青さを増す芝のように、来季は一回り大きくなって登場してほしい。

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  • 【山形新聞】

    ▼▽福岡の太宰府天満宮にある御神木の白梅。平安京を追われた菅原道真を慕い、一夜にして太宰府に飛んだという伝説の「飛梅(とびうめ)」だ。6千本を数える境内の梅で開花が最も早く、今年は元日にも既に数輪咲いていたとか。▼▽「東風(こち)吹かばにほひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれそ」。庭木にも情を注いだ道真が庭で梅に語り掛けるように詠んだ歌は、恩義を感じ遥(はる)か九州まで飛ぶ梅の言い伝えも生んだ。天神信仰が広まり、学問の神として道真を祭る天神様は全国約1万2千社にも及ぶ。▼▽鶴岡市の鶴岡天満宮もその一つ。5月25日の例祭「鶴岡天神祭」では、派手な花模様の長襦袢(じゆばん)に帯を締め、手拭いと編み笠で顔を隠した「化けもの」が城下町に繰り出す。道真を追放した時の権力を憚(はばか)り、姿を変えて密(ひそ)かに酒を酌み交わし別れを惜しんだ姿が由来とされる。▼▽遠く九州と庄内を結ぶ縁には、明治維新の激動期に旧庄内藩士が西郷隆盛に忠義を示し「南洲翁遺訓」を編んだ薩摩(鹿児島)との縁もある。義に厚い庄内人の心を思うと「化けもの」姿も趣深く感じられよう。3年間誰にも悟られずに参加し通せれば、願いが叶うそうだ。

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  • 【岩手日報】

    2017.5.255月18日、韓国・光州は高揚感に包まれていた。37年前、民主化を求める市民を軍事政権が弾圧した光州事件が始まった日。それを原点とする革新派の大統領が久々に誕生したことが背景にあるのだろう▼文在寅(ムンジェイン)大統領が出席した政府の式典はのぞけなかったが、当時、大規模な市民集会が開かれた民主広場ではミニ集会を見た。凄惨(せいさん)な事件を再現した「5・18自由公園」には、見学する多くの若者の姿があった▼6月初旬まで1カ月臨時開放されている全羅南道の旧道庁は、市民が最後に立てこもった舞台。CGなどを使って事件を振り返る展示が行われ、順路のままに歩くと、10日間にわたる出来事を追体験できる▼大統領の出席がここ数年は途絶え、事件の風化も叫ばれていた。息を吹き返したきっかけは、昨年秋から続いたあのろうそくデモ。その中心は、光州事件など民主化運動を担った層の次世代以降の若者たちだった▼彼らが朴槿恵(パククネ)政権を倒し、革新派が9年ぶりに政権を奪回した原動力となった。文大統領が式典で「新政権は光州民主化運動の延長線上にある」と述べたのも、この連続性を意識してのものだ▼軍事政権は事件を「スパイの策動」とし、犠牲者も「暴徒」と呼んだ。韓国民主化後もしばらくタブー。テレビドラマ初登場は1995年の「砂時計」だった。権力の怖さ。

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  • 【福島民報】

    子育て宣言(5月25日)全国の若手知事のグループが11月19日を「いい育児の日」に定めた。子育てを支える家庭や地域の大切さをアピールする日にするという。子どもと親、祖父母らが家族のありがたさを見つめ直す機会になりそうだ。親子の絆も強まる。会津若松市の子どもたちは「あいづっこ宣言」を唱え、社会生活の基本的ルールを学ぶ。「人をいたわります」「がまんをします」。大きな声が学校などに響く。親も自らを律し、わが子を健やかに育てようと動きだした。市内の保育所保護者会連合会は先日、「子育てあいづっこ宣言」をまとめた。(1)こどもの話を聞きます(2)こどもを褒めます(3)こどもを信用します(4)こどもと笑顔であいさつをします(5)こどもと手をつなぎます(6)こどもを抱きしめます(7)こどもに八つ当たりしません−の7項目からなる。日常の各場面でのちょっとした心掛けを求める。各家庭で項目を一つ増やすとしたら、何を付け加えようか。「こどもと朝ごはんを食べます」「休日は親子でたくさん遊びます」。次々と思い浮かび、絞りきれない。家族みんなで話し合い、わが家だけの子育て宣言を作るのも楽しい。子どもと一緒に親も成長する。

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  • 【福島民友新聞】

    〈白鳥が生みたるもののここちして朝夕めづる水仙の花〉与謝野晶子。雪の中でも花を咲かせるスイセンは雪中花と呼ばれ、冬から春先にかけて目を楽しませてくれる。しかし、今ごろの時期は花ではなく葉が耳目を集める▼スイセンの葉を、ニラと間違えて食べ、食中毒になる事故が全国で相次いでいる。県内では4月下旬に県北地方の3人が誤食し、下痢や嘔吐(おうと)など食中毒症状を訴えた。親族からもらったニラの中にスイセンがまざっていたらしい▼今月に入ってからは山梨県で5人、長野県で11人が中毒となった。山梨は家庭料理、長野では高等専修学校の授業で作ったニラ入りスープで発症した。ニラを収穫した場所の近くに、葉の形や色がよく似ているスイセンが生えていた▼厚生労働省の調べでは、この10年間に発生した有毒植物の食中毒で最も多かったのがスイセンによるものだ。食べると30分以内に吐き気や嘔吐などの症状が出るという。過去には死亡例もある。油断できない▼注意しなければならない植物はスイセンだけではなくたくさんある。山菜採りのシーズンでもある。食用だと確実に判断できない植物は「採らない、食べない、売らない、人にあげない」が肝要だ。

