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2017年()07月24日(月曜日)
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 東京と地方では、いまや視点が異なります。北海道から沖縄まで、ベテラン記者のコラムを読み比べてみませんか。

日めくり

 「面従腹背」という言葉に、いいイメージを持つ人は少ないだろう。うわべは従っていると見せて、心は背いている。不誠実な姿だ。好意的に評価しても、せいぜい「したたか」という言葉にたどり着くぐらいが関の山か。

 文部科学事務次官を退任後、前川喜平さんは加計学園の問題で各メディアのインタビューに応じ、その中で座右の銘は「面従腹背」だと発言していた。座右の銘も変わっていないけれど、人にどう見られるかということに頓着しないところも、そのままだと感じた。

 5月29日本欄の「公教育からのエクソダス」で書いたとおり、この一連の原稿は2000年秋に聞いた前川さんの話に依拠している。そのとき彼は、文部省入省当時のことにも触れた。いま考えると、それはおそらく、官僚組織を含む共同体のあり方に関する彼の考え方を示すためだったのだが、当時の私は理解が及ばず、その部分はメモの中で( )に包んでいる。本論から外れた雑談と受け止めたのだ。そのまま採録する。

 (文部省入省当時、私は家来なのかと思った。上司と部下の関係ではなかった。そのときから、いかに面従腹背するかだと思ってきた)

 古くからの組織は多くの経験・事例を経て、さまざまな準則や手法を構築している。内部にいながら、それらに違和感を持ったり、不合理だと感じるている人も少なくないはずだ。だが、多くの人は組織の厚い壁の前で立ちすくんでしまう。自分の頭でものを考える人ほど、そういう場面が多くなる。そのとき志を、異論を、どう身内に保ち続けるのか。

 私の貧しい経験を挙げれば「被疑者呼び捨て」がそれだった。

 大学では法律を学んだから、刑法や刑事訴訟法の基礎ぐらいは知っていた。そして、有罪確定までは罪を犯していないとみなす「無罪推定の原則」や、人の自由を制約する場合の歯止めとなる「適正手続きの保障」などは、市民を守る大切な法理だと考えていた。ところが報道は、被疑者段階で犯人扱いする。その象徴が呼び捨てだった。有罪の蓋然性が高まる起訴時点で、ようやく「被告」を付ける。扱いが逆転していた。

 日々「手を汚している」という感覚が消えなかった。労組の集会でそう発言したこともある。しかし「容疑者」呼称が採用されるまで、入社から8年近く、1989年末まで待たねばならなかった。付言すれば、それでも「逮捕=犯人」と言わんばかりの報道はなくなっていない。それに対して、私は何もできていない。忸怩たる思いがある。

 経験を積み、実績を示し、発言力や権限を増す中で、職場や組織自体を少しずつ民主化する。「殿様と家来」の関係から、ものを言い合える「上司と部下」になる。そうすれば、仕事の中身にもヒューマニズムが生きてくる。人間が人間として尊重されない組織に、人間を大切にする仕事はできない。前川さんの「面従腹背」はそれほどの意味だったろう。

 それを実践し続け、曲折はあったが、官僚トップの事務次官になった。そこに天下り問題が露見する。その経緯や違法性の軽重、背景などについては語るべき情報を持たない。ただ国会で前川さんが「万死に値する」と述べたことは心に刺さった。

 それほどのことなのか。大時代的に聞こえる「万死に値する」とまで表現するのは、なぜなのか。彼は先輩が作りあげたシステムを容認してしまっただけではないのか。

 しかし、よく考えてみればそうではなかった。面従腹背というなら、面従する相手がいなくなったら、正義を貫かねばならない。違法な天下りシステムは文部科学省内部で構築され、内部でほぼ完結していた。事務次官なら悪しきシステムを廃することは可能だったのではないか。少なくとも、なくすために力を尽くすべきだった。彼は過ちを犯した。

