

イラスト:工藤美和子
(44)非常食と好物は忘れずに
耳慣れないだろうが、非常食についても触れておく。文字通り非常事態に備える食べ物である。山では予定通り下山できるとは限らない。足をけがして動けないとか、道に迷ったとか、いろいろなケースがあるが、そんなときに食べるものがあるかないかは決定的な差になる。
食べないと人はみるみる弱っていく。気持ちもなえる。十分でなくても口にするものを持っていると落ち着く。大学生の時、正月に穂高に入った。悪天候を押して登り、無人小屋に3日間吹雪で閉じ込められた。非常食だけが頼りで、干しぶどうを大事に1粒1粒数えながら口に運んだ。もし、何もなかったらと思うとぞっとする。苦い経験だったが、非常食のありがたさが身に染みた。
非常食は重くてかさばるのは駄目。軽くてコンパクトでなくては気軽に持っていけない。ナッツ入りのチョコバーなどカロリーの高いものがいい。日帰りハイクでも、そんなの大げさと言わないで、どんなときもザックに入れておきたい。
話は変わるが、山でワイワイと食べる食事は楽しみの一つだ。たまにはガスこんろ持参でラーメンを作ったり、コーヒーを皆で飲みながらのおしゃべりもいい。軽くて使いやすいこんろがあるし、後は水と即席食品で済む。別に具を持っていけばもうごちそうだ。天気のいい日に、ゆっくりの日程でのんびりの昼飯もいいものである。
食事といっても寒さに震えながらや、雨にぬれながらでは、さっさと済ませるしかない。季節や天候、どんな山か、行動予定はどうか、などを考えて食事を決める柔軟性がほしい。
最後に一言。好物は忘れずに。好きなものは疲れていても食べられる。とにかく食べることが山では大事である。(米倉久邦、2004年1月記)
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