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「教育は子どもの可能性づくり」 秋田県東成瀬村の鶴飼孝教育長に聞く

  文部科学省の全国学力・学習状況調査(学力テスト)で、2007年度の開始以来、最上位県に名前を連ねる秋田県の中でもトップクラスの成績を維持する同県東成瀬村。秋田市から約100キロ、人口約2800人の小さな村がなぜ「学力の高い村」として注目され続けているのか。同村の鶴飼孝(つるかい・たかし)教育長に聞いた。
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-「学力日本一の村」として国内外からの見学や視察、取材が多いと聞きます。

face47gjphoto.JPG 自分たちの口からは一度も「トップクラスだ」とは言ったことはないのですが、いつのまにか知られるところとなり、多くの方々が村に来ます。昨年度ですと約 300人。教員、大学教授、地域づくりの関係者、報道関係者など、外国からもたくさん来ました。

 私自身は県町村教育長会の会長時代、順位の公表には学校の 序列化につながる恐れがあるとして一貫して反対の立場を主張してきました。

 学力テストの結果というのは、あくまでも教育方法の改善に役立てるためのものです。しかし、内外から注目されている実態もあり、テスト結果については点数ではなく、県平均から比べるとどれくらい、国平均に比べてど れくらいというような形で、私が村議会で報告しています。また視察に来た方々にも村の教育方針や指導方法などを説明しています。

 -どのようなことですか

  まず、村には小、中ともに1校ずつしか学校がありません。児童、生徒数は小学校137人、中学校が76人(2012年度)。良いか悪いか別として、これが現実です。それを生かした「小中連携教育」を村の方針として掲げています。ここはへき地ですが、それ故に教育の機会が奪われてはいけないと、村全体が長い間教育 に力を入れてきた歴史もあります。

 s47gjschool2.JPG教職員は小中合わせて30人ほどしかいませんので、学習以外のスポーツ活動などでは教職員がカバーできないところは地域の人の力を借ります。地域の力を借りるということは保護者以外の方にも学校の方針を説明して、協力してもらうことが必須です。

  村では授業参観に保護者のほか、地域の人も顔を出してもらっています。参加率は120%ですよ。3世代同居が多いので祖父母のための授業参観も行います。 村内のほかの行事も学校側から積極的に仕掛けて、学校をオープンにし、楽しんでもらえるようにしています。教職員は営業マンとして学校を説明する役割が必要です。みんなが子どものことをどこの家のだれ、と知っていることは大事です。

▽村のみんなで子どもを育てる

  村が一体となって子どもを育てている、子どもにとっては村全体に愛されているという雰囲気が大切なのです。そうして初めて小規模校の特性を生かした「小中連携教育」が可能になります。子どもは生まれた時からこの村の子どもです。指導内容、指導方法、9年間を通じてすべて一貫性を持った教育を行うようにして います。

 「小中一貫」とか「中高一貫」とかの教育は「ハコモノ」をつくってその中に子どもを入れるだけではだめです。頑張る子 どもたちがいて、熱意のある教職員がいて、学校を理解してくれる保護者、行事に協力してくれる地域の人たち、そして条件整備をする行政の5つの要素がうま くかみ合ってこそ成り立ちます。教育委員会はその要素をうまく回転させるためにあります。この村のように少人数なら目が行き届く、小学校も中学校も1校ず つだから中1ギャップもないのだというわけではありません。

 -トップクラスの成績を維持する秘けつは何ですか。

sgakuryoku2012.JPG  実は「これ」という「決め球」はありません。強いて言えば「当たり前のことを当たり前にできる子どもを育てる」ということでしょうか。つまり、授業に集中 して、考えてくださいと言えば考え、発表してくださいと言えば、発表しようという雰囲気がある。よく、視察に来る人が驚きます、みんな集中していて、都会 では考えられない授業風景だと。でも、これが当たり前の姿です。これができれば学力はおのずと身に着きます。

 とはいっても最小限の条件があって、それが先ほど述べた5つの要素ですね。たとえば、うちの村ではモンスターペアレンツのような事態はありません。ないけれど、不満や要望のない保護者がいないわけはないのです。教職員はそこを理解しなければいけません。

 自分の孫が学校に通っていなくても、朝のボランティアに参加して見守りをしてくれるお年寄りもいます。教職員は地域の協力に感謝し、説明責任を果たして、一緒に子どもを育てているという誠実な姿をいつも見せ続けることが大切です。

 -教職員は異動がありますが、教育の質を維持する方法は。

 この村で言うと、村出身の先生は一人だけです。あとは私も含めて村外の人間です。ですので、毎年4月2日午後4時から、私が先生方に村の教育方針について理解してもらうお願いをします。小中連携教育がうちの目玉です、そのためにこのように取り組んでくださいと。

▽教員の質を高める工夫と村独自のカリキュラム

  そのひとつが教育力を総合的に使う工夫です。例えば、英語の授業の研究会を行おうとしても、今は教員の数が少なく、英語の先生は村で1人です。隣の町まで 行かないと別の英語の先生はいません。いっぺんに10人集まるのは無理です。そこで始めたのが村内の研究会です。小学校、中学校、教科の枠を超えて教員が 全部、英語の授業の研究会に参加します。教員の資格は皆通じるものを持っているわけですから。

 こういうやり方だと先生方が居眠りをする暇はありません。皆で意見や知恵を出し合って授業の進め方を工夫します。つまり先生方の質を高め合うわけです。また複数の教員が子どもたちを指導するチー ムティーチングには校長、教頭ら管理職も入ります。「俺は管理職だから」という先生はいりません。たしかに教職員は大変かもしれませんが、それがうちの村 のやり方です。

