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地域再生列島ネットから

 地方が抱える問題を話し合うため、全国の地方新聞社と共同通信社が識者らとつくった。街づくりなどに取り組むNPOの代表者や研究者、行政担当者ら多様な専門を持つ47人で構成する。毎月、テーマを決めてメールで意見交換を進め、インターネット上の「シンクタンク」を目指す。


 【テーマ】農業を再建するには?

田村 亨・室蘭工大教授(北海道)

 数年前、畑作コントラクタ-事業を調べるために北海道の十勝支庁へ行ったことがある。ここで、大規模農業で知られる北海道に於いて、最適なブジネス手法を見ることができた。5千億円もする耕作機械が体育館のような場所にいくつも置かれ、1年間の作業日程に従って十数人の若者が働いていた。一番、驚いたことは、それぞれの町村で経営形態(町村が経営、農協が経営、地元農民が会社を設立、外部の会社が経営など)が異なっており、競争しながら経営効率を上げていることであった。畜産などにもこの手法が取り入れら、高齢化問題への対応・労働力不足の解消、耕作放棄地の解消、多角的経営による農業の持続的な発展など、教科書的な事業効果があると言われる。しかし、私は「機械装備や人員の確保にかける経費を上回る作業料収入が無ければビジネスにならない」というコスト意識が若手起業家に火を付けたことに、このプロジェクトの意義を感じた。 

   阿部 欣司・北海道電力地域担当部長

   北海道は本州に比べ生産者年齢は低いが単に時間軸がずれているだけで、高齢化の進行は止まっていない。また、これまでは農家戸数の減少を経営規模の拡大でカバーし、生産を維持してきたが、この手法も限界に近づいている。企業参入も有効ではあるが、実績は都市近郊での野菜栽培が多い。北海道で期待されるのは、酪農・畑作・米等の生産性向上や中山間地域(条件不利地域)での農業生産維持であるが、この地域への企業単体の参入は殆ど聞いたことが無い。米政策に偏重している国も頼りにならない。結局、生きる道は地元の農業者等が以下でみる「ハーゲンダッツの古里、浜中町(道東の条件不利地域)」の様に、自ら考え、それを先駆的に実現し続けることだと思う。

 酪農の離農増加対策として、農協が株式会社を設立し、この法人に地域の酪農関連企業、生乳販売先の乳業会社や飼料メーカーが資本参加、人材を派遣する等、農協と企業の協働により、担い手を育て、生乳生産の維持・拡大を図る試みを始めている。このほか、浜中町農協は配合飼料を減らす集約放牧の取組み等様々な先駆的な取組みにより、当地を最後発地から国内有数の酪農地帯に育て上げている。 

吉井 仁美・八戸市水産科学館館長(青森)

   年金を受給した御夫婦の梅の栽培を手伝ったことがある。まず、農業権を取得し農地を購入。その後、苗木を100本ほど購入し3年から5年くらい育て、毎年農協に安定した量を出荷できるようになるには7年目位から。あとは夢中で農作業に勤しむ。耕運機、スプレーヤー等の機器を購入するが、中古品でもかなりの金額である。肥料を与え病害虫にかからない様に最新の注意を払い、草取りをし、木々や作物には子供を育てるように声をかけ、手をかけ育て出荷を待つ。収穫したものは、農協に出荷し値がつく。しかし、その金額は驚くほど安価であった。肥料などの経費を差し引くと、薄給どころの話ではなかった。年金を受給し生活には支障がないから出来ることであって、子育て真っ最中であればかなり大変であると感じた。その後、奥さまが倒れ何年かは梅栽培を続けてはいたが、やはり高齢になり栽培をすることは無くなった。余談ではあるが、亡くなった奥様はいつも梅の木を自分の子供のように可愛がり声をかけていた。梅の実の一粒一粒が大きく「ゆっさり」と結実していた。作物も人によって生育具合が違うのでは?と気がついたのは、奥様が倒れてからの梅の実の生り具合を見て実感したことである。

   農業を営んできた人々が、孫子の代まで農業を!と実感し、時代に呼応した農業を営んでけるように指導やアドバイスが出来る「場」としての役割をどこが担えば良いのだろうと改めて考えています。 

鈴木 泰弘・小名浜まちづくり市民会議副会長(福島)