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  • 【下野新聞】

    1970年代、丸刈りの中学生だった筆者が屋外で部活動に汗を流していると、なにやら目がチカチカしてして息苦しくなった。夏の暑い日だった。仲間も同じような症状を訴えた。光化学スモッグの影響だったと思う▼今年は、21日に初めての光化学スモッグ注意報が県南部に発令されると、翌22日も県南西部、県央部で大気中のオキシダント濃度が基準値を超え、2日連続の注意報発令となった▼光化学スモッグの被害が、社会に広く認知されるようになったのは70(昭和45)年7月。東京の立正高校の生徒40人以上が目やのどの痛み、息苦しさを訴えて倒れたのが発端だった▼光化学スモッグの正体は光化学オキシダントである。車や工場などから排出される窒素酸化物や揮発性有機化合物に、太陽の強い紫外線が当たってできる。春から夏にかけ、晴れて気温が高く風の弱い日に発生しやすい▼筆者の光化学スモッグ初体験の日は、まさにそんな状況だった。県が光化学オキシダントの測定を始めたのは73年。県内23カ所で観測している。その結果は県のホームページ「とちぎの青空」で見ることができる▼70年代に比べれば、排ガスはクリーンになっているはずだが、昨年は那須塩原市の小学生19人が運動会の練習中に健康被害を受けた。これからの屋外の運動には細心の注意を。

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  • 【茨城新聞】

    大相撲の番付には出身地が書かれている。昔から「江戸の大関より故郷(くに)の三段目」といわれる。郷土力士への思い入れは特別だ。まして「故郷の横綱」ならなおさらだろう▼牛久市出身の稀勢の里が夏場所11日目のきのうから休場した。3場所連続優勝を願っていたファンの間には、途中休場に対する驚きや落胆が広がったという。一方で「完全に治して土俵に戻ってきてほしい」と願う声も多いようだ▼今場所は3月の春場所で痛めた左上腕付近に不安を抱えたまま出場。おととい10日目は相手の出足を止められずに寄り切られ完敗した。取組後の支度部屋では「うーん」と生返事を繰り返すだけだったという▼前半から激しい戦いが続き、10日目までに4敗を喫した。強い精神力と強靭(きょうじん)な肉体を持ってしても、けがに十分対処することは難しかったようだ▼稀勢の里が綱をつかむまでの努力と苦労は広く知られている。無理をせずけがの十分な回復に努め、万全の体調で次の場所に臨んでほしい。それが横綱の責務だろう▼大関とりが懸かっている土浦市出身の高安は、きのう危なげなく勝って9勝目を挙げ昇進へ一歩前進した。同じ部屋で兄弟子の稀勢の里の分まで「故郷の関脇」の健闘に期待しよう。(柴)

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  • 【上毛新聞】

    ▼季節を大幅に先取りした暑さが続き、気分はすっかり夏。うっとうしい梅雨も控えるが、乗り越えればいよいよ長い休みもある本格的な観光シーズンを迎える▼7〜9月の大型観光企画「ググっとぐんま観光キャンペーン」は山や水がテーマ。館林を筆頭に国内屈指の“熱い”土地柄として知られるが、山間部を中心に涼しさを感じさせる素材を前面に打ち出し誘客につなげたいところだ▼自然をはじめ、その土地ならではの食、体験など観光の魅力は数多いが、旅の印象を大きく左右するものの一つが現地で出会う人ではないだろうか。旅先で触れ合う人々の存在は、重要な観光資源になり得る▼豊かな自然環境の残る北毛地区で、山や水とともに生きる人をシリーズで取材したことがある。樹齢300年の一本桜の世話役、食材を自ら調達する猟師兼料理人、地元の名水でそば、どぶろくを手作りする職人—。いずれも個性ある役者ぞろいだった▼観光情報があふれる中だが、実際に足を運ぶからこそ生まれる貴重な出会いがある。地元を愛する人との交流は旅の満足度を格段に上げるだろう▼介護や物流で深刻な人手不足が指摘されているが、温泉地をはじめ観光業界も同じ悩みを抱えているという。魅力ある人材をどれだけ確保できるか。自然環境を生かした誘客策とともに注目される。

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  • 【信濃毎日新聞】

    第1次ベビーブームが一段落する1949年9月生まれの男は大学に進み、中核派の過激な活動に身を投じる。大坂正明容疑者だ。4カ月後に新潟で4人きょうだいの末っ子として生まれた中村恒雄さんはやがて県警の巡査を拝命する◆1971年11月14日、東京。同世代の2人の人生が切り結ぶ。渋谷暴動事件である。沖縄返還協定に反対する学生らのデモ隊が派出所などを襲撃した。警備に派遣されていた中村さんは火炎瓶を受けて大やけどを負い、翌日息を引き取った。21歳だった◆警視庁は中核派幹部の犯行と断定、大坂容疑者を指名手配して行方を追った。それから45年。大坂容疑者とみられる男が広島で逮捕された。潜んでいたマンション一室には中核派の機関紙があった。男は白髪で眼鏡をかけていたが、手配写真の若いころの面影が残っているという◆大坂容疑者の時効の針は止まったままだった。共犯として逮捕、起訴された6人のうち奥深山(おくみやま)幸男被告が精神疾患のため公判が停止された。さらに2010年には刑事訴訟法改正で殺人罪の時効そのものが撤廃された。奥深山被告は今年2月に死亡した◆学生運動は70年代、表舞台から消えていく。セクトの対立が激化し内ゲバなど命を奪い合う事件が多発した。中村さんの兄は問う。なぜこんなことが起きたのか。どんな思いで逃亡生活を送っていたのか。本当のことを話して裁きを受けてほしい、と。45年の空白を埋める証言を聞きたい。(5月25日)

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  • 【新潟日報】

    5月25日遠い子ども時代、よく砂浜を歩いた。流れ着いたクルミをわけもなく友人と拾い、わけもなく笑った。新潟市内であったが、市民歌「砂浜で」にあるようなグミの木は覚えていない。いつの間にか浜がやせた気がする▼地図に描かれた海岸線をなぞったところで今昔の違いは分からない。ただし列島は、この瞬間も姿を変えている。砂粒が一つ二つと飛ばされても気づかぬだけ。波に洗われ風に吹かれる浜を見ると、かつての思い出まで削られゆく感覚がある▼瀬戸内海の小さな島は消えそうだという。岩が侵食されている。体長1センチほどの虫が岩をうがつ。波と風が追い打ちをかけ、風化がやまない。アリの穴から堤が崩れることもある。一穴から、あれよあれよと全て崩れる▼国民を守る名目で法律がつくられてきた。どれほど国民が反対を叫ぼうとも、次から次へこしらえる。ここ数年だ。政権は、異論をかき消し進むことに慣れてきたようだ。テロに備える、外敵に備える、そう言って坂を転がり落ちてはいないか▼「共謀罪」法案が衆院を通った。国民を萎縮させる怖さがある。それでも力任せに参院に送る。この風景が、転がりゆく日本を象徴しているのではないか▼「砂浜で」と同じ48年前に制定された新潟市歌は「青き波寄せるなぎさ」と始まり、こう歌う。空と海/世界に睦(むつ)び/共栄の誓いを交わす/平和なる理想の郷土−。記憶にある静かな海を思う。この先はもしかすると、声も心も押しつぶされての静けさかもしれぬ。