 「万死に値する」という発言は、なにより自らの生きる倫理に照らしての悔いであったろう。

 吉野源三郎の名著「君たちはどう生きるか」の一節を引く。中学生のときに読み、私にとっては一生の指針となっている言葉だ。もちろん満足に実践できてはいないけれど。

 僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。
 だから誤りを犯すこともある。
 しかし―
 僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。
 だから、誤りから立ち直ることも出来るのだ。

 前川さんがこの言葉を知っているかどうか分からない。しかし、彼のこの間の行動は、まさにこの言葉どおりのものであった。ヒロイズムでも正義感でもない。過ちから立ち直り、誤りを正すための闘い。

 このシリーズの最初に触れた村上龍の「希望の国のエクソダス」で、学校にも日本という国にも「ノー」を突き付けた中学生のリーダー「ポンちゃん」は、国会でこう言う。「この国にはなんでもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」

 しかし、ポンちゃんに言いたい。この国の無数の現場に、前川さんのように生きる人たちがいる。それを私は見てきた。「ポンちゃん、ここには間違いなく、希望があります」  (47NEWS編集部、共同通信編集委員佐々木央)

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 まどみちおさんの詩『ジェット・コースター』は、緊張と高揚の心理描写で始まる。<みんなびくびく/びくびくびくびく/コースターがのぼる>。「みんな」は家族か、同級生か。あるいは「2人」とも読み替えられよう▼来年、開園50周年を迎える仙台市の遊園地「八木山ベニーランド」が、同園に関する「想(おも)い・・・[続きを読む]

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 天鐘(7月24日)先日小欄で紹介した佐藤正午さんの『月の満ち欠け』(岩波書店)が、直木賞を受賞した。作品には同社の編集者で八戸市出身の坂本政(まさ)謙(のり)さんが深く関わっている。今回は前に書き切れなかったこぼれ話である▼一つ。作中、何度か登場する八戸だが、地域名まで記述するか検討したという・・・[続きを読む]

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 きのう午前、避難勧告が出ている秋田市南部の住宅街を歩いた。雄物川に注ぐ中小河川があふれて道路があちこちで冠水し、浸水している住宅もあった▼年配の女性がシャツから水を滴らせて歩いている。逃げ遅れた人がいないか回っているのだという。真っ先に足の不自由な人の家に向かい、消防に通報し、住民と協力し合っ・・・[続きを読む]

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 ▼▽「教場」「傍聞(かたえぎ)き」で知られる山形市在住の推理作家長岡弘樹さん。郊外に建てた仕事部屋は壁一面をホワイトボードにしたそうだ。先日彼の講演を聴いて、作家が小説を練り上げる創作過程を窺い(うかが)知ることができた。▼▽真ん中に机一つの部屋。まずボードの端から端へ1本線を引き、年表のように・・・[続きを読む]


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 語り継ぐ震災(7月24日)「家の玄関で地震にあった。着の身着のままで逃げたよ」。「(避難所では)夜になると、まわりの人たちから夜泣きがうるさいと言われ、難しい問題でした」。東日本大震災の体験を伝える小冊子「ふくしまの明日へ3・11を知る」に載った避難者の声だ。福島学院大や桜の聖母短大の学生が企・・・[続きを読む]

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 この季節になると会津に勤務していたころを思い出す。早起きした休日の朝は裏磐梯へと車でひとっ走りした。真夏でもひんやりとした空気の中、水面(みなも)が輝く湖沼を眺めながら歩くと心身ともにリフレッシュしたものだ▼実際、快適な条件の中で行う持久運動は、病気予防やメンタルヘルス、メタボリック症候群対策・・・[続きを読む]


「雷鳴抄」

【下野新聞】

 

 国有地を格安で売った経緯を国会でただされ、知らぬ存ぜぬを貫いた局長が国税庁長官に昇進した。他にも文部科学省で組織ぐるみの天下りで処分を受けた幹部を横滑りさせるなど、この夏の霞が関人事は話題が豊富だった▼厚生労働省では事務次官と同等のポスト「医務技監」が新設された。同省の政策は科学的な妥当性が疑・・・[続きを読む]