 現在食の安全安心、地産地消などが謳われ農業への関心が高まる中、第6次産業化など農業の将来像をいろいろな形で模索し提言がされています。

   しかし、農業の抜本的な問題は、市場経済の競争力の無さではないでしょうか。どんなにこだわって良いものを作っても、売れる価格帯、商品ロットであり様々なニーズに応えていない傾向があると思われます。

   このニーズは、地域や所得層によって当然変化するもので、例えば流通業ではその動向把握にかなりの投資をしています。

   流通のスタイルが変わり、農産物の卸・小売のスタイルも変化してきているとはいえ、生産者がまだまだその変化に対応し切れてはいないと感じられます。

   これからは、作る側も市場を意識した生産の目線が必要だと考えます。そのため、直接バラマキ型施策ではなく、経済界で自立するための施策展開も必要ではないでしょうか。 

山崎 美代造・前とちぎインベストメントパートナーズ社長

   なぜ、今まで農業が発展しなかったか。それは大きく2つある。第1は、国の農政依存型産業にしてきたこと。第2は農協依存による家族労作的経営にしてきたことである。この2つの要因によって、考える自立的経営力が育って来なかった。このことを解決するには、農業のビジネス化のほかない。その道は、規模拡大と法人化等により企業化を図り、経営と資本、土地、労働を分離して経営能力のある人材が経営を担うことである。そして農業は第1次産業という考え方から脱却して、農産物を製造する製造業、販売する小売業、観光農業等のサービス業に位置付ける意識改革が必要である。そこから自から輸出も含めた市場戦略、付加価値戦略、利益戦略等が生まれる。ビジネス化の具体的戦略としては、今、大手小売や外食産業、商社等が農業への参入を始めた。これら他産業の参入誘致政策や農業者に対する企業的経営力養成策の強化をすること。そして、農協は従来の「農協の組織維持のための農協」から「農業・農家発展のための農協」へと抜本的自己改革をすることである。国は主導でなく真に自立できる農業者の支援者になることである。栃木県は来年度から農業ビジネス塾を始める。また民間では、県内ですでに、農村地域リーダーを養成するべく地域コンサルタントやシステム開発会社社長による農業入門塾を立ち上げ活動している。農業の発展は人づくりと経営力づくりであることを忘れはならない。 

熊倉 浩靖・群馬県立女子大准教授

 わが国戦後復興の方向が「富国強工」、都市化・工業化によって国も個人も地域も豊かになる「所得倍増」施策だったことは明らかです。農業・農村は都市労働力の供給元とされ、最も厳しいしわ寄せに喘いでいるわけですが、わが国産業界が「富国強工」を達成できたポイントとも言える高度な品質管理と組織化、絶えざる評価・改善の積み重ね、PDCAサイクルの体験と成果を農業に還元することはできないでしょうか。農業政策の専門家である小田切さんが重ねて強調されている担い手育成と集落営農の推進、都市政策の専門家である澤井さんが提唱される農地管理システムを成り立たせる手法として、中小企業を中心として、わが国産業界が達成してきた高度な品質管理と組織化の思想と手法を還元できないでしょうか。企業の農業分野への進出ということではありません。産業界で品質管理の思想と手法を染み込ませた中高年帰農者が、その思想と手法をもって中核となれる新たな農業システムを生み出せないでしょうか。 

   田谷 徹郎・千葉県資源循環推進課長

 後継者不足、耕作放棄地の拡大等農業の現状を踏まえれば、個々の農家の経営安定化を目指した支援はもはや手遅れではないだろうか。将来にわたってこれまで同様おいしい米や新鮮な野菜を安価に確保できる仕組みを継続していくためには、今後10年以内の抜本的な制度の見直し、再構築が避けられない。

   その場合、今後の農業の主体は家内労働的な農「家」から、農地の流動化、集約化を前提とした農業法人や企業に移行していくべきではないだろうか。そのことで、地域ブランドではなく企業ブランドによる市場競争や、流通や小売と連携した魅力ある商品開発などが期待できる。また、雇用の拡大の面でも失業者や定年退職者の農業への誘導を個々に進めるよりはるかに効果的ではないだろうか。