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  • 【中日新聞】

    政界用語で「大臣病」といえば、良い意味ではあまり使われない。そのポストを手にしたいという欲望と計算。関心は大臣になって何をしたいか、どんな仕事をしたいかではなく、大臣になること。悲しい「患者」は大勢いる▼珍しい症例もある。その政治家の症状は例の病に似ているが、とにかく仕事がしたいのである。仕事がないことが許せぬ。だから自分を使ってほしいと願う。胸を張るべき「大臣病」の政治家が亡くなった。与謝野馨さん。七十八歳。博識と自信の政治家であった▼経験した閣僚は兼務も含め十以上。聞いたことのない数である。国会で官僚との二人羽織よろしく、耳元で答弁を教わる大臣は珍しくないが、その必要の一切ない本物の大臣だった▼「自分はアウト・オブ・ポリティクス(政治の外側)」。長い間口癖になっていた。政争や権力闘争だけの政治屋にはならぬ。政策と仕事の政治家になる。そうご自分に、言い聞かせていたか▼その分、自民党の野党転落や落選で仕事ができなくなると、ひどく気落ちしていた。自民党を離れ、民主党政権でも閣僚になったのはただ仕事がしたいの熱のせいかもしれぬ▼<六分の侠気(きょうき)四分の熱>。祖父与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」。国会運営に長(た)け、野党の切なさも理解した。今の自民党に最も欠ける部分である。侠気と熱の政治家が人生という議場を去る。

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  • 【伊勢新聞】

    ▼あのNHKがと話題になったらしい。クローズアップ現代プラスの「『高齢者だってセックス』言えない〝性の悩み〟」である。男女の性格差から風俗店やアダルトサイトを利用する高齢者を紹介し、ジャーナリストの田原総一朗さんが風俗店の内容を問い、性科学者の宋美玄さんが答える。本番は論外だが「主に手と口によるサービス」▼老人と性は、施設などでのトラブルの隠れた一因だとかつて県議会でも取り上げられた。古くて新しい問題だが、それとは別に風俗店のチラシを印刷し売春防止法違反ほう助罪で有罪判決を受けた昭和六十一年の事件を思い出した▼東京・新宿歌舞伎町で水商売や警察官はじめ町の住民を顧客にしていた印刷業者が、同業者からのたっての依頼で受けたチラシで従犯対象の「ほう助罪」に問われた。正犯である依頼主との関係が希薄な上、チラシが売春あっせんを意味しているかどうか知りようもないのは宋さんの解説の通り▼初代の放送倫理・番組向上機構理事長清水英夫編著の支援記録に、印刷業者逮捕は戦前の治安維持法下でもなかったとある。普通の一般人が日常生活をしていてある日突然、警察、検察、司法のストーリーで罪人とされるほう助罪の危うさを小野慶二元判事が説く▼「共謀罪」の衆院通過で通信傍受の拡大論が浮上しているという。当然だろう。法案が成立するとどう適用されるかは現在の法の運用の中にある▼NHKは冒頭の番組のネット配信を「都合によりとりやめ」と告知した。「ほう助罪で引っ張るぞ」との警告が親切な人から入ったのかもしれない。

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  • 【静岡新聞】

    2017年5月25日【大自在】(2017/5/2507:44)▼今から25年も前になる。市民やNPO、行政、企業が連携して環境改善、人づくりなどを推進する「グラウンドワーク(GW)」の事業について、発祥の地英国の実情を調べる県内の視察団に同行した▼途中、英中部のマンチェスターにも立ち寄った記憶がある。産業革命期に綿工業などで栄えただけに当時の風情も残り、落ち着いた雰囲気を感じたものだ。その後、GWの調査で度々訪英した知り合いに聞けば、再開発も進み、より魅力的な大都市に発展しているそうだ▼そのマンチェスターが惨劇の舞台になった。若手実力派として人気を集める米人気歌手アリアナ・グランデさんのコンサート終了直後、ファンが出口に向かい始めた時、会場の出入り口近くで爆発が起きた▼煙が充満した会場では多くの観客が泣き叫びながら逃げ惑い、パニックになった。「まるで戦場のようだ」。会場にいた人の声が本紙に載った。英首相は自爆テロと断定。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した▼英メディアによれば、8歳の女の子を含む22人が死亡。約60人の負傷者のうち12人が16歳以下だ。グランデさんはディズニー映画「美女と野獣」の主題歌も歌っているそうだから子どもたちも詰めかけたのだろう▼無限の可能性を秘める少年、少女たちを襲った。無防備な人や場所を狙うとはむごいテロだ。会場ではテーブルを担架代わりに人々が救助活動を行い、翌日には数千人の市民が犠牲者を追悼した。各国は「共にある」と決意を表明した。テロに屈しない連帯の輪の広がりだ。

