▼コラム
1.「卓上四季」【北海道新聞】 通勤の電車内で、うとうとしている人が目に付くようになった。車窓から入る柔らかい陽光、ほんわかする車内、そして適度な揺れ。<汽車ゆれて春眠ゆれてをりにけり>。小学館「こども歳時記」で見つけた一句である。情景が今の季節に、ぴたりとはまる▼もちろん、睡眠は健康にとって重要だ。6年前の国の調査で、日本人の平均睡眠時間は7時間42分。道民はそれより6分ほど長かった。「忙しくて、そんなに寝てない」との声も聞こえてきそうだが、これはあくまで平均値▼ただ、睡眠は長ければいいとは限らない。長期調査で、7時間ほど眠っている人が最も長生きだという結果が出ている。毎日8時間以上眠る人は5時間以下の人よりも血管の老化が進んでいたとの報告もある▼とはいえ、眠い目をこすりながら、いくら仕事に励んでも能率は上がらず、場合によっては危険である。企業の中には専門家による睡眠指導を行ったり、特別室を設けて昼寝を勧めたりするところも出始めている▼心配なのは子どもの寝不足だ。スマホの利用頻度が高いほど、睡眠時間が短いという。会員制交流サイト(SNS)やゲームなどに夢中になり深夜までスマホにかじりつけば、生活リズムが崩れる▼さまざまな情報がすぐ手に入るスマホは重宝な道具だが、それで心身の健康を損なえば本末転倒である。「寝る子は育つ」の格言を大事にしたい。2017・4・24
2.「河北春秋」【河北新報】 東日本大震災の2年後、被災地のがれき撤去はまだ終わっていなかった。時代が違うとはいえ、被災の爪跡が残る時期に敢行された偉業の真意は何だったのか。仙台藩主伊達政宗による慶長遣欧使節団のことだ▼支倉常長らを乗せたサン・ファン・バウティスタ号が現在の石巻市月浦を出航したのは1613年10月。2年前の12月、慶長三陸津波が襲い、仙台藩に大きな被害をもたらした。被災からの歳月の短さに、使節団派遣は政宗の被災地復興策だったと指摘する研究者もいる▼そうした説に想を得た劇団わらび座のミュージカル『ジパング青春記』の公演が仙北市のあきた芸術村で始まった。津波で最愛の姉を失い、絶望の淵にいた若者が、サン・ファン号に生きる希望を見いだし、船出を果たすまでの姿を描いた▼つらい出来事や悲しみを乗り越えて生きていくためには、夢を持って前に進んでいこう。作・演出を手掛けた横内謙介さん(劇団扉座主宰)は、400年前の名もなき若者に切なる思いを託した▼あきた芸術村での公演は、11月26日まで。来年1月20日〜2月9日の仙台公演には、宮城県内の子どもたち1万人を招待する計画がある。一人でも多くの子どもに、観劇を機に大きな夢を抱いてほしい。公演に携わる全ての人の願いだ。(2017.4.24)
3.「天地人」【東奥日報】 ロッジの近くを下見してまわった。タラの芽が、収穫適期までもう少しに見えた。<あと一週間待とう>。ほくそえんで帰る。なのに、翌日通りかかったら、もうなかった。人気の山菜は<伸びる間もなく摘まれてしまう運命…>。みなみらんぼうさんが『八ヶ岳キッチン』(フレーベル館)で愚痴をこぼしている。雪どけが進んでいると聞いて、いつもの場所に下見に行ってきた。コゴミの収穫には、やはりまだ早い。それでも、里山を歩き、春の息吹を感じただけで、車を走らせた甲斐(かい)はあった。ついでにフキノトウを摘んで、晩酌のあてに。山菜採りで亡くなったり、行方不明になった人が昨年、県内で11人いたという。過去5年間でもっとも多かったと、先週の会議で県が報告した。担当者は、山菜採りに慣れた人ほど遭難しやすい−と分析する。群ようこさんはニュースを聞くたびに不思議に思っていた。どうして山菜を採りに行って行方不明になるのか。体験してはじめてわかったという。<山菜に気をとられ、下ばっかり見て…ふと気がついたときには…>。『活!』(角川書店)に書いている。群さんのような体験をしたビギナーは多いのではないか。「夢中になって欲ばりすぎてはだめ」「山の幸を少しいただくという気持ちで再生を考える」。ベテランの教え、守るべきマナーがある。反芻(はんすう)しつつ、来週もまた。
4.「天鐘」【デーリー東北】 天鐘(4月24日)湖上のボートをこぐように、人は後ろ向きに未来に入っていく—とは仏の詩人バレリーの言葉である。目に映るのは過去の風景だけ。明日の景色は誰も知らない、と▼このところ、「世界」というボートの未来に、不穏な空気を感じる方も多かろう。まだ見ぬ明日に向けて各国が懸命にこいではいるのだろうが、さて、互いにぶつからずに前進できているのか。日々不安が募る▼朝鮮半島付近に向けて航行している米原子力空母カール・ビンソンが昨日、フィリピン海で海上自衛隊と共同訓練を始めた。弾道ミサイルや核実験の準備など、挑発行為を繰り返す北朝鮮をけん制する狙いという▼米大統領は、中国国家主席との会談中に、シリアへのミサイル攻撃を報告してみせたばかり。制御不能の北のリーダーと相まって、不測の事態に対する緊張が高まる▼北や米だけではない。中国にロシア、シリア…。テロに揺れた仏の大統領選を含めて、各国に「キャラの立った」指導者が目立つ。果たしてどんな未来を見据え、戦略を立てているのか。自国の都合のみを訴え、結果的に破滅を招くのだけは願い下げだ▼著書『指導者とは』でニクソン元米大統領は、偉大なリーダーには「過去を現在と照合することによって、未来を望見する技術」が要ると指摘した。後ろ向きに手探りしつつ、血も涙も流さずに済む明日を見つけて。指導者たちに望みたい。
5.「北斗星」【秋田魁新報】 山形県の羽黒山の北東に位置する庄内町立谷沢(たちやざわ)地区に、古くから霊場として信仰を集める熊谷神社がある。山間の森閑としたこの地で、日本の稲作地図を大きく塗り替えたコメの品種「亀の尾」が誕生した▼冷害に見舞われた1893(明治26)年の秋、地元の篤農家が神社に参拝した際に近くの水田で1株だけ立派に実っている稲を発見。その稲穂3本を譲ってもらい、4年がかりで耐冷性と食味に優れた品種を育成した。それが亀の尾である▼コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまち、つや姫…。亀の尾の血を引く品種はそうそうたる顔触れだが、傑出しているのはやはりコシだろう。1956年に誕生し、60年を経た現在もコメ市場を席巻している▼そのコシを育成した福井県が今秋、新品種「いちほまれ」を市場デビューさせる。コシの本家でありながら奨励品種に採用するのが遅れ、ブランド力は新潟県産より劣る。このため6年前から「コシ超え」という大目標を掲げて開発を進めてきた▼20万種類から成分分析などで選び抜き、食味検査ではコシを上回る評価を獲得。近年は命名に凝った新品種も多いが、奇をてらわない品種名にコシ発祥の地としてのプライドがにじむ▼77年にこまちの元祖である稲株を本県に無償で譲渡してくれた福井県である。新たなブランド創出への挑戦にエールを送りたい。コシを生んだ亀の尾が東北で育成されたことを考えれば、ポストこまちに挑む本県も負けてはいられない。