   今後の農業は伝統的な農政や農協のシステムではもはや支えきれない段階にきている。農業の魅力発信や価値観の転換による就業の確保というスローガンでは再建は難しい。 

沼尾 波子・日本大教授

   農業に興味を持つ学生は増えてきた。だが農協や流通、小売を就職先として選ぶ学生はいても農業を就職先として考える学生はほとんどいない。農業労働はブルーカラーの一種であり、かつ工場労働以上に収入が不安定であるというイメージを持っている。さらに農業はいわば「お天道様次第」であり、効率性と確実性を極限まで追求する都会の暮らしに慣れた学生は、この手の不確実性には慣れていない。「若い力を農業に」と考えるならば自然がもつある種の不確実性を柔軟に楽しむ感覚を経験できる機会の創出が必要である。同時に、農業技術の指導だけでなく、消費者や販売者と連携した生産販売ルートの構築など、農業経営の手法を学べる場が求められる。それには農家が農地の賃借に対して柔軟な発想をもつことや、経営者マインドを持つ農業従事者が消費地と連携しながらビジネスとして農業生産を担い、こうした場に若い人が入れるような仕組みを構築する必要がある。 

木村 陽子・前地方財政審議会委員

 昨年の学会のシンポジウムのテーマが「地域からグローバルの危機に臨む」であった。発展途上国ではグローバルの危機に対して、農業生産性の向上を通じた地域の自立が喫緊の課題だ。

   栃木県那須塩原に民間の農業専門学校アジア学院がある。共に分かち合う生き方をめざし、アジア等の農村指導者の養成と訓練を行うために1973年に設立された。

   毎年、アジア・アフリカ各国の主に少数民族等のリーダー約30人が招かれる。彼らは、実質9ケ月間、出身国でも採用可能なロウテクおよび有機農業の理論と方法の学び、これらを通じて地域コミュニテイの自立を共に目指す。学院で飼育をするのは、主に鶏、それに豚である。運営資金の殆どは民間寄付金だ。

創立以来1130名余りの卒業生が世界各地で草の根のリーダーとして活躍中である。この学院は、国際関係を築く上でも環境に配慮した地域の農業がいかに大切かを教えてくれる。 

藤波 匠・日本総合研究所主任研究員

   農業を再生するには、①規模拡大、②担い手育成、③流通構造改革、の3点が重要。ただ、規模拡大は、同じ作物を作るのなら、規模が大きい方が効率的なため、広い方がいいだろうという程度のこと。小規模でも収益率が高ければ問題ない。それよりも、農地余りにもかかわらず、規模拡大を目指す積極的な農家に、農地が集まらない状況こそ改善の対象。農地転用は徹底的に抑制し、農地の農用利用に向けた流動性向上が必要。

 担い手育成は、やや逆説的である。農業は産業規模に比べ就業者数が多すぎるため、本来スリム化が必要。ここに言う担い手とは、主業農家のこと。兼業農家による、わが国農業や農村景観の維持への貢献が大きいことは事実。しかし、産業としての農業振興には主業農家の育成が不可欠。

 流通構造改革は、消費者の反応が生産者に伝わる流通にすること。直売所の延長線で、都市消費者にも届けられることが望ましい。 

澤井 安勇・日本防炎協会理事長

 わが国の農業については、担い手問題、流通市場問題などと並び耕作放棄地問題など農地利用の適正化が深刻な課題になっています。

そして農地の利用の適正化を図るためには、農地の流動化による有効利用が必要ですが、いわゆる不在地主の存在や担い手の老齢化などが大きな壁になっていると思います。戦後の自作農創設政策以来の伝統あるわが国の農地所有制度ですが、今日、本当に営農意欲と能力のある人々が未利用の農地を利用できるような、ある意味では至極当然の農地管理システムの実現が待ち望まれるような変則的な状況が生まれています。38万ha余の耕作放棄地、とりわけ優良農用地の放棄地についてその再生を図ることが焦眉の課題であり、そのためには、酷な言い方かもしれませんが、耕作できない農用地所有者から耕作意欲ある農業者へのスムースな農地利用権の移転を可能とする農地管理システムや関連の税財政措置などの実現を図るべきだと思います。 

小田切 徳美・明治大教授

 鳩山政権は戸別所得補償制度を打ち出したが、問題は農業の担い手像がないという点だ。集落営農や小規模農家などを含めて今のまま頑張って生き残ってくださいというのは無責任。経営環境が厳しい中、農業をどう維持していくのかという考え方がない。兼業農家の高齢者、昭和一ケタ世代が多い。戸別所得補償が導入されたとしても労働力の面からこのままの形で生き残っていくのは難しい。

