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被災地から見える「町とは何か」 ~NPOなどと連携した地域経営へ~ 岡本全勝・復興庁統括官

 東日本大震災からの復興の歩みを通じて、行政と住民、そしてNPO、ボランティアがこれまでになかったつながりを築き始めています。復興庁で新しい動きの最前線に立つ岡本全勝統括官の寄稿を掲載します。

<目次>

第1章 復興から見える町
1 津波が流し去った「町」
2 暮らしから見た町の4要素
3 町づくりの3つの主体

第2章 行政の役割の変化
1 サービス提供国家から安心保障国家へ
2 社会を支える3つの主体とシステム

第3章 これからの地方自治体
1 被災地から見えたこと
2 行政学から地域経営学へ

第4章 付録:被災地で活躍するNPO
1 NPO活動を紹介しているウエッブサイト
2 NPOの活動例
3 復興庁が行っている連携施策

第1章 復興から見える町

1 津波が流し去った「町」

 私は今、政府の復興庁で、東日本大震災からの復興に取り組んでいます。今回の大災害には、大きな特徴があります。それは、津波によって、町そのものが流された地域が多いことです。すると、ほぼゼロの状態から町を復旧しなければなりません。その過程を通じて、町には何が必要かがわかります。すなわち、町は何から成り立っているかが、見えてくるのです。普段は当たり前のこととして意識していなかったものが、見えてくるのです。

 被災地を訪れると、津波によってすべてが流され、がれきを片付けた跡地は、何もない更地が広がっています。この光景を見て、「なぜ、建物の再建が始まらないのか」と疑問を出す人や、「復旧が遅い」と批判する人がいます。しかし、直ちには、再建に着手できないのです。津波被害地では、再び津波が来ることを考えれば、現在地での再建は危険です。高台に移転するか、かさ上げをして町を造り直すのか。それを、決めなければなりません。

 阪神淡路大震災も、大きな災害でした。しかしそこでは、がれきを片付ければ、建物を再建して、町は復興しました。これに対して津波被害地では、建物をかつての配置のままでは、再建できません。

 さらに、商店や工場も流され、再開のめどが立ちません。病院も商店も、働く場もないのです。神戸市は周囲に市街地が連なり、そこで買い物をし、働くことができました。しかし、三陸のリアス式海岸に点在する町は、他の町とは離れていて、隣町で買うとか隣町で働き場を探すことはできません。そして、隣町も流されています。また、住民はいろんなところに離れて避難しているので、コミュニティが壊れています。

 津波は、建物だけでなく、各種のサービスも働く場も、ご近所のつながりをも、流し去ったのです。これらを、回復しなければなりません。多くの人は、災害復旧というと、道路や建物といったインフラの復旧を想像します。しかし、ここでは、道路を復旧し建物を再建しただけでは、住民の暮らしと町の賑わいは復旧しないのです。

 こうして、町をつくり直す過程で、町とは何か、私たちの暮らしを支えている要素は何かが、見えるのです。これは、原発事故で避難を余儀なくされた地域も同じです。避難指示が解除されても、直ちには住民は帰還できません。商店や学校、病院などのサービスの再開が必要です。また、働く場がないと戻ることはできません。

2 暮らしから見た町の4要素

 住民の暮らしを再建し町を復興するには、何が必要か。整理してみましょう。

 まず、インフラの復旧が必要です。道路や上下水道、各種の公共施設、電気や通信といったライフラインなどです。

 次に、毎日の生活を送るために、各種サービスの再開が必要です。教育、医療、介護といった公共サービスと、商店やガソリンスタンドといった商業サービスです。

 そして生活の基礎にあるのが、働く場です。雇用の場として企業活動や事業が再開される必要があります。働く場がないと、暮らしは成り立ちません。これが、阪神淡路大震災との違いの一つです。この地域の多くの集落では、漁業と少しの農業で生計を立てていました。盛岡市など新幹線駅から片道で2時間以上かかる地域、人口が減少し、高齢化が進んだ町。そこには、大きな工場などの産業がありません。もっともこれは、今回の津波被害地だけの問題ではなく、全国の中山間地域や過疎地域での共通の課題です。いえ、産業空洞化に悩む多くの地方都市が抱える課題です。「若者が戻って来ることができる町にすることが必要である」と言って良いでしょう。