6.「談話室」【山形新聞】 ▼▽「大きな鞴(ふいご)が荒々しく作動しているような音がきこえてくる」「巨大な生物の呼吸音」か−。夜の闇に包まれた開拓集落をヒグマが襲う。6人が亡くなった「三毛別(さんけべつ)羆(ひぐま)事件」は北海道苫前(とままえ)村で1915年12月に起きた。▼▽日本獣害史上最大の惨事をモデルに吉村昭さんは「羆(くま)嵐(あらし)」を執筆した。冬ごもりに失敗して凶暴化した「穴持たず」のヒグマが山奥の家々で牙をむく。村人が銃を持って立ち上がるが力及ばず、警察率いる組織は無力で、札付きの男だが羆撃ちの名手に最後の望みを託す…。▼▽本県を含む本州などに生息するのはツキノワグマだが、隣の秋田県では昨年5〜6月、4人が襲われて死亡した。県内の昨年の人身事故は2件。4月に渓流釣り、9月にキノコ採りで入山した2人が被害に遭った。クマを目撃した件数は過去5年で最多の575件に上った。▼▽県はあす、総合クマ対策推進チーム会議を開く。中山間地の荒廃、耕作放棄地の増加といった、人間の営みによる圧力の低下などを背景にクマの出没が目立ってきた。今年のクマ目撃は3月末で3件。山菜採りや釣りで山に入る機会が多くなる時季、対策をどうぞ怠りなく。
7.「風土計」【岩手日報】 2017.4.24学生時代に愛聴したレコードを聴きたくなって、CDで買い直すことがある。そんな曲の一つが、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の「雨を見たかい」▼1960年代後半から70年代初めに活躍した米国のロックバンドで、この歌は日本のCMに使われたこともある。メロディーを耳にすれば「ああ、あの曲」と思い出す人も多いだろう▼「雨を見たことがあるかい、晴れた日に降ってくる雨を」と繰り返すサビが印象的だ。ヒットしたのはベトナム戦争さなかの71年。歌詞の「雨」が投下されたナパーム弾を指しているとされた▼当時は反戦歌と受け止める人も多かったが、作詞作曲したメンバーはバンド内の人間関係を突然降ってくる雨に例えたと否定したという。確かに歌詞は、戦争もベトナムも出てこない▼同じ年に、国家や宗教の対立を超えた平和を訴えるジョン・レノンの名曲「イマジン」もヒットした。雨=爆弾と連想させるような社会状況ではあっただろう。今また世界は、きな臭さを増している▼シリアへの攻撃で、世界に衝撃を与えたトランプ米政権。核実験やミサイル発射を続ける北朝鮮にも軍事的圧力をかけている。直ちにかつてのような泥沼の戦争へとつながるとは思わないが、人々の頭上へ再び雨のように爆弾が降り注ぐ状況は想像したくない。
8.「あぶくま抄」【福島民報】 ふるさと(4月24日)その男性は、はるかオランダ・アムステルダムから故郷を思う。かつては絹の産地として栄えた伊達市霊山町掛田。山に囲まれた狭い土地に細長く中心地が広がる。いとしい、かけがえのない風景だ。中学卒業と同時に上京し、60年近くなる。料理人を目指し有名ホテルに勤めた。「金の卵」は無我夢中で腕を磨き、系列のホテルに勤務するため海を渡る。自分の洋食が果たして世界で通用するのか、試してみたかった。名を上げ、現地で開かれた天皇・皇后両陛下の歓迎レセプションの料理長まで務めた。震災と原発事故のニュースに心を痛めた。「福島は安全だ」と訴えるため県人会を設立し、初代会長となった。福島の水とコメを使った料理をイベントで振る舞い、食への誤解を解いてきた。6月に欧州の県人会代表が集うサミットを開き、風評払拭[ふっしょく]に向けた活動の強化を誓う。帰国した男性は先日、掛田に足を向けた。小国川に架かる大手橋を渡って、まちのシンボル茶臼山へ。サクラのつぼみは堅かったが、懐かしい場所を再訪できて幸せだった。なぜだろう。言葉にならぬ思いが込み上げて、目頭が急に熱くなった。忘れがたきふるさと−。
9.「編集日記」【福島民友新聞】 「恋の予感」「富富富(ふふふ)」「だて正夢」...。数日前の小欄で詩人草野心平の居酒屋のメニューの話を書いたが、今度は違う。それぞれ広島、富山、宮城県の米の新品種の名前だ▼米を巡っては消費者のコメ離れが進む中、各自治体がシェア拡大を図ろうと、開発にしのぎを削る。農林水産省が農産物検査法に基づき指定している「産地品種銘柄」の数は現在753。本年産は大幅に増える見通しだ▼銘柄米といえばコシヒカリ。約60年前に福井県で誕生した。同県は先週、コシヒカリ後継に位置付ける米の名前を「いちほまれ」に決定した。秋から試験販売し、2018年から生産量を増やす計画だ▼本県での品種別生産割合は、コシヒカリ6割弱、ひとめぼれ約2割、天のつぶ1割弱といった具合。本年産米から中山間地向けの「里山のつぶ」もいよいよ参戦する。さらに県はコシヒカリに代わるような独自品種の開発を急いでいる▼「コシヒカリ偏重」から脱する動きは消費者も同じで、選択基準は味、価格、産地など多様化している。激しくなるばかりの産地間競争に打ち勝ち、原発事故の風評という壁を乗り越えるためには、消費者の心をつかむ名前を含めて戦略を練らねばならない。
10.「雷鳴抄」【下野新聞】 矢板市泉小学校の新入生は16人。入学式で、黒川保二(くろかわやすじ)校長(59)から、同校に在籍する米国生まれのローズィーを紹介された。1927(昭和2)年、日米友好の証として米国から贈られた「青い目の人形」である▼本県には213体が贈られ、各地で熱烈な歓迎を受けた。その様子を当時の下野新聞も伝えている。しかし、日米開戦によって親善大使は一転、敵性人形になる▼43年2月の毎日新聞には「青い目をした人形憎い敵だ許さんぞ」という見出しが躍っている。人形はほとんどが壊され、焼かれた。友好の証が子どもたちの戦意発揚の道具にされる。戦争の狂気を感じる▼なぜ泉小の人形は残ったのか。2015年に2度目の泉小勤務となった黒川校長が、関係者の子孫や当時の在校生を訪ね歩き謎を解いた。当時の江連義雄(えづれよしお)校長が、隣村の友人に頼んで隠してもらい難を逃れたのだ▼江連校長の英断で残った人形は、泉小の平和教育の貴重な生きた教材になっている。人形による親善運動を呼び掛けた親日家の宣教師ギューリックの孫シドニー・ギューリック3世氏とも交流している▼黒川校長は入学式で新1年生に三つの大切なことを教えた。あいさつと自分のことは自分ですること、そしてみんなと仲良くすること。ローズィーは三つ目の大切さを教えてくれる先生だ。