 やはり農業の大規模化、集落営農が必要。自公政権時代が進めた集落営農のやり方にも問題があった。経営面積が20ヘクタール以上であるなど外形的な基準を決めて支援したために、地域にとっては参加のハードルが上がってしまったのだ。戦略的な作物もそれぞれ違うのに、地域の多様性を認めないのは問題だ。集落単位、昭和の大合併以前の旧村単位ぐらいなら地域の中で誰が将来の担い手なのかは地域の人たちは既に分かっている。地域が選んだ担い手や集落営農のやり方を支援する手法に転換すべきだ。ただ、集落営農にはエネルギーも必要で、国はアドバイザーを派遣したり、初期は機械の導入費用を補助すればいい。

 新政権の場合は集落営農をどうするかということすら方向性が定まっていない。戸別所得補償は頑張っている人、担い手の形成にも有効という国も説明も理解できない。

 「コンクリートから人へ」と言うが、所得補償だけで人の中身は議論せず、どういう人を支えるのか決めていない。むしろ、農業関係の公共事業の多くが削減されることになったが、事業の多くは新規ではなく更新だ。水利施設の水漏れ修理など、放っておくと水田が破壊され、そこで働く人々を直撃することになる。「コンクリートから荒廃へ」になってしまう。 

大滝 聡・都岐沙羅パートナーズセンター運営理事(新潟)

 農業問題を大きく分類すると、高齢化、後継者不足、農業収入の減少、にあるのだと考えています。それぞれが重い課題であり、そう簡単には解決できそうもありませんが、これからの農業を支えるためには、地域が地域の農家や農村を支える仕組みをきちんと持つことではないでしょうか。もっと生産者と消費者が直接つながっていく仕組みが必要だと思います。具体的にいうと、私たちは農業によってもたらされる様々な恩恵をきちんと理解した上で、適正な価格で消費する覚悟が必要だといえます。つまりこれからは、食料価格を食べる側に立って考えるのではなく、作る側になって考えるということが求められるのです。なぜなら農業は単なる職業ジャンルの一つではなく、私たち国民のいのちを支える最も重要な基盤産業であるからです。

 真の豊かさとは何かということを、もう一度みんなで話し合う必要があります。要するに私たち自身の意識改革しかないのです。  

白戸 洋・松本大教授(長野)

 生産の段階では、損をしない農業と担い手の多様化が重要である。農産品の価格は、これまで、良いものを作って高く売る「上の価格」が重視されてきた。しかし、農家の意欲を失わせてきたのは、「上の価格」をめざすと、選別などのハードルが高くなり、いわゆる「はね出し」(市場に出せないB級品)が多くなり結局儲からない農業になってしまうことである。実は農家の行動は合理的で、農家の生産意欲を低下させている要因となる。したがって、大切なのは損が出ない「下の価格」、すなわちたとえ不作でも、B級品が多くとも、赤字にならないことである。安曇野市では年によって出来不出来が不安定で農家が作らなくなった黒豆を菓子や味噌などの加工業者がB級品を安定的に引き取る関係づくりをしてブランド化が成功しつつある。

   担い手の多様化では、地元の建設業や製造業などの中小企業が兼業農家を社員として雇用し自ら兼業農家になることである。企業の農業への参入は、利益追求に偏重するなど慎重であるべきではあるが、個人的な信頼関係が成り立つ範囲では、経営者も後ろ指を指されるようなことはできず、経営的な感覚を活かす観点からも、地域の産業のあり方を考える上でも有効である。また、多角化によって、企業の存続も可能となり雇用も確保される。さらに、社員の続けてきた兼業農家としての耕作も会社の「仕事」となり安定する。

   流通の段階では、多様な価格やルートを確保する上でも、今まで聖域とされてきた農協の画一的な共選制度など系統出荷のあり方を抜本的に見直す必要がある。1000メートルの高地で取れた高品質の白菜と平地の白菜が同じ値段で取引されてしまう現状を変えなければ、意欲ある生産者は生まれない。流通には不利な伝統野菜と言われるその地に根ざした特産品の生産をやめてしまう要因ともなっている。独自ルートの開発も重要だが、農協に気兼ねして言い出せず沈黙してしまう農家が多く、政策的なアプローチが必要である。

