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100%九州産「あか牛」を育てる 熊本県阿蘇郡の井信行さん

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岩下放牧場
のあか牛たち(全日本あか毛和牛協会提供)

 阿蘇の草原で放牧され育つ「あか牛」。あか牛は、熊本の在来和牛にスイスのシンメンタール種を掛け合わせたもの。緑の草原のなかで、のんびり草を食べる姿は、阿蘇の草原のシンボルだ。

 「あか牛」は放牧に強く、草原の“草”だけでも育てることができる。草で大量の肉が生産できる「あか牛」は食糧危機を迎えたいま、期待できる存在だ。

 これまで世間に拡がっていた和牛のおいしさの尺度は、肉に入り込んだ脂肪=“サシ”の多さだった。一方でサシの少ない「あか牛」は、市場評価は低かった。

 しかし健康志向も後押しし、ここ数年、あか牛の評価が高まっている。阿蘇の草原であか牛を育てる井信行(い・のぶゆき)さん(77)に話を聞いた。


▽草で牛を育てる

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サシの多い和牛(左)とあか牛(右)の断面
 

 「サシの多い和牛は1頭を育てるのに5~6トンの穀物飼料が必要だが、多くは輸入もので、金額にしておよそ30万円もかかるんです」

 と井さん。電話一本で調達できる輸入飼料は和牛農家に定着している。その穀物飼料がいま高騰し、今後下がる見通しもなく、このままでは供給も危うい。

 そして和牛の場合、肉に入り込みサシとなった脂は喜ばれるが、周りの白い脂の塊は捨てられてしまう。「結局は飼料の無駄遣い」と井さんはとらえている。

 井さんはあか牛に草を多く食べさせるので、穀類を従来の60%程度しか与えない。 

 「人が穀類を食べられなくて飢えているときに、牛に食べさせている。(人が食べない)草を多く食べさせて牛を生産すれば、無駄がないでしょう」

 これが、井さんのメッセージだ。


▽九州産100%の牛づくり

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冬の間も放牧される阿蘇のあか牛(阿蘇市役所提供) 


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 井さんは阿蘇外輪山の外側、産山村の草原であか牛を育てている。

 標高700m、広さは20haの牧場で繁殖から肥育まで一貫生産の和牛農家だ。

 「あか牛は、粗食に耐え寒さに強い。草原での放牧に向いているんですよ」

 という井さんは、繁殖期は一年中外に牛を出しっぱなしの“周年放牧”を行う。

 子牛は母乳や湧き水を飲みながら、草原で草を食べて、のんびり育つ。

 肥育期の粗飼料も、これまで不可能だと言われていた“国産100%”だ。

 これが決め手のひとつになり、7月に全日本あか毛和牛協会から熊本県内初の三つ星認定を受けた。

 しかもよく話を聞くと、井さんが与えているのは国産というよりはほとんど阿蘇産の飼料だという。阿蘇で調達できないものもすべて九州内でまかなっているので、100%九州産のあか牛作りだ。

 “九州産100%”という安心感は、今後井さんのあか牛の大きなセールスポイントになるだろう。

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井さんの一貫生産

繁殖期 生後~(6-10)カ月

親子放牧。健康なら冬でも雪でも外で放牧。「放牧で育てると足腰が強くなる。将来的に大きく育つ」と井さん

肥育期 10カ月~(24-30)カ月

牛舎で肥育。現在は21頭を九州産粗飼料100%で育成中。時々牛舎の外の囲いで運動させる。

井さんが肥育期間の牛に与えているエサ。すべてが九州産だ


▽おいしくなければだめ

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井さんがすべて国産飼料で育てたあか牛の低温グリル。ゆっくり火を通すことで肉汁を中に閉じ込めた。宮本さんが調理。(東京・銀座「坐来大分」で8月27日に開催された料理マスターズサポーターズ倶楽部主催の九州北部豪雨復興チャリティーディナー)

この肉は全日本あか毛和牛協会から三つ星認定を受けている。井さんにとっては2頭目の三つ星。「今回の夕食会でとても自信が付いた。お客さんが帰りに『とてもおいしかった』と声をかけてくれた」と井さん

 とはいえ、霜降り肉に慣れた日本人には、赤身肉は物足りないという先入観がある。

 しかし試食したあか牛のステーキは、軟らかさとともに大量のうま味が押し寄せる、満足感が高いものだった。脂の感触もしっくりくる。

 調理した「リストランテ・ミヤモト」のオーナーシェフ宮本健真さんに感想を伝えると、「草を多く与えて育てると、日本人になじみの深い優しいうま味が増えるんですよ*1」との答えが。

 草で育てることは、うま味を多く生み出すという利点もあるようだ。

 「いくら安心とか健康にいいと言っても、おいしくなければダメ。あか牛は味もいいということを知ってほしいですね」と宮本さんはいう。

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熊本県阿蘇地方の草原の野焼きの様子(公益財団法人阿蘇グリーンストック提供)

『山肌を駆け上る炎。阿蘇の野焼きは早春(2月の終わりから4月の始め頃まで)に行われ、草原の枯れ草を焼きはらって、草の芽出ちを助ける。

近年、畜産農家の減少と高齢化に伴い、野焼きを手伝うボランティアが草原維持に欠かせないものになりつつある』

─ 環境省・阿蘇自然環境事務所 アクティブレンジャー木部直美さん

▽草原の維持

 あか牛が育つのは1000年の歴史がある阿蘇の草原だ。

 草原は自然にあるものではなく、人が作ったもの。緑の草原の中で馬や牛が草を食べ、人が野焼きを行って維持してきた。

 現在、野焼きは和牛農家が中心に行い、ボランティアが手伝う状況。しかし農家は高齢化が進み、後継者が少ない。

 さらに熊本県阿蘇地域振興局農林部の山下裕昭さんによると「経験豊かなボランティアにも高齢化が進んでいる」そうだ。

 この問題に井さんは、

 「野焼きにはさまざまな技術が必要。同じ場所でもその日の風向きで火を付ける場所が違う。小さいころから大人に付いて行って、体で学ばないといけない。阿蘇の草原を守るのは、やはり和牛農家。」

 と訴える。野焼きの技術を守っていくためには、農家の後継者がまずは必要だ。


▽草を活用する

 あか牛農家の後継者を輩出するには、どうしたらいいのだろう。

 井さんは、「草原をもっと活用し、あか牛を本来の姿で育てれば、コストの安い、安定した牛作りができる。このことをもっと評価してもらいたい」という。

 熊本県の山下さんによると、「“夏山冬里”というように、夏は放牧、冬は里に牛を下ろすというのが、阿蘇の牛の育て方ですが、それだと一冬分のエサ代がかかる。あか牛の場合、出しっぱなしでそのあたりの草を食べて越冬できるのが特長」だそうだ。

 「阿蘇の草原は畜産にとっては一番条件がいい」と井さんは楽観的だった。


▽地域循環の牛肉生産

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い・のぶゆき 阿蘇・産山村生まれ あか牛農家

熊本地域づくり推進協議会副会長、熊本食農ほんわかネット副理事長、九州観光保全型農業技術研究会副会長、阿蘇環境デザイン策定委員会委員

 熊本県も重要な観光資源でもある"阿蘇の草原の再生"を願い、「阿蘇あか牛草原再生事業」を2011年度から始めた。

 牧柵や水飲み場など放牧に必要な設備への助成、放牧を行う農家への助成を、5年間は継続する予定。

 さらに同年11月に設立され、あか牛に新しい価値観を作り出した全日本あか毛和牛協会の最高顧問に蒲島熊本県知事が就任している。

 あか牛を大切にすることの意義が徐々に浸透するようになった現在、井さんの頭の中には、地域内で牛作りを完結させるという次の目標がある。

 現在は100%九州産だが、今後は地域内にある減反遊休地を活用し、飼料の栽培を進める。めざすのは100%阿蘇産だ。

 「地域のなかで作れば、移動で出る二酸化炭素排出も減る。わたしはいま、そういうことを考えているんですよ」

 井さんの話は、このあと草の堆肥で作った野菜の話に移った。阿蘇の地域循環を語る井さんは、とにかく楽しそうだった。


*1 「九州沖縄農業研究センターによると(慣行肥育[従来の濃厚飼料多給]と粗飼料[牧乾草等多給]の牛肉粗飼料多給した牛を比較すると、後者が)うま味成分が約6ポイント上昇し、うま味が増加する可能性が示唆されました。」(あか毛和牛-ファクトブック-2011年11月より)。さらに、調査した九州沖縄農業研究センターに確認したところ、この「うま味」とは「イノシン酸や遊離アミノ酸等の水溶性呈味成分で、その量は脂肪交雑(さし)の少なさ=赤身肉であることに依存していると考えています。」との回答が寄せられた。

参考:

 一般社団法人全日本あか毛和牛協会: http://www.akagewagyu.com/

 熊本市のイタリア料理店「リストランテ・ミヤモト」: http://www.ristorantemiyamoto.com/

 熊本県の阿蘇あか牛草原再生事業: 【報道資料】平成23年度阿蘇あか牛草原再生事業の実績について


(47行政ジャーナル・畠山由美)

2012/10/03 17:26 【47行政ジャーナル】


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