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 潮来市の夏の風物詩「潮来祇園祭礼」の準備が進む市内を歩いている。街の中心部に向かう道路にはちょうちんが飾られ祭りの気分を駆り立てる▼市のホームページなどによると、祭りは市中心部にある素鵞(そが)熊野神社の例大祭。800年余りの歴史があるという。現在は毎年8月の第1金曜日から3日間行われる▼素鵞、熊野両社の・・・[続きを読む]

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 ▼上州を旅した文人は数多い。温泉で疲れを癒やし、山紫水明の自然が心を和ませた。1927(昭和2)年の今日、35歳で自殺した芥川龍之介は山登りが好きだった▼90年目の忌日(河童(かっぱ)忌)にちなみ群馬県にまつわる著述を振り返ると、27歳で書いた随筆「忘れられぬ印象」が破天荒な面白さだ▼芥川は旧制一高生当時、・・・[続きを読む]


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 「恐ろしいことだ」。火葬後にばらけた遺骨を骨壺(こつつぼ)に納める習わしを聞き、メキシコのインディオは身を震わせてつぶやいた。真木悠介こと社会学者の見田宗介さんの著書「旅のノートから」にある◆土葬するインディオにとり、人の骨格を残すことは「生き残った者が祖先と大地へとつながっていく、存在の根の・・・[続きを読む]

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 ことしの夏休みの旅行者は前年度より増える見込みだという。大手旅行会社の予測だ。働き方改革の波及効果で休みが取りやすくなり、遠出への意欲が高まったとみる▼いい兆しであるが、逆風も近づいている。政府が「残業代ゼロ法案」とも言われる高度プロフェッショナル制度の創設へと動く。高収入の一部の専門職につい・・・[続きを読む]

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 一九六四(昭和三十九)年前後を描いたNHK連続テレビ小説の「ひよっこ」を見ていると登場人物が当時の流行歌を口ずさむ場面がひんぱんにある▼今の若いお方があのドラマをご覧になれば、ずいぶんと歌の好きな人たちだなと思うかもしれぬが、当時や、そのしばらく後を知る世代からすれば、不思議でもなんでもない。・・・[続きを読む]


「大観小観」

【伊勢新聞】

 

 ▼民進党県連が「阪口氏公認取り消し申請へ」の本紙見出しで、またも内紛が、と勘違いしたのは失礼千万、恐縮至極だった。前回衆院選直前の混乱がトラウマになっているせいだが、事実は県内小選挙区の一減と区割りの大幅変更に伴い、旧4区候補者の阪口直人氏が退き、旧5区の元衆院議員の藤田大助氏が新4区に回る「・・・[続きを読む]

「大自在」

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 2017年7月24日【大自在】(2017/7/2407:55)▼「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような素晴らしい秋日和でございます」。1964年10月10日の東京五輪開会式。テレビ中継は放送史に残るアナウンサーの名調子で始まった▼アジアでは初の祭典を天も祝福したのだろう。台風接近による前日の雨がうそだ・・・[続きを読む]

「時鐘」

【北國新聞】

 

 きょうのコラム『時鐘』2017/07/2400:40昔(むかし)は「火(ひ)」にも身分(みぶん)があった。古代朝廷(こだいちょうてい)の話(はなし)である。天皇(てんのう)が使(つか)う火は臣下(しんか)とは厳密(げんみつ)に区別(くべつ)されていた。皇族以外(こうぞくいがい)には使えないその火は絶(た)えること・・・[続きを読む]


「越山若水」

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 【越山若水】俳人正岡子規が1902年、死ぬ間際まで新聞に連載していた随筆、それが「病牀(びょうしょう)六尺」である。そこに仕事が滞っているわが身のふがいなさを嘆く文章がある▼子規は悔しさを表す二つの故事成語を記している。まず「髀肉(ひにく)の嘆」。三国志の英雄・劉備は戦争がなく馬にも乗らないた・・・[続きを読む]

「凡語」

【京都新聞】

 