11.「いばらき春秋」【茨城新聞】 アスファルトの隙間にタンポポが咲いていた。太陽の光が柔らかく降り注ぐ。〈たんぽぽや日はいつまでも大空に〉中村汀女。気象台の生物季節観測によると、水戸のタンポポの開花は今月2日。平年より20日遅かった▼アスファルトの割れ目からしっかりと生え、花開いたタンポポ。厳しい環境の中で生きるのは、さぞ大変だと思われそうだが、実はそうでもないらしい▼植物学者の塚谷裕一さんが著書「スキマの植物図鑑」(中公新書)で「隙間に生えるということは、過酷な環境への忍耐などではなく」「むしろ天国のような環境の独り占めなのだ」と指摘している▼アスファルトの隙間なら周囲に他の植物はなく、太陽の光や水を独占できるため、光合成には好都合。適度の通風があり、乾燥もしにくいそうだ。掲載の「スキマの植物」は110種を数える▼図鑑のページをめくるのは楽しい。時に未知の世界が広がり、思わず引き込まれることがある▼本県に生息する昆虫を写真付きで解説した「茨城の昆虫生態図鑑」(メイツ出版)も刊行された。茨城昆虫同好会と茨城生物の会が編集した。832種が収録されているそうだ。大型連休が近づいている。図鑑を手に自然に触れてみてはいかがだろう。(柴)
12.「三山春秋」【上毛新聞】 ▼頂点に立った昨年の感激ムードはどこへ行ってしまったのだろう。先ごろ公表された県内公立高校3年生の英語力は全国1位から一転、29位に下がった▼理由が気になって資料を見ると何のことはない、微妙な人間心理のあやがもたらしたように思える。低下した直接の原因は、教師の判定による「英検準2級以上相当の英語力を有すると思われる生徒数」が前回4417人から2325人に半減したため▼試験に基づく順位でなく、県教委は実際の英語力が低下したとは受け止めていない。勝手に想像すると、予想外の1位とその反響に驚き、調査方法を疑問視する文科相発言まで飛び出して、つい遠慮がちな判定になったのではないか▼「家計調査狂時代」とは、統計調査がブームになった大正時代、社会学者の権田保之助が調査の過熱ぶりに疑念を発した言葉だ。ロシア革命の影響もあって各階層の家計が盛んに比較されたが、あやかって言えば今は「都道府県ランキング狂時代」である▼健康、安全、幸福感などあらゆることが比較され、ざっと1400種類以上という数え方もある。内容はまさに玉石混交で、指標を冷静に読み解く力が求められている▼大人社会が英語力のランキングに一喜一憂しようが、高校生が惑わされてはいけない。全国順位よりも、君の一歩の前進に意味がある。
14.「忙人寸語」【千葉日報】 国民の本音は、消費に敏感なタクシー稼業にこそ眠る。駆け出しの記者時代、ことある度に意見を拝聴させてもらった▼年齢、性別、国籍さえ問わず客を乗せる彼らは、かなりの情報通である。その言葉は政治、経済、事件から性風俗まで下手な専門家の高こう邁まいな見識を凌りょう駕がし、市井の代表としての金言となることしばしば▼私小説『東京タワー』を大ヒットさせたリリー・フランキーも、タクシー運転手と猥わい談だんの一つもできるようになって男は一人前とのことを確かエッセーに書いていた▼イラン映画『人生タクシー』(公開中)は、タクシー車内の密室ドキュメンタリー。ジャファル・パナヒ監督が運転手に扮ふんし、乗客との会話劇を車載カメラでとらえる。映像には、混こん沌とんとした国情が生々しく露出する▼“珍客万来”。路上強盗、海賊版DVD業者、金魚鉢を抱えた老婦人などが相乗りし、死刑制度と犯罪抑止効果、イスラム法に基づく因習などの議論に口角泡を飛ばす。厳しい情報統制下で、この密室空間だけは言論の自由が守られる▼落とし物の財布を持ち主に届ける監督の善と、タクシーを離れた一瞬の隙を突いた車上狙いの悪が、ラスト画面に交錯する。反体制活動の咎とがで20年間もの映画監督禁止令を受けている監督は、明快な善悪の行為にイランの失政を見せ、正義はどちらか問う。ジャーナリスティックな筆は健在だ。・・・【残り626文字】全文を読むには、会員登録が必要です。→会員登録へ(月額486円のライトプランがおすすめです)既に会員登録している方は、ログインして下さい。→ログイン
18.「斜面」【信濃毎日新聞】 「人の世はむなし」と覚えた人も多いのではないか。1467年から10年余り続いた応仁の乱だ。室町幕府の実権を巡る大乱で、戦国時代の序章として知られる。人物関係が複雑で権謀術数が渦巻いた。どう始まり、どう終わったか。争いの詳細を理解するのも難しい◆その難題に取り組み、不条理な実態を描いた「応仁の乱」(呉座勇一著、中公新書)が話題になっている。昨年10月の刊行以来、32万部に達した。専門的な本としては異例の売れ行きだ。先が読めぬ時代状況を重ね合わせる読者が多いからともいわれる◆今、日本人の間で募っている不安感は何だろう。ネット上には連日、朝鮮半島情勢の緊迫化に関する話題が躍っている。米軍の北朝鮮に対する攻撃は秒読み段階に入った、といった不穏な情報もある。明確な根拠はない。読む人は緊張するだろう◆政府は北朝鮮のミサイルを想定し、官邸のホームページに国民が取るべき対処方法を公表した。「頑丈な建物や地下街などに避難する」「物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守る」…。都道府県の担当者を都内に集め、住民への周知も求めた。不安をあおることにならないのか気になる◆23年前、米国と北朝鮮は一触即発の状況に陥ったことがある。その際、両者の会談で当面の危機を回避した。政府が今なすべきは東アジアの緊張を外交の力でほぐすことではないか。そんな汗を流しているところを国民に見せることが、安心へとつながる。(4月24日)
19.「日報抄」【新潟日報】 4月24日「牛歩」はケシカランと裁判になったことがある。のろのろの国会採決に苦痛を受けたという有権者3人が慰謝料を国に求めた。額は計1円也。違法な議事妨害のせいで公務員の人件費がかさみ、もったいないと訴えた。とはいえ、これ以上税金を無駄にしたくないから1円でいい−▼そのときは国連平和維持活動(PKO)の協力法案を巡る審議だった。国会は徹夜が続き4泊5日に及んだ。やり玉に挙がった牛歩は野党にとっての抵抗戦術、一方1円玉に乗ったのは庶民の憤りである▼慰謝料請求は、東京地裁で退けられる。法律のてんびんでは敗れたものの、軽くあしらってはいけない。熟議を促す一刺しだ。しかし政治は、国民の声を反すうしない。また戦術がのさばる▼政権が失言の法相を隠す。テロ等準備罪の新設という、ここぞの出番にもかかわらず、法相が自らの言葉で語らない。乱用が危ぶまれるため新潟県弁護士会は反対を表明した。批判を受けても首相は心配無用と成立を急ぐ▼種苗法や種の保存法もこの準備罪にかかわるそうだ。テロとどう結びつくのか分からない。テロは防がねばならない。だが、この法案自体が不気味さを抱えている▼「闇の夜の牛」という。何かがうごめき、何かがこちらを見ている。特定秘密保護法に連なる闇がぽっかり開いている。こういう嫌なことわざもある。「伏せる牛に芥(あくた)」。病気の牛にごみをかぶせるごとく、弱い者に罪を着せる。危ないのは牛歩より、「急歩」の国会であろう。