 これら3つ、インフラ、サービス、働く場が、町の暮らしを支える大きな要素です。

 さらに目に見えませんが、4つめに重要なものとして、「人とのつながり」があります。コミュニティ、近所づきあい、友達などです。家を失い町を離れた人や、仮設住宅に入居した人たちが感じる孤独と孤立は、他人とのつながりがいかに大切であったかを示しています。また、町を再建する際にも、地区の住民のつながりは重要です。どの高台に移転するか、現在地でかさ上げをするのか。どのように住宅や商店を配置するのか。それを町役場が決めて、押しつけるわけにはいきません。住民が自ら判断し、地区ごとに話し合って決める必要があります。この合意形成は、普段からの町内会や地区の住民のつながり、隣近所の人たちとのつながりに支えられています。これが、町を再建する際に重要なのです。

3 町づくりの3つの主体

 では、これら町の要素を作るのは、誰でしょうか。「町の復旧=インフラの復旧=行政の仕事」と、多くの人は考えるのではないでしょうか。そして、「自宅の再建=個人の責任」「事業の再開=事業主の責任」と、考えるでしょう。

 これまでの災害救助や災害復旧の法制度では、まず被災者を救助し、避難所へ収容します。しかしその次の行政の仕事は、仮設住宅の建設とインフラ復旧に、ほぼ限定されていました。その段階で、対象が人の生活からインフラに移ってしまうのです。消防・警察・自衛隊の次は、建設課の出番でした。被災者の暮らしの再建や商工業の再開は、行政の責任とは認識されていなかったのです。

 例えば、避難所や仮設住宅での生活の支援は、国にも市町村役場にも、明確な担当組織がありません。国では、今回初めて被災者生活支援本部を作ったくらいです(注1)。

 市町村役場ががんばる以外は、地域の共助に委ねていました。これが変わったのが、阪神淡路大震災からです。ボランティアが、支援に入ってくれたのです。今回も、避難所での生活の支援(物資の配分、炊き出しなど)や仮設住宅の見回りなどに、ボランティアやNPO(Not-for-Profit Organization、非営利団体)が活躍しています。住むところや物資を提供するだけでなく、被災者の相談に乗ったり孤立化を防止することが重要なのです。

 新しい町をどうつくるか、住民たちが話し合いを行う際に、隣近所の人たちとのつながりや町内会などが重要であることは、先ほど指摘しました。

 企業の役割も、大きいです。電気やガソリンスタンド、コンビニが早期に復旧したのは、企業が総力を挙げて作業を急いでくれたからです。企業の社会的責任として、お金、物資、人などの支援もしてくれました。阪神淡路大震災との違いの一つは、企業の支援が認識されたことです。CSR(企業の社会的責任)という言葉は、その後に広まった言葉だそうです。また、これからの町の商業サービスの再開と雇用の場の再建は、企業にかかっています。

 このように、町をつくるには、行政(官)だけではなく、ボランティアやNPO、町内会など中間団体(共)と、企業など(私)の役割も大きいのです。

第2章 行政の役割の変化

1 サービス提供国家から安心保障国家へ

 行政学では、現代の国家は「サービス国家」「福祉国家」と定義されます。私は、次に「安心国家」に変わるだろうと考えています。国家(行政)の仕事が、社会資本整備や行政サービスの提供から、安心の提供に変わるのです。そしてその手段が、行政による提供から、各種主体による提供を保障することへ変わります。サービス提供国家から、安心保障国家への転換です(注2)。

(1)社会資本とサービスから安心へ―対象の変化

 日本は先進諸国に追いつくことを目指し、経済成長と、社会資本整備と、行政サービス充実に全力を挙げてきました。そして、それに成功しました。それぞれ世界最高水準になったのです。私たちはかつてに比べ、はるかに豊かで便利で安全に、そして自由で平等になりました(注3)。

 しかし、これらの課題を達成したら、新しく別の課題が見えてきました。その一つは、「弱者」です。「一億総中流」と言われたように、豊かで平等な社会を達成したと考えていたら、その陰で「落ちこぼれている人」がいたのです。格差と貧困、非正規雇用、ニート、いじめ、不登校、引きこもり、虐待、孤独死など。学校や会社という組織から外れると、日本は意外と冷たい社会でした。生活者や弱者は、社会保障制度を除けば、行政の対象外だったのです。そして従来の社会保障制度に乗らない人たちは、相手にしてもらえません(注4)。