   消費の段階では、消費者教育である。スーパーで100円の中国産のしいたけと198円の国産が並んでいる時、国産が高いのではなく中国産が安すぎると考える消費者を育てることが必要だ。ものづくりの実態をもっと知るために、顔の見える関係づくりや流通や食糧農業問題の学習を学校でも社会でも進める。偽装問題や輸入食品の安全性を問題が起こってから大騒ぎしても遅い。安全で新鮮でおいしいものは、高いということを認識してほしい。

 生産・流通(加工)・消費が分断されてきた過去を反省して一体として考えるべきだ。 

渡辺 英彦・富士宮やきそば学会会長(静岡)

   日頃の活動を通して感じていることは、地域活性化の鍵は既存の枠組みを超えた連携に

あるのではないかということです。私達のグループは地元の資源を勝手にPR(応援)する事で「富士宮やきそば」というものを地域ブランド化することに成功しました。地元の業界が内発的に動くことがない中で、直接経済的利益のない市民が動くということは業界の既成概念では理解しにくいことだと思います。

   農業という世界は、工業界における下請け職人的なイメージが強く、いいものは作るけれども売り方が下手ということがよく指摘されています。かと言って業界内部からは画期的なアイデアが生まれにくい状況に陥っている地域が多いのではないでしょうか?

   富士宮では、業界外の動きとして、「富士宮市地域力再生総研」というものを組織しており、勝手に地元産業を応援する活動に取り組んでおります。やきそばに続いて虹鱒や乳製品等の商品開発やPRのアイデアを業界外のメンバーが提案し、ある種閉塞感のあった業界に新たな動きを生み出すことに成功しております。富士宮市は虹鱒を市の魚に制定しました。これは、既存の枠組みを超えた連携があったからこそ生まれた効果です。農業においてもこういった発想が新たな展開を生むきっかけづくりにつながるのではないかと考えています。 

都竹 淳也・岐阜県商工政策課課長補佐

   農業の衰退が言われはじめて久しい。岐阜県では約4万人の基幹的農業従事者がいるが、72%が高齢者で、このまま行けば、30年後には約1万3千人になると予想される。耕作放棄地も着実に増えつつある。主業農家はわずかに4%で、農業所得が年間50万円以下というところが70%を占める。まさしく絶望的な数字である。

 しかし、さらに丹念に統計を見ると、農業所得500万以上の農家は約2千7百戸

あり、3千万円以上の農家も4百戸以上ある。立派な産業とも言える。

 この差を生み出しているのは、生産している品目の違いである。所得が低いのはコ

メ農家で、4分の3が50万円以下なのに対し、酪農や畜産では1千万円以上の農家

が大半である。施設野菜も所得が高い。こうした品目では、農業のプロである認定農

業者の比率が高く、若い人も多い。また、高冷地野菜や飛騨牛などの生産が盛んな飛

騨地方では、都市部などから150億円の黒字を稼ぎ出し、地域を支えている。

 ここに農業の生きるヒントがあるように思う。まずは、肉や野菜など、利益率が高

い農産物を基軸として守り、大都市の市場などに売り込み、シェアを拡大していくこ

とである。一方で、コメなどでは、小規模農家からの受託生産を拡大させ、効率を高めて所得を確保している大規模農家もある。また、品種改良などを通じてブランド力を高めてい

く必要もある。岐阜県で数年前に生まれた幻のブランド米「龍の瞳」は、1キロ千円

もするが飛ぶように売れている。

   農業で食べていけている人も、地域も、現実にある。昨今の不況も相俟って、農業

に挑戦したいという人たちはむしろ増加している。所得が得られれば、定着する人材

も増えるだろう。産業としてとらえ、所得を上げていく努力を重ねること。決してあきらめないことが大切だと思う。 

松田 千春・滋賀県企画調整課副主幹

 自前で国民を養えるだけの食料を確保することは国の政策の基本ではないかと思う。

 しかし、これまでの農業政策は、様々な支援を通じて、農業を結局は弱体化させてしまった。補助が助けにならなかった。

 国民の食料を賄うには、ある程度の大規模化と集約化、戦略が必要であり、政策的誘導が必要だ。

 その一方で、食糧確保や産業、自然保護、文化の継承、国土保全等の農業の多面的機能は改めて評価されるべきである。

 大量の労働力を確保するために農村から多くの住民が流出した。農業や農村がその価値を適正に評価されてこなかったことが農村の荒廃と農業の衰退を招いた。

 農業を支えることはコミュニティーを維持し、地域経済の活性化にもつながる。

 農業の多面性は、その可能性の多様さを表している。小型耕耘機のヒットや農園付き住宅の人気など最近の農業への関心の高まりは、まだまだ農業の再生を暗示しているのではないか。  