20.「中日春秋」【中日新聞】 次の率直な文では人を傷つけてしまいます。もっと遠慮がちな文に改めてください。例題その(1)「彼はいやなやつなので、私は付き合いたくない」▼「バカに見られないための日本語トレーニング」(樋口裕一さん・草思社)から引いた。かつての日本人といえば、本音と建前を巧みに使い分ける国民性で知られていたが、最近はそうでもないのか。とりわけSNSの短い文章に慣れた若い人はまどろっこしい婉曲(えんきょく)表現が苦手なようで、この手の指南本が重宝されているらしい▼答えの例としてこんな言い換えがあった。「彼のような人物と付き合ったことがないので、うまくやっていく自信がない」。元からすれば、半分以上ウソになっている気がしなくもないが、確かにこの言い方ならさほど波風は立つまい▼こっちは「本音」に関する話題か。米国のフェイスブックが指や声を使わず頭に思い浮かべただけで文字を入力する新技術を開発中と発表した▼実現すれば、指より五倍速く入力できる。助かる人もいるが、頭に浮かんだだけでというところで例題その(1)を思い出し、ひるみもする▼無論、頭の中で婉曲表現を使った文を作成すれば、よいのだろうが、感情むき出しのおそろしき文をつづることになるまいかと実用化のめどさえない研究に気をもんでしまう。実用化されてもたぶん永田町界隈(かいわい)では怖くて導入できないか。
21.「大観小観」【伊勢新聞】 2017年4月24日(月)▼県地方卸売市場が「中央卸売市場」名で開設したのは昭和五十六年。同四十六年の卸売市場法制定に伴い、一県一市場政策の一環で同四十八年から検討してきたが、南北に細長い県で中央集中は現実的ではなく、北勢、南勢に残存市場が残り、実質中勢だけの「中央市場」になった▼それでも統合は難航し、県農林水産部の担当参事は見切り発車。開設とともに同部長へ昇進。取りこぼした残存市場の解消と、形だけの「中央市場」のぜい肉が圧迫する経営難が後任の担当参事を苦しめ、部長候補の呼び声もあったが、場長に転じて後始末で終わった▼部長はその後教育長、出納長へと昇り詰める。人事の巡り合わせ、運不運を痛感させられた。北川正恭元知事の対立候補に引き上げられ、北川知事の自称〝腹心〟として振る舞って遠ざけられたことが、RDF(ごみ固形燃料)施設爆発事故に伴う人事の混乱で部長に昇進。副知事への道が開けていった石垣英一前副知事についても、そう思う▼日本郵政が〝高値づかみ〟の見方のあったオーストラリアの物流会社の買収の重荷で数千億円規模の損失計上と聞き、おやっと思ったらやはり西室泰三氏の社長時代の話だった。東芝の社長、会長を長く務め、以後も相談役として経営に関与してきたが、不正会計の責任は問われていない▼昨年、病気療養で日本郵政社長を退任した時は東芝の経営責任を取ったという見方もあったが、相談役制度廃止で顧問に就任。否定された。物流会社買収は政治的思惑も指摘されたが、退任でまた責任は問われまい。運のいい人というのは・・・。
22.「大自在」【静岡新聞】 2017年4月24日【大自在】(2017/4/2407:35)▼「1年の始まり。元旦だな」。新茶初取引の朝の心境を県内の茶問屋の店主からそう聞いたことがある。「業界にはプロ野球のペナントレース開幕になぞらえた人もいたけどね」▼静岡市の静岡茶市場でけさ、今年の新茶の初取引が行われる。茶市場や市内のあっせん所には既に先週までに、県内外の生育が早い産地の初荷が出回っていた。厳密には今期の「初」ではないが、取引の本格化と新茶期の幕開けを全国に告げる日となる▼オープン戦を経て迎えた公式戦開幕日。プロ野球の例え話はそんな意味合いだったと記憶する。茶業関係者には緊張感を伴い、年が改まったような新鮮な気持ちになる日でもあるという。消費者は季節の巡りを知る日である▼若葉が草木の息吹を伝え、陽光が近づく夏の気配を漂わせ始める。新茶期を生き物が躍動し始める季節の到来と実感するようになったのは、茶産地を管内に抱える支局に勤務した時だ。毎年、茶摘みが始まる頃、何となく気分が明るく、前向きになった▼茶の新芽を煎じた新茶は、自然の生気を凝縮して味わうようなぜいたくさがある。豊かな香り、滋味深さ、爽やかさ。多種多様な飲料が日々の食生活を彩るようになった現代でも、新茶の魅力に勝る飲み物はあまり思い浮かばない▼遠方の知人に贈る新茶に毎年丁寧な礼状が返ってくるのも、そんな思いを共有してくれているからだと信じている。意外なほど若い世代にも評判がいい。ささやかな季節の便りで少し誇らしげな気持ちになれるのは、茶どころに暮らす者の「特権」だろう。
25.「時鐘」【北國新聞】 きょうのコラム『時鐘』2017/04/2400:49「あんなに貧(まず)しかったのかなぁ」とテレビ小説(しょうせつ)「ひよっこ」を見(み)ながら思(おも)う。1964(昭和(しょうわ)39)年(ねん)の東京五輪(とうきょうごりん)が開(ひら)かれたころが舞台(ぶたい)である当方(とうほう)も、あの当時(とうじ)は高校生(こうこうせい)だったので時代(じだい)の空気(くうき)は理解(りかい)できる。だが、地域性(ちいきせい)もあるのだろうか、茨城県(いばらきけん)の農村(のうそん)が背景(はいけい)だからなのか、古(ふる)い写真(しゃしん)で知(し)る戦前(せんぜん)の風景(ふうけい)を見(み)ているように感(かん)じる場面(ばめん)もある「ライバルは1964年」と題(だい)したキャンペーンをよく見(み)る。戦後(せんご)の転換期(てんかんき)を東京五輪の年に設定(せってい)して現代(げんだい)と比較(ひかく)する広告(こうこく)である。テレビの「ひよっこ」の画面(がめん)が古(ふる)く見(み)えるのも、時代の節目(ふしめ)を誇張(こちょう)するためなのか、確(たし)かにあの年以降(いこう)に日本(にほん)は姿(すがた)を変(か)えた流行語(りゅうこうご)などを取(と)り上(あ)げた「昭和のことば」(文藝春秋(ぶんげいしゅんじゅう))にこんな指摘(してき)がある。「東京」も昭和の言葉(ことば)だというのである。先(さき)のドラマにも、集団就職(しゅうだんしゅうしょく)や出稼(でかせ)ぎで東京が出(で)てくる。東京へ東京へ。大都会(だいとかい)は豊(ゆた)かで地方(ちほう)は貧しい、そんな図式(ずしき)である。今(いま)もその錯覚(さっかく)がないとは言(い)えないしかし、いくら振(ふ)り返(かえ)っても、昭和39年が本当(ほんとう)に貧しかったのかよく思(おも)い出せないのである。希望(きぼう)や夢(ゆめ)が先に立(た)っていたせいだろうか。