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  • 【北國新聞】

    きょうのコラム『時鐘』2017/05/2500:55「歳歳年年人同(さいさいねんねんひとおな)じからず」とはよく言(い)ったものだ。あすイタリアで開幕(かいまく)するG7の顔(かお)ぶれを見(み)ていて思(おも)う昨年(さくねん)5月(がつ)の伊勢志摩(いせしま)サミット時(じ)と同じ出席者(しゅっせきしゃ)は安倍首相(あべしゅしょう)、メルケル独(どく)首相、トルドーカナダ首相の3人(にん)だけ。7人中(ちゅう)4人が初参加(はつさんか)である。このわずか1年(ねん)の間(あいだ)に世界中(せかいじゅう)で何(なに)が起(お)きたのか、首脳(しゅのう)の顔(かお)ぶれ変化(へんか)が如実(にょじつ)に物語(ものがた)っている日本(にほん)でのサミット後(ご)に、英(えい)はEU離脱(りだつ)へ。米(べい)ではトランプ大統領(だいとうりょう)が誕生(たんじょう)した。この二つの変化が大(おお)きいのだが、どちらも予想外(よそうがい)だった。世界の枠組(わくぐ)みを崩(くず)しかねない重大(じゅうだい)変化なのに予測(よそく)は外(はず)れた。裏返(うらがえ)せば1年先(さき)のことはだれも分(わ)からないということだろう「保護主義(ほごしゅぎ)と戦(たたか)う」と宣言(せんげん)したG7が1年後には「アメリカ第一(だいいち)」を看板(かんばん)にする米大統領を迎える。どう折(お)り合(あ)いを付(つ)けるか。共同声明案(きょうどうせいめいあん)は固(かた)まらず、国際(こくさい)マスコミも予測不可能状態(ふかのうじょうたい)なのだという会場(かいじょう)となるシチリア島(とう)は映画(えいが)「ゴッドファーザー」でも知(し)られるマフィアの島(しま)の印象(いんしょう)が強(つよ)い。かつてメンバーだったロシアを追放(ついほう)したサミットである。「G7」という名(な)の西側(にしがわ)ファミリーの結束力(けっそくりょく)が試(ため)されている。

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  • 【福井新聞】

    【越山若水】「いいね」ボタンをご存じだろう。インターネット交流サイトに投稿されたコメントや写真、広告などが気に入ったときクリックして共感の意思を示す機能である▼友達やユーザー同士で思いを共有できるツールとして、若者を中心に人気が高い。ただし「いいね」が欲しいばかりに、内容を誇張・脚色する人も多いという▼ロシアの情報セキュリティー会社が昨秋、日本など18カ国で調査した結果、12%が「いいね」を稼ぐため「実際に行ってない場所に行ったふりをする」と回答した▼特に男性の方が高く、女性より注目されたいという意識が強いようだ。さらに「いいね」を増やすためには「友達の秘密」「恥ずかしい情報」を投稿すると答えた男性は十数%。女性の2倍にも上る▼調査会社では「承認欲求を満たそうとするあまり、人々は何をシェアし何を秘密にしておくかの境界線を見失っている」と分析。「いいね中毒」の測定テストを勧めている▼さてツイッター好きで有名なトランプ米大統領はどうだろうか。就任して以来、ツイッターで暴言や放言の限りを尽くし自己主張、物議を醸している▼ここに来て大統領選でトランプ陣営とロシア政府の共謀疑惑が浮上し、不透明な接触を認める議会証言も飛び出している。事実を語ることなく誇張・脚色だらけの弁明ツイートならば「いいね中毒」が疑わしい。

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  • 【京都新聞】

    イタリアのシチリア島は、まるで長靴に蹴飛ばされたように地中海に浮かぶ。残念ながら訪れたことはないが、「太陽とオリーブの島」と聞けば心躍る▼先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が、あす26日開幕する。舞台は、この島随一の高級リゾート地タオルミナだ。美しい海と活火山エトナ山を望む高台に街並みが広がるという▼昨年5月の「伊勢志摩サミット」から顔ぶれは様変わりだ。議長国イタリアのジェンティローニ首相ら米英仏伊の4首脳が初めて参加し、国際政治の転換期を感じさせる▼自由貿易主義の陰りや経済格差、テロの頻発、強まる北朝鮮の脅威など、知恵を絞るべき課題は多い。新たな指導者たちが協調姿勢を示せるかどうか。12回目のメルケル独首相に次いで古株の安倍晋三首相は、存在感が問われる▼とりわけ就任前から度々、「トランプ砲」でお騒がせの米大統領の動向から目を離せない。内憂を抱えての外遊デビューだが、自国優先で揺らぐ反保護主義や地球温暖化を巡っても、腹を割って意見を交わせるのか▼シチリア島は、地中海文明の十字路に位置する。さまざまな民族の支配を受けつつ、文化を融合してきた島に集う7首脳の責任は重い。相手の主張にもきちんと耳を傾け、未来への処方箋を見つけてもらいたい。

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  • 【神戸新聞】

    スポーツには間々、無情の判定がある。誤審もある。文句の一つも言いたくなるだろうが、そこをぐっと抑えた敗者の一言は、勝ち負けの結果より記憶に残るものだ。今日はそんな話を◆48年前。大鵬の連勝が45で止まった。相手の足が先に出た「世紀の誤審」といわれたが、横綱は言った。「あんな相撲を取った俺が悪い。圧倒して勝つのが横綱だ」◆35年前。ラグビー大学選手権で同志社が敗れた。選手を退場させた疑問の笛について、率いた岡仁詩(ひとし)さんは「満員の観衆の中で勇気あるジャッジを下されたレフェリーに敬意を表します」。後藤正治さんの本から◆昨年。社会人と学生代表とのアメリカンフットボールの大一番で誤審があった。敗者立命の米倉輝(あきら)監督は「ゲームは終わっている。運営や審判の方々に支えられて試合ができたことに感謝の気持ちしかない」◆5日前。世界ボクシング協会(WBA)のミドル級王座決定戦で村田諒太(りょうた)選手が敗れた。WBA会長が「村田の勝ち」と思うほど不可解な判定だったが、当の村田選手は翌日、自身のフェイスブックに書き込む。「大切なことは、2人がベストを尽くしたこと」。これは僚紙デイリースポーツから◆好漢の弁は涼風に似る。胸の中を清めるように吹き抜けていく。2017・5・25

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  • 【奈良新聞】

    英国のコンサート会場での自爆テロは、子供を含む22人が死亡、59人が負傷する大惨事となった。警備が手薄で攻撃に弱い「ソフトターゲット」を狙ったものとみられるが、なんともやりきれない。会場から出てくる人々を狙っての犯行のようで、これでは入場時の厳しい手荷物検査は意味がなくなってしまう。東京五輪などの大きな行事を数年後に控える日本にとっても、決して他人事ではない。警備のあり方など、一から見直す必要がありそうだ。中部ランカシャーの小学校に通っていた、8歳の少女サフィー・ルソスさんは、母親と姉と共にコンサートを楽しみ、テロに遭遇してしまった。母親と姉は病院で治療中という。「もの静かで控えめだが、創造的才能にあふれる子だった」という少女。そんな幼い命を奪い、希望あふれる未来を奪ってしまった暴挙に、大きな衝撃と悲しみ、怒りが広がる。世界中から、さまざまなゲストがやってくる本県でも、今後ますます緊張感をもって対応していく必要性が出てきそうだ。平和を維持していくことの難しさを、あらためて感じている。(恵)