 73校がすでに涙をのんだ。きょう4強が激突する全国高校野球京都大会である▼先日、母校の初戦を見た。終盤まで1点を争う好ゲームだったが、エースの3年生が足を痛めて降板、そのまま敗れた。試合後、仲間に背負われる彼の姿に無念さが漂った。<肩を落し去りゆく選手を見守りぬわが精神の遠景として>島田修二▼・・・[続きを読む]

「正平調」

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「国原譜」

【奈良新聞】

 

 取材を申し込んで役所に出向くと、担当者の傍らにメモ係の同席が当たり前になった。中身を見たことはないが、質問と回答を細かく記録しているように見える。「言った言わない」に対する役所側の防衛策であるのは言うまでもない。国家事業なら残した記録の重要性はなおさらだろう。大切なメモを事業の終わらぬうちに廃・・・[続きを読む]

「水鉄砲」

【紀伊民報】

 

 祭るという言葉の由来について、言語学者、白川静さんの「字統」は「神霊にものを供えて拝すること。神のあらわれるのを待ち、その神意に服すること」と説明している。▼人々は古来、天変地異に恐れを抱き、疫病に苦しみ続けてきた。一方で、作物の豊かな実りや商売繁盛、豊漁を願ってきたのも、名もない庶民である。・・・[続きを読む]

「滴一滴」

【山陽新聞】

 

 NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」は目が離せない展開になってきた。有村架純さん演じる主人公・みね子の恋は実るのか。行方不明になった父親は今どこに。気をもみながら月曜日を迎えた人も多かろう▼物語のみね子は1965年、高校卒業と同時に集団就職で上京したという設定だ。もし実在するなら、ことし71歳に・・・[続きを読む]


「天風録」

【中国新聞】

 

 瀬戸の花嫁2017/7/24映画ロケ地やアニメのモデルとなった場所には作品の世界に浸ろうと、大勢の観光客が訪れる。45年前の大ヒット曲も、どこの島を歌ったのかと話題になった。大小3千もの島々が、わが地であれと願っただろうか▲瀬戸は日暮れて夕波小波、と歌いだす「瀬戸の花嫁」である。誕生秘話が面白い。結婚せず・・・[続きを読む]

「海潮音」

【日本海新聞】

 

 「あなたならどうする」。遠い学生時代のころ、いしだあゆみが歌っていた。加計学園問題で「あったものをなかったものにはできない」と文科省前事務次官の前川喜平氏が証言。以来この歌のフレーズが頭の中を行き交う◆ある人は「なぜ退職後になって告発するのか。真に国家を思うならば、現役中に堂々と主張する気骨が・・・[続きを読む]

「明窓」

【山陰中央新報】

 

 失敗だったフーテンの寅さん日本映画の大御所が顔を合わせ、黒沢明監督が山田洋次監督に言った。「映画は窯変と同じ。焼き上がるまで分からない」。窯変は陶磁器を焼く窯の中の化学変化。国宝級の傑作になることも、またその逆もある▼山田監督は思い当たった。「男はつらいよ」フーテンの寅さんの1作目、「人気者の・・・[続きを読む]


「四季風」

【山口新聞】

 

 詩や詩人なんか知らなくても大方の人は生きていける。ただふるさとの詩人は違って、県内なら中原中也。それでは中也賞受賞で福島在住の詩人は?と聞かれ、和合亮一さん(48)と答えられる人は少ないはず▼和合さんが福島第1原発事故後に発信した作品が、フランスで文学賞を受賞したと全国紙が報じていた。事故の「・・・[続きを読む]

「地軸」

【愛媛新聞】

 

 「念力のゆるめば死ぬる大暑かな」村上鬼城。昨日は大暑。大げさではなく無理は禁物で、世界の記録的な高温は「人体に危険なレベル」(世界気象機関)という▲イランは東半球の史上最高気温53・7度を観測。米国でも「50度超え」し、空気密度の低下で離陸できない航空便が相次いだ。信じ難い高温は「地球温暖化進・・・[続きを読む]