26.「越山若水」【福井新聞】 【越山若水】本紙「花だより」も先週で終了し、桜前線は津軽海峡を渡り北海道へ。桜好きの日本人のこと、各地の名花を堪能した余韻を抱え、また北へ向かう人もいるだろう▼咲き誇る花はどれも華やかで見る人を陽気にする。ところが桜だけは落花にも特別な思いを寄せる。「花の命は短くて…」。ハラハラ散る様子に感傷を覚える▼その心境を多くの俳人が17文字に託した。「生涯は一度落花はしきりなり」。盛んに散る桜吹雪と一度限りの人の命を重ねた、野見山朱鳥(あすか)の愛惜に満ちた句である▼「ちるさくら海あをければ海へちる」。高屋窓秋(そうしゅう)は海の青と桜のピンクの色彩を鮮やかに描いた。そして俳聖芭蕉は桜にまつわる記憶は人それぞれだと詠んだ。「さまざまの事おもひ出す桜かな」▼作品は現代俳句協会前会長、宇多喜代子さんの「名句十二か月」(角川選書)から引用した。俳句に限らず和歌も含め、日本人が桜に寄せる感情は古くから継承されてきた▼県内の桜はすっかり葉桜となった。今季は福井市で5日に開花宣言した途端、超高速で7日には満開を迎えた。ただその割に長期間、花見を楽しめた▼今は七十二候の「葭始生=あしはじめてしょうず」。晩春から初夏へ移ろう季節である。満開のうきうき感と落花のしみじみ感ともサヨナラだ。芭蕉のごとく、さまざまな桜の思い出を胸に来年を待つとしよう。
27.「凡語」【京都新聞】 鶏形埴輪(はにわ)や鳥形硯(すずり)…今年の干支(えと)とりをテーマにした地元の出土品14点が並ぶ。長岡京市埋蔵文化財センターで5月末まで開催中のミニ企画展を訪れた▼中でも水鳥形の埴輪は目の周囲が丸で囲まれ、愛嬌(あいきょう)たっぷりの表情。全長128メートルと乙訓最大の前方後円墳・恵解山(いげのやま)古墳から出土した頭部などの破片をもとに再現された▼恵解山古墳を含む乙訓古墳群(11基)が国史跡に指定され1年が過ぎた。石碑や案内板設置は緒に就いたばかりで周辺整備など課題もあるが、地域の宝として利活用を進めたい▼古墳は静かなブームという。古墳グッズ制作や現代芸術、食を交えた活動が出始めた。出身地の長岡京市で催しを開いた雑貨アーティスト牧梨恵さん(36)は「歴史好きの人以外にも地元の住民に魅力を伝えたい」という▼行政も知名度アップに動く。隣の向日市は物集女車塚(もずめくるまづか)古墳の復元・体感アプリ「墳タビ!」の配信を始めた。AR(拡張現実)で当時の景観を追体験でき、古墳内の石室でコンピューターグラフィックスの映像が楽しめる▼古墳絡みの活動を「墳活(ふんかつ)」、ファッションを「墳装(ふんそう)」と呼び、考古学と別の視点で古代ロマンを新感覚で楽しむ牧さんたち。昨秋に続いて恵解山古墳公園周辺での企画を練る。合言葉は「古墳でコーフンしましょう」だ。
28.「正平調」【神戸新聞】 「日本加工食品新聞編集長小菅留治」。ハム・ソーセージの業界紙記者の名刺の主は藤沢周平さんだ◆作家が独立する前の職業が気になる。城山三郎さんは大学講師、藤本義一さんは脚本家やテレビ司会者、井上ひさしさんは放送作家、椎名誠さんは流通業界誌編集長だった◆「蝉(せみ)しぐれ」「たそがれ清兵衛」「橋ものがたり」…。人や歴史、そして故郷の山形・鶴岡の風土を見つめた藤沢さんの作風とすぐには結びつかないが、苦節の末にたどり着いた業界紙は創作の培地となった◆33歳から14年間在籍し、1面コラムの「甘味辛(から)味」を担当する。「業界の内部にいる、といってもすっぽり頭まで業界の中に漬(つか)ったのでは新聞にならないから、首から上は出している(中略)書くべき真実があれば、やはり書かなければならない」◆生活や経営、故郷、世相を語る筆致からは正義感や優しさ、ユーモアがにじむ。姫路文学館で開催中の「藤沢周平展」で、1973年7月30日号を読んだ。「本紙小菅編集長直木賞を受賞」◆本人のあいさつ文があった。「受賞したから今日から作家というわけでもありませんので、当分は本紙編集長という立場に変りはありません」。没後20年。市井の人に寄せた共感と含羞(がんしゅう)のまなざしを思う。2017・4・24
29.「国原譜」【奈良新聞】 北海道の南端、松前町で23日、ソメイヨシノの開花宣言が発表された。列島各地で、愛(め)でる楽しみを広げて行った桜前線が北海道に到達、平年より7日早い開花という。外国人観光客も含めてあれほどにぎわった佐保川沿いの桜並木の道も、すっかり静かになった。八重桜などが最後の輝きを放っている。街路ではヤマブキ、ツツジ、ハナミズキなども花が咲き、田んぼではレンゲのピンク色が色づき始めた。日本は一年中いろいろな花が楽しめて、恵まれていることを実感する。そんなのどかな季節なのに、北朝鮮がミサイル発射を繰り返し、半島情勢は緊迫化。かつてない“北風”が吹いている。米海軍は昨日、朝鮮半島付近に向けて北上中の米海軍の原子力空母「カール・ビンソン」と海上自衛隊の共同訓練をフィリピン海で始めた。弾道ミサイル発射を繰り返し、6回目の核実験準備の動きも見せる北朝鮮に対し、日米で連携してけん制する考えという。内閣官房の「国民保護ポータルサイト」の閲覧件数も急増しているそうだ。しばらくは、静かに推移を見守るしかないのだろうか。(恵)
30.「水鉄砲」【紀伊民報】 少年と少女の清純な恋を描いた小説『野菊の墓』の作者、伊藤左千夫は明治中期、俳句や短歌革新運動の中心だった正岡子規の弟子として知られている。彼が師に呼応して歌った「牛飼いがうたよむ時に世の中のあたらしき歌おほいに起こる」は僕も中学生の頃、好んで口にしていた。▼その歌にならって、今回の田辺市議選を回顧すると「新人が声挙げる時に世の中の政治大いに変わる」ということだろうか。一挙に新顔7人が当選。これまで政治的な経歴がない人たちの名前がずらりと並んだ。▼最高得票の高田盛行氏。最年少26歳の柳瀬理孝氏。女性の新顔2人も当選した。それぞれ政治家としての力量は未知数だが、市政を立て直すという意欲と熱意が有権者に支持されたのだろう。▼5市町村の合併で新しい田辺市が誕生して12年。市街地、旧町村部を問わずに課題は山積している。過疎・高齢化対策。子育て環境の整備。衰退する林業や水産業の振興策。頼みの農業も、若い人たちが安心して家業を継げる状況とはほど遠い。▼こうした時代だからこそ、市議会の役割は大きい。その期待に議員諸氏がどれだけ応えてきたか。そう問い掛けたとき、年齢、性別を問わず、市政に新風を送りたいと立ち上がった新顔に、有権者が期待を込めたというのが今度の選挙ではないか。▼その期待にどれだけ応えられるか。新しき政治が大いに起こるのか。刮目(かつもく)して待っている。(石)
31.「滴一滴」【山陽新聞】 鉄筋コンクリート造りが当たり前だったビルやマンションが木造になる—。建築界の常識が変わるかもしれないと期待が膨らむ。岡山市北区今で建設されているシステム開発会社の研修宿泊施設を見て思った▼使われたのは、木の板を張り合わせたCLT(直交集成板)と呼ばれる新建材だ。一般的な集成材と違い、繊維方向が直角に交わるよう板を接着する。張り重ねることでコンクリート並みの強度を保つ。欧米では10階建て以上のビルも造られている▼岡山の施設は3階建て。基本部分の建築に鉄筋コンクリートなら2カ月ほどかかるが、わずか1週間でできたというから驚きである▼真庭市のCLT専用工場で事前に穴を開けるなど加工し、現場の作業は簡単に済んだ。これなら人手不足が深刻な建設業界に好都合ではないか▼内装でもCLTが表れていて、木の柔らかな雰囲気が伝わってくる。昨年できた国のCLT建築の基準を使って防火対策などを施した全国初の事例という。今、岡山県はCLT先進地として全国の先頭を走っている▼国産材を使えば林業や中山間地の再生に役立つと、政府はCLT普及に力を入れる。他県も地域振興につなげるアピールのため、CLTを用いた公共建築などを次々建て始めた。ここは岡山も新たなプロジェクトを打ち出し、先頭位置を守りたい。(2017年04月24日08時00分更新)
