

イラスト:工藤美和子
(45)水分の補給
水は命の源である。食べ物がなくても水さえあれば、1週間や10日は生きていられる。まったく水なしでは2、3日が限度だろう。とりわけ運動量の多い登山では水は必需品である。
もし水を飲まなかったらどうなるだろうか。激しい運動をすれば、体が熱くなる。誰でも経験のあることだ。運動によるエネルギーが体温を上げるからだ。だが、人間は体温が42度を超えると死んでしまう。体温上昇を抑えるために汗をかく。気化熱が体温の急激な上昇を抑えてくれる。
水分をとらずに登ると、この仕組みがうまく働かなくなり、すぐにバテてしまう。筋肉疲労も早いし、熱射病にだってなりかねない。適度な水分の補給は持久力を維持するのに不可欠だ。それだけではない。
水分を補給せずに汗をかくと、血はだんだん濃くなり、サラサラ度が落ち、ベタベタになっていく。これが怖い。特に動脈硬化が進行している可能性が高い中高年には、鬼門である。歩いている途中に突然倒れる。具合が悪くなる。心筋梗塞(こうそく)や脳卒中になる危険が大なのである。街中では救いようもあるが、山の中ではアウトというケースも結構ある。
若いころは「水を飲むとバテる」といわれ、汗を出し切ってしまえばもう出なくなると、水はなかなか飲ませてもらえなかった。そんなものかと思っていたが、いまとなるとひどい話である。いまの非常識が当時の常識だった。どうしてそんな思い込みがまかり通ったのかは分からないが、恐ろしい。間違えば脱水で死んでいたかもしれない。
いまだに「飲みすぎはバテる」と信じている人がいるとすれば、すぐに変えた方がいい。いまは、水は飲みたいだけ飲んで構わないというのが、運動生理学の常識である。(米倉久邦、2004年2月記)
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