「鳴潮」

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 アルゼンチンのブエノスアイレスの会議場に「トーキョー」という声が響いたのは、2013年9月のことである。日本では日曜の未明。その瞬間をテレビで見守った人もいるだろう20年東京五輪・パラリンピックの開催が決まって、もうすぐ4年になる。時のたつのは早いもの。気が付けば、開幕まできょうであと3年とな・・・[続きを読む]


「小社会」

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 新聞コラムを書くに際して、先輩から言われた戒めがある。「第一感には頼るな」。あるテーマに関して真っ先に頭に浮かんだ材料は捨てよ、と。地震や災害を取り上げるとき、思い出すのは〈天災は忘れられたる頃来る〉の寺田寅彦の警句。雪の日に引用したくなるのは弟子、中谷宇吉郎の〈雪は天から送られた手紙である〉・・・[続きを読む]

「春秋」

【西日本新聞】

 

 若き日の与謝野鉄幹や北原白秋、吉井勇など文士5人が連れだって旅に出た。福岡から佐賀、長崎、熊本へと九州各地を巡ること1カ月。途上で交互に記した紀行文は「五足の靴」の書名で今日に伝わる▼案内人が道を誤ったため阿蘇の原野をさまよい、土地の言葉を解せずに困惑する一行。逆に現代の読者には、明治期の九州・・・[続きを読む]

「くろしお」

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 「其時座主は大キナこすでをちやりて一度も焼酎を不被下候何共めいわくな事哉」。鹿児島県伊佐市大口にある郡山八幡神社の本殿を改修した折、棟木札(むなぎふだ)に落書きがあった。「座主つまり宮司は大変ケチで一度も焼酎を飲ませてくれなかった。とても迷惑なことだ」という意味。名前が記してある2人の宮大工は・・・[続きを読む]


「水や空」

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 高校からの帰り、級友Tの家に寄った。いつも通りレコードかカセットテープの音楽を聴いたに違いないが、その記憶はない。きっとT君の家だわ、とピンときたのだろう、母親からT宅に電話があり、驚いて替わった▲「早(はよ)う帰って来なさい」。外は気が付けば、すさまじい雨だった。所々でもものあたりまで水に漬・・・[続きを読む]

「有明抄」

【佐賀新聞】

 

 3年後の未来2017年07月24日05時05分高揚感よりも、やりきれなさが先に立つ。東京オリンピックの開会式まで、きょうであと3年。五輪のシンボルであり、レガシー(遺産)ともなる新国立競技場の建設工事で、現場監督を務めていた23歳の青年が自ら命を断った◆残業時間は月200時間。過労死ラインの100時間をはるか・・・[続きを読む]

「南風録」

【南日本新聞】

 

 サンマを食べると、福島第1原発事故で鹿児島へ避難してきた男性を思い出す。移住について話した酒席だった。「サンマが懐かしい」。望郷の言葉が胸に響いた。福島など北日本の太平洋沿岸は、サンマが産卵のため回遊してくる。幼い頃から親しんだ味は鮮度が高く格別だったろう。脂がのった刺し身や塩焼きは、日本の食・・・[続きを読む]


「金口木舌」

【琉球新報】

 

 雑誌や本、新聞などの活字媒体には必ず「校閲・校正」という作業が入る。校正とは原稿などの内容の誤りや不備な点を調べ、正しく直すこと▼東京には校正を専門とする会社がある。校正するのは出版物にとどまらず、ポスターやチラシにも及ぶ。文字だけでなく、社会通念上、不適切な表現がないかなど、内容までチェック・・・[続きを読む]

「大弦小弦」

【沖縄タイムス】

 

 今まで見たことがあった昔の糸満の写真は貧しい雰囲気ばかり。でも思い出の中の風景は庭が広くて赤瓦の家がいくつもあり明るかった。「記憶を美化しているのかなと思っていました」と83歳の女性は語った▼タイムスギャラリーで開催中の写真展「よみがえる古里〜1935年の沖縄」で住んでいた家を見つけた。「覚え・・・[続きを読む]