32.「天風録」【中国新聞】 切実な本2017/4/24書店員が集まると盛り上がる話があるという。その客が本を買うかどうかは、店に入った瞬間に分かる—。かつてリブロ広島店など大型書店の店長を任された辻山良雄さんは、著書「本屋、はじめました」でつづる▲話しながら店内をうろつく人や、足音をたてて速く歩く人ではなく、じっと黙って棚を見ている人が買うという。町の書店が姿を消す流れに逆らうように、辻山さんが昨年東京・荻窪で開いた小さな店でもそうらしい▲本との出合いは、静かに生まれるのだろう。その結果売れるのは「切実な本」と、辻山さんは表現する。著者が自らの底と向き合った末に書くしかなかった本こそ、人を引き寄せる力があるのだ、と▲読みたいと被災者からリクエストがあったのは、どんな本ですか—。先日訪れた熊本県の益城町(ましきまち)図書館で尋ねた。1年前の熊本地震で半年ほど閉館したが、仮設のミニ図書館で貸し出していた。日常を取り戻そうとしたのか、読み慣れた小説などを要望する人が多かったと聞いた▲心に残っている大切な一冊を、あらためて手に取りたいという人もいたそうだ。つらく苦しいときにページをめくりたいのも「切実な本」なのかもしれない。
35.「海潮音」【日本海新聞】 「ストレスが地球をダメにする♪ストレスが女をダメにする♪」—。歌手の森高千里さんが1989年に放ったヒット曲の歌詞の一節だ。当時の身の回りの出来事を歌ったとみられるが、「女性活躍推進」が叫ばれる今の時代を先取りしているかのようだ◆民間調査会社のメディプラス研究所が実施した「ストレスオフ県ランキング」で2016年に鳥取県が全国1位となった。これを受けて、県は「女性のストレスオフ日本一」を売りにした取り組みを進めている。2年連続ナンバーワンは逃したが、17年ランキングも上位に名を連ねて堂々の5位に入った◆調査結果によると、とりわけ「社会生活」の分野では子育て環境や人間関係、自分の居場所、生活環境などで比較的「良好」と感じている割合が高かった。半面、子どもの教育費、生活費、介護などではストレスが前回よりも高まったという◆人は誰でもストレスを抱えている。それでも、ため込まず発散し、負担軽減できる環境が身近にあれば、仕事と家庭の両立につながる。「ストレスオフ」度が高いのは、その素地が県内にはあるということなのだろうか◆ストレスには社会的、心理的、物理的なさまざまな要因が複合しているという。「ストレスの原因は夫」と言われない生活を心掛けないといけない。(和)
36.「明窓」【山陰中央新報】 山陰屈指の山岳信仰の行場(ぎょうば)で、鳥取県中部地震で登山ルートが被災した三朝町の三徳山三仏寺。迂回(うかい)路ができて半年ぶりに入山が再開された▼修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が、麓で造ったお堂を法力で飛ばしたとの伝説が残る国宝・投入堂は、震度6弱の地震にあっても、変わらぬたたずまいを見せていた。建物は平安時代後期には既に断崖絶壁にあったというから、いにしえの技術力に舌を巻く▼お堂までの道のりは標高差200メートル、距離にして700メートル。岩や木の根を手掛かり、足掛かりに斜面をよじ登る。被災場所では亀裂が入った岩盤を横目に、新設された鎖場を伝う▼肝心の亀裂はようやく調査が始まったばかり。本格修復のめどが立っていない。費用は軽く1億円を超えるという。急斜面の山中に資材を運ぶだけでも、莫大(ばくだい)な費用がかかるからだ。山を管理する寺は、通常ならまず地元へ寄進を募るところだが、多くの住宅の屋根にブルーシートがかかったままの住民は同じ被災者。お願いはためらわれた▼このため迂回路の資金はネットのクラウドファンディングで調達。870万円もの寄付には、全国から励ましの言葉が添えられ、募集を担当した寺の米田良順執事次長が「山は地元だけでなく、みんなの財産。次の世代へも伝えなければ」と思いをかみしめる▼災害を乗り越え、文化財を大切に保存し、活用にも供する理想型がここにある。日本遺産としてのキャッチフレーズ「日本一危険な国宝」に足を運ぶ価値はさらに増した。(示)
33.「四季風」【山口新聞】 週末には大型連休が始まる。季節の基本色は匂うような新緑で、赤や黄、白など花々が彩りを加える。初夏の日は輝き、たとへ雨でも光は満ちており、人の心は躍る▼先週の半ば岩国に用事があり、下関駅から岩国駅まで列車に乗った。所要時間3時間23分。乗り換えなしの各駅停車で、新山口で15分、徳山では14分止まった▼もったいないようだが、その間に列車を離れられる。背伸びをし、トイレを済まし、構内の売店で飲み物や軽食を手に入れ、「小旅行」の退屈をなぐさめる▼防府駅を過ぎ、市街を抜けて山あいに差し掛かったなと思う間もなく、海が開ける。突然右手にブルーの帯の瀬戸内海、その向こうに輝く空がある。下関からの山陽線では最初の海▼新南陽の手前からは工場群、徳山市街を抜けるまではコンビナートのへりを行く。下松、光、柳井と視界に海の量塊が増す。大畠からはそばに周防大島。多島海に並行して走ると前方に米軍岩国基地▼1日を計画すれば、沿線に見どころはいっぱい(さらに45分で宮島とか)。朝早く出て夕方には帰る(疲れも出て夜の鈍行はつらい)。縁のないうわさの「瑞風」よりは山陰線、錦川鉄道…もある。上手に楽しみたい。(宇)
37.「地軸」【愛媛新聞】 電車に白杖(はくじょう)の女性が乗り込んできた。付き添いの女性が周囲に会釈をしながら席へ誘導し、「私も右側に座っていますからね」と肩に優しく触れて合図した。一連の流れが実にさりげなく軽やかで、ああそうやって手を差し伸べれば安心できるんだ、と教わった気がした▲愛媛大学の入学式に出向くと、耳の不自由な人のために、壇上の話を字幕にしてスクリーンに映し出していた。支援するのは学生。会場の一角に並んで、言葉を拾いパソコンに打ち込んでいた▲講義で困難を抱える学生の代わりにノートを取ったり、代読したりするのも、同じキャンパスの仲間。寄り添う姿が日常的に見られることで、共生を当たり前に感じる空気が広がっていくかもしれないと、若い力を頼もしく感じた▲誰もが障害の有無により分け隔てすることなく、尊重し合って生きるため、障害者差別解消法が施行されて1年がたった。壁を感じずに暮らせるよう行政や学校などに環境整備を義務付けたが、足りない点もまだ目立つ▲例えば熊本地震では、市在住の障害者約4万5千人に対し福祉避難所の枠は約1700人。多くがトイレや車いすの移動にも難儀した。何が困難なのか周囲が気付けないこともきっと、社会が変わらない一因▲人は誰でも足りない点を抱えて生きている。互いを知るために、まずはふれあう機会と対話を。県内では今秋、全国障害者スポーツ大会も開催される。