東 朋冶・神戸ながたTMO総括マネジャー

 今や「国産」というだけですでにブランドの感がある畜農産物だが、高品質かつ高価格のため流通チャネルは限られる。外国産との差別化において高付加価値は欠かせない。消費者への周知と生産者のモチベーションアップのためにも、モンドセレクションのようなコンペディションをもっと増やし、格付けの機会を増やしてはいかがか。

   旬の時期を過ぎたオフシーズンも大切。清算余剰を加工品に回し、魅力的な逸品として町おこしの起爆剤とする。ただし一村一品は地産にこだわり過ぎると、地元の物産販売所のみでしか販売チャネルがないことになりかねない。大手食品メーカーとのタイアップし、大手の流通経路の活用も一手だ。

   従事者の確保については、雇用助成の拡充や空店舗への開業支援と同じく遊休地への開墾支援の簡易な制度化、外国人の農業技術取得以外に語学留学を兼ねたワーキングホリデーの要件を緩和が考えられる。 

小林 敬典・鳥取県政策企画総室長

 日本の全人口が少子高齢化で減少する中にあって、地方では人口の自然減と社会減が相俟って人口減少が加速し、地方の中でも中山間地域から都市地域への人口流出が続いている。中山間地域では山林の手入れが追いつかず、耕作放棄地も増えるなど、治山治水の面からも決して好ましい状態ではない。

   農業を中山間地域の人口定着に寄与する産業として再生させるべきだと考える。一朝一夕とはならないが、少し時間をかけて回り道してもよいと思う。近未来を展望した儲かる農業への積極支援を行い、国内農産物の需要と供給のマッチングを図り、少しでも多く身近なところで生産し、安全に消費できる循環システムを構築するべきだと考える。

   自然農法も環境負荷の掛からない環境産業として位置付けて支援してもよいと思う。いろいろな側面から農業を産業として支援して、再生させる時期が到来しているのではないかと思う。1年前に国の緊急雇用支援事業で「農業」に雇用を生む施策が打ち出された。県全体で数百人という小さな規模ではあるが、目標を上回る雇用が確実に生まれている。税金に頼りきりではいけないが、持続可能な雇用の場として農業をしっかり確立させる必要がある。 

高橋 泰子・緑と水の連絡会議理事長(島根)

 農業すなわち「生産物を栽培する」という意味の「農業の生きる道」否、「農業のみの生きる道」はあまり残されていないように思う。日本の中で農業が衰退している原因は、競争に勝てない、土地の大きさに制約され規模の大きい農家に負ける、そこに競り勝ったとしても他県・他国に負けると、止めどない競争の論理を引用するからだと思う。農業者には生産者としてではなく、国土保全リーダーの意識を強く持ってもらうというのはどうだろう。例えば、高齢の老夫婦が自分たちの食べるだけの野菜を耕作する場合、生産というより国土保全の意味合いが強い筈だ。生活費はそこに直接支払いのお金をあてる。支払率は個人農家や企業で変え、もちろん個人・集落営農者に手厚くする。市場での生産物販売収入は上乗せとする。そこには農業に活路を見出した人が集い、高齢者の生きがい作りと予防介護の考え方も生きる。膨らむ介護保険のセーブが期待できる。農地や林地の考え方は変えていかなければならない。私有地であっても国民の共有財産と考え、善管注意義務を払う教育が必要である。農地は一代、数十年の利用権を設定。もちろん、荒廃させたら罰則規定を設ける、もしくは国に返還。代が変わる毎に、再利用権を設定すれば農業を続ける意思のあるところは何代も継続できるシステムを創設する。返還農地は新たに農業を志す者に利用権を与える。新規就農者が農業に飛び込みやすい道筋をつけ、継続した国土保全を行っていくという考えはどうだろうか? 

