番外編「スコットランドの分権10年」
「住民の目線で法案」
「市民の声を反映する議会が市民の近くにある。全体的にうまくいっている」
歴史的建造物が立ち並び、世界遺産地区がある古都エディンバラ。周囲には不似合いな超モダンの議会棟で、スコットランド政府のマイク・ラッセル官房長官は、自信に満ちた口調で分権10年を総括した。
長年住民の立場で分権改革運動にかかわってきたイゾベル・リンゼイさんも「誰もが10年前に戻りたくないと思っている。こう言えるのが成功の証拠」と評価した。
遠いロンドンの英国議会と政府に働き掛けなければ実現しなかった政策を、エディンバラで決定できるようになった。住民が選挙する議会で議決し、英国政府から大幅に権限移譲を受けた政府が執行する。分権の実感を多くの人が口にした。
大学授業料の廃止や高齢者ケアの無料化、公共の場所での禁煙。議会は英国になかった先駆的な法案を矢継ぎ早に可決した。子どもの権利擁護や家庭内暴力対策を含め、住民の要望によるものが少なくない。議会の低い目線と素早い対応が住民の信頼となっている。
議会発足以来8年間、労働党と自民党の連立政権だったが、2007年の選挙で政権交代した。英国からの独立を掲げる地域政党、スコットランド国民党(SNP)の少数与党政権が誕生したのだ。
エディンバラ市職員のグレム・フェアブラザーズさんは「SNP政府は自治体への補助金を、使い道が自由な一括交付金にする一方で、増税をさせないので政府への依存度が高まった」と述べ、地域内が集権化の方向にあると指摘した。
スコットランド最大の都市、グラスゴー市議会のステファン・カラン議員も「政府は小学校3年までの学級編成を小さくしろと指示したが、お金がつかないのでやらない」と不満を募らせる。
ただスコットランド政府の歳入の大半は英国政府からの一括交付金。それを基に予算を組まざるを得ない。分権10年を検証した議会の委員会は今年6月の最終報告で、英国政府が持つ所得税の税率決定権の一部を移譲すべきだと提言した。
ラッセル官房長官も「必要な予算額を決め、受け取れる権限を持ちたい」と言うが、英国政府が応じる気配はない。
SNP政府は来年、独立の是非を問う住民投票を計画中だ。野党幹部は投票法案が議会で否決される見通しなので「住民投票は無理」と述べた。住民は賛否が分かれている。10年の成果を今後どう発展させるかが、独立問題にも影響しそうだ。
スコットランド政治に詳しい山崎幹根北海道大大学院教授の話
多くの立法権が移譲され、議会が設置されたことでスコットランド独自の政策が可能になった。好例として、パブやレストランなどでの喫煙を禁じた禁煙法がある。これは他の地域にも波及し、先進的な役割を果たした。
高齢者ケアの無料化、大学の授業料の廃止にも独自性が見られ、分権は市民生活に定着している。議会が市民の信頼を得るため議員活動の情報公開、市民参加の拡充に熱心であり、こうした努力からは学ぶものが多い。
また、英国政府以上に厳しい二酸化炭素(CO2)排出量の削減目標を設定したり、金融や生命科学分野を成長させるための人材づくりにも熱心だ。グローバル化の中で自らの地域特性を最大限生かす戦略を明確に持ち、実践している姿勢は、日本の地域の在り方を考える際に、多くの示唆が得られよう。
スコットランド 1707年イングランドと統合するまでは独立国だった。1999年に約300年ぶりに議会が開設され外交、防衛、財政・金融などを除く幅広い立法権が認められた。首相以下の政府が行政を執行する。独自の教育制度や司法権も持つ。人口約510万人、面積約8万平方キロ。「首都」はエディンバラ。
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第13回 7月下旬予定