38.「鳴潮」【徳島新聞】 格闘技選手のような風貌からは想像できない、その歌声に驚いた。甘く切ないバラードが会場に染み渡っていく。吉野川市出身のキーボード奏者Gakushiさんのライブでトリを務めたNAOYAさん。どんな人か、と後日、自宅を訪ねた小松島市和田島の漁師町。もう娘のものというアップライトピアノがあった。本業はシラス漁師で、今の時季はワカメの刈り取りも忙しい。31歳、2児の父。地元の消防団では、まだ若造だあの夜の曲は、美容師を目指していた9歳上、居眠り運転の車にはねられ、突然他界した姉を思って作った。事故から10年余りがたったある日、ふっと浮かんできた思いが伝わったと感じる瞬間がある。だから歌う。家族を大事に、これからも趣味以上、本業未満でいく−といったことを丁寧に話してくれた音楽の魅力にとりつかれた人は、県内にどのくらいいるだろう。冷めたコーヒーを口に含んで、そんなことを考えていると…。「まだやり切れていない気がします。シラス漁の親方がいつも言うんです。なかなか漁師を究められないなあ、と。はたから見れば、もう十分なのにね」やればやるほどに、新たな高みが見えてくる。明日になればきっと、今日とは違う景色に出合うはず。「仕事も、音楽も、そういうものかもしれません。真剣ならね」。
39.「小社会」【高知新聞】 十数年前、日米関係に関する会議に出席したときのこと。滑らかに同時通訳していた日本人通訳者が突然、詰まってしまった。米国側の発言に出てきた中国人の名前が分からなかったようだ。中国にはローマ字で表す発音記号の「ピンイン」があり、習近平国家主席なら「XiJinping」となる。欧米などではそのまま表記し、「シージンピン」と発音している。「しゅうきんぺい」に慣れた日本人が「?」となるのは当然だろう。そのピンインの「父」と呼ばれた言語学者の周有光さんが亡くなったのはことし1月。111歳だった。1933年、京都大の河上肇教授に学ぼうと来日したが、河上は治安維持法違反で既に獄中の人。やむなく東京大などで学んだ後、35年に帰国し、新中国になって文字改革に携わった。難航したのはピンインの国際的な承認。英仏などが独自の中国語表記方法を持っていたためだ。1982年の採択まで、国際標準化機構の論議は3年かかっている。まだ低かった中国の国力も響いたに違いない。日本の裏返しで、中国では日本人の名前を中国語読みする。多くの人が「アンベイジンサン」は知っていても、「あべしんぞう」には首をかしげるだろう。歴史的な経緯はあるものの、漢字を介した一種のもたれ合いといえるかもしれない。名前は読み方も含めその人固有のもの。「あべ」「シー」で互いに通じるのが本来の姿だろう。4月24日のこよみ。旧暦の3月28日に当たります。かのとみ三碧赤口。日の出は5時25分、日の入りは18時43分。月の出は4時00分、月の入りは16時10分、月齢は27.0です。潮は中潮で、満潮は高知港標準で4時30分、潮位168センチと、16時42分、潮位167センチです。干潮は10時36分、潮位37センチと、22時50分、潮位31センチです。4月25日のこよみ。旧暦の3月29日に当たります。みずのえうま四緑先勝。日の出は5時24分、日の入りは18時44分。月の出は4時39分、月の入りは17時16分、月齢は28.0です。潮は大潮で、満潮は高知港標準で5時03分、潮位177センチと、17時28分、潮位180センチです。干潮は11時14分、潮位19センチと、23時32分、潮位32センチです。
40.「春秋」【西日本新聞】 映画「ヒトラーの忘れもの」を見た。時代は1945年5月。ナチス・ドイツが降伏した直後の隣国デンマークを舞台にする▼戦時中にドイツ軍は、連合国軍の上陸を阻止するためヨーロッパの西海岸に地雷を敷き詰めた。この国だけで200万個とも。その撤去作業をさせられたのが捕虜のドイツ兵だった。専門家ではない。多くはあどけなさの残る10代の少年兵だったという▼簡単な手順を教わっただけで現場に出される。逃走防止の監視を受けながら1時間に6個前後を処理する。食料不足に体力を奪われ、容赦なくぶつけられる激しい憎悪に心を蝕(むしば)まれていく▼手には棒1本。数センチ間隔で地面に刺しては地雷を探す原始的な作業だった。数千人の捕虜が動員されたが、誤爆させて亡くなったり重傷を負ったりした者が半数に及んだ。「戦後」も戦争の後始末を課せられた痛ましい史実である▼アジアに目を転じれば、カンボジアやミャンマーには内戦時の地雷がなお地中に潜む。今も地雷の被害者が発生し、社会から置き去られたようにして暮らしている▼人への使用や保有を禁じた「対人地雷禁止条約」ができて今年で20年。各国のNGOを主体に「悪魔の兵器」の除去が地道に続く。福岡にも「CMC」という支援団体がある。書き損じのはがきを募り、換金して現地の活動に充てている。まだ何年かかるか分からないが、忘れものの一掃を目指して。=2017/04/24付西日本新聞朝刊=
41.「くろしお」【宮崎日日新聞】 ママ友と参加した学習会で平和問題に関心を持った会社員のA子さん。他県の基地建設予定地である抗議集会に参加しようと航空券を手配したら警察官が来て逮捕された-。「世界」5月号が特集する「共謀罪のある日常」の事例の一つ。A子さんの逮捕容疑は「威力妨害罪の共謀」。SNSに「座り込みがんばります」と書いたが、「いいね」などと反応した友人たちも特別の関心がなかったにもかかわらず、共謀を疑われて調べられた。政府は「組織的犯罪集団」が対象であり一般人は対象にならないと説明するが、正当な団体も目的が一変したら処罰対象になるとする。同誌は「捜査機関による解釈によって、胸三寸で摘発の対象が拡大する危険性が高い」と指摘する。環境問題サークルに新入生を勧誘するチラシを作成するために、雑誌の写真やイラストを使おうとした大学生Bさんの事例も怖い。部員の一人が「著作権法違反になるからまずいよ」と言ったのであきらめたが、Bさんと部員らは共謀罪容疑で取り調べを受けた。現在の政府の案では著作権侵害も対象犯罪となっており、中止した場合も処罰の対象となる可能性があるからだ。ほかに電車で痴漢冤罪(えんざい)の現場に遭遇し、目撃したままを法廷で話そうとして偽証罪の共謀を疑われる事例なども紹介する。いずれも国会で審議が進む「共謀罪」が成立した場合の架空の物語だが、政府の答弁では一般市民も対象になる不安はぬぐえないままだ。「まさか」「テロとは全然関係ない」と思っている人にも共謀罪の影が忍び寄る想像力は働かせたい。
42.「水や空」【長崎新聞】 「個人の感想」だけれど、近年の波佐見焼は北欧の有名ブランドの食器と、シンプルでおしゃれな風合いが共通しているなあ、と思ってきた。使って楽しい日用雑器を好む人はたくさんおられるだろう▲29日からの大型連休で「波佐見陶器まつり」は過去最多の人出が見込まれると、県内経済面で伝えていた。女性誌や旅行雑誌で特集が組まれ、ツアー客も増えるだろう、と▲時流に乗る、新しい客層を掘り起こす−と言うのはたやすいが、万事思うままにはいくまい。そうと知りながら、大型連休での「回復」の朗報が今から待たれる。観光施設も、行楽地も、イベントも▲昨年は熊本地震から半月後の黄金週間で、ツアーも訪日客もキャンセルが相次いだ。だからだろう、波佐見焼のような"強気"がことさら頼もしい▲「潜伏キリシタン関連遺産」では、五島の久賀島や奈留島を巡るツアーの予約が好調という。迷走していた西海市の観光施設「ポートホールン長崎」は外国人客を中心に「持ち直しの兆し」と、ちょっと明るいニュースも本紙で目にした▲いい話につい目が向くのは、とかく先の見えにくい観光を柱とする本県に住む者として、心のどこかで安心材料を探しているからだろうか。やや気の早い期待を抱きつつ、週末からの天気はさあ、どうだろう。(徹)
43.「有明抄」【佐賀新聞】 よなぐもりの日に2017年04月24日05時00分<亡命も失脚も霾(よな)ぐもりかな>。よなぐもりとは、黄砂による視界不良の空模様を指す。嬉野市出身の俳人で、俳人協会会長の大串章さん(79)=千葉県在住=が20年前に発表した作品である。当時の国際情勢に触発されて、崩壊していく独裁国家を黄砂に包んだ◆黄砂の粒子は、最初のうちは角張った形だが、やがて大気汚染物質にすっぽりと覆われて球形へと変わる。そうなると雲を作りやすくなり、さらに汚染を拡大させてしまう。そのメカニズムを九州大学などの研究チームが先月、中国・北京で解明している◆今年はなぜかまだ、日本では黄砂が観測されていないようだ。気象庁の観測で最も遅い初観測は4月16日だったというから、すでに1週間も遅れている。近年の異常気象の表れだろうか。せっかく黄砂が遠慮がちだというのに、東アジアの空はいよいよ雲行きが怪しく、切迫してきた◆北朝鮮はミサイル連発に続いて、核実験に踏み切る構えで、挑発をやめようとはしない。「戦略的忍耐は終わった」と宣言した米国との間で一触即発の状態だ。米国が差し向けた空母がいよいよ朝鮮半島へと近づく◆冒頭の句ではないが、独裁者の末路は亡命か、それとも失脚か−。半島有事がささやかれ、世界は固唾(かたず)をのんで見つめる。視界不良のよなぐもり。きな臭さばかりが鼻につく。(史)
45.「南風録」【南日本新聞】 南九州市知覧の後岳(うしろだけ)地区は標高約500メートルの山あいに広がる集落である。その一角に石碑が立つ。碑面に刻まれているのは地元民謡「知覧節」の一節だ。「知覧茶どころ/一度はおいで/なさけ濃い茶に/知覧飴(あめ)…」。郷土への深い愛着と誇りが伝わってくる。ここが知覧茶発祥の地と聞けば、うなずく向きもおられよう。何世代にもわたって丹念に育てられてきた茶畑は見事といっていい。先週末に訪ねると、若緑色の新芽が勢いよく葉を伸ばしていた。ウグイスの鳴き声がこだまし、川のせせらぎが一服の茶とともに気分をほぐしてくれる。今年は春先に気温が低く、一番茶の収穫が大幅に遅れたのは誤算だ。茶業を巡る環境も変わりつつある。最近の話題は銘柄だろう。南九州市で生産・加工される茶の銘柄が新年度から「知覧茶」に統一された。旧3町の「知覧茶」「頴娃茶」「かわなべ茶」の呼称をブランド力の強い知覧茶にまとめた。統一までの道のりは決して平たんではなかったという。先人が心血を注いで築き上げた銘柄を他産地のものと一緒にしてほしくないという声もあった。それでも生産者らが同じ旗の下に集まった意義は大きい。南九州市茶業振興会会長の後藤正義さんは茶業の将来を見据えた生き残り戦略だと説く。栽培面積、荒茶生産量とも市町村単位で日本一を誇る。「なさけ濃い茶」でさらなる飛躍を願う。
46.「金口木舌」【琉球新報】 やんばるは、新緑の季節を迎えている。ブロッコリーのようなイタジイをはじめ、木々の若葉がもえる。この森でいま、ヤンバルクイナが激減している▼「キョキョキョ」−。奥深い緑を抜ける道路で、姿は見えずとも、どこからか鳴き声が聞こえることがある。この森にすむヤンバルクイナだ。国頭村楚洲の住民は「数年前は毎晩あちこちから聞こえたが、今はほとんど聞こえなくなった」と話す▼この地域では他より多くのクイナが確認されていたが、その数が4年間で約10分の1になっているというから驚く。環境省が鳴き声の数で調べた▼大きな原因とみられるのが野犬の増加だ。ペットが捨てられ、野生化した可能性がある。クイナだけでなく、ケナガネズミなどの希少生物も襲われている▼実は人にとっても脅威になっている。「注意国頭村の山中で野犬の群れが出没」。村はちらしを作成し、身の安全を守るため、必要な時以外に山に立ち入らないことなどを呼び掛けている。林道で野犬の集団に襲われたり、追い掛けられたりしたとの情報が寄せられている▼やんばるの森では、ことし夏に世界自然遺産登録に向けた国際自然保護連合の調査が予定されている。貴重な生態系が保護されているか厳格に審査される。野犬の問題は登録に影響しかねない。その責任は、捨てられた犬たちにではなく人間にある。
47.「大弦小弦」【沖縄タイムス】 「関東防空大演習を嗤(わら)ふ」という論説が信濃毎日新聞に載ったのは太平洋戦争開戦の8年前、1933年。主筆の桐生悠々は陸軍による大演習を「パッペット・ショー(人形劇)に過(す)ぎない」と断じた▼首都上空に敵機が来た時点で「敗北そのもの」。市民に冷静な行動を求めても実際は「一大修羅場」になる。灯火管制で闇夜の混乱に輪をかけるのは「滑稽でなくて何であろう」▼北朝鮮がミサイルを連発した3月、政府は秋田県で全国初の住民避難訓練を実施した。今後他府県に広げるという。避難方法を載せた「国民保護ポータルサイト」もアクセスが急増している▼国民保護と言っても頑丈な建物に逃げる、窓からは離れるといった内容。ミサイルが実際に着弾すれば遠く離れた所の被害をわずかに減らせる程度だろう▼北朝鮮は在日米軍基地が攻撃対象だと明言している。基地に囲まれた沖縄では、特に逃げ場は限られる。訓練は効果がゼロではないとしても、外交の失敗で攻撃を受けても被害は抑えられるという誤解を広め、市民の意識を有事に慣れさせてしまう副作用もある▼桐生悠々は訓練よりも「実戦が、将来決してあってはならない」ことを訴えた。在郷軍人会の不買運動によって社を追われ、開戦直前に亡くなった。先見の明は、その後の空襲被害が証明している。(阿部岳)