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  • 【紀伊民報】

    田辺市内の産直店で、採れたばかりのミカンの蜂蜜を納入に来た養蜂家と立ち話を交わした。聞けば、今年は花の開花期に気温が低かったので量は少ないが、品質は最高という。▼即座に一瓶を購入して口にする。うまい。口の中に爽やかな甘さが広がる。かすかにミカンの花の香りがする。ハゼやシイなど里山に咲く花の蜜を集めた「山の蜂蜜」は濃厚で人気があるが、それに比べると口当たりはやや軽い。それがまた好ましい。▼紀南で採れる蜂蜜は評価が高く、この養蜂家の元にも、長野県や岐阜県の専門業者から購入の申し込みがあるという。あちらにはミカンの花がないせいだろうかと聞くと「いや、山の蜂蜜も含めて味そのものに人気がある」という。それだけこの地には蜂の活動に恵まれた環境があるということだろう。▼一口に蜂蜜といっても、輸入品まで含めればその品質は千差万別。採れる場所、養蜂家の技術と経験、採蜜のタイミング。さらには花が咲く時季の気温、日照時間、風の向きまでが収量や品質に影響する。▼紀南では、ミカンや梅など果樹園芸が盛んで、畑ではレンゲが咲き、里山では広葉樹が多彩な花をつける。そういう環境があるからこそ、ミツバチも安心して生育できるのだろう。▼毎朝、口にする一さじの蜂蜜は天からの恵みであり、ミツバチにも人間にも優しい環境を維持し、持続してきた人々からの贈り物である。その恩恵を忘れてはならない。(石)

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  • 【山陽新聞】

    同じ時、隣の家で、町で、国で子どもたちは何をしているか。長谷川義史さんの絵本「ぼくがラーメンたべてるとき」は想像を外へ外へと広げていく▼テレビのチャンネルを変える。野球のバットを振る。そんなのんびりした身の回りの様子は世界が広がると、変わる。水くみをしたり、牛をひいたり。働く子が現れ、やがて荒廃した町の中、「おとこのこがたおれていた」と▼今、この時も、卑劣な暴力に倒れる子がいるかもしれない。英国のテロは、子どもも犠牲になった。ナイジェリアでは、少女が拉致され、自爆テロをさせられるケースが急増し、今年に入り約40件に上るという▼戦闘員との結婚を断ると、テロを命じられた—。起爆せずに助かった14歳の少女が証言している。銃を持った戦闘員に押さえられ、体に爆弾を巻かれた。逃げたかったが、銃撃が怖くて、指示された軍の施設へ歩いた。「ドン」。爆音とともに、数十メートル前にいた同行の女性の体がばらばらになった▼テロを行う過激派のボコ・ハラムは3年前、学校から多くの女子生徒を拉致した。今月、82人が解放されたが、110人余は今も行方不明で、自爆テロで命を落とした子もいよう▼好きな物を食べる楽しみも好きなことをする自由も奪われ、テロを強いられる。その恐怖を想像すると、猛烈な怒りがこみ上げる。(2017年05月25日08時00分更新)

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  • 【中国新聞】

    私もヒバクシャ2017/5/25「一九四五年八月六日は書けても、その以後が書けない」。86歳の森下弘さんが広島で被爆して約30年後に刊行した詩集につづっている。肉体的苦痛に加え、「不安の影」を引きずり続ける胸の内を率直に明かす▲森下さんは64年に世界平和巡礼に参加し、体験を語ることに希望を見いだした。核兵器保有国を巡り、原爆が人間にもたらす痛みを訴えた。その背中を押したのが、巡礼を提唱した故バーバラ・レイノルズさんだった▲私もヒバクシャです—。原爆投下国から広島に来たバーバラさんがよく語っていた言葉である。先日まとまった核兵器禁止条約の草案を見て思い出した。前文には「核兵器使用の犠牲となった人々(Hibakusha)の苦しみに留意する」とある▲条約交渉の先行きは見通せない。核保有国が参加を拒み、被爆国日本もなぜか歩調を合わせる。そのため実効性を疑問視する声も聞かれる。でもそれは、核兵器をパワーゲームの道具としてしか見ていないからだろう▲森下さんは「核兵器が人間を苦しめ続ける凶器だという事実を広めたい」と交渉を見守る。国家のエゴが阻もうとも非人道性を伝え続けることで道が切り開ければいい。

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  • 【日本海新聞】

    人気エッセイストの阿川佐和子さん(63)が一般男性(69)と結婚した。祝福ムードの中、社内では同世代の男性陣がざわつく。ファンゆえの嫉妬や羨望(せんぼう)か◆一昨年5月に鳥取市であったフォーラムで、阿川さんは詩人谷川俊太郎さんと対談し「いつか(・・・)結婚したい」と話していたが、それが今のタイミングだったかも。「穏やかに老後を過ごしていければ幸い」という結婚コメントには大人の余裕もうかがえて何とも格好良い◆さて、50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は2015年に過去最高を更新。男性では4人に1人(全国23・37%、鳥取23・90%)、女性では7〜8人に1人(全国14・06%、鳥取12・20%)に相当し、非婚・晩婚・晩産化は加速する一方だ◆少子高齢化社会の打開策として、行政が結婚適齢期を絞り、妊娠・出産を踏まえた結婚支援に乗り出すのはやむを得ない。だが「シニア婚」「同性婚」「事実婚」に驚かなくなった今、従来の結婚制度に縛られた対策には限界がありそうだ◆18日付の「読者のひろば」では、還暦前の記念にウエディングドレス姿で写真撮影を楽しむ58歳女性の投稿が掲載された。「いい年して…」という周囲の声にも「まだ若い」と胸を張る。つくづく“適齢期”は自分の心持ち次第だと思った。(紀)