河内山 哲朗・前山口県柳井市長

   農業はLOHASの代表格のようにとらえられています。しかし、現実を見ると、一部の小規模農家やこだわりの有機無農薬を志向する農家を除けば、エネルギー大量消費型農業になっています。イメージとしては、国産で、自然環境と共存していますが、実体は、石油

化学文明にしっかり乗っかった産業になってしまいました。

   農業機械で使う燃料も、土地を肥やす肥料も、虫を殺す農薬も、石油化学文明の成果です。砂上楼閣ならぬ、もっと揺らいでいる油上楼閣状態です。

   そこで、農業で使う機械を動かす燃料は、原則バイオエタノール(瑞穂の国で連作障害のない米由来エタノール)、地力は原則堆肥で、といった「持続可能農業」の条件を国策として取り組むべきです。選挙目当ての戸別所得補償のために血税を使うのではなく、将来に向けた投資のために生きたお金を使うべきであると考えます。 

河野 達郎・おおず街なか再生館専務(愛媛)

 「農業の生きる道」は?と、訪ねられたとき、私は素直に「原点回帰」だと感じました。

 元来、人間の生活は、元々「農業」が基本であったはず。しかし、文明の進化や様々な分野の技術革新は、人間として如何に農業が大切かということを忘れさせてしまったのではないかと思います。

 この問題については、各方面、各分野の皆様方の御意見を読ませていただいておりますと、本当にごもっともな御意見ばかりです。何とかしなければ、国の根幹を揺るがすことになりかねないと私も感じています。しかし、何か足らないような気がするのです。

 以前、大洲市河辺郷のプロデュースをさせていただき、都会の皆様方を河辺郷にお連れして地元の皆様方とのふれあいと同時に「農業」に触れていただくというご相談をさせていただいたことがありました。そのための座談会を地元の皆様方と開催していた時のことです。ある農業従事者の方が「わしらは生きていきために、食っていくために農業をしとるんじゃ!邪魔しに来るな!」と言われました。さらに「農業をダシにして儲けるのは怪しからん!人間の生きていくための基本は農業じゃ」と・・・私は、この一言で考え方も見方も変わりました。

 今回のテーマは「農業の生きる道は?」と言うことですが、この問題は、国を始め、行政の皆様方も含めて、「人間が生き残っていくための命綱」が農業であると言うことを認識できた上で議論しなければ、本当の道筋は見えないと私は思いました。大切なのは「机上の理論」よりも「実践理論」です。現在の「政治」等にかけているのも、正にこの部分ではないでしょうか。この冬空に、今も、寒さをこらえて畑にクワを入れるお百姓さんが居ることを念頭に置いて考えたいものです 

伊豆 哲也・まちづくり機構ユマニテさが常務理事

 大きな観点での話はできないが、中小企業診断士として数年前まで県内の農家の経営力アップや農業法人の支援等に少し関わった経験から言えば、政策的な誘導が必要であるが、個別農家の経営改善はある程度できるのではないかと感じている。

   一般農家と農業法人の違いはひと言で言えば生産者と経営者の違いである。経理的な知識云々もあるが、最も顕著な違いはマーケティングの意識があるかないかである。私の関わった農業法人は例外なく独自の販路を確保していたし、エンドユーザーの動向をウォッチングし続けて対応しようとしていたし、常に品質向上を図ろうともしていた。また関係者を集めて試食会等を開催してファン層の拡大も図っていた。さらに言えば地元大学の農学部の学生を採用しようと大学とも接触していた。

舩木 上次・萌木の村社長(山梨)

   私はオルゴール収集で、アメリカ、ヨーロッパには何回となく、ここ30年行っているが、変わらないものは田園風景だ。なぜ、アメリカ、ヨーロッパの田園風景は変わらないのに、日本の田園風景は変わってしまうのか。それは、農地法に問題がある。一見、日本は農地を守っているように見えるが、実は大きな落とし穴がある。農地は農業者にしか売買できないことになっている。そのため、農業者以外が農業をしたくても、農地を入手できない。自給率を上げることではなく、自給率を上げられる農地を守ることが一番必要なのだ。農業を営んで生活ができれば、農業者は必ず増える。そのためには、全国の優良農地を農地以外に転用することを禁止し、農業をしたい人に自由に売買できる新しい農地に対するルールを作るべきである。

   私の隣は日本一の高原野菜の産地の野辺山と川上村だ。(野辺山がある)南牧村の村長だった中島美人さんと私は、よく農業のことについて話しては本当に、この国はおかしいと思っているし、その問題点は分かってきたつもりだ。私たちは現場で見て、その問題点も相当、的確につかんでいるつもりだ。ゴルゴ13に取り上げられるようなことばかり、起こっているのが現実だ。


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