 もう一つの課題は、リスクへの不安です。国民は、現在の社会をリスクに満ちた社会だと考え、不安を感じます。飢えや貧困、病気や戦争、抑圧や束縛は、人類にとって大きなリスクでした。ところがそれらを克服したことで、ほかのリスクが目立つようになったのです。豊かな社会のパラドックスです。

 災害、事故、病気といった古典的リスクについては、より安全な対策が求められます。そのほかに、孤立やうつ病、引きこもりといった社会生活での人間関係のリスクが大きくなっています。これらのリスクは過去にもあったのですが、貧困や病気といったリスクの陰に隠れていました。他方で、家庭や地域社会の互助機能が弱くなり、これらのリスクが顕在化しました。先に述べたように、被災地では、一人暮らしの高齢者が多いことや仮設住宅に入ったことで、孤独や孤立が大きな問題になっています(注5)。

 これらは、これまでの福祉行政では対応できません。福祉を超えた安心が、求められるようになったのです。

(2)提供から保障へ―手段の転換

 安心保障国家への転換のもう一つの要素は、行政サービスを「提供」する政府から、安心を「保障」する政府への転換です。すなわち、政府が自ら公共サービスを提供する方式から、その実施については民間の力を利用する方式への転換です。

 サービス国家は、衛生、教育、社会保障といった公共サービスを、政府が提供することを前提としていました。しかし20世紀後期になって、政府の効率の悪さが批判されるようになりました。「政府の失敗」です。そして民営化や民間委託が広がり、市場経済での競争の思想が導入されました。「小さな政府論」「ニュー・パブリック・マネージメント(NPM)」です。これまで政府(国と地方自治体)が提供していた公共サービスを、民間主体が提供します。そこには、営利企業だけでなく、非営利活動(ボランティアやNPO)もあります。ただし、政府が全く手を引くのではなく、その提供について責任を負います。実施について、民間主体を活用するのです。

 例えば、平成12年に導入された介護保険サービスです。それまでは、介護サービスは、行政が提供する「措置」でした。新しい介護保険制度では、制度の運営や要介護度の認定は地方自治体が行いますが、サービスは利用者が民間も含めた事業者から選ぶ「契約」になりました。

 すると、これらの提供主体をどのように組み合わせどのように規制すれば、効率的で安全な提供ができるかを考えることが、政府の責任になります。顧客としての市民は、行政、企業、非営利活動のどれが、より安く質の良いサービスを提供してくれるかを選びます。統治者としての市民からすると、あるサービスを提供する場合に、企業が担えるか、非営利組織でできるか、それとも行政が担うかを、選択することになります。その設計が、政府の仕事になります。

 このように政府の役割は、公共サービスの提供を引き受けるのではなく、官(政府)・私(営利企業)・共(非営利活動)という3主体の一つとして、他の主体が提供しないサービスを提供すること。そして、それら3主体のサービスが適正に行われるように、規制と監視をすることになります。


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 さらに、サービスを提供するという視点自体が、時代遅れになっています。これは、サービス提供が不十分で、それを充足するにはどうすれば効率的かという問題意識からの発想です。そのために行政自らがサービスを提供するほか、企業や提供者(私立学校や保育園)に補助金を出し、業界団体を指導します。これは、提供者を育てる発想です。すでに提供する仕組みを作り上げたなら、これからは、サービスの受け手(顧客)である住民や生活者の立場に立って考えるべきです。すると、企業や学校に補助金を出すのではなく、生活者に補助金を出して、サービスを選択させる方法が有効です。業界は、行政が指導し育てる対象ではなく、一定以上のサービス水準を守っているかを監視する対象です(注6)。

 また、引きこもりやニートなどに対しては、行政によるサービス提供には限界があります。個人の生活や家庭の中には、行政は介入することを抑制しなければなりません。そこで活躍しているのが、NPOです。仮設住宅の見回りも、同じことがいえます。

 こうして、政府は単に小さな政府になるのではなく、広い責任を持った小さな政府になるのです。小さな政府論は、行政の量の縮小だけでなく、役割の転換をもたらしました(注7)。