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  • 【山陰中央新報】

    中海干拓淡水化事業の賛否をめぐって揺れたころ、推進派から「風の人」という言い方での批判をよく聞いた。ずっと土地に暮らしていないのに環境問題で騒ぐな、との意味合いだった。時代が変わり、今では逆に「風の人」に対する期待が高まっている▼その土地で生まれ育ち、地域のことをよく知る「土の人」だけでは意外に気付かない、地域の魅力や可能性。Iターン者などが、違った視点からそれを見つけ、地域を変えるチャンスを運んでくれるかもしれないからだ▼考えてみれば当地は、文化や観光で今も「風の人」の遺産により大きな恩恵を受けている。文学者ラフカディオ・ハーンを筆頭に、茶の湯文化を根付かせた松平不昧も、いわば「風」と「土」が半々。石見では万葉の歌人・柿本人麻呂が各地に足跡を残している▼さらに歴史ファンが増えている今は、いずれも隠岐に配流された後鳥羽上皇や、来年が即位700年になる後醍醐天皇も、取り組み方次第では、全国に通用する広い意味での「風の人」に仲間入りできる可能性を秘めている▼地域づくりは、過去・現在・未来という長い時間を通じた「風の人」と「土の人」の出会いと交流から生まれる合作のようなもの。江戸学で知られる田中優子さん(法政大学総長)の言葉を借りれば、文字通り「風」と「土」を合わせて「風土」なのだという▼「土の人」が耕してきた畑に「風の人」が運んで来る種をまいて共に育て実りの時を待つ。その日々が地域の希望につながる。(己)

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  • 【山口新聞】

    ペットがらみの読むのもつらい内容の投稿が、ネット上に拡散した。静岡県の高速道路サービスエリア駐車場そばの休憩スペースで4月16日、チワワが闘犬種にかみ殺されたというのだ▼係留用のポールを引き倒しながら、アメリカンピットブルらしき4匹が襲いかかり、チワワの飼い主が必至で引き離そうとしたが、次々とかみついた。気が付けば血だらけで、瀕死(ひんし)の状態。2歳の娘さんの目前での惨劇だった▼動物病院に運ばれたチワワは、助からなかった。20キロ程度の中型犬用ポール1本に体重が計120キロの4匹をつなぎ、飼い主はその場を離れていた。被害家族によると、一瞬の事で、なぜ最悪の事態を招いたのか、知りたくて投稿したそうだ▼わが家の愛犬(中型)も、旅行先の宿で看板犬2匹(中型)に襲われたことがある。散歩ですれ違いざまにワッとこられ、リードがからみあって救出かなわず、お尻をかまれた。大事には至らなかったが、心の傷が残った。豹変(ひょうへん)した原因は分からぬまま▼家族の一員として愛されたであろうチワワの衝撃的な死は、時に制御不能に陥る犬の世界と、保護者たる飼い主の責任を考えさせられた。どんなに怖く、痛かったことか。(宮)

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  • 【愛媛新聞】

    「みんなのため、町のために鉄道を残したい」。伊予鉄道から移った車両が走る千葉県の銚子電鉄。廃線の危機を乗り越えつつあった3年前、脱線事故で車両が損傷した。修理費用確保に立ち上がったのは地元の高校生。インターネットを通じて480万円を集めた。車両は1年後に復帰。笑顔を乗せ走り続ける▲全国的に鉄道、路線バスの廃止や便数減少が相次ぐ。過疎化による利用者減など時代の流れの中、地域の足を守ろうと、奮起する住民は路線を維持し、元気づける大きな支え▲JR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」は車窓からの眺め、車内で味わう地元食材の料理が魅力。たぬきに扮(ふん)した駅長の出迎えや旗振りなど住民のもてなしも、乗客の心を打つ▲東温市の住民グループによる、路線バスで滑川渓谷などを訪れるツアーは毎回人気だ。メンバーは、ツアーをきっかけに「月に何回かは電車やバスに乗ってほしい」と願う。それが、路線を守ることにつながるから▲「ローカル鉄道という希望」(河出書房新社)の著者、田中輝美さんは地方の元気な鉄道の共通点に、鉄道を「自分ごと」と捉え、自ら動いて汗をかく住民の存在を挙げる。愛媛で頑張る人たちは、まさにそう▲県内上映は未定だが、高校生が銚電を盛り上げる映画「トモシビ」が公開中。修理費を集めた実話も登場する。「自分ごと」と捉える登場人物の思いを、多くの人に共有してほしい。

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  • 【徳島新聞】

    ぎょっとする数字である。韓国の原発で使用済み核燃料の火災を伴う事故が起きた場合、西日本を中心に最大2830万人が避難を余儀なくされる恐れがある。そんな試算を韓国の専門家がまとめた2015年1月1日の気象データに基づく放射性物質拡散予想図には、韓国南部の1点に始まり、瀬戸内から四国、紀伊半島を通って太平洋に抜ける赤い帯が示されている。高濃度の汚染地域である本県も全域が帯の中に収まっている。偏西風に乗って放射性物質が飛来するらしい。一衣帯水の関係とはいえ、韓国をも上回る甚大な被害が出るという試算が正しいとすれば明白な脅威だ。この専門家はさらに気味の悪いことを言う。「地震や津波だけでなく、テロや北朝鮮のミサイル攻撃が事故につながる事態も排除できない」国際社会の懸念をあざ笑うように、北朝鮮のミサイル実験がやまない。「成功」に気を良くしたのか、新型中距離弾道ミサイルを実戦配備し、量産する構えだ。そうなると、日本全土が射程に収まるとされる韓国の原発が攻撃を受けても、気象条件によっては、海を越えて影響は広範囲に及ぶ。日本国内の施設なら、なおさらだ。その確率は、自然災害に比べて高いか、低いか。まともに議論はされないが、とにもかくにも大変なリスクであることに違いはない。