 村独自のカリキュラムもあります。「知徳体」のバランスを考えたもので「なるせタイム」と名付けまし た。小学校であれば、朝10分間の朝読書や自習、3校時と4校時の間は、体育の跳び箱やマット運動、5校時が始まる前は漢字や算数のドリルですね。一日がこ ういうリズムですから、最初に来た先生は音を上げることもある。でも、やってもらうんです。

 中学校も面白い取り組みをしていますよ。一 定時間で新聞のコラムを書き写す「視写」。これは文章をまとまりで読む力が付きます。社説を読んで先生が質問する「速読」の時間もあります。先生自身が時事問題を勉強しないと質問できないのでそういう意味では大変です。ただ、うちの村では生徒指導上の問題がゼロだから、先生の心理的な負担は少ないはずで す。

s47kibana kosmosu.JPG このほか、学力テストの結果を受けて「もっと学ばせたい」「もっと勉強したい」というアンケート結果があったので、村で塾を開設し ました。年に20回ですが、保護者負担はテキスト代の1300円です。私は学校教育だけで十分だと思ったのですが、希望がある以上はそれに応えなければな らないと。

 子どもたちと地域の方々が一緒になって国道沿いに「キバナコスモス」を植えている取り組みもしています。一斉に花が咲く頃は周りも明るくなります。自分たちでも地域や観光客の人たちに何か喜んでもらえることができるのではないかという心の教育にも重点を置いています。

 -多くの見学などを受け入れて感じることはありますか。

 韓国の方からはトップの成績を出したんだから、先生たちに特別ボーナスはないのか?という質問もありました。もちろん、ないですと答えましたよ。

 学力テストは国は都道府県別に平均正答率を公表していますが、市町村教委の単位はそれぞれが説明できるというスタンスです。だから情報をお互い交換し合ってここに来る方がいるのですね。

  おととしは沖縄県のある村の地域コミュニティの皆さんが来ました。そうしたら、その人たちは「沖縄県は成績が悪いけど、自分たちの村はその中でも悪いのです」と言うのです。なんて正直なんだろうと。だから、私もこの村の取り組みを一生懸命説明しました。ことしもこの間来ました。そうしたら質問内容が全く変化していました。「自分たちは2年間でこういうところを改善しましたけど、東成瀬村ではどういう改善がありましたか?」と。

 つまりその村は自分たちが取り組んだ結果成績が上がって自信を持ったのだと思います。こういう交流はこれからも大切にしていきたいと思います。

▽どこに行っても恥ずかしくない力を付けてやりたい

 -こういった教育の実績を村づくりにどう反映させますか。

 やっぱりその質問ですね。ほかの自治体の議員さんの視察などでは必ずこの質問を受けるんですよ。

 この村の子どもたちは中学、高校を出ても40%から45%しか村に残りません。働く場所がないとか事情があるから。

sgirls.JPG  これは決して教育だから、と逃げるわけではないけれど、「知徳体」の力を付けて、将来どんな方向にでも進んでいける素地、底力をきちんとつけるのが義務教育段階での使命だと思っています。

 結果として村に残ればそれはそれだし、あるいは村に残るから、ここまででいいということもない。教育に上限はないのだから、どこまででも伸ばしてやりたい。もちろん、郷土を愛して良いところを見つけさせるというふるさと教育を行っていますが、基本はどこに出て行っても恥ず かしくない力を付けるのが我々の責務です。

 村づくり、村の活性化というのは人が残るのがすべてか?と私は思います。国連の職員になってもいいじゃないか、政治家になって良い法律をつくるのもいいじゃないか、村に残って、もし板金屋さんになったら日本一の知識と技術を持てと。私たちは子どもの将来の可能性をつくってやる、それも村づくりのひとつだと思っています。


 -教育への情熱はどこからくるのでしょうか。

s47gjbaseball.JPG  私は大学卒業後、講師を2年務めている時に、ここ、東成瀬中学校で本採用になりました。あの頃は右肩上がりの、何でも大きければいいという時代で、小さな 学校はそれだけで軽んじられました。物理的な差もいろいろありました。距離のために高校進学をあきらめたりする生徒もたくさんいました。だけど、それは子 どものせいじゃない。子どもはここに生まれただけなんだ、それならその物理的な差を取り除いてやるのが教育だろうと。その悔しさが原点です。

  それは地域の皆さん、保護者の皆さんがよく分かっています。ですから教育への協力も惜しまずやってもらえるのです。私自身も今でもその原点は変わっていま せん。子どもたちにはこの村に生まれ、この村で教育を受けたことに自信と誇りを持って歩んでいってほしいと思っています。(聞き手 47NEWS 黒川美加)

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  鶴飼孝(つるかい・たかし) 1944年10月9日生まれ。出生地は秋田県由利本荘市(旧由利町)。秋田大学教育学部英語科卒業後、講師を経て72年、 東成瀬村立東成瀬中学校教諭。湯沢市立湯沢南中学校教諭、秋田県教育庁義務教育課課長などを経て2005年湯沢市立湯沢南中学校校長退職。06年から東成瀬村教育長。趣味は野菜づくり。

*写真は鶴飼孝教育長=8月22日、秋田県東成瀬村役場。グラフは2012年度全国学力テストの平均正答率上位都府県

取材後記はこちらから

2012/09/06 13:48 【47NEWS】


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