2 社会を支える3つの主体とシステム

 これまでは、公共とは行政のことであり、公共サービスとは行政が提供するサービスと考えられていました。しかし、民営化や民間委託が進むことで、官と民との区別があいまいになり、違いがなくなりました。ゴミ収集の民間委託、国鉄や電電公社の民営化など。業務に変わりはありません。利用者へのサービスは、良くなったと評価されています。そのような視点で見ると、人の命を扱う病院の多くが私立であり、公教育を担う学校にも私立はたくさんあります。電気、ガス、通信など、日常生活になくてはならないものも、企業が提供しています。

 もう一つは、非営利活動です。ボランティア活動やNPOが活発になり、地域コミュニティも再認識されました。それらも、公共の課題解決に大きな役割を果たしています。先に、被災者支援や被災地復旧において、ボランティア活動、NPO、町内会などが大きな役割を果たしていることを紹介しました。

 こうしてみると、政府は公共サービス提供の一主体でしかなく、公的サービスを提供している組織や人はたくさんいます。そしてコミュニティやつながりは、人々に安心を提供しています。民間(営利企業と非営利活動)も、公共や公益を担っています。企業もNPOや町内会も、単に住民にサービスを提供する主体にとどまらず、町をつくっている重要な主体なのです。サービス提供に関して、行政の下請けをしているのではありません。

 公共空間は、行政が支えているのではありません。社会は、「官=政治行政システム」と、「私=市場経済システム」と、「共=非営利ボランティアシステム」の3つから成り立っています(注8)。住民の暮らしには、これらすべてが必要なのです。地域を考える際に、市町村役場は行政の世界に閉じこもっているだけでは、問題は解決しません。

 行政(官)が公共を独占することが、終わったのです。それは社会思想としては、官が公益を担い民が私益を追求するという二元論から、公共の課題を官(政府)・共(非営利活動、中間団体)・私(営利企業)が役割分担する三元論への転換です(注9)。

 もっとも、これまでも町内会やPTA、ママさんバレーなど、中間団体は地域の公共を担っていました。企業も、企業内福祉をはじめ生きがいと安心を、従業員に提供していました。「疑似ムラ」と呼ばれていました。それらを忘れて、行政が公共を独占していると誤解していたのです。

 さらに視野を広げると、ここには、近代ドイツ国家学からアメリカ社会学への、国家観の転換があります。ドイツ国家学では、社会は弱肉強食なので、中立公正な国家が秩序をつくります。民(社会)と官(国家)は、峻別されます。一方、アメリカ社会学では、人が集まって会社を作り、人が集まって自治体を作ります。そして政府もつくります。行政機構も会社と同じく、住民の目的のためにつくったものです。官と民との間には、垣根はありません(注10)。仮設住宅での困りごとを相談する際に、住民から見て、NPOと町役場の違いは限りなく小さくなります。

第3章 これからの地方自治体

1 被災地から見えたこと

 さて、このように見てくると、これからの地方自治体に要請されていることが、見えてきます。拙著『新地方自治入門―行政の現在と未来』では、第3部で地方行政の未来を考える際に、「課題は何か」、その課題を「誰が解決するのか」、そして「どのように解決するのか」に分けて論じました。「対象」「主体」「手法」です。

 上に述べたのは、その回答の一部です。第1章では、東日本大震災を取り上げ、津波によって、建物だけでなくサービスや仕事場、コミュニティを流されたこと。そして町が復旧するためには何が必要かを考えることで、町をつくっている要素が何であるかを論じました。そこでは、インフラ復旧だけでなく、サービスの再開、働く場の確保、つながりの重要性を指摘しました。そして、それらは行政だけでなく、企業やボランティア、中間集団が支えることを指摘しました。

 第2章では、日本を含む先進国家が、その役割を社会資本と福祉サービスの提供から、安心の保障に変化させつつあることを指摘しました。あわせて、行政が公共を独占することが終了したことを述べました。官が公益を担い民が私益を追求するという二元論から、公共の課題を官(政府)・共(非営利活動、中間団体)・私(営利企業)が役割分担する三元論への転換です。

 これらを踏まえると、地方行政の課題は、社会資本整備や行政サービスの拡大から、安心の保障へと変化しています。地域の公の主体は、役場だけでなく、NPOや町内会そのほかの中間団体、そして企業も含まれます。手法に関しては、役場が直接提供するのではなく、様々な主体が提供します。役場は、他の主体と協力して地域を住みやすいものとするのです。

2 行政学から地域経営学へ

 民間委託や民営化で、企業が行政のパートナーであることは、認識されつつあります。ボランティア活動やNPOの役割も、阪神淡路大震災以降、認識されるようになりました。しかしながら、まだ行政の現場では、これらとの連携が十分試みられているとは見えません。行政の下請け程度に見ている人も多いようです。それはまだ、官民二元論にとらわれているのです(注11)。

 これに関して言うと、学問の世界もまだ遅れているようです。近年、地方行政あるいは国家行政を含めて、行政学の議論の主流は、行政改革、NPM、小さな政府、規制緩和、ガバナンス論などでした。しかしそのような行政学では、これからの地方行政は運営できないと思います。市役所の内部組織をいくら効率的にしても、それだけでは不十分です。

 解決すべき課題は、住民の安心といった地域の課題です。それは、社会学の領域です。それらの課題は、ヨーロッパから来るのでも東京から来るのでもなく、地元で生まれるのです。次々と生まれる、新しい住民の不安(注12)。それを拾い上げる「感知器」が必要なのです。既存のあるいは大学で教えてくれる社会学では、必ずしも効果的ではありません。そして、行政が地域の公共を独占しなくなったことで、主体を行政機構(政府や自治体の組織)に限定しては、狭すぎます。NPOや企業をどのように活かし、連携するのかが問われます。その観点から見ると、行政学と法律学も、これまでは先進国に追いつくための学問だったのでしょう。

 地域を経営するという広い視野に立てば、どのような課題を拾い上げ、どの主体に委ね、どのような手法で達成するか。これらを組み立てる視点が必要になります。これからの地方行政に必要なもの。それは、地域経営の視点であり、地域経営学でしょう。市町村役場に閉じこもって、法規集を読んでいるのではなく、町に出かけて住民の声を聞き、企業やNPO、町内会など様々な主体と議論する「他流試合」が必要です。

第4章 付録:被災地で活躍するNPO

 被災地では、ボランティアやNPOが活躍しています。個人ボランティアの活動は、避難所での炊き出しや物資の配分、被災地でのがれき片付けや泥のかき出しなど、マスコミを通して多くの人が知っています。しかし、復興の段階に入った現地では、そのような個人ボランティア以上に、組織ボランティアが必要とされています。

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NPOと連携した仮設住宅支援の取り組み。ワークショップ型研修でノウハウと課題を支援者が共有している=2011年秋、大船渡市・綾姫ホール(いわてNPO-NETサポート提供)

 仮設住宅での生活を継続的に支援する、孤立を防止するための見回りをする、事業の再開を支援する、地区住民の話し合いを支援する。これらは、個人ボランティアでは対応できない仕事です。専門的な仕事を継続的に引き受けるために、ある程度の人数とノウハウそして財源を持った、組織である必要があります。

 NPOの活動の全容を、把握することは困難です。数が多いこと、活動内容が多様なこと、活動状況が固定せず融通無碍なこと、小さな団体が多いことからです。これらは、NPO活動の長所でもあるのですが。

 全国からいろんな団体が、支援に入っています。また、新しいNPOも生まれています。例えば被災3県では、平成23年度中にNPO法人が171も増えています。もちろんこれら全てが、被災地支援を目的としてはいないでしょうが。前年度は125団体の増加でした。仕事の内容も支援の方法も、次々と「発見され」ていて、「増殖中」なのです。

 ここで紹介する事例は、そのごく一部です。また、活動内容も日々変化しているので、最新情報はインターネットなどで確認してください。以下では、各種のNPO活動を紹介しているウエッブサイト、個別の活動例の順に、説明します。また、NPOの活動を助けるために、復興庁が行っている施策を紹介します。内容や数値は、平成24年8月15日現在です(注13)。

1 NPO活動を紹介しているウエッブサイト

①東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)「復興支援事例集」
http://jirei.kouikinet.jp/
NPOの活動事例が、26事例掲載されています。

②日本財団「ロードプロジェクト―被災地で活動するNPOの真実」
http://road.nippon-foundation.or.jp/2011/04/npo-a410.html
NPOの活動事例が、32事例紹介されています。

③経産省地域経済産業グループ「ソーシャルビジネス・ケースブック(震災復興版)」
http://www.meti.go.jp/press/2011/01/20120113002/20120113002.html
被災地支援を目的としたソーシャルビジネスの事例が載っています。生活支援、起業家支援、事業再開のための資金調達、農林水産業支援など、27事例。

④「Yahoo!復興なう」
http://shinsai.yahoo.co.jp/fukkounow/
ボランティア活動をしている個人や団体が、活動内容を報告するブログです。随時、情報が更新されています。

2 NPOの活動例

 特徴的な事例を少しだけ、紹介します。

①石巻医療圏での健康と生活支援
http://rc-ishinomaki.jp/
医師や保健師を中心とした「石巻医療圏健康・生活復興協議会」が、宮城県石巻市と女川町の合計約4,000世帯の在宅避難者を対象に、健康や生活面の実態を把握し、支援を行っています。

②大船渡市の仮設住宅支援員配置支援プロジェクト
http://www.rise-tohoku.jp/?p=147
http://ofunatocity.jp/index.php
内陸部にある北上市が、沿岸部で被害の大きかった大船渡市を支援しています。北上市が事業主体となり、人材派遣会社へ委託して地元大船渡市民を採用し、仮設住宅支援員として仮設住宅住民の生活とコミュニティづくりを支援しています。その際に北上市内の中間支援NPO「いわてNPO―NETサポート」と、震災を機に設立した「いわて連携復興センター」が支援ネットワーク構築や、人材育成等のサポートを行っています。

③大船渡市崎浜地区の復興会議支援
http://jirei.kouikinet.jp/wp-content/uploads/jirei23.pdf
地区住民が復興会議を立ち上げましたが、何をどうすれば良いかが決まりませんでした。そこで、交流事業で縁のあった「NPO法人いわて地域づくり支援センター」に手伝ってくれるように声をかけ、NPOが事務局の役割を手伝っています。

④仮設住宅児童の学習支援
http://kibounozemi.jp/
NPOフローレンスが行っている「希望のゼミ」は、仮設住宅児童の学習支援です。落ち着いて学習する環境にない児童のために学習室を開設したり、支援員による遠隔学習を実施しています。

3 復興庁が行っている連携施策
①財政支援策の情報提供
http://www.reconstruction.go.jp/topics/npoyosan0414.pdf
NPOが支援活動を継続できるよう、NPOが活用することができる政府の財政支援策を一覧表にまとめ、提供しています。

②復興支援に向けた多様な担い手のロードマップ
http://www.reconstruction.go.jp/topics/2012/04/000726.html
被災者支援や被災地復興のために、自治会、NPO、企業、市町村、県、国が共同して取り組むことが求められています。そこで、「被災者生活支援」「遠隔支援者支援」「復興まちづくり」「産業再生・就業支援」「多様性への配慮」の5分野について、それぞれの主体に求められる取り組みを時系列に整理しました。

③NPOが活動する際の障害の解決例
http://www.reconstruction.go.jp/topics/JYOUHOU.pdf
NPOが仮設住宅の支援に入るときに、各市町村の個人情報保護条例が支障になっていました。どこにどのような人が避難しているかは、個人情報なので、民間の人に教えることができません。NPOからは、開示してほしいとの要請がありました。しかし、開示すると悪用される恐れもあります。そこで、関係者が知恵を出して、解決しました。
すなわち、自治体職員が仮設住宅を訪問した際に、「この仮設住宅団地の支援を担当するNPOに情報を共有したい旨」を説明し、同意を得ておく方法。自治体が仮設住宅見守り支援業務をNPOに委託する際に、守秘義務を課して個人情報を提供する方法です。

(注)
1 国や自治体の災害対策本部の仕事は、主に被災者の救助と避難です。東日本大震災の際には、政府は被災者生活支援本部による避難所への支援の他、雇用や企業の支援をしました。例えば、被災者を臨時雇用して避難所や仮設住宅の見回りをしてもらうような基金をつくりました。中小企業の再開を支援するために、仮店舗や仮工場を建てて貸し出す政策を行いました。また、グループを作って共同で事業を再開する場合に補助金を出すことも行っています。
被災地の住民や事業者が、国、地方公共団体、その他関係機関が運用している支援制度を検索できるようなウエッブサイトを作っています。「復旧・復興支援制度情報」http://www.r-assistance.go.jp/default.aspx

2 サービス提供国家から安心保障国家への転換については、拙稿「社会のリスクの変化と行政の役割第4章第3節リスク社会と国家の変貌」月刊『地方財務』2011年4月号(ぎょうせい)を見てください。

3 日本の地方行政が、豊かになるという目標を達成したことについては、拙著『新地方自治入門―行政の現在と未来』(2003年、時事通信社)で、詳しく述べました。

4 豊かさを達成した日本での弱者については、拙稿「再チャレンジ支援策に見る行政の変化」月刊『地方財務』2007年8月号を参照してください。

5 社会のリスクの変化については、拙稿連載「社会のリスクの変化と行政の役割」月刊『地方財務』2010年10月号~2011年4月号を参照してください。

6 日本の行政が、生産者支援から生活者支援へと転換しつつあること、それにあわせて行政の手法が変わることについては、前掲「再チャレンジ支援策に見る行政の変化」を参照してください。

7 1990年代以降の行政改革が、行政組織のスリム化から、行政の役割転換に変化していることを、「行政改革の現在位置~その進化と課題」北海道大学公共政策大学院年報『公共政策学』第5号(2011年3月)で論じました。

8 企業は主体としては「私」であり、システムから見ると「私=市場経済システム」に属していますが、無償で被災地を支援する場合は「共=非営利ボランティアシステム」となります。

9 官・共・私三元論については、前掲『新地方自治入門』第8章を参照してください。

10 藤田宙靖「行政改革に向けての基本的視角」『自治研究』1997年6月号(良書普及会)、同『行政法の基礎理論下巻』(2005年、有斐閣)を参考にしています。

11 復興庁では、ボランティア・公益的民間連携班と企業連携班を設置して、これらとの連携によって被災地の復興を進めようと試みています。これら連携班の活動については、復興庁のホームページをご覧ください。

12 多くの地方では、このほかに「これから何の産業で食べていくか」という産業論も重要です。

13 ここで紹介した事例については、復興庁のボランティア・公益的民間連携班の職員の他、非常勤職員を務めていただいているNPOの人たちに、情報提供をお願いしました。彼らの活動についてご関心のある方は、例えば次のウエッブサイトをご覧ください。

田村太郎氏(一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事、特定非営利活動法人edge代表理事)
http://socialbusiness-net.com/contents/news841
ソーシャル・ビジネス・ネットワークのインタビュー記事『社会事業家100人インタビュー』第1回~先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ~(平成24年7月9日)

藤沢烈氏(一般社団法人RCF復興支援チーム代表)
http://retz.seesaa.net/
藤沢烈氏の個人ブログ。日々の活動が書かれています。


<岡本全勝(おかもと・まさかつ)氏略歴>

昭和30年1月1日 奈良県明日香村生まれ
昭和48年 奈良女子大学文学部付属高校卒
昭和53年 東京大学法学部卒、自治省採用、徳島県財政課、自治省財政課、鹿児島県財政課長、自治大学校教授、自治省交付税課補佐、自治大臣秘書官、富山県総務部長等を経て、
平成10年 内閣・省庁改革本部参事官
平成13年 総務省自治財政局交付税課長
平成16年 総務省大臣官房総務課長
平成18年 内閣府大臣官房審議官(経済社会システム担当)
平成18年 内閣官房内閣審議官(再チャレンジ室長)併任
平成20年 総務省大臣官房審議官(財政制度、財務担当)
平成20年 内閣総理大臣秘書官
平成21年 総務省消防庁消防大学校長
平成22年 総務省自治大学校長
平成23年 東日本大震災・被災者生活支援本部事務局次長
平成23年 東日本大震災復興対策本部事務局次長
平成24年 復興庁統括官

平成14・15年度 東京大学教授(大学院総合文化研究科)併任
平成17・18年度 一橋大学公共政策大学院で「現代行財政論」を講義
平成19・20年度 慶応大学法学部講師兼務
平成22年度  日本大学法学部大学院講師、慶応大学法学部講師兼務

著 書
『新地方自治入門-行政の現在と未来』(2003年、時事通信社)
『地方財政改革論議-地方交付税の将来像』(2002年、出版社ぎょうせい)など

2012/08/31 13:11 【47行政ジャーナル】


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