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  • 【高知新聞】

    佐川町出身の土井八枝が1935(昭和10)年に出版した「土佐の方言」は近代的な土佐弁研究の先駆けとされる。収録した語は約760と多くはないが、生き生きとした用例が楽しい。八枝は東京音楽学校在学中に、「荒城の月」の作詞で知られる詩人で英文学者の土井晩翠と結婚。移り住んだ仙台になじむため、仙台弁をメモしたのがきっかけで、「仙台方言集」を出版した。好評だったという。それから20年近く後にまとめたのが「土佐の方言」だ。柳田国男や吉村冬彦(寺田寅彦)らが序文を寄せた。晩翠との関係からだろうが、賛辞は惜しみない。柳田は高知と仙台、南北の地で暮らした八枝の丁寧な仕事に、方言の比較研究という方向性の重要性を指摘している。八枝と同学年の寅彦は、自分なら思い出せなかったような言葉を数多く集めていることに驚き、郷土への深い愛着をみる。さらに、方言の収集整理には「婦人の方が適任ではないか」。理由の一つに挙げた語感への鋭敏さは八枝の音楽的才能も働いていよう。翌36年に高知県女子師範学校の「土佐方言の研究」、37年には宮地美彦の「土佐方言集」が出版された。明治政府の統一政策による「口語同化」(柳田)の流れが、戦争準備として強化されることへの危機感があったのではないか。八枝が集めた土佐弁には既に耳にしなくなったものも多いが、包み込むような温かさは生き続けている。5月25日のこよみ。旧暦の4月30日に当たります。みずのえね七赤先負。日の出は5時00分、日の入りは19時06分。月の出は4時36分、月の入りは18時20分、月齢は28.6です。潮は大潮で、満潮は高知港標準で5時01分、潮位188センチと、18時06分、潮位190センチです。干潮は11時32分、潮位−1センチと、23時52分、潮位63センチです。5月26日のこよみ。旧暦の5月1日に当たります。みずのとうし八白大安。日の出は4時59分、日の入りは19時07分。月の出は5時26分、月の入りは19時30分、月齢は0.3です。潮は大潮で、満潮は高知港標準で5時40分、潮位192センチと、18時55分、潮位193センチです。干潮は12時16分、潮位−10センチです。

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  • 【西日本新聞】

    1985年に発売された「口唇からショット・ガン」という歌がある。〈あやまちを許すには疲れすぎた〉と、突っ張り少女役で人気を博した女性アイドルが歌っていた。後に政界に転じた自民党参院議員の三原じゅん子氏である▼「(がん患者は)働かなくていい」。同じ党の衆院議員大西英男氏の口から放たれた言葉は、ショットガンの銃弾のように、がんと闘う人たちの心を撃ち抜いた▼飲食店の客や従業員の受動喫煙をどう防ぐかを論議した同党厚生労働部会。がんを克服した自らの経験を踏まえ、三原氏が「治療しながら働く患者は仕事場を選べない」と話していたところに飛んで来たやじ。「(働く場所が限られるがん患者が)やっと見つけた職場が喫煙可ではたまったものではない」と三原氏は憤る▼がん患者団体も強く反発。大西氏は「患者や元患者の気持ちを傷つけた」と謝罪した。だが、真意は「受動喫煙のないところで働いていただいた方が、その方のためだ」として発言自体は撤回しなかった▼本当に反省しているか。何しろ、大西氏は失言、暴言の“常習犯”だから。「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなることが一番だ」「みこさんのくせに、なんだ」。そのたびに反省を口にするのだが▼〈あやまちを許すには疲れすぎた〉と言いたくなる。あなたこそ、国政で「働かなくていい」−というやじが飛び交っていよう。=2017/05/25付西日本新聞朝刊=

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  • 【宮崎日日新聞】

    5カ月ほど前、パリに行く機会があり、銃撃テロのあったバタクラン劇場を訪ねた。入り口脇の壁面には、悲劇を忘れないために概要を記すプレートが取り付けられている。2015年11月13日の夜、ライブでごった返す会場で3人の男が銃を乱射、約90人の犠牲者が出た。劇場前にはろうそくがともされていて、時折市民らが祈りをささげる。近くにはやはり襲撃のあったカフェがあるが、何もなかったように人々でにぎわっている。日常を変えるのはテロに負けたことになる。前へ向かって進むパリっ子の強さが頼もしかった。しかし著名観光地に限らずパリの大きな商業施設では、必ず入り口で手荷物検査があり、テロが生活の隅々に影を落としているのは確かだ。そしてまた、一般市民が集まる場所がテロの標的になったことに暗たんたる思いを禁じ得ない。英中部マンチェスターのコンサート会場で起きた自爆テロでは、子どもを含む22人が死亡、59人が負傷した。パニックで逃げ惑う人々の様子が動画で配信されていた。大義が見いだせない蛮行に怒りがこみ上げる。会場に格別な警備はなかったというが、責めようもない。テロはより警備の薄い「ソフトターゲット」を狙って移るだけだ。ただ、人が集まり密閉された劇場は今後も狙われる可能性がある。国内外問わず、人混みでは避難経路を確認しておいた方がよさそうだ。県立芸術劇場では災害を想定した避難訓練がある。テロの際の応用、などと考えると芸術鑑賞に水を差すが、日常を守りつつ、危機回避に細心の注意を払うべき時世だ。

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  • 【長崎新聞】

    英語で言うとサバイバー(生存者)。「その瞬間」を生き延びただけでなく、その後の長い歳月をひたすら生きたという意味にも取れて、何やら奥深い。「被爆者」の訳語である▲本来「サバイバー」とするところだろう。それを「ヒバクシャ」とした。核兵器を国際的に非合法にしようという「核兵器禁止条約」の草案の前文に「核兵器使用の犠牲になった人々(ヒバクシャ)の苦しみを心にとどめる」という文言が盛り込まれた▲条約づくりで各国の意見を取りまとめる人物、コスタリカ大使のホワイト氏が4月、長崎市を訪れた。このとき田上富久市長から「被爆者の最後の一人が亡くなる前に、条約の実現を見せてあげたい」と思いを託されたという▲あえて「ヒバクシャ」としたであろう前文、つまり条約の趣旨や決意を表す文は、ホワイト氏から被爆地への応答に思えてくる。もう時間がない、急いでほしいというその思い、受け止めましたよ、と▲条約を「時期尚早」とする日本政府は、しかめっ面だろう。急いだところで条約に反対する核保有国との溝を深めるだけだ、現実が動くわけないさ、と手を懐に入れている▲急がないと、一人もいなくなる前に。この声に遠くから応答があり、被爆国の政府は聞こえないふうである。不可解と言わずに何と言おう。(徹)

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  • 【佐賀新聞】

    麦シャッパ2017年05月25日05時00分見渡す限り一面の麦の穂が波打ち、サワサワという音が心地よい。先日、佐賀市川副町の麦畑であったイベント「麦秋カフェ」に足を運んだ。吹いてくる風が、枯れ草のような、なんともいえない熟れた麦の匂いを運んでくる。心が解き放たれた。<一枚の空一枚の麦の秋>小島花枝◆黄金色の麦が果てなく広がるのは、全国3位の産地・佐賀の原風景である。大麦、小麦と刈り取りは来月上旬まで続く。昔から「麦はかます(藁(わら)むしろで作った袋)に入れるまで分からん」という。雨に弱い麦だから、収穫するまで農家は気が抜けない◆これから美味(おい)しい時期を迎えるのがシャコ(シャッパ)である。「麦シャッパ」と言って、産卵前の麦刈りの時が旬。子どものころ、有明海で取れたものを醤油(しょうゆ)で煮て、山盛りにしたシャッパをよく食べた。親たちに硬い殻のむき方を教わり、かぶりついた思い出がある。煮汁で食べるそうめんの味も格別だった◆いつしか口に入らなくなった。店頭でも並ばないので、漁協や魚市場に聞いてみると、有明海ではめっきり取れなくなったという。太良町大浦ではエサを入れた「シャッパかご」で取るが、操業する人もほとんどいない◆アゲマキやタイラギが消え、シャッパまでも…。有明海異変は若き日への郷愁を曇らせ、なんとも切ない気持ちにさせる。(章)

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  • 【南日本新聞】

    芥川賞と直木賞を同時に射止める。しかも15歳の女子高校生が—。マンガ大賞2017を受賞した「響〜小説家になる方法〜」の主人公は突如文壇に登場して台風の目になる。「圧倒的な才能を描きたい」。作者の柳本光晴さんが物語の狙いを話している。それにしても大胆な発想には面食らうが、表現の道を一心に追い求める姿は力強い。読者は主人公が秘めた可能性を信じて固唾(かたず)をのむのだろう。将棋界に現れた新星は漫画をしのぐ活躍ぶりだ。中学生の藤井聡太四段である。史上最年少の14歳2カ月で昨年10月にデビューすると、ほとんどが格上との対局を制し、公式戦の連勝を18に伸ばしている。初戦で77歳の加藤一二三・九段に挑んだ。それまでの最年少記録を持つ元名人は「素晴らしい才能の持ち主だと思います」とうなった。正確さと速さを競う詰め将棋で培ったという終盤の強さは、とりわけ折り紙付きだ。インタビューを受けるときに見せる伏し目がちな表情があどけない。それでいて「望外の結果」と大人びた言葉で対局を振り返る。先輩への敬意がにじんでいるようで、すがすがしい。これまでに公式戦を戦った棋士の平均年齢は40歳である。快進撃の陰に勝負の世界の厳しさと、第一線で戦い続けることの難しさを思う。きょう、19連勝を懸けて対局に臨む。生身の人間だけが持つ可能性の大きさに胸が高鳴る。

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  • 【琉球新報】

    船が転覆し、海に投げ出された母親は3歳の娘と1歳の息子を抱きかかえ、必死に泳いだ。力及ばす娘は波に流された。後にそれを母から聞いた息子は「天命」に突き動かされる▼弁護士の瑞慶山茂さん(73)は1944年、日本統治下のパラオで米軍の空襲から避難する途中、輸送船が転覆し、姉を亡くした。沖縄では祖母が米軍に狙撃され死亡した。南洋戦と沖縄戦の国賠訴訟弁護団長として国の責任を追及しているのはこの経験が原動力だ▼瑞慶山さんは「国は沖縄戦被害の回復責任を果たしていない」と主張する。自身の試算では、沖縄戦の人的損害は16兆5千億円超、財産的経済的損失は20〜30兆円に上るという▼沖縄が日本に復帰した72年度から2015年度までの沖縄関係予算は約11兆5千億円で、うち振興事業費は約10兆4千億円。これに復帰前の財政援助を足し、国がこの間に沖縄から徴収した国税約10兆円を引き、戦後70年間でならすと年間100億円に満たない▼沖縄振興の原点である「償いの心が見えてこない」と瑞慶山さん。子どもの貧困など沖縄の問題は、日本政府が根本的復興策の責任を放置してきた結果とみる▼菅義偉官房長官は復帰45年に関し「基地と振興策は結果的にリンクする」と語った。新基地建設は新たな犠牲を生む。“復興半ば”の沖縄にとって、これ以上の犠牲は要らない。

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  • 【沖縄タイムス】

    役人の世界で出世するにはどうすればいいのか。その心得を紹介した本に、法学者・末弘厳太郎の「役人学三則」(岩波現代文庫)がある。約80年前の著作だが、今でも官僚主義の本質を突いていて面白い▼三則の一つに「役人たるもの、平素より縄張り根性の涵養(かんよう)に努めよ」とある。意訳すれば、国益や世間のニーズよりも省益を優先すべし、だろう。省益より局益という言葉があるぐらいだから、役人の縄張り意識は健在である▼先の改訂版を出すなら、「発覚したらまずい案件は文書に残すな」「責任を追及されても知らぬ存ぜぬを貫け」を追加してはどうか。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人の獣医学部新設計画をめぐる一連の動きを見ながら思う▼問題の核心は、報道で表に出ている文書に記載された「(学部新設は)総理の意向」が事実であったかどうかである。所管の松野博一文部科学相は「(文書の)存在を確認できなかった」と調査結果を発表し、役人は一様に口をつぐんだままである▼実は、末弘の「出世の心得」は皮肉を込めた逆説的な忠告であり、別の書籍では「役人に必要なものは法律ではなく良心と常識である」と説いている▼マニュアルをうのみにし、縄張り意識の涵養に熱心な役人たちの姿に、泉下から法学の泰斗のため息が聞こえてくる。(稲嶺